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[インデックス 17074] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のテストスイート内にある test/return.go ファイルに対する変更です。test/return.go は、Go言語における return ステートメントの挙動、特にエラーハンドリングや関数の戻り値に関する様々なシナリオを検証するためのテストケースを含んでいると考えられます。

コミット

  • コミットハッシュ: 96c583b84cf976348b781be7c43e7220ce672474
  • 作者: Ian Lance Taylor iant@golang.org
  • コミット日時: 2013年8月7日 水曜日 11:19:07 -0700

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/96c583b84cf976348b781be7c43e7220ce672474

元コミット内容

test: fix return.go to remove unused labels

The gc compiler only gives an error about an unused label if
it has not given any errors in an earlier pass.  Remove all
unused labels in this test because they don't test anything
useful and they cause gccgo to give unexpected errors.

R=golang-dev, bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/12580044

変更の背景

この変更の背景には、Go言語の異なるコンパイラ間での挙動の差異と、テストの安定性確保という目的があります。

Go言語には主に二つの主要なコンパイラが存在します。一つは公式のGoコンパイラである gc (Go Compiler) であり、もう一つはGCC (GNU Compiler Collection) をベースにした gccgo です。これらのコンパイラは、Go言語の仕様に準拠しつつも、実装の詳細やエラー報告のタイミングにおいて微妙な違いを持つことがあります。

このコミットの具体的な問題は、「未使用のラベル」に関するコンパイラの挙動の違いにありました。gc コンパイラは、コードのより早い段階で他のエラーが検出されなかった場合にのみ、未使用のラベルに関するエラーを報告するという特性を持っていました。しかし、gccgo は、これらの未使用のラベルに対して、gc とは異なるタイミングや条件でエラーを報告していたようです。

test/return.go ファイルには、テストの目的とは無関係な未使用のラベルが含まれていました。これらのラベルは、特定の機能やバグをテストするものではなく、単に存在しているだけでした。しかし、gccgo がこれらの未使用ラベルに対して「予期せぬエラー (unexpected errors)」を報告したため、テストスイートの実行が不安定になったり、gccgo 環境でのテストが失敗する原因となっていました。

この変更は、テストの目的とは無関係な要素(未使用のラベル)を削除することで、異なるコンパイラ間でのテスト結果の一貫性を保ち、テストスイート全体の信頼性を向上させることを目的としています。これにより、コンパイラの実装詳細に起因するノイズを排除し、純粋にGo言語の機能のテストに集中できるようになります。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下のGo言語およびコンパイラに関する前提知識が必要です。

  1. Go言語のラベル (Labels in Go): Go言語におけるラベルは、goto ステートメントのジャンプ先や、break および continue ステートメントがネストされたループや switchselect ステートメントから抜け出す(または次のイテレーションに進む)対象を指定するために使用されます。ラベルは識別子にコロン (:) を付けた形式で定義されます(例: L:)。

    func example() {
    L: // ここがラベル
        for i := 0; i < 10; i++ {
            if i == 5 {
                goto L // Lにジャンプ
            }
            println(i)
        }
    }
    

    未使用のラベルとは、このように定義されたにもかかわらず、コード内のどこからも参照(goto L など)されていないラベルを指します。Go言語では、未使用の変数やインポートと同様に、未使用のラベルもコンパイルエラーまたは警告の対象となることがあります。これは、コードの品質を保ち、意図しない挙動やデッドコードを防ぐためのGo言語の設計思想の一部です。

  2. Goコンパイラ (gc): gc は、Go言語の公式かつ主要なコンパイラです。Go言語のソースコードを機械語に変換し、実行可能なバイナリを生成します。Go言語の開発チームによって積極的に開発・メンテナンスされており、Go言語の最新の機能や最適化が最初に実装されるのが一般的です。

  3. gccgo: gccgo は、GNU Compiler Collection (GCC) のフロントエンドとして実装されたGo言語のコンパイラです。gc とは異なるコードベースと最適化戦略を持っています。gccgo は、GCCがサポートする多様なアーキテクチャやプラットフォームでGoプログラムをコンパイルできるという利点があります。しかし、gc とは独立して開発されているため、コンパイル時のエラー報告や警告の挙動に差異が生じることがあります。

  4. コンパイラの挙動の違い: 異なるコンパイラが同じソースコードに対して異なる診断メッセージ(エラーや警告)を出すことは珍しくありません。これは、コンパイラの実装、最適化の段階、エラー検出の優先順位などが異なるためです。特に、Go言語のように複数のコンパイラ実装が存在する場合、テストスイートはこれらの差異を吸収し、すべてのコンパイラで一貫した結果が得られるように設計される必要があります。このコミットのケースでは、gc が「以前のパスでエラーがなければ」未使用ラベルのエラーを出すのに対し、gccgo はその条件に関わらずエラーを出す可能性があったため、テストの安定性に影響を与えていました。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、Go言語のコンパイラが「未使用のラベル」をどのように扱うか、特に gcgccgo の間の挙動の不一致を解消することにあります。

コミットメッセージによると、gc コンパイラは、コンパイルの「以前のパス (earlier pass)」で他のエラーが検出されなかった場合にのみ、未使用のラベルに関するエラーを報告していました。これは、コンパイラがコードを解析する複数の段階(パス)を持ち、あるパスで致命的なエラーが見つかった場合、それ以降のパスでの軽微な問題(例えば未使用のラベル)の報告をスキップする、という最適化または設計判断がなされていたことを示唆しています。これにより、ユーザーは最も重要なエラーに集中でき、大量の警告に埋もれることを避けられます。

しかし、gccgo コンパイラは、この gc の挙動とは異なり、未使用のラベルをより積極的に、あるいは異なる条件でエラーとして報告していたと考えられます。その結果、test/return.go 内に存在する、テストのロジックには全く影響しない未使用のラベルが、gccgo でコンパイルした際に「予期せぬエラー」として表面化し、テストの失敗を引き起こしていました。

この問題の解決策は、非常にシンプルかつ効果的です。それは、テストの目的とは無関係な未使用のラベルをコードから完全に削除することです。これにより、以下の効果が期待できます。

  1. コンパイラ間のテスト結果の一貫性: 未使用のラベルがなくなることで、gcgccgo のどちらでコンパイルしても、同じテストが同じ結果(成功または意図されたエラー)を返すようになります。これにより、Go言語のテストスイートが、異なるコンパイラ実装に対しても堅牢であることが保証されます。
  2. テストコードの簡素化と明確化: テストの目的と無関係な要素が削除されることで、テストコード自体がよりクリーンになり、その意図が明確になります。これは、将来的なメンテナンスやデバッグの際に役立ちます。
  3. 不必要なエラーの排除: gccgo が報告していた「予期せぬエラー」が解消され、開発者は本当に修正すべき問題に集中できるようになります。

この変更は、Go言語のテストインフラストラクチャが、単に機能の正しさを検証するだけでなく、異なるツールチェイン(コンパイラなど)間での互換性や一貫性も考慮していることを示しています。

コアとなるコードの変更箇所

変更は test/return.go ファイルに対して行われ、4行の削除がありました。具体的には、以下の行が削除されています。

--- a/test/return.go
+++ b/test/return.go
@@ -272,7 +272,6 @@ func _() int {
 } // ERROR "missing return"
 
 func _() int {
-L:
  	print(1)
  	if x == nil {
  		panic(2)
@@ -972,7 +971,6 @@ func _() int {
 } // ERROR "missing return"
 
 func _() int {
-L:
  	if x == nil {
  		panic(2)
  	} else if x == 1 {
@@ -1666,7 +1664,6 @@ var _ = func() int {
 } // ERROR "missing return"
 
 var _ = func() int {
-L:
  	print(1)
  	if x == nil {
  		panic(2)
@@ -2366,7 +2363,6 @@ var _ = func() int {
 } // ERROR "missing return"
 
 var _ = func() int {
-L:
  	if x == nil {
  		panic(2)
  	} else if x == 1 {

コアとなるコードの解説

上記の変更箇所を見ると、削除されたのはすべて L: というラベルの定義です。これらのラベルは、それぞれのコードブロックの先頭に配置されていましたが、その後のコードで goto L のように参照されることはありませんでした。つまり、これらは「未使用のラベル」でした。

この test/return.go ファイルは、Go言語の return ステートメントや関連するエラー処理の挙動をテストするためのものです。例えば、// ERROR "missing return" のようなコメントは、その行でコンパイルエラーが発生することを期待していることを示しています。

削除された L: ラベルは、これらのテストのロジックや期待されるエラーの発生には全く寄与していませんでした。それにもかかわらず、gccgo コンパイラがこれらの未使用ラベルをエラーとして報告したため、テストが意図せず失敗していました。

このコミットは、これらの無関係な L: ラベルを削除することで、gccgo での不必要なエラー報告を停止させ、テストスイートがGo言語の return ステートメントの挙動のみを純粋にテストできるように修正しました。これにより、テストの目的が明確になり、異なるコンパイラ環境でのテストの信頼性と安定性が向上しました。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント (ラベル、gotobreakcontinue): https://go.dev/ref/spec#Labels
  • Go言語のコンパイラ (gcgccgo の違いに関する一般的な情報): (特定の公式ドキュメントは存在しないが、Goコミュニティや関連する議論で言及されることが多い)
  • GCCgoプロジェクトページ: https://gcc.gnu.org/onlinedocs/gccgo/
  • Go言語のテストの慣習と目的: (Go言語の公式テストスイートのコードベース自体が参考になる)