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[インデックス 17027] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のcryptoパッケージにおけるパニックメッセージの改善に関するものです。具体的には、利用できないハッシュ関数が要求された際に発生するパニックメッセージに、そのハッシュ関数の数値識別子を含めるように変更されています。これにより、開発者が問題の原因を特定しやすくなります。

コミット

commit 5e36877d2a5f41d4e0109d63025d68ce1929054a
Author: Adam Langley <agl@golang.org>
Date:   Mon Aug 5 14:23:32 2013 -0400

    crypto: include hash number in panic message.
    
    In the event that code tries to use a hash function that isn't compiled
    in and panics, give the developer a fighting chance of figuring out
    which hash function it needed.
    
    R=golang-dev, rsc
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/12420045

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/5e36877d2a5f41d4e0109d63025d68ce1929054a

元コミット内容

crypto: include hash number in panic message.

In the event that code tries to use a hash function that isn't compiled
in and panics, give the developer a fighting chance of figuring out
which hash function it needed.

R=golang-dev, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/12420045

変更の背景

Go言語のcryptoパッケージでは、様々な暗号学的ハッシュ関数(例: SHA-256, MD5など)が提供されています。これらのハッシュ関数は、ビルド時に特定の条件(例えば、クロスコンパイル環境や、特定の機能が有効になっていない場合など)によって、バイナリにコンパイルされないことがあります。

以前のバージョンでは、もしコードがコンパイルされていないハッシュ関数を使用しようとすると、単に「crypto: requested hash function is unavailable」(要求されたハッシュ関数は利用できません)という汎用的なパニックメッセージが表示されていました。このメッセージだけでは、どのハッシュ関数が利用できなかったのかを特定するのが困難であり、開発者はデバッグに時間を要していました。

このコミットの背景には、このようなデバッグ体験の改善という明確な目的があります。パニックメッセージに具体的なハッシュ関数の識別子を含めることで、開発者は即座に問題のハッシュ関数を特定し、適切な対応(例えば、ビルド設定の変更や、代替ハッシュ関数の使用など)を取ることができるようになります。これは、開発者の生産性向上に直接貢献する変更です。

前提知識の解説

Go言語のcryptoパッケージ

cryptoパッケージは、Go言語の標準ライブラリの一部であり、暗号学的ハッシュ関数、乱数生成器、鍵導出関数など、様々な暗号関連の機能を提供します。このパッケージは、セキュリティが重要なアプリケーションにおいて、データの整合性検証、パスワードのハッシュ化、デジタル署名などに利用されます。

ハッシュ関数

ハッシュ関数は、任意の長さの入力データ(メッセージ)を受け取り、固定長の出力(ハッシュ値またはメッセージダイジェスト)を生成する一方向性の関数です。暗号学的ハッシュ関数は、以下の特性を持つように設計されています。

  1. 一方向性(Preimage Resistance): ハッシュ値から元のメッセージを計算することが計算上困難である。
  2. 第二原像耐性(Second Preimage Resistance): あるメッセージと同じハッシュ値を持つ別のメッセージを見つけることが計算上困難である。
  3. 衝突耐性(Collision Resistance): 異なる2つのメッセージが同じハッシュ値を持つペアを見つけることが計算上困難である。

Goのcryptoパッケージでは、crypto.Hash型がハッシュ関数の種類を識別するために使用されます。これは整数型であり、各ハッシュ関数(例: crypto.SHA256, crypto.MD5)に一意の数値が割り当てられています。

パニック(Panic)とリカバリ(Recover)

Go言語には、エラーハンドリングのメカニズムとして、errorインターフェースとpanic/recoverメカニズムがあります。

  • errorインターフェース: 予期されるエラーや、プログラムの正常な実行を妨げないが注意が必要な状況に対して使用されます。関数はerror型の値を返すことでエラーを通知します。
  • panic: プログラムの実行を継続できないような、予期せぬ致命的なエラーが発生した場合に使用されます。panicが呼び出されると、現在の関数の実行が中断され、遅延関数(deferで登録された関数)が実行された後、呼び出し元の関数へとスタックを遡りながらパニックが伝播します。最終的にmain関数まで到達すると、プログラムは異常終了します。
  • recover: panicが発生した際に、そのパニックを捕捉し、プログラムの異常終了を防ぐために使用されます。recoverdefer関数内でのみ有効であり、panicが発生したスタックフレームでrecoverが呼び出されると、パニックの伝播が停止し、プログラムの実行が再開されます。

このコミットでは、利用できないハッシュ関数が要求された場合にpanicを発生させる既存の動作を維持しつつ、そのパニックメッセージを改善することで、デバッグの効率を高めています。

strconvパッケージ

strconvパッケージは、Go言語の標準ライブラリの一部であり、文字列と基本的なデータ型(整数、浮動小数点数、真偽値など)との間の変換機能を提供します。このコミットでは、strconv.Itoa関数が使用されており、これは整数(int)をその文字列表現に変換するために使われます。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、cryptoパッケージ内のHash型のNew()メソッドにおけるパニックメッセージの変更です。

crypto.Hash型は、特定のハッシュアルゴリズム(例: SHA256, MD5)を表す整数型の列挙体のようなものです。New()メソッドは、このHash型に対応するhash.Hashインターフェースを実装した新しいハッシュ関数インスタンスを返します。しかし、もし要求されたハッシュ関数が何らかの理由でGoのランタイムにコンパイルされていない場合、このメソッドはパニックを発生させます。

変更前は、パニックメッセージは固定文字列 "crypto: requested hash function is unavailable" でした。これは、どのハッシュ関数が問題を引き起こしたのかを特定する情報を含んでいませんでした。

変更後は、strconv.Itoa(int(h)) を使用して、New()メソッドに渡されたHash型の値(つまり、利用できなかったハッシュ関数の数値識別子)を文字列に変換し、パニックメッセージに埋め込んでいます。

具体的には、以下のようになります。

  • hNew()メソッドのレシーバであり、利用できなかったcrypto.Hash型の値です。
  • int(h)は、crypto.Hash型の値を基底の整数型にキャストします。
  • strconv.Itoa()は、この整数値を文字列に変換します。
  • 最終的なパニックメッセージは、"crypto: requested hash function #" + strconv.Itoa(int(h)) + " is unavailable" の形式になります。

例えば、もしcrypto.SHA256(仮にその数値が1だとします)が利用できなかった場合、新しいパニックメッセージは "crypto: requested hash function #1 is unavailable" のようになります。これにより、開発者はパニックメッセージを見ただけで、どのハッシュ関数が問題の原因であるかを即座に把握できるようになります。

この変更は、Goの標準ライブラリにおけるデバッグ容易性(debuggability)を向上させるための典型的な例であり、エラーメッセージやパニックメッセージに、問題の特定に役立つ具体的な情報を含めることの重要性を示しています。

コアとなるコードの変更箇所

変更はsrc/pkg/crypto/crypto.goファイルに集中しています。

--- a/src/pkg/crypto/crypto.go
+++ b/src/pkg/crypto/crypto.go
@@ -7,6 +7,7 @@ package crypto
 
  import (
  	"hash"
+	"strconv"
  )
 
  // Hash identifies a cryptographic hash function that is implemented in another
@@ -59,7 +60,7 @@ func (h Hash) New() hash.Hash {
  			return f()
  		}
  	}
-	panic("crypto: requested hash function is unavailable")
+	panic("crypto: requested hash function #" + strconv.Itoa(int(h)) + " is unavailable")
  }
 
  // Available reports whether the given hash function is linked into the binary.

コアとなるコードの解説

import "strconv" の追加

この変更の最初の部分は、strconvパッケージのインポートです。これは、整数値を文字列に変換するために必要なstrconv.Itoa関数を使用するために追加されました。

func (h Hash) New() hash.Hash メソッド内のパニックメッセージの変更

このメソッドは、crypto.Hash型のレシーバhに対して呼び出され、対応するhash.Hashインターフェースを実装した新しいハッシュ関数インスタンスを返します。

メソッドの内部では、登録されているハッシュ関数プロバイダのリストをループし、hと一致するハッシュ関数を見つけようとします。もし一致する関数が見つかれば、その関数を呼び出して新しいハッシュインスタンスを返します。

しかし、ループが終了しても適切なハッシュ関数が見つからなかった場合(つまり、要求されたハッシュ関数が利用できない場合)、以前は以下の行でパニックが発生していました。

panic("crypto: requested hash function is unavailable")

このコミットにより、この行は以下のように変更されました。

panic("crypto: requested hash function #" + strconv.Itoa(int(h)) + " is unavailable")

この変更により、パニックメッセージにh(利用できなかったハッシュ関数の数値識別子)が文字列として追加されます。

  • int(h): crypto.Hash型は基底が整数型であるため、intに型変換することで、その数値を取得します。
  • strconv.Itoa(): strconvパッケージのItoa関数は、整数を文字列に変換します。
  • +演算子: Go言語では、文字列の結合に+演算子を使用します。

この修正は、Goの標準ライブラリにおけるエラーメッセージの品質向上の一例であり、開発者が問題をより迅速に診断できるようにするための、小さくも重要な改善です。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント
  • Go言語のソースコード(特にsrc/pkg/crypto/crypto.go
  • コミットメッセージと関連するGo CL (Change List) の情報
  • 一般的なGo言語のエラーハンドリングとデバッグに関する知識