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[インデックス 17112] ファイルの概要

このコミットは、GoコンパイラのC言語フロントエンドであるcmd/ccにおける%Qフォーマット指定子の意味を修正するものです。具体的には、quotefmtinstall()関数の呼び出し順序を変更することで、%Qが正しく機能するようにしています。

コミット

commit 237e7c134c948c3a4c6c9aa84b5b8dd7192af919
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Thu Aug 8 21:06:06 2013 -0400

    cmd/cc: restore correct meaning of %Q
    
    g% 6c ~/x.c
    /Users/rsc/x.c:1 duplicate types given: STRUCT s and VOID
    /Users/rsc/x.c:1 no return at end of function: f
    g%
    
    Fixes #6083.
    
    R=ken2
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/12691043

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/237e7c134c948c3a4c6c9aa84b5b8dd7192af919

元コミット内容

cmd/cc: restore correct meaning of %Q

このコミットは、cmd/cc(GoコンパイラのC言語フロントエンド)において、%Qフォーマット指定子の正しい意味を復元することを目的としています。

コミットメッセージには、具体的な問題の再現手順と出力例が示されています。 g% 6c ~/x.cというコマンドを実行すると、以下のようなエラーメッセージが表示されます。

/Users/rsc/x.c:1 duplicate types given: STRUCT s and VOID
/Users/rsc/x.c:1 no return at end of function: f

これは、%Qが期待通りに動作していないことを示唆しています。

このコミットは、Issue #6083を修正します。

変更の背景

このコミットの背景には、GoコンパイラのC言語フロントエンドであるcmd/ccにおけるフォーマット指定子%Qの誤った挙動がありました。%Qは、通常、引用符で囲まれた文字列を出力するために使用されるフォーマット指定子ですが、特定の状況下で正しく機能していませんでした。

コミットメッセージに示されている再現手順は、cmd/ccが生成するエラーメッセージの表示に問題があることを示しています。具体的には、型に関するエラーメッセージが正しくフォーマットされていない可能性があります。これは、デバッグやエラー解析の際に開発者を混乱させる原因となります。

この問題は、GoのIssueトラッカーで#6083として報告されており、このコミットはその問題を解決するために作成されました。根本的な原因は、quotefmtinstall()関数の呼び出しタイミングが不適切であったことにあります。quotefmtinstall()は、%Qなどのカスタムフォーマット指定子をシステムに登録する役割を担っていますが、これがcinit(おそらくC言語の初期化処理)によって上書きされる前に呼び出されていなかったため、%Qが期待通りに機能していませんでした。

この修正は、コンパイラが生成するエラーメッセージの正確性と可読性を向上させ、開発者のデバッグ体験を改善することを目的としています。

前提知識の解説

Goコンパイラの構造 (cmd/cc)

Goコンパイラは、複数のコンポーネントから構成されています。その中でも、cmd/ccはGoコンパイラのC言語フロントエンドとして機能します。これは、Goのランタイムや標準ライブラリの一部がC言語で書かれているため、それらをコンパイルするために使用されます。cmd/ccは、C言語のソースコードを解析し、Goのツールチェーンが理解できる中間表現に変換する役割を担っています。

フォーマット指定子とfmtパッケージ

Go言語には、文字列のフォーマットを行うためのfmtパッケージが標準で提供されています。fmtパッケージは、Printfのような関数を通じて、様々なデータ型を整形して出力する機能を提供します。この際、%d(整数)、%s(文字列)、%v(デフォルトフォーマット)などのフォーマット指定子が使用されます。

しかし、コンパイラや低レベルのツールでは、標準のfmtパッケージでは提供されないような、より特殊なフォーマット指定子が必要になる場合があります。このような場合、カスタムのフォーマット指定子を定義し、それをシステムに登録するメカニズムが提供されることがあります。

quotefmtinstall()関数

quotefmtinstall()は、このコミットの文脈において非常に重要な関数です。この関数は、おそらく%Qのようなカスタムフォーマット指定子を、コンパイラや関連ツールが使用するフォーマットシステムに登録する役割を担っています。これにより、%Qが呼び出された際に、特定のルールに従って文字列が引用符で囲まれて出力されるようになります。

cinit関数

cinitは、C言語の初期化処理を行う関数であると推測されます。コンパイラやランタイムの初期化フェーズにおいて、様々な設定やデータ構造の準備が行われます。このコミットの文脈では、cinit%Qのフォーマット設定を上書きしてしまう可能性があったことが問題の原因でした。

Issueトラッカーとバグ修正

ソフトウェア開発において、バグや問題はIssueトラッカー(例: GitHub Issues、Bugzillaなど)に報告されます。開発者は、これらのIssueを追跡し、修正を行います。このコミットがFixes #6083と記載されていることから、GoのIssueトラッカーで6083番のIssueとして報告されたバグを修正するものであることがわかります。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、quotefmtinstall()関数の呼び出し順序の変更にあります。

元のコードでは、main関数の内部でfmtstrinit(&pragcgobuf);の後にquotefmtinstall();が呼び出されていました。しかし、このタイミングでは、cinit関数(おそらくC言語の初期化処理)が既に実行されており、%Qフォーマット指定子に関する設定がcinitによって上書きされてしまっていたと考えられます。

cinitは、コンパイラの初期化プロセスの一部として、様々な内部状態や設定をセットアップします。もしquotefmtinstall()cinitの後に呼び出されると、cinitがデフォルトのフォーマット設定を適用してしまい、quotefmtinstall()によって登録されたカスタムの%Qの動作が失われてしまう、あるいは意図しない動作になってしまうという問題が発生していました。

このコミットでは、quotefmtinstall()の呼び出しをmain関数の冒頭、具体的にはcinitが呼び出されるよりも前、ensuresymb(NSYMB);memset(debug, 0, sizeof(debug));などの初期化処理の直後に移動しています。

+\tquotefmtinstall(); // before cinit, which overrides %Q
 \tensuresymb(NSYMB);
 \tmemset(debug, 0, sizeof(debug));
 \ttinit();
@@ -126,7 +127,6 @@ main(int argc, char *argv[])
 \targinit();
 \t\
 \tfmtstrinit(&pragcgobuf);\
-\tquotefmtinstall();

この変更により、quotefmtinstall()cinitによって上書きされる前に実行され、%Qフォーマット指定子が正しく登録され、その意味が保持されるようになります。結果として、cmd/ccが生成するエラーメッセージにおいて、引用符で囲まれた文字列が期待通りに表示されるようになり、Issue #6083で報告された問題が解決されます。

これは、初期化順序の重要性を示す典型的な例であり、特に複雑なシステムや複数のコンポーネントが連携する環境では、関数の呼び出し順序がシステムの挙動に大きな影響を与えることを示しています。

コアとなるコードの変更箇所

変更はsrc/cmd/cc/lex.cファイルにあります。

--- a/src/cmd/cc/lex.c
+++ b/src/cmd/cc/lex.c
@@ -118,6 +118,7 @@ main(int argc, char *argv[])
 {
  	int c;
  
+\tquotefmtinstall(); // before cinit, which overrides %Q
  	ensuresymb(NSYMB);
  	memset(debug, 0, sizeof(debug));
  	tinit();
@@ -126,7 +127,6 @@ main(int argc, char *argv[])
  	arginit();
  	
  	fmtstrinit(&pragcgobuf);
-\tquotefmtinstall();
  
  	tufield = simplet((1L<<tfield->etype) | BUNSIGNED);\
  	ndef = 0;

具体的には、quotefmtinstall()の呼び出しが、main関数の開始直後(int c;の次)に移動され、以前の場所からは削除されています。

コアとなるコードの解説

このコミットのコアとなる変更は、src/cmd/cc/lex.cファイル内のmain関数におけるquotefmtinstall()関数の呼び出し位置の移動です。

変更前: quotefmtinstall()は、main関数の後半、fmtstrinit(&pragcgobuf);の後に呼び出されていました。 この時点では、既にcinitなどの初期化処理が完了しており、%Qフォーマット指定子に関する設定がcinitによって上書きされてしまっていたため、%Qが正しく機能しないという問題が発生していました。

変更後: quotefmtinstall()は、main関数の冒頭、int c;変数の宣言の直後、かつensuresymb(NSYMB);memset(debug, 0, sizeof(debug));、そして重要なtinit()(おそらくcinitの一部または関連する初期化関数)が呼び出されるよりも前に移動されました。

新しい位置に移動されたquotefmtinstall()の行には、// before cinit, which overrides %Qというコメントが追加されています。このコメントは、この変更の意図を明確に示しており、cinit%Qの設定を上書きするのを防ぐために、quotefmtinstall()cinitよりも前に呼び出す必要があることを説明しています。

この修正により、quotefmtinstall()がカスタムフォーマット指定子%Qをシステムに登録する際に、その設定が他の初期化処理によって上書きされることがなくなりました。結果として、%Qは期待通りに動作し、cmd/ccが生成するエラーメッセージが正しくフォーマットされるようになり、Issue #6083で報告されたバグが解決されました。

この変更は、GoコンパイラのC言語フロントエンドにおける内部的なフォーマット処理の正確性を保証するために不可欠なものでした。

関連リンク

参考にした情報源リンク