[インデックス 1703] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の仕様書である doc/go_spec.html
ファイルにおいて、手動で管理されていた目次(Table of Contents, TOC)を削除し、その自動生成への移行を反映したものです。これにより、ドキュメントの保守性が向上し、内容の変更に伴う目次の更新作業が不要になりました。
コミット
このコミットは、Go言語の仕様書 doc/go_spec.html
内の目次を自動生成する仕組みに移行するための変更です。具体的には、これまで手動で記述されていた目次部分が削除されました。
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/fd1f3830c141451670b0d6cfe4a2fd0025950019
元コミット内容
autogenerate the table of contents
R=rsc
DELTA=149 (1 added, 145 deleted, 3 changed)
OCL=25231
CL=25234
変更の背景
Go言語の仕様書 doc/go_spec.html
は、言語の進化とともに頻繁に更新される重要なドキュメントです。このコミット以前は、HTMLファイル内の目次が手動で管理されていました。これは、新しいセクションが追加されたり、既存のセクションのタイトルが変更されたりするたびに、手作業で目次を更新する必要があることを意味します。このような手動での管理は、以下のような問題を引き起こします。
- 保守性の低下: ドキュメントの変更と目次の更新が同期しない場合があり、目次が古くなったり、誤った情報を含んだりするリスクがありました。
- 作業の重複と手間: ドキュメントの作成者が内容の変更に加えて、目次の更新という追加の作業を強いられるため、開発効率が低下します。
- エラーの発生: 手動での編集は、タイプミスやHTML構造の破損などのヒューマンエラーを引き起こす可能性がありました。
コミットメッセージにある TODO: This should be autogenerated but that will take work to make h3s appear in this list
というコメントは、この問題意識が以前から存在していたことを示しています。このコミットは、これらの課題を解決し、ドキュメントの正確性と保守性を向上させるために、目次の自動生成システムへの移行の一環として行われました。
前提知識の解説
Go言語の仕様書 (go_spec.html
)
go_spec.html
は、Go言語の公式な仕様を定義するHTMLドキュメントです。これは、Go言語の構文、セマンティクス、組み込み型、関数、パッケージなど、言語のあらゆる側面を詳細に記述しています。開発者やコンパイラ、ツール開発者にとって、Go言語の「真実の源」として機能します。このドキュメントは、HTMLのヘッダータグ(<h1>
, <h2>
, <h3>
など)を使用して構造化されており、これらのタグがドキュメントの論理的なセクションを定義しています。
HTMLの目次 (Table of Contents - TOC)
HTMLドキュメントにおける目次(TOC)は、ドキュメントの主要なセクションへのナビゲーションリンクのリストです。長いドキュメントでは、ユーザーが特定の情報に素早くアクセスできるようにするために不可欠です。通常、目次はドキュメントの冒頭に配置され、各項目は対応するセクションへのアンカーリンクとなっています。
ドキュメントの自動生成
ソフトウェア開発において、ドキュメントの自動生成は一般的なプラクティスです。これは、ソースコード内のコメントや特定のマークアップ、あるいはドキュメント自体の構造(このケースではHTMLのヘッダータグ)を解析し、そこからドキュメントの一部または全体を自動的に生成するプロセスを指します。自動生成の主な利点は以下の通りです。
- 一貫性: 手動で作成されたドキュメントに比べて、フォーマットやスタイルの一貫性が保たれやすいです。
- 正確性: ソースコードやドキュメントの構造から直接生成されるため、内容の正確性が高まります。
- 保守性の向上: ドキュメントの更新が自動化されるため、手動でのメンテナンス作業が削減されます。
Goプロジェクトにおける初期の開発プロセス用語
このコミットは2009年に行われており、Go言語がGoogle内部で開発されていた初期の段階に当たります。コミットメッセージに含まれる以下の用語は、当時のGoogle内部のコードレビューおよびバージョン管理システムに関連するものです。
R=rsc
:R
は "Reviewer" を意味し、rsc
は Rob Pike と共にGo言語の設計に深く関わった Russ Cox を指します。これは、Russ Cox がこの変更をレビューし、承認したことを示しています。OCL
(Original Changelist) およびCL
(Changelist): これらはGoogle内部で使用されていたPerforceバージョン管理システムにおける変更リストの番号です。CL
は特定の変更セットを一意に識別するために使用され、OCL
は元の変更リストを参照する場合があります。これらの番号は、GoプロジェクトがGoogleのインフラストラクチャ上で開発されていた歴史的な背景を示しています。
技術的詳細
このコミットの技術的な核心は、doc/go_spec.html
から手動で記述された目次部分を完全に削除した点にあります。これは、目次を生成する責任が、HTMLファイル自体から外部のツールまたはビルドプロセスに移管されたことを意味します。
具体的な変更内容は以下の通りです。
- 手動目次の削除:
<h2>Contents</h2>
から始まり、Go言語の各セクション(Introduction, Notation, Source code representationなど)をリストアップしていたHTMLの<ul>
リスト全体が削除されました。このリストは、Go言語の仕様が進化するにつれて手動で更新する必要があり、保守上の課題となっていました。 - 初期の注意書きの削除: ドキュメントの冒頭にあった
This document is not ready for external review, it is under active development.
といった、仕様書がまだ開発中であることを示す赤い文字の注意書きも削除されました。これは、仕様書がある程度の安定性を持つようになったか、あるいはこの注意書きの表示方法が変更されたことを示唆しています。 - TODOコメントの削除: 目次の自動生成に関する
TODO
コメントも削除されました。これは、このコミットによってそのTODO
が完了した、つまり目次の自動生成が実装されたことを明確に示しています。 - HTML構造の簡素化: 目次部分が削除されたことで、
doc/go_spec.html
のHTML構造が大幅に簡素化されました。これにより、ドキュメントのソースコードがよりクリーンになり、主要なコンテンツに集中できるようになります。
この変更自体は、目次を「どのように」自動生成するかを直接示すものではありません。しかし、手動目次の削除は、ビルドシステムやドキュメント生成ツールが、go_spec.html
内の <h2>
, <h3>
などのヘッダータグを解析し、それに基づいて動的に目次を生成するようになったことを強く示唆しています。例えば、Goプロジェクトでは go doc
コマンドや godoc
ツールがドキュメント生成に利用されており、これらのツールがHTMLの構造を解析して目次を生成する機能を持つようになったと考えられます。
DELTA=149 (1 added, 145 deleted, 3 changed)
という統計は、この変更が主に削除操作であったことを明確に示しています。これは、既存の手動目次が大量に削除され、ごくわずかな変更(例えば、hr
タグの追加など)が行われたことを裏付けています。
コアとなるコードの変更箇所
doc/go_spec.html
ファイルに対する変更は以下の通りです。
--- a/doc/go_spec.html
+++ b/doc/go_spec.html
@@ -1,13 +1,5 @@
-This document is a semi-formal specification of the Go systems
-programming language.
-<p>
-<font color=red>
-This document is not ready for external review, it is under active development.
-Any part may change substantially as design progresses.
-</font>
-
-<!--
- Biggest open issues:
- [ ] General iterators
-@@ -143,143 +135,6 @@ Timeline (9/5/08):
- - Jan 1, 2009: enough support to write interesting programs
- -->
-
-<h2>Contents</h2>
-<p>
-TODO: This should be autogenerated but that will take work to make h3s appear in this list
-</p>
-<ul>
-<li>Introduction
-
-<li>Notation
-
-<li>Source code representation
- <ul>
- <li>Characters
- <li>Letters and digits
- </ul>
-
-<li>Vocabulary
- <ul>
- <li>Identifiers
- <li>Numeric literals
- <li>Character and string literals
- <li>Operators and delimitors
- <li>Reserved words
- </ul>
-
-<li>Declarations and scope rules
- <ul>
- <li>Predeclared identifiers
- <li>Exported identifiers
- <li>Const declarations
- <ul>
- <li>Iota
- </ul>
- <li>Type declarations
- <li>Variable declarations
- </ul>
-
-<li>Types
- <ul>
- <li>Basic types
- <ul>
- <li>Arithmetic types
- <li>Booleans
- <li>Strings
- </ul>
- <li>Array types
- <li>Struct types
- <li>Pointer types
- <li>Function types
- <li>Interface types
- <li>Slice types
- <li>Map types
- <li>Channel types
- <li>Type equality
- </ul>
-
-<li>Expressions
- <ul>
- <li>Operands
- <ul>
- <li>Constants
- <li>Qualified identifiers
- <li>Composite literals
- <li>Function literals
- </ul>
-
- <li>Primary expressions
- <ul>
- <li>Selectors
- <li>Indexes
- <li>Slices
- <li>Type guards
- <li>Calls
- <ul>
- <li>Parameter passing
- </ul>
- </ul>
-
- <li>Operators
- <ul>
- <li>Arithmetic operators
- <ul>
- <li>Integer overflow
- </ul>
- <li>Comparison operators
- <li>Logical operators
- <li>Address operators
- <li>Communication operators
- </ul>
-
- <li>Constant expressions
- </ul>
-
-<li>Statements
- <ul>
- <li>Label declarations
- <li>Expression statements
- <li>IncDec statements
- <li>Assignments
- <li>If statements
- <li>Switch statements
- <li>For statements
- <li>Go statements
- <li>Select statements
- <li>Return statements
- <li>Break statements
- <li>Continue statements
- <li>Label declaration
- <li>Goto statements
- <li>Defer statements
- </ul>
-
-<li>Function declarations
- <ul>
- <li>Method declarations
- <li>Predeclared functions
- <ul>
- <li>Length and capacity
- <li>Conversions
- <li>Allocation
- <li>Making slices, maps, and channels
- </ul>
- </ul>
-
-<li>Packages
-
-<li>Program initialization and execution
-
-<li>Systems considerations
- <ul>
- <li>Package unsafe
- <li>Size and alignment guarantees
- </ul>
-</ul>
-
-<hr>
-
<h2>Introduction</h2>
<p>
@@ -301,7 +156,7 @@ compile/link model to generate executable binaries.
The grammar is compact and regular, allowing for easy analysis by
automatic tools such as integrated development environments.\n </p>\n-\n+<hr>\n <h2>Notation</h2>\n <p>\n The syntax is specified using Extended Backus-Naur Form (EBNF):\n@@ -344,6 +199,7 @@ The form <tt>\"a ... b\"</tt> represents the set of characters from\n Where possible, recursive productions are used to express evaluation order\n and operator precedence syntactically.\n </p>\n+<hr>\n \n <h2>Source code representation</h2>\n \n```
## コアとなるコードの解説
このコミットの主要な変更は、`doc/go_spec.html` ファイルから、約145行にわたる手動で記述された目次部分が削除されたことです。
具体的には、以下のHTMLコードブロックが削除されました。
1. **初期の注意書き**:
```html
This document is a semi-formal specification of the Go systems
programming language.
<p>
<font color=red>
This document is not ready for external review, it is under active development.
Any part may change substantially as design progresses.
</font>
```
これは、Go言語の仕様書がまだ初期段階であり、内容が変更される可能性があることを示すものでした。この削除は、仕様書がある程度の安定性を持ったか、あるいはこの注意書きの表示方法が変更されたことを示唆しています。
2. **手動で記述された目次**:
```html
<h2>Contents</h2>
<p>
TODO: This should be autogenerated but that will take work to make h3s appear in this list
</p>
<ul>
<li>Introduction
<li>Notation
... (中略:Go言語の各セクションへのリンクが続く) ...
<li>Systems considerations
<ul>
<li>Package unsafe
<li>Size and alignment guarantees
</ul>
</ul>
```
この `<h2>Contents</h2>` から始まる `<ul>` リストが、Go言語仕様書の各セクションへの手動リンクでした。このリストは、`TODO` コメントが示すように、以前から自動生成されるべきだと考えられていました。このコミットによってこの部分が削除されたことで、目次の生成が外部のツールやビルドプロセスに完全に委ねられることになりました。これにより、仕様書の内容が更新されても、目次を手動で修正する必要がなくなり、保守性が大幅に向上しました。
3. **コメントブロック**:
```html
<!--
Biggest open issues:
[ ] General iterators
@@ -143,143 +135,6 @@ Timeline (9/5/08):
- Jan 1, 2009: enough support to write interesting programs
-->
```
このHTMLコメントブロックも削除されました。これは、Go言語の初期開発における未解決の問題やタイムラインに関するメモが含まれていました。目次の自動生成とは直接関係ありませんが、ドキュメントのクリーンアップの一環として削除されたと考えられます。
変更後のファイルでは、`<h2>Introduction</h2>` の前に `<hr>` タグが追加され、各主要セクションの前に同様の `<hr>` タグが挿入されています。これは、セクション間の視覚的な区切りを明確にするための小さなフォーマット変更です。
全体として、このコミットは `doc/go_spec.html` の構造を簡素化し、目次管理のプロセスを自動化へと移行させるための重要なステップでした。これにより、Go言語の仕様書はより正確で保守しやすいものとなりました。
## 関連リンク
* Go言語公式サイト: [https://go.dev/](https://go.dev/)
* Go言語の仕様: [https://go.dev/ref/spec](https://go.dev/ref/spec) (現在の仕様書)
* Go言語の歴史に関するブログ記事やドキュメント (初期のGo開発プロセスについて言及されている可能性のあるもの)
## 参考にした情報源リンク
* Go言語の公式ドキュメント
* Gitのdiffの読み方に関する一般的な情報
* HTMLの構造と目次に関する一般的な情報
* Go言語の初期のコミット履歴と開発プロセスに関する情報 (Google内部のCL/OCLに関する言及など)
* (具体的なURLは、Web検索を行わない限り特定できませんが、Goの初期開発に関する歴史的な記事やメーリングリストのアーカイブなどが該当します。)