[インデックス 1711] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のコンパイラの一部である src/cmd/6g/gen.c
ファイルに対する変更です。6g
は、当時のGoコンパイラにおけるAMD64アーキテクチャ向けのバックエンドを指します。このファイルは、Goソースコードから機械語コードを生成する過程、特に関数呼び出しやインターフェースメソッド呼び出しのコード生成に関連する処理を担っていました。
コミット
commit 751d13cbce4b51f55121c7b1b738cf773402768e
Author: Ken Thompson <ken@golang.org>
Date: Mon Feb 23 22:43:04 2009 -0800
bug 130 (go/defer) interface.method()
R=r
OCL=25356
CL=25356
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/751d13cbce4b51f55121c7b1b738cf773402768e
元コミット内容
--- a/src/cmd/6g/gen.c
+++ b/src/cmd/6g/gen.c
@@ -776,6 +776,7 @@ cgen_callinter(Node *n, Node *res, int proc)
cgen(&nodo, &nodr); // REG = 32+offset(REG) -- i.m->fun[f]
// BOTCH nodr.type = fntype;
+ nodr.type = n->left->type;
ginscall(&nodr, proc);
regfree(&nodr);
変更の背景
このコミットは、Go言語の初期段階で報告された「バグ130」を修正するためのものです。バグ130は、defer
ステートメント内でインターフェースメソッドを呼び出す際に発生する問題に関連していました。具体的には、defer
されたインターフェースメソッド呼び出しの型情報が正しく処理されず、結果として実行時に誤ったメソッドが呼び出されたり、クラッシュしたりする可能性があったと考えられます。
Go言語の defer
ステートメントは、関数がリターンする直前、またはパニックが発生した際に実行される関数呼び出しをスケジュールします。インターフェースメソッドの呼び出しは、実行時にそのインターフェースが保持する具体的な型に基づいて動的に解決されます(ディスパッチ)。この二つのメカニズムが組み合わさることで、コンパイラが正しい型情報を保持し、適切なコードを生成することがより複雑になります。
このバグは、コンパイラのコード生成フェーズにおいて、インターフェースメソッド呼び出しのレシーバ(インターフェース値)の型情報が、defer
のコンテキストで正しく伝播または設定されていなかったことに起因すると推測されます。
前提知識の解説
Go言語の defer
ステートメント
defer
ステートメントは、Go言語の重要な機能の一つで、関数の実行が終了する直前(returnする前、またはパニックが発生してスタックがアンワインドされる前)に、指定された関数呼び出しをスケジュールします。defer
された関数はLIFO(Last-In, First-Out)の順序で実行されます。
例:
func readFile(filename string) {
f, err := os.Open(filename)
if err != nil {
log.Fatal(err)
}
defer f.Close() // 関数終了時にファイルが閉じられることを保証
// ファイルの読み込み処理
}
defer
の引数(この場合は f
)は、defer
ステートメントが評価された時点の値がキャプチャされます。これは、インターフェースメソッド呼び出しの場合に特に重要になります。
Go言語のインターフェースとメソッドディスパッチ
Go言語のインターフェースは、メソッドのシグネチャの集合を定義します。ある型がインターフェースのすべてのメソッドを実装していれば、その型は自動的にそのインターフェースを実装しているとみなされます。
インターフェース型の変数に具体的な型の値が代入されると、そのインターフェース変数には、具体的な値と、その値の型情報(タイプ情報)が内部的に保持されます。インターフェースメソッドが呼び出される際、Goランタイムはインターフェース変数に格納されているタイプ情報に基づいて、適切な具体的な型のメソッドを動的に探し出し、実行します。これを「動的ディスパッチ」と呼びます。
Goコンパイラ 6g
と gen.c
Go言語の初期のコンパイラは、ターゲットアーキテクチャごとに異なるバックエンドを持っていました。6g
はAMD64(64ビット)アーキテクチャ向けのコンパイラバックエンドでした。これらのコンパイラは、Goソースコードを中間表現に変換し、最終的にターゲットアーキテクチャの機械語コードを生成する役割を担っていました。
src/cmd/6g/gen.c
は、このコンパイラバックエンドの一部であり、主にコード生成(code generation)を担当していました。GoのAST(抽象構文木)や中間表現を走査し、対応する機械語命令を生成するロジックが含まれています。特に、関数呼び出しやインターフェースメソッド呼び出しのような複雑な操作は、このファイル内で特別な処理が必要とされました。
技術的詳細
このコミットの核心は、cgen_callinter
関数内の変更です。この関数は、インターフェースメソッド呼び出しのコードを生成する役割を担っています。
変更前のコードでは、nodr.type = fntype;
というコメントアウトされた行があり、その代わりに何らかのデフォルトまたは以前の型情報が nodr
に設定されていた可能性があります。nodr
は、インターフェースメソッド呼び出しのターゲットとなる関数(またはそのレシーバ)を表すノードであると推測されます。
問題は、defer
されたインターフェースメソッド呼び出しの場合、defer
ステートメントが評価される時点では、インターフェース変数が保持する具体的な型の情報が、コード生成時に正しく nodr
に反映されていなかったことです。これにより、動的ディスパッチが正しく機能せず、誤ったメソッドが呼び出される可能性がありました。
追加された行 nodr.type = n->left->type;
は、この問題を解決します。
n
: 現在処理しているインターフェースメソッド呼び出しを表すASTノード。n->left
: インターフェースメソッドが呼び出される対象のインターフェース値(レシーバ)を表すASTノード。n->left->type
: そのインターフェース値が保持する具体的な型情報。
この変更により、cgen_callinter
関数は、インターフェースメソッド呼び出しのコードを生成する際に、インターフェース値の実際の型情報を nodr
に明示的に設定するようになりました。これにより、defer
された呼び出しであっても、実行時に正しい具体的なメソッドがディスパッチされることが保証されます。
これは、コンパイラがインターフェースの動的性質と defer
の評価タイミングを正しく連携させるための重要な修正であり、Go言語の型システムとランタイムの堅牢性を高める上で不可欠な変更でした。
コアとなるコードの変更箇所
src/cmd/6g/gen.c
ファイルの cgen_callinter
関数内、777行目に以下の行が追加されました。
nodr.type = n->left->type;
コアとなるコードの解説
この一行の追加は、インターフェースメソッド呼び出しのコード生成において、レシーバの型情報を正確に伝達することを目的としています。
nodr
: これは、コード生成のコンテキストで、インターフェースメソッド呼び出しの対象となる関数ポインタや、その関数が属する具体的な型に関する情報を保持するコンパイラ内部のデータ構造(おそらくNode
型)です。n->left->type
:n
は現在のインターフェースメソッド呼び出しのASTノードです。n->left
は、そのメソッドが呼び出されるインターフェース型のレシーバ(例:myInterfaceVar.Method()
のmyInterfaceVar
)を表します。->type
は、そのレシーバが現在保持している具体的な型の情報(例:*MyStruct
やMyConcreteType
など)を指します。
この行が追加されることで、コンパイラはインターフェースメソッド呼び出しのコードを生成する際に、nodr
にインターフェースが実際に保持している具体的な型情報を正確に設定します。これにより、特に defer
ステートメントのように、呼び出しがスケジュールされてから実際に実行されるまでの間に時間差がある場合でも、ランタイムが正しいメソッドを動的にディスパッチするための情報が保証されます。
以前は、この型情報が正しく設定されていなかったため、defer
されたインターフェースメソッド呼び出しが、意図しないメソッドを呼び出したり、型ミスマッチによるランタイムエラーを引き起こしたりする可能性がありました。この修正は、Goの型安全性と defer
の正確な動作を保証するために不可欠なものでした。
関連リンク
- Go Issue 130 (おそらくこのバグに関する元のトラッカー): https://go.dev/issue/130 (Goの古いIssueトラッカーは現在GitHubに移行されているため、このリンクは直接的な情報を提供しない可能性がありますが、GoのIssue番号の命名規則から推測されるものです。)
- Go言語の
defer
ステートメントに関する公式ドキュメント: https://go.dev/tour/flowcontrol/12 - Go言語のインターフェースに関する公式ドキュメント: https://go.dev/tour/methods/9
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント (上記「関連リンク」に記載)
- Go言語のコンパイラ設計に関する一般的な知識
- 差分(diff)の分析
- Go言語の初期のバグ報告に関する一般的な情報 (Web検索を通じて「Go bug 130 defer interface method」などのキーワードで検索)
- 実際のバグ報告の詳細は、Goプロジェクトの古いメーリングリストやIssueトラッカーのアーカイブに存在する可能性がありますが、直接的なリンクは特定できませんでした。しかし、コミットメッセージからその内容を推測し、Goの言語仕様とコンパイラの動作原理に基づいて解説を構成しました。
[インデックス 1711] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のコンパイラの一部である src/cmd/6g/gen.c
ファイルに対する変更です。6g
は、当時のGoコンパイラにおけるAMD64アーキテクチャ向けのバックエンドを指します。このファイルは、Goソースコードから機械語コードを生成する過程、特に関数呼び出しやインターフェースメソッド呼び出しのコード生成に関連する処理を担っていました。
コミット
commit 751d13cbce4b51f55121c7b1b738cf773402768e
Author: Ken Thompson <ken@golang.org>
Date: Mon Feb 23 22:43:04 2009 -0800
bug 130 (go/defer) interface.method()
R=r
OCL=25356
CL=25356
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/751d13cbce4b51f55121c7b1b738cf773402768e
元コミット内容
--- a/src/cmd/6g/gen.c
+++ b/src/cmd/6g/gen.c
@@ -776,6 +776,7 @@ cgen_callinter(Node *n, Node *res, int proc)
cgen(&nodo, &nodr); // REG = 32+offset(REG) -- i.m->fun[f]
// BOTCH nodr.type = fntype;
+ nodr.type = n->left->type;
ginscall(&nodr, proc);
regfree(&nodr);
変更の背景
このコミットは、Go言語の初期段階で報告された「バグ130」を修正するためのものです。バグ130は、defer
ステートメント内でインターフェースメソッドを呼び出す際に発生する問題に関連していました。具体的には、defer
されたインターフェースメソッド呼び出しの型情報が正しく処理されず、結果として実行時に誤ったメソッドが呼び出されたり、クラッシュしたりする可能性があったと考えられます。
Go言語の defer
ステートメントは、関数がリターンする直前、またはパニックが発生した際に実行される関数呼び出しをスケジュールします。インターフェースメソッドの呼び出しは、実行時にそのインターフェースが保持する具体的な型に基づいて動的に解決されます(ディスパッチ)。この二つのメカニズムが組み合わさることで、コンパイラが正しい型情報を保持し、適切なコードを生成することがより複雑になります。
このバグは、コンパイラのコード生成フェーズにおいて、インターフェースメソッド呼び出しのレシーバ(インターフェース値)の型情報が、defer
のコンテキストで正しく伝播または設定されていなかったことに起因すると推測されます。
前提知識の解説
Go言語の defer
ステートメント
defer
ステートメントは、Go言語の重要な機能の一つで、関数の実行が終了する直前(returnする前、またはパニックが発生してスタックがアンワインドされる前)に、指定された関数呼び出しをスケジュールします。defer
された関数はLIFO(Last-In, First-Out)の順序で実行されます。
例:
func readFile(filename string) {
f, err := os.Open(filename)
if err != nil {
log.Fatal(err)
}
defer f.Close() // 関数終了時にファイルが閉じられることを保証
// ファイルの読み込み処理
}
defer
の引数(この場合は f
)は、defer
ステートメントが評価された時点の値がキャプチャされます。これは、インターフェースメソッド呼び出しの場合に特に重要になります。
Go言語のインターフェースとメソッドディスパッチ
Go言語のインターフェースは、メソッドのシグネチャの集合を定義します。ある型がインターフェースのすべてのメソッドを実装していれば、その型は自動的にそのインターフェースを実装しているとみなされます。
インターフェース型の変数に具体的な型の値が代入されると、そのインターフェース変数には、具体的な値と、その値の型情報(タイプ情報)が内部的に保持されます。インターフェースメソッドが呼び出される際、Goランタイムはインターフェース変数に格納されているタイプ情報に基づいて、適切な具体的な型のメソッドを動的に探し出し、実行します。これを「動的ディスパッチ」と呼びます。
Goコンパイラ 6g
と gen.c
Go言語の初期のコンパイラは、ターゲットアーキテクチャごとに異なるバックエンドを持っていました。6g
はAMD64(64ビット)アーキテクチャ向けのコンパイラバックエンドでした。これらのコンパイラは、Goソースコードを中間表現に変換し、最終的にターゲットアーキテクチャの機械語コードを生成する役割を担っていました。
src/cmd/6g/gen.c
は、このコンパイラバックエンドの一部であり、主にコード生成(code generation)を担当していました。GoのAST(抽象構文木)や中間表現を走査し、対応する機械語命令を生成するロジックが含まれています。特に、関数呼び出しやインターフェースメソッド呼び出しのような複雑な操作は、このファイル内で特別な処理が必要とされました。
技術的詳細
このコミットの核心は、cgen_callinter
関数内の変更です。この関数は、インターフェースメソッド呼び出しのコードを生成する役割を担っています。
変更前のコードでは、nodr.type = fntype;
というコメントアウトされた行があり、その代わりに何らかのデフォルトまたは以前の型情報が nodr
に設定されていた可能性があります。nodr
は、インターフェースメソッド呼び出しのターゲットとなる関数(またはそのレシーバ)を表すノードであると推測されます。
問題は、defer
されたインターフェースメソッド呼び出しの場合、defer
ステートメントが評価される時点では、インターフェース変数が保持する具体的な型の情報が、コード生成時に正しく nodr
に反映されていなかったことです。これにより、動的ディスパッチが正しく機能せず、誤ったメソッドが呼び出される可能性がありました。
追加された行 nodr.type = n->left->type;
は、この問題を解決します。
n
: 現在処理しているインターフェースメソッド呼び出しを表すASTノード。n->left
: インターフェースメソッドが呼び出される対象のインターフェース値(レシーバ)を表すASTノード。n->left->type
: そのインターフェース値が保持する具体的な型情報。
この変更により、cgen_callinter
関数は、インターフェースメソッド呼び出しのコードを生成する際に、インターフェース値の実際の型情報を nodr
に明示的に設定するようになりました。これにより、defer
された呼び出しであっても、実行時に正しい具体的なメソッドがディスパッチされることが保証されます。
これは、コンパイラがインターフェースの動的性質と defer
の評価タイミングを正しく連携させるための重要な修正であり、Go言語の型システムとランタイムの堅牢性を高める上で不可欠な変更でした。
コアとなるコードの変更箇所
src/cmd/6g/gen.c
ファイルの cgen_callinter
関数内、777行目に以下の行が追加されました。
nodr.type = n->left->type;
コアとなるコードの解説
この一行の追加は、インターフェースメソッド呼び出しのコード生成において、レシーバの型情報を正確に伝達することを目的としています。
nodr
: これは、コード生成のコンテキストで、インターフェースメソッド呼び出しの対象となる関数ポインタや、その関数が属する具体的な型に関する情報を保持するコンパイラ内部のデータ構造(おそらくNode
型)です。n->left->type
:n
は現在のインターフェースメソッド呼び出しのASTノードです。n->left
は、そのメソッドが呼び出されるインターフェース型のレシーバ(例:myInterfaceVar.Method()
のmyInterfaceVar
)を表します。->type
は、そのレシーバが現在保持している具体的な型の情報(例:*MyStruct
やMyConcreteType
など)を指します。
この行が追加されることで、コンパイラはインターフェースメソッド呼び出しのコードを生成する際に、nodr
にインターフェースが実際に保持している具体的な型情報を正確に設定します。これにより、特に defer
ステートメントのように、呼び出しがスケジュールされてから実際に実行されるまでの間に時間差がある場合でも、ランタイムが正しいメソッドを動的にディスパッチするための情報が保証されます。
以前は、この型情報が正しく設定されていなかったため、defer
されたインターフェースメソッド呼び出しが、意図しないメソッドを呼び出したり、型ミスマッチによるランタイムエラーを引き起こしたりする可能性がありました。この修正は、Goの型安全性と defer
の正確な動作を保証するために不可欠なものでした。
関連リンク
- Go Issue 130 (おそらくこのバグに関する元のトラッカー): https://go.dev/issue/130 (Goの古いIssueトラッカーは現在GitHubに移行されているため、このリンクは直接的な情報を提供しない可能性がありますが、GoのIssue番号の命名規則から推測されるものです。)
- Go言語の
defer
ステートメントに関する公式ドキュメント: https://go.dev/tour/flowcontrol/12 - Go言語のインターフェースに関する公式ドキュメント: https://go.dev/tour/methods/9
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント (上記「関連リンク」に記載)
- Go言語のコンパイラ設計に関する一般的な知識
- 差分(diff)の分析
- Go言語の初期のバグ報告に関する一般的な情報 (Web検索を通じて「Go bug 130 defer interface method」などのキーワードで検索)
- Web検索では「Go bug 130 defer interface method」に関する直接的な情報は得られませんでした。これは、このバグが非常に初期のものであったため、公開されている情報が少ないか、あるいは内部的なバグトラッキングシステムでのみ使用されていた番号である可能性を示唆しています。しかし、コミットメッセージとコードの変更内容から、その影響と修正の意図を推測し、Goの言語仕様とコンパイラの動作原理に基づいて解説を構成しました。