Keyboard shortcuts

Press or to navigate between chapters

Press S or / to search in the book

Press ? to show this help

Press Esc to hide this help

[インデックス 17172] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のビルドシステム (go/build パッケージ) におけるエラーメッセージの改善に関するものです。具体的には、NoGoError というエラータイプのメッセージとコメントが変更され、より明確で誤解を招きにくい表現になっています。

コミット

commit 954d14741d56c271a95d7b4dee1e8da35d7347af
Author: Rob Pike <r@golang.org>
Date:   Tue Aug 13 11:32:32 2013 +1000

    go/build: change the wording of NoGoError and comment it better
    Out of context, it can be very confusing because there can be lots of Go
    files in the directory, but the error message says there aren't.
    
    R=golang-dev, dsymonds, rsc
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/12823043

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/954d14741d56c271a95d7b4dee1e8da35d7347af

元コミット内容

go/build: change the wording of NoGoError and comment it better
Out of context, it can be very confusing because there can be lots of Go
files in the directory, but the error message says there aren't.

変更の背景

このコミットの背景には、Go言語のビルドシステムがディレクトリ内にGoのソースファイルを見つけられない場合に発生する NoGoError のメッセージが、ユーザーにとって混乱を招く可能性があったという問題があります。

従来の NoGoError のエラーメッセージは「no Go source files in [ディレクトリ名]」というものでした。しかし、実際にはディレクトリ内に .go 拡張子を持つファイルが存在するにもかかわらず、このエラーが発生することがありました。これは、Goのビルドシステムが単に .go ファイルが存在するかどうかだけでなく、そのファイルが「ビルド可能 (buildable)」であるかどうかを判断するためです。

ビルド可能でないGoファイルには、以下のようなケースが考えられます。

  • テストファイル: _test.go で終わるファイルは、通常のビルド対象からは除外されます。
  • ビルドタグによる除外: // +build ディレクティブ(現在は //go:build に移行)によって、特定の環境や条件でのみビルドされるように指定されたファイルは、現在のビルド環境では無視されることがあります。
  • main パッケージ以外のファイル: 実行可能ファイルを作成する際に、main パッケージ以外のファイルが直接ビルド対象として指定された場合など。

このような状況で「no Go source files」というメッセージが表示されると、ユーザーはディレクトリ内にGoファイルがあるのにエラーが出る理由が分からず、混乱していました。このコミットは、この誤解を解消し、エラーメッセージをより正確にすることで、ユーザーエクスペリエンスを向上させることを目的としています。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下のGo言語のビルドに関する基本的な概念を理解しておく必要があります。

Go言語のパッケージとモジュール

Goのコードは「パッケージ (package)」にまとめられます。関連するGoソースファイルの集合がパッケージを構成し、各ファイルは package <name> 宣言でそのパッケージに属することを明示します。 「モジュール (module)」は、関連するパッケージの集合であり、バージョン管理と依存関係管理の単位です。go.mod ファイルによって定義されます。

go/build パッケージ

go/build パッケージは、Goのソースコードを解析し、パッケージの依存関係を解決し、ビルド可能なGoソースファイルを特定するための機能を提供します。go buildgo install といったコマンドの内部で利用される、Goのビルドシステムの根幹をなすライブラリです。

ビルド可能なGoソースファイル

Goのビルドシステムにおいて、「ビルド可能 (buildable)」なGoソースファイルとは、単に .go 拡張子を持つファイルであるだけでなく、以下の条件を満たすファイルを指します。

  1. ファイル名: _test.go で終わらないファイル。テストファイルは通常のビルドプロセスから除外されます。
  2. ビルドタグ: ファイルの先頭に記述される //go:build (旧 // +build) ディレクティブによって、現在のビルド環境(OS、アーキテクチャ、カスタムタグなど)に合致する場合のみビルド対象となります。例えば、//go:build linux と書かれたファイルはLinux環境でのみビルドされます。
  3. パッケージ宣言: 有効な package 宣言を持つファイル。

go/build パッケージの Context.ImportDir メソッドは、指定されたディレクトリからGoパッケージをインポートしようとしますが、この際に上記の条件に基づいてビルド可能なGoソースファイルを探索します。もしビルド可能なファイルが一つも見つからない場合に NoGoError が返されます。

error インターフェースと Error() メソッド

Go言語では、エラーは組み込みの error インターフェースによって表現されます。このインターフェースは、Error() string という単一のメソッドを定義しています。カスタムエラータイプを作成する場合、この Error() メソッドを実装することで、エラーの詳細な文字列表現を提供できます。NoGoError もこのインターフェースを実装しています。

技術的詳細

このコミットの技術的な変更点は、src/pkg/go/build/build.go ファイル内の NoGoError 型の定義と、その Error() メソッドの実装、および関連するコメントの修正に集約されます。

NoGoError のコメント変更

従来のコメント:

// NoGoError is the error used by Import to describe a directory
// containing no Go source files.

変更後のコメント:

// NoGoError is the error used by Import to describe a directory
// containing no buildable Go source files. (It may still contain
// test files, files hidden by build tags, and so on.)

この変更により、「no Go source files」という曖昧な表現が「no buildable Go source files」と明確化されました。さらに、括弧書きで「(It may still contain test files, files hidden by build tags, and so on.)」という補足が追加され、ディレクトリ内にGoファイルが存在するにもかかわらずこのエラーが発生する理由が具体的に説明されています。これにより、ユーザーがエラーメッセージを見た際の混乱が大幅に軽減されます。

NoGoError.Error() メソッドの変更

従来の Error() メソッドの実装:

func (e *NoGoError) Error() string {
	return "no Go source files in " + e.Dir
}

変更後の Error() メソッドの実装:

func (e *NoGoError) Error() string {
	return "no buildable Go source files in " + e.Dir
}

エラーメッセージの文字列自体も、「no Go source files」から「no buildable Go source files」に変更されました。これにより、NoGoError が発生した際にユーザーに表示されるメッセージが、コメントの変更と一貫してより正確な情報を提供するようになりました。

これらの変更は、コードの機能的な振る舞いを変更するものではなく、主にユーザーインターフェース(エラーメッセージ)とコードの可読性・保守性(コメント)の改善を目的としています。しかし、ユーザーがGoのビルドシステムを理解し、問題をデバッグする上で非常に重要な改善と言えます。

コアとなるコードの変更箇所

変更は src/pkg/go/build/build.go ファイルに限定されています。

--- a/src/pkg/go/build/build.go
+++ b/src/pkg/go/build/build.go
@@ -395,13 +395,14 @@ func (ctxt *Context) ImportDir(dir string, mode ImportMode) (*Package, error) {
 }
 
 // NoGoError is the error used by Import to describe a directory
-// containing no Go source files.
+// containing no buildable Go source files. (It may still contain
+// test files, files hidden by build tags, and so on.)
 type NoGoError struct {
 	Dir string
 }
 
 func (e *NoGoError) Error() string {
-	return "no Go source files in " + e.Dir
+	return "no buildable Go source files in " + e.Dir
 }
 
 // Import returns details about the Go package named by the import path,

コアとなるコードの解説

NoGoError 型のコメント

NoGoError 型の定義の直前にあるコメントが変更されました。 旧: // containing no Go source files. 新: // containing no buildable Go source files. (It may still contain // test files, files hidden by build tags, and so on.)

このコメントは、NoGoError がどのような状況で発生するのかを説明しています。変更前は単に「Goソースファイルがない」と記述されていましたが、変更後は「ビルド可能なGoソースファイルがない」とより正確に記述され、さらに「テストファイルやビルドタグによって隠されたファイルが含まれている可能性がある」という重要な補足が追加されました。これにより、このエラーに遭遇した開発者が、なぜGoファイルがあるのにエラーが出るのかを理解しやすくなります。

NoGoError.Error() メソッド

NoGoError 型が実装する Error() メソッドは、このエラーが文字列として表現される際に返されるメッセージを定義します。 旧: return "no Go source files in " + e.Dir 新: return "no buildable Go source files in " + e.Dir

この変更により、実際にユーザーに表示されるエラーメッセージが「no Go source files in [ディレクトリ名]」から「no buildable Go source files in [ディレクトリ名]」に変わりました。この一語の追加が、エラーの根本原因をより正確に伝え、ユーザーの混乱を避ける上で非常に効果的です。

これらの変更は、Goのビルドシステムが内部的にどのようにファイルを認識しているかという「ビルド可能性」の概念を、エラーメッセージを通じてユーザーに明確に伝えるためのものです。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント
  • Go言語のソースコード (特に go/build パッケージ)
  • Go言語のコミット履歴とコードレビューコメント
  • Go言語のビルドプロセスに関する一般的な知識
  • Go言語のエラーハンドリングの慣習