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[インデックス 17191] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のランタイムプロファイリングツールであるpprofに関するものです。具体的には、NetBSDおよびOpenBSD上でのプロファイリングテストの扱いを変更し、これらのOSでのプロファイリングが改善された可能性を示唆しています。

コミット

commit 469250fb772f4352f265c1d97a19f85b12024a05
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Tue Aug 13 12:35:37 2013 -0400

    runtime/pprof: test netbsd and openbsd again
    
    Maybe these will work now.
    
    R=golang-dev, dvyukov, bradfitz
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/12787044

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/469250fb772f4352f265c1d97a19f85b12024a05

元コミット内容

このコミットの目的は、Goランタイムのプロファイリング機能(pprof)において、NetBSDとOpenBSDに対するテストを再度有効にすることです。コミットメッセージ「Maybe these will work now.」が示すように、以前はこれらのOSでプロファイリングが正しく機能しない、あるいは不正確であるという問題がありましたが、何らかの改善により状況が変わった可能性を試す意図があります。

変更の背景

Go言語のpprofツールは、CPUプロファイル、メモリプロファイル、ブロックプロファイルなど、様々な種類のプロファイル情報を収集し、Goプログラムのパフォーマンス特性を分析するために使用されます。しかし、特定のオペレーティングシステム(OS)では、プロファイル情報の収集方法やシステムコールとの連携に起因する問題が発生することがあります。

このコミットが参照しているBUG(rsc)コメントとissue 6047は、まさにその問題を示しています。issue 6047("runtime/pprof: profiles are incomplete and inaccurate on NetBSD, OpenBSD, and OS X")は、NetBSD、OpenBSD、およびOS X(Darwin)において、pprofが生成するプロファイルが不完全または不正確であるという既知の問題を追跡していました。これは、これらのOSにおけるシグナルハンドリング、タイマー、またはスタックウォークのメカニズムが、Goランタイムのプロファイリング実装と完全に互換性がなかったためと考えられます。

このコミットは、issue 6047で報告された問題がNetBSDとOpenBSDに関しては解決されたか、少なくとも改善されたという前提に基づいて、これらのOSでのプロファイリングテストを再開しようとするものです。OS X(Darwin)については、引き続き問題が残っていることが示唆されています。

前提知識の解説

Go言語のプロファイリング (pprof)

Go言語には、標準ライブラリとしてruntime/pprofパッケージが提供されており、プログラムの実行時パフォーマンスを分析するためのプロファイリング機能を提供します。主なプロファイルの種類は以下の通りです。

  • CPUプロファイル: プログラムがCPU時間をどこで消費しているかを特定します。サンプリングベースで、一定間隔で実行中のゴルーチンのスタックトレースを収集します。
  • メモリプロファイル: ヒープメモリの割り当て状況を追跡し、メモリリークや非効率なメモリ使用を特定します。
  • ブロックプロファイル: ゴルーチンが同期プリミティブ(ミューテックス、チャネルなど)によってブロックされている時間を測定します。
  • ゴルーチンプロファイル: 実行中のすべてのゴルーチンのスタックトレースをダンプします。

これらのプロファイルは、通常、go tool pprofコマンドを使用して視覚化・分析されます。

シグナルハンドリングとプロファイリング

CPUプロファイリングは、通常、OSのタイマー割り込みとシグナルハンドリングのメカニズムに依存しています。

  1. タイマー割り込み: OSは、設定された間隔(例: 100Hz、つまり1秒間に100回)でプログラムに割り込みをかけます。
  2. シグナル送信: この割り込みが発生すると、OSはプログラムに対して特定のシグナル(例: SIGPROF)を送信します。
  3. シグナルハンドラ: プログラム(Goランタイム)は、このシグナルを受信するためのシグナルハンドラを登録しています。
  4. スタックトレース収集: シグナルハンドラが実行されると、現在のゴルーチンのスタックトレースが収集され、プロファイルデータとして記録されます。

このプロセスが正しく機能しない場合、プロファイルデータが不完全になったり、不正確になったりします。特に、異なるOSではシグナルハンドリングのセマンティクスや、スタックトレースを安全かつ正確に取得するためのAPIが異なるため、移植性の問題が生じやすいです。

badOS マップ

Goのテストスイートやランタイムコードでは、特定のOSに固有の挙動や既知の問題に対応するために、OS名をキーとするマップ(例: badOS)を使用することがあります。これにより、問題が解決するまで特定のOSでのテストをスキップしたり、異なる実装パスを選択したりすることが可能になります。

技術的詳細

このコミットの技術的な変更は非常にシンプルですが、その背後にはGoランタイムと特定のOSカーネルとの間の複雑な相互作用があります。

変更点は以下の2箇所です。

  1. src/pkg/runtime/pprof/pprof.goBUG コメントの更新: 変更前: // BUG(rsc): Profiles are incomplete and inaccuate on NetBSD, OpenBSD, and OS X. 変更後: // BUG(rsc): Profiles are incomplete and inaccuate on OS X. この変更は、NetBSDとOpenBSDにおけるプロファイリングの不完全性・不正確性の問題が解決されたか、少なくとも大幅に改善されたことを示唆しています。これにより、このBUGはOS X(Darwin)のみに限定されることになりました。

  2. src/pkg/runtime/pprof/pprof_test.gobadOS マップの変更: 変更前:

    var badOS = map[string]bool{
    	"darwin":  true,
    	"netbsd":  true,
    	"openbsd": true,
    }
    

    変更後:

    var badOS = map[string]bool{
    	"darwin": true,
    	//"netbsd":  true,
    	//"openbsd": true,
    }
    

    badOSマップは、プロファイリングテストが失敗すると予想されるOSをリストアップするために使用されていました。このマップからnetbsdopenbsdのエントリがコメントアウトされた(実質的に削除された)ことにより、これらのOS上でもプロファイリングテストが実行されるようになります。これは、これらのOSでのプロファイリング機能が十分に安定し、テストに合格する見込みがあるという判断に基づいています。

これらの変更は、Goランタイムのプロファイリングサブシステムが、NetBSDおよびOpenBSDの特定のバージョンまたはカーネルの変更に対応するように更新されたことを強く示唆しています。具体的な修正内容は、このコミット自体には含まれていませんが、おそらく以前のコミットでこれらのOS固有のプロファイリング関連のバグが修正された結果として、このコミットが行われたと考えられます。

コアとなるコードの変更箇所

src/pkg/runtime/pprof/pprof.go

--- a/src/pkg/runtime/pprof/pprof.go
+++ b/src/pkg/runtime/pprof/pprof.go
@@ -20,7 +20,7 @@ import (
 	"text/tabwriter"
 )
 
-// BUG(rsc): Profiles are incomplete and inaccuate on NetBSD, OpenBSD, and OS X.
+// BUG(rsc): Profiles are incomplete and inaccuate on OS X.
 // See http://golang.org/issue/6047 for details.
 
 // A Profile is a collection of stack traces showing the call sequences

src/pkg/runtime/pprof/pprof_test.go

--- a/src/pkg/runtime/pprof/pprof_test.go
+++ b/src/pkg/runtime/pprof/pprof_test.go
@@ -175,9 +175,9 @@ func TestCPUProfileWithFork(t *testing.T) {
 
 // Operating systems that are expected to fail the tests. See issue 6047.
 var badOS = map[string]bool{
-	"darwin":  true,
-	"netbsd":  true,
-	"openbsd": true,
+	"darwin": true,
+	//"netbsd":  true,
+	//"openbsd": true,
 }
 
 func TestBlockProfile(t *testing.T) {

コアとなるコードの解説

pprof.goの変更は、単なるコメントの更新であり、コードの動作には直接影響しません。しかし、これはGo開発チームがNetBSDとOpenBSDにおけるpprofの信頼性が向上したと認識していることを示す重要なメタデータです。

pprof_test.goの変更は、テストの実行フローに直接影響を与えます。badOSマップは、TestCPUProfileWithForkのようなプロファイリング関連のテスト関数内で使用され、特定のOSでテストをスキップするかどうかを決定するために利用されます。

例えば、TestCPUProfileWithFork関数(このコミットには含まれていませんが、一般的なテストパターンとして)は、以下のようなロジックを持つ可能性があります。

func TestCPUProfileWithFork(t *testing.T) {
    if badOS[runtime.GOOS] { // runtime.GOOS は現在のOS名 (例: "darwin", "netbsd")
        t.Skipf("skipping on %s: see issue 6047", runtime.GOOS)
    }
    // ... プロファイリングテストのロジック ...
}

badOSマップから"netbsd""openbsd"が削除された(コメントアウトされた)ことにより、runtime.GOOS"netbsd"または"openbsd"である場合、badOS[runtime.GOOS]falseを返すようになります。これにより、これらのOS上でもプロファイリングテストが実行されるようになり、GoランタイムのCI/CDパイプラインにおいて、NetBSDとOpenBSDでのpprofの機能が継続的に検証されることになります。

この変更は、Goランタイムのクロスプラットフォーム対応における継続的な努力の一環であり、特定のOS環境での安定性と正確性を確保するための重要なステップです。

関連リンク

  • Go Issue 6047: runtime/pprof: profiles are incomplete and inaccurate on NetBSD, OpenBSD, and OS X
  • Go CL 12787044: runtime/pprof: test netbsd and openbsd again
    • https://golang.org/cl/12787044 (これはコミットメッセージに記載されているGoのコードレビューシステムへのリンクです)

参考にした情報源リンク