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[インデックス 17298] ファイルの概要

このコミットは、Goランタイムにおけるゴルーチンのスタック計算に関するバグ修正を目的としています。具体的には、runtime·malg関数内で新しいゴルーチンに割り当てられるスタックサイズの計算が誤っていた点を修正しています。

コミット

commit 187b9c695f2c8fae14ed289f9f6364628f633490
Author: Dmitriy Vyukov <dvyukov@google.com>
Date:   Fri Aug 16 21:04:05 2013 +0400

    runtime: fix goroutine stack accounting
    Fixes #6166.
    Fixes #6168.
    
    R=golang-dev, bradfitz, remyoudompheng
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/12927045

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/187b9c695f2c8fae14ed289f9f6364628f633490

元コミット内容

runtime: fix goroutine stack accounting
Fixes #6166.
Fixes #6168.

R=golang-dev, bradfitz, remyoudompheng
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/12927045

変更の背景

このコミットは、Goランタイムにおけるゴルーチンのスタック管理に関する2つの既知のバグ、Issue #6166 と Issue #6168 を修正するために導入されました。これらのIssueは、特にスタックの再利用や新しいゴルーチンの作成時に、スタックサイズが正しく計算されない、あるいは古いゴルーチンの情報が誤って新しいゴルーチンに引き継がれてしまうという問題に関連していました。

具体的には、runtime·malg関数は新しいゴルーチンを割り当てる際に呼び出されますが、この関数内でスタックサイズを記録する際に、誤って古いゴルーチン(g)のフィールドを更新してしまっていました。これにより、新しいゴルーチン(newg)のスタック情報が正しく初期化されず、結果としてスタックオーバーフローや不正なメモリアクセスといったランタイムエラーを引き起こす可能性がありました。

前提知識の解説

このコミットの理解には、以下のGoランタイムの概念に関する知識が不可欠です。

  • ゴルーチン (Goroutine): Go言語における軽量な実行スレッドです。OSのスレッドよりもはるかに軽量で、数百万のゴルーチンを同時に実行することも可能です。Goランタイムがゴルーチンのスケジューリング、スタック管理、同期などを担当します。
  • スタック (Stack): 各ゴルーチンは独自の実行スタックを持っています。このスタックは、関数呼び出しの引数、ローカル変数、リターンアドレスなどを格納するために使用されます。Goのスタックは動的に伸縮する特性を持っており、必要に応じて自動的に拡張・縮小されます。
  • スタックガード (Stack Guard): Goランタイムは、スタックオーバーフローを検出するために「スタックガード」と呼ばれるメカニズムを使用します。スタックガードはスタックの末尾に配置され、スタックがこのガード領域に到達すると、ランタイムはスタックの拡張を試みます。
  • runtime·malg関数: Goランタイム内部のC言語で記述された関数で、新しいゴルーチンを割り当てる際に呼び出されます。この関数は、新しいゴルーチンのためのメモリを確保し、スタックを初期化し、関連するフィールドを設定する役割を担います。
  • gnewg: Goランタイムの内部では、ゴルーチンを表す構造体が存在します。このコミットの文脈では、gは既存の(あるいは再利用される可能性のある)ゴルーチンを指し、newgは新しく作成されるゴルーチンを指します。
  • StackSystem: Goランタイムが内部的に使用するシステムスタックのサイズを示す定数です。ゴルーチンのスタックサイズを計算する際に、このシステムスタックのサイズが考慮されることがあります。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、src/pkg/runtime/proc.cファイル内のruntime·malg関数における、新しいゴルーチンのスタックサイズ設定の誤りを修正することにあります。

元のコードでは、新しいゴルーチンを割り当てる際に、スタックサイズをg->stacksizeに設定していました。ここでgは、runtime·malg関数が呼び出された時点での現在のゴルーチン、あるいは再利用のために渡されたゴルーチンを指します。しかし、この関数が実際に設定すべきは、新しく作成されるゴルーチン(newg)のスタックサイズでした。

この誤りにより、以下のような問題が発生する可能性がありました。

  1. スタックサイズの不正確な記録: 新しいゴルーチンが作成されたにもかかわらず、そのスタックサイズが正しくnewg構造体に記録されず、代わりにg(古いゴルーチン)のstacksizeフィールドが上書きされてしまう。
  2. スタック管理の混乱: ランタイムが新しいゴルーチンのスタック情報を参照しようとした際に、誤った情報(古いゴルーチンのスタックサイズ)に基づいて処理を進めてしまう。これは、スタックの拡張や縮小、あるいはスタックオーバーフローの検出といった、スタック管理の重要なプロセスに影響を与える可能性があります。
  3. 潜在的なクラッシュ: 最悪の場合、スタックサイズの誤った計算や記録が原因で、新しいゴルーチンが割り当てられたスタック領域を超えてアクセスしようとし、セグメンテーション違反やその他のメモリ関連のクラッシュを引き起こす可能性がありました。

修正は非常にシンプルですが、その影響はGoランタイムの安定性と正確性にとって非常に重要です。g->stacksizenewg->stacksizeに変更することで、新しく割り当てられるゴルーチンのスタックサイズが、そのゴルーチン自身の構造体に正しく関連付けられるようになります。これにより、ランタイムは各ゴルーチンのスタック状態を正確に追跡し、適切なスタック管理操作を実行できるようになります。

コアとなるコードの変更箇所

変更はsrc/pkg/runtime/proc.cファイルの一箇所のみです。

--- a/src/pkg/runtime/proc.c
+++ b/src/pkg/runtime/proc.c
@@ -1676,7 +1676,7 @@ runtime·malg(int32 stacksize)
 			stk = g->param;
 			g->param = nil;
 		}
-		g->stacksize = StackSystem + stacksize;
+		newg->stacksize = StackSystem + stacksize;
 		newg->stack0 = (uintptr)stk;
 		newg->stackguard = (uintptr)stk + StackGuard;
 		newg->stackguard0 = newg->stackguard;

コアとなるコードの解説

変更された行は、runtime·malg関数内で新しいゴルーチンにスタックサイズを設定している部分です。

  • 変更前: g->stacksize = StackSystem + stacksize;
    • この行では、gという変数(これは現在のゴルーチン、または再利用されるゴルーチンを指す)のstacksizeフィールドに、新しいゴルーチンの計算されたスタックサイズ(StackSystem + stacksize)を代入していました。これは論理的な誤りです。なぜなら、この関数は新しいゴルーチン(newg)を作成しているため、その新しいゴルーチンのスタックサイズを設定すべきだからです。
  • 変更後: newg->stacksize = StackSystem + stacksize;
    • この行では、正しくnewgという変数(これは新しく作成されるゴルーチンを指す)のstacksizeフィールドに、計算されたスタックサイズを代入しています。これにより、新しいゴルーチンが自身の正確なスタックサイズ情報を持つことになり、ランタイムがそのゴルーチンのスタックを適切に管理できるようになります。

この修正により、newgのスタックサイズが正しく初期化され、スタックの再利用や新しいゴルーチンの作成時に発生しうるスタック関連のバグが解消されます。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント
  • GoのIssueトラッカー (GitHub Issues)
  • GoのGerritコードレビューシステム
  • Goランタイムのソースコード (src/pkg/runtime/proc.c)
  • Go言語におけるゴルーチンとスタック管理に関する一般的な技術記事
  • Dmitriy Vyukov氏の他のGoランタイム関連のコミットや議論
  • Brad Fitzpatrick氏、Remy Oudompheng氏のGo関連の貢献 Got it. I have generated the detailed explanation in Markdown format and output it to standard output. I have adhered to all the instructions, including the chapter structure and language.
# [インデックス 17298] ファイルの概要

このコミットは、Goランタイムにおけるゴルーチンのスタック計算に関するバグ修正を目的としています。具体的には、`runtime·malg`関数内で新しいゴルーチンに割り当てられるスタックサイズの計算が誤っていた点を修正しています。

## コミット

commit 187b9c695f2c8fae14ed289f9f6364628f633490 Author: Dmitriy Vyukov dvyukov@google.com Date: Fri Aug 16 21:04:05 2013 +0400

runtime: fix goroutine stack accounting
Fixes #6166.
Fixes #6168.

R=golang-dev, bradfitz, remyoudompheng
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/12927045

## GitHub上でのコミットページへのリンク

[https://github.com/golang/go/commit/187b9c695f2c8fae14ed289f9f6364628f633490](https://github.com/golang/go/commit/187b9c695f2c8fae14ed289f9f6364628f633490)

## 元コミット内容

runtime: fix goroutine stack accounting Fixes #6166. Fixes #6168.

R=golang-dev, bradfitz, remyoudompheng CC=golang-dev https://golang.org/cl/12927045


## 変更の背景

このコミットは、Goランタイムにおけるゴルーチンのスタック管理に関する2つの既知のバグ、Issue #6166 と Issue #6168 を修正するために導入されました。これらのIssueは、特にスタックの再利用や新しいゴルーチンの作成時に、スタックサイズが正しく計算されない、あるいは古いゴルーチンの情報が誤って新しいゴルーチンに引き継がれてしまうという問題に関連していました。

具体的には、`runtime·malg`関数は新しいゴルーチンを割り当てる際に呼び出されますが、この関数内でスタックサイズを記録する際に、誤って古いゴルーチン(`g`)のフィールドを更新してしまっていました。これにより、新しいゴルーチン(`newg`)のスタック情報が正しく初期化されず、結果としてスタックオーバーフローや不正なメモリアクセスといったランタイムエラーを引き起こす可能性がありました。

## 前提知識の解説

このコミットの理解には、以下のGoランタイムの概念に関する知識が不可欠です。

*   **ゴルーチン (Goroutine)**: Go言語における軽量な実行スレッドです。OSのスレッドよりもはるかに軽量で、数百万のゴルーチンを同時に実行することも可能です。Goランタイムがゴルーチンのスケジューリング、スタック管理、同期などを担当します。
*   **スタック (Stack)**: 各ゴルーチンは独自の実行スタックを持っています。このスタックは、関数呼び出しの引数、ローカル変数、リターンアドレスなどを格納するために使用されます。Goのスタックは動的に伸縮する特性を持っており、必要に応じて自動的に拡張・縮小されます。
*   **スタックガード (Stack Guard)**: Goランタイムは、スタックオーバーフローを検出するために「スタックガード」と呼ばれるメカニズムを使用します。スタックガードはスタックの末尾に配置され、スタックがこのガード領域に到達すると、ランタイムはスタックの拡張を試みます。
*   **`runtime·malg`関数**: Goランタイム内部のC言語で記述された関数で、新しいゴルーチンを割り当てる際に呼び出されます。この関数は、新しいゴルーチンのためのメモリを確保し、スタックを初期化し、関連するフィールドを設定する役割を担います。
*   **`g`と`newg`**: Goランタイムの内部では、ゴルーチンを表す構造体が存在します。このコミットの文脈では、`g`は既存の(あるいは再利用される可能性のある)ゴルーチンを指し、`newg`は新しく作成されるゴルーチンを指します。
*   **`StackSystem`**: Goランタイムが内部的に使用するシステムスタックのサイズを示す定数です。ゴルーチンのスタックサイズを計算する際に、このシステムスタックのサイズが考慮されることがあります。

## 技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、`src/pkg/runtime/proc.c`ファイル内の`runtime·malg`関数における、新しいゴルーチンのスタックサイズ設定の誤りを修正することにあります。

元のコードでは、新しいゴルーチンを割り当てる際に、スタックサイズを`g->stacksize`に設定していました。ここで`g`は、`runtime·malg`関数が呼び出された時点での現在のゴルーチン、あるいは再利用のために渡されたゴルーチンを指します。しかし、この関数が実際に設定すべきは、新しく作成されるゴルーチン(`newg`)のスタックサイズでした。

この誤りにより、以下のような問題が発生する可能性がありました。

1.  **スタックサイズの不正確な記録**: 新しいゴルーチンが作成されたにもかかわらず、そのスタックサイズが正しく`newg`構造体に記録されず、代わりに`g`(古いゴルーチン)の`stacksize`フィールドが上書きされてしまう。
2.  **スタック管理の混乱**: ランタイムが新しいゴルーチンのスタック情報を参照しようとした際に、誤った情報(古いゴルーチンのスタックサイズ)に基づいて処理を進めてしまう。これは、スタックの拡張や縮小、あるいはスタックオーバーフローの検出といった、スタック管理の重要なプロセスに影響を与える可能性があります。
3.  **潜在的なクラッシュ**: 最悪の場合、スタックサイズの誤った計算や記録が原因で、新しいゴルーチンが割り当てられたスタック領域を超えてアクセスしようとし、セグメンテーション違反やその他のメモリ関連のクラッシュを引き起こす可能性がありました。

修正は非常にシンプルですが、その影響はGoランタイムの安定性と正確性にとって非常に重要です。`g->stacksize`を`newg->stacksize`に変更することで、新しく割り当てられるゴルーチンのスタックサイズが、そのゴルーチン自身の構造体に正しく関連付けられるようになります。これにより、ランタイムは各ゴルーチンのスタック状態を正確に追跡し、適切なスタック管理操作を実行できるようになります。

## コアとなるコードの変更箇所

変更は`src/pkg/runtime/proc.c`ファイルの一箇所のみです。

```diff
--- a/src/pkg/runtime/proc.c
+++ b/src/pkg/runtime/proc.c
@@ -1676,7 +1676,7 @@ runtime·malg(int32 stacksize)
 			stk = g->param;
 			g->param = nil;
 		}
-		g->stacksize = StackSystem + stacksize;
+		newg->stacksize = StackSystem + stacksize;
 		newg->stack0 = (uintptr)stk;
 		newg->stackguard = (uintptr)stk + StackGuard;
 		newg->stackguard0 = newg->stackguard;

コアとなるコードの解説

変更された行は、runtime·malg関数内で新しいゴルーチンにスタックサイズを設定している部分です。

  • 変更前: g->stacksize = StackSystem + stacksize;
    • この行では、gという変数(これは現在のゴルーチン、または再利用されるゴルーチンを指す)のstacksizeフィールドに、新しいゴルーチンの計算されたスタックサイズ(StackSystem + stacksize)を代入していました。これは論理的な誤りです。なぜなら、この関数は新しいゴルーチン(newg)を作成しているため、その新しいゴルーチンのスタックサイズを設定すべきだからです。
  • 変更後: newg->stacksize = StackSystem + stacksize;
    • この行では、正しくnewgという変数(これは新しく作成されるゴルーチンを指す)のstacksizeフィールドに、計算されたスタックサイズを代入しています。これにより、新しいゴルーチンが自身の正確なスタックサイズ情報を持つことになり、ランタイムがそのゴルーチンのスタックを適切に管理できるようになります。

この修正により、newgのスタックサイズが正しく初期化され、スタックの再利用や新しいゴルーチンの作成時に発生しうるスタック関連のバグが解消されます。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント
  • GoのIssueトラッカー (GitHub Issues)
  • GoのGerritコードレビューシステム
  • Goランタイムのソースコード (src/pkg/runtime/proc.c)
  • Go言語におけるゴルーチンとスタック管理に関する一般的な技術記事
  • Dmitriy Vyukov氏の他のGoランタイム関連のコミットや議論
  • Brad Fitzpatrick氏、Remy Oudompheng氏のGo関連の貢献