[インデックス 17311] ファイルの概要
コミット
commit 7fb121aa479c96e32c1178d4c65e865ae5cb5144
Author: Rob Pike <r@golang.org>
Date: Mon Aug 19 08:29:43 2013 +1000
cmd/dist: more informative error for mkdtemp failing
The Darwin builders are all failing here but strerror doesn't provide context.
R=golang-dev, bradfitz, adg
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/13095043
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/7fb121aa479c96e32c1178d4c65e865ae5cb5144
元コミット内容
cmd/dist: mkdtempの失敗時により詳細なエラーメッセージを出力
Darwinのビルダがここで全て失敗しているが、strerrorはコンテキストを提供しない。
変更の背景
このコミットは、Go言語のビルドシステムの一部であるcmd/dist
ツールにおいて、一時ディレクトリの作成に失敗した場合のエラーメッセージを改善することを目的としています。コミットメッセージによると、特にmacOS (Darwin) 環境のビルドマシンでmkdtemp
関数が失敗する問題が発生しており、その際に出力されるエラーメッセージが不十分であったことが示唆されています。
従来のfatal("mkdtemp: %s", strerror(errno))
というエラー出力では、mkdtemp
が失敗した際に、その原因を示すシステムエラーメッセージ(strerror(errno)
)のみが表示されていました。しかし、どのパスに対してmkdtemp
が呼び出されたのかという重要なコンテキスト情報が欠落していたため、デバッグが困難でした。
開発者は、mkdtemp
が失敗した具体的なパスを知ることで、問題の特定と解決をより迅速に行えるようになります。例えば、パスの権限問題、ディスク容量不足、無効なパス形式など、様々な原因が考えられますが、パス情報がなければそれらを切り分けることができません。この変更は、ビルドの安定性とデバッグの効率性を向上させるためのものです。
前提知識の解説
1. cmd/dist
cmd/dist
は、Go言語のソースコードからGoツールチェイン自体をビルドするために使用される内部ツールです。Goのビルドプロセスは複雑であり、クロスコンパイルや様々な環境への対応を考慮して設計されています。cmd/dist
は、Goのソースコードをコンパイルし、標準ライブラリを構築し、最終的なGoバイナリ(go
コマンドなど)を生成する一連のタスクをオーケストレーションします。これはGoのブートストラッププロセスにおいて非常に重要な役割を担っています。
2. mkdtemp
関数
mkdtemp
は、Unix系システムで一時的なディレクトリを安全に作成するためのC標準ライブラリ関数です。この関数は、指定されたテンプレート文字列(例: /tmp/myprog-XXXXXX
)に基づいて一意なディレクトリ名を作成し、そのディレクトリを作成します。XXXXXX
の部分は、関数が呼び出されるたびに異なるランダムな文字列に置き換えられ、名前の衝突を防ぎます。成功すると、作成されたディレクトリのパスへのポインタを返します。失敗した場合はNULL
を返し、エラーの原因はグローバル変数errno
に設定されます。
3. errno
とstrerror
errno
:errno
は、C言語の標準ライブラリ関数がシステムコールやライブラリ関数の実行中に発生したエラーを示すために使用するグローバル変数(またはマクロ)です。通常、#include <errno.h>
で利用できます。関数がエラーを返した場合(例:mkdtemp
がNULL
を返した場合)、errno
には特定のエラーコードが設定されます。このエラーコードは、例えばEACCES
(パーミッション拒否)、ENOSPC
(ディスク容量不足)、EINVAL
(無効な引数)など、システムが定義する様々なエラー条件に対応します。strerror
:strerror
関数は、errno
に設定された数値のエラーコードを、人間が読めるエラーメッセージ文字列に変換するために使用されます。例えば、errno
がEACCES
の場合、strerror(errno)
は「Permission denied」のような文字列を返します。これにより、プログラムはユーザーやログに対して、より分かりやすいエラー情報を提供できます。
このコミットの文脈では、strerror(errno)
だけでは、どのパスに対してエラーが発生したのかという情報が不足していたため、デバッグが困難だったという問題が指摘されています。
技術的詳細
このコミットの技術的な変更は非常にシンプルですが、デバッグの観点からは大きな改善をもたらします。
変更前は、mkdtemp
の呼び出しとエラーハンドリングが以下のようになっていました。
if(mkdtemp(bstr(&b)) == nil)
fatal("mkdtemp: %s", strerror(errno));
ここで、bstr(&b)
はmkdtemp
に渡される一時ディレクトリのパス文字列を生成する関数呼び出しです。mkdtemp
がnil
(C言語のNULL
に相当)を返した場合、fatal
関数が呼び出され、エラーメッセージが出力されます。このメッセージは「mkdtemp: 」という固定文字列に続いて、strerror(errno)
が返すシステムエラーメッセージが表示されます。
変更後は、mkdtemp
に渡されるパス文字列を一時変数p
に格納し、そのp
をエラーメッセージに含めるように修正されました。
p = bstr(&b);
if(mkdtemp(p) == nil)
fatal("mkdtemp(%s): %s", p, strerror(errno));
この変更により、fatal
関数に渡されるフォーマット文字列が"mkdtemp(%s): %s"
となり、最初の%s
にはmkdtemp
が試行した具体的なパスp
が、2番目の%s
にはstrerror(errno)
によるシステムエラーメッセージが挿入されるようになりました。
例えば、変更前は「mkdtemp: Permission denied」のようなメッセージだったものが、変更後は「mkdtemp(/var/tmp/go-cbuild-XXXXXX): Permission denied」のようになることで、どのパスの作成に失敗したのかが一目瞭然になります。これは、特にビルド環境のセットアップや権限問題のトラブルシューティングにおいて、非常に価値のある情報となります。
コアとなるコードの変更箇所
変更はsrc/cmd/dist/unix.c
ファイル内のxworkdir
関数にあります。
--- a/src/cmd/dist/unix.c
+++ b/src/cmd/dist/unix.c
@@ -467,8 +467,9 @@ xworkdir(void)
if(b.len == 0)
\tbwritestr(&b, "/var/tmp");
\tbwritestr(&b, "/go-cbuild-XXXXXX");
-\tif(mkdtemp(bstr(&b)) == nil)
-\t\tfatal("mkdtemp: %s", strerror(errno));
+\tp = bstr(&b);\n+\tif(mkdtemp(p) == nil)\n+\t\tfatal("mkdtemp(%s): %s", p, strerror(errno));
\tp = btake(&b);
\tbfree(&b);
コアとなるコードの解説
xworkdir
関数は、Goのビルドプロセス中に使用される一時作業ディレクトリを作成する役割を担っています。
b.len == 0
の条件は、一時ディレクトリのベースパスがまだ設定されていない場合に、デフォルトとして/var/tmp
を使用することを示しています。bwritestr(&b, "/go-cbuild-XXXXXX");
は、一時ディレクトリ名のテンプレートをバッファb
に追加しています。XXXXXX
はmkdtemp
によって一意な文字列に置き換えられます。- 変更点:
- 変更前は、
mkdtemp(bstr(&b))
の戻り値が直接nil
と比較され、エラー時にはfatal("mkdtemp: %s", strerror(errno))
が呼び出されていました。 - 変更後は、まず
p = bstr(&b);
によって、mkdtemp
に渡される完全なパス文字列が変数p
に格納されます。 - 次に、
mkdtemp(p)
が呼び出され、その結果がnil
と比較されます。 - エラーが発生した場合、
fatal("mkdtemp(%s): %s", p, strerror(errno));
が呼び出されます。これにより、エラーメッセージにmkdtemp
が試行した具体的なパスp
が含まれるようになり、デバッグ情報が大幅に強化されます。
- 変更前は、
p = btake(&b);
は、作成された一時ディレクトリのパスをバッファb
から取得し、その所有権を移譲しています。bfree(&b);
は、バッファb
を解放しています。
この変更は、mkdtemp
の呼び出し自体を変更するものではなく、そのエラーハンドリングとメッセージングを改善するものです。これにより、ビルドシステムが一時ディレクトリの作成に失敗した際に、開発者がより迅速に問題の原因を特定できるようになります。
関連リンク
- Go言語の
cmd/dist
に関する公式ドキュメントや詳細な説明は、Goのソースコードリポジトリ内や、Goのビルドプロセスに関する記事で確認できます。 mkdtemp
関数のmanページ (例:man 3 mkdtemp
)strerror
関数のmanページ (例:man 3 strerror
)- Go言語のブートストラッププロセスに関する記事やGoの内部構造に関するブログ記事。
参考にした情報源リンク
- Go言語のGitHubリポジトリ: https://github.com/golang/go
- Goのコードレビューシステム (Gerrit): https://go-review.googlesource.com/ (コミットメッセージに記載されている
https://golang.org/cl/13095043
はこのGerritのリンクです) - Unix/Linuxのmanページ (
mkdtemp
,strerror
,errno
) - C言語の標準ライブラリに関する一般的な知識。
- Go言語のビルドシステムに関する一般的な知識。```
[インデックス 17311] ファイルの概要
コミット
commit 7fb121aa479c96e32c1178d4c65e865ae5cb5144
Author: Rob Pike <r@golang.org>
Date: Mon Aug 19 08:29:43 2013 +1000
cmd/dist: more informative error for mkdtemp failing
The Darwin builders are all failing here but strerror doesn't provide context.
R=golang-dev, bradfitz, adg
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/13095043
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/7fb121aa479c96e32c1178d4c65e865ae5cb5144
元コミット内容
cmd/dist: mkdtempの失敗時により詳細なエラーメッセージを出力
Darwinのビルダがここで全て失敗しているが、strerrorはコンテキストを提供しない。
変更の背景
このコミットは、Go言語のビルドシステムの一部であるcmd/dist
ツールにおいて、一時ディレクトリの作成に失敗した場合のエラーメッセージを改善することを目的としています。コミットメッセージによると、特にmacOS (Darwin) 環境のビルドマシンでmkdtemp
関数が失敗する問題が発生しており、その際に出力されるエラーメッセージが不十分であったことが示唆されています。
従来のfatal("mkdtemp: %s", strerror(errno))
というエラー出力では、mkdtemp
が失敗した際に、その原因を示すシステムエラーメッセージ(strerror(errno)
)のみが表示されていました。しかし、どのパスに対してmkdtemp
が呼び出されたのかという重要なコンテキスト情報が欠落していたため、デバッグが困難でした。
開発者は、mkdtemp
が失敗した具体的なパスを知ることで、問題の特定と解決をより迅速に行えるようになります。例えば、パスの権限問題、ディスク容量不足、無効なパス形式など、様々な原因が考えられますが、パス情報がなければそれらを切り分けることができません。この変更は、ビルドの安定性とデバッグの効率性を向上させるためのものです。
前提知識の解説
1. cmd/dist
cmd/dist
は、Go言語のソースコードからGoツールチェイン自体をビルドするために使用される内部ツールです。Goのビルドプロセスは複雑であり、クロスコンパイルや様々な環境への対応を考慮して設計されています。cmd/dist
は、Goのソースコードをコンパイルし、標準ライブラリを構築し、最終的なGoバイナリ(go
コマンドなど)を生成する一連のタスクをオーケストレーションします。これはGoのブートストラッププロセスにおいて非常に重要な役割を担っています。
2. mkdtemp
関数
mkdtemp
は、Unix系システムで一時的なディレクトリを安全に作成するためのC標準ライブラリ関数です。この関数は、指定されたテンプレート文字列(例: /tmp/myprog-XXXXXX
)に基づいて一意なディレクトリ名を作成し、そのディレクトリを作成します。XXXXXX
の部分は、関数が呼び出されるたびに異なるランダムな文字列に置き換えられ、名前の衝突を防ぎます。成功すると、作成されたディレクトリのパスへのポインタを返します。失敗した場合はNULL
を返し、エラーの原因はグローバル変数errno
に設定されます。
3. errno
とstrerror
errno
:errno
は、C言語の標準ライブラリ関数がシステムコールやライブラリ関数の実行中に発生したエラーを示すために使用するグローバル変数(またはマクロ)です。通常、#include <errno.h>
で利用できます。関数がエラーを返した場合(例:mkdtemp
がNULL
を返した場合)、errno
には特定のエラーコードが設定されます。このエラーコードは、例えばEACCES
(パーミッション拒否)、ENOSPC
(ディスク容量不足)、EINVAL
(無効な引数)など、システムが定義する様々なエラー条件に対応します。strerror
:strerror
関数は、errno
に設定された数値のエラーコードを、人間が読めるエラーメッセージ文字列に変換するために使用されます。例えば、errno
がEACCES
の場合、strerror(errno)
は「Permission denied」のような文字列を返します。これにより、プログラムはユーザーやログに対して、より分かりやすいエラー情報を提供できます。
このコミットの文脈では、strerror(errno)
だけでは、どのパスに対してエラーが発生したのかという情報が不足していたため、デバッグが困難だったという問題が指摘されています。
技術的詳細
このコミットの技術的な変更は非常にシンプルですが、デバッグの観点からは大きな改善をもたらします。
変更前は、mkdtemp
の呼び出しとエラーハンドリングが以下のようになっていました。
if(mkdtemp(bstr(&b)) == nil)
fatal("mkdtemp: %s", strerror(errno));
ここで、bstr(&b)
はmkdtemp
に渡される一時ディレクトリのパス文字列を生成する関数呼び出しです。mkdtemp
がnil
(C言語のNULL
に相当)を返した場合、fatal
関数が呼び出され、エラーメッセージが出力されます。このメッセージは「mkdtemp: 」という固定文字列に続いて、strerror(errno)
が返すシステムエラーメッセージが表示されます。
変更後は、mkdtemp
に渡されるパス文字列を一時変数p
に格納し、そのp
をエラーメッセージに含めるように修正されました。
p = bstr(&b);
if(mkdtemp(p) == nil)
fatal("mkdtemp(%s): %s", p, strerror(errno));
この変更により、fatal
関数に渡されるフォーマット文字列が"mkdtemp(%s): %s"
となり、最初の%s
にはmkdtemp
が試行した具体的なパスp
が、2番目の%s
にはstrerror(errno)
によるシステムエラーメッセージが挿入されるようになりました。
例えば、変更前は「mkdtemp: Permission denied」のようなメッセージだったものが、変更後は「mkdtemp(/var/tmp/go-cbuild-XXXXXX): Permission denied」のようになることで、どのパスの作成に失敗したのかが一目瞭然になります。これは、特にビルド環境のセットアップや権限問題のトラブルシューティングにおいて、非常に価値のある情報となります。
コアとなるコードの変更箇所
変更はsrc/cmd/dist/unix.c
ファイル内のxworkdir
関数にあります。
--- a/src/cmd/dist/unix.c
+++ b/src/cmd/dist/unix.c
@@ -467,8 +467,9 @@ xworkdir(void)
if(b.len == 0)
\tbwritestr(&b, "/var/tmp");
\tbwritestr(&b, "/go-cbuild-XXXXXX");
-\tif(mkdtemp(bstr(&b)) == nil)
-\t\tfatal("mkdtemp: %s", strerror(errno));
+\tp = bstr(&b);\n+\tif(mkdtemp(p) == nil)\n+\t\tfatal("mkdtemp(%s): %s", p, strerror(errno));
\tp = btake(&b);
\tbfree(&b);
コアとなるコードの解説
xworkdir
関数は、Goのビルドプロセス中に使用される一時作業ディレクトリを作成する役割を担っています。
b.len == 0
の条件は、一時ディレクトリのベースパスがまだ設定されていない場合に、デフォルトとして/var/tmp
を使用することを示しています。bwritestr(&b, "/go-cbuild-XXXXXX");
は、一時ディレクトリ名のテンプレートをバッファb
に追加しています。XXXXXX
はmkdtemp
によって一意な文字列に置き換えられます。- 変更点:
- 変更前は、
mkdtemp(bstr(&b))
の戻り値が直接nil
と比較され、エラー時にはfatal("mkdtemp: %s", strerror(errno))
が呼び出されていました。 - 変更後は、まず
p = bstr(&b);
によって、mkdtemp
に渡される完全なパス文字列が変数p
に格納されます。 - 次に、
mkdtemp(p)
が呼び出され、その結果がnil
と比較されます。 - エラーが発生した場合、
fatal("mkdtemp(%s): %s", p, strerror(errno));
が呼び出されます。これにより、エラーメッセージにmkdtemp
が試行した具体的なパスp
が含まれるようになり、デバッグ情報が大幅に強化されます。
- 変更前は、
p = btake(&b);
は、作成された一時ディレクトリのパスをバッファb
から取得し、その所有権を移譲しています。bfree(&b);
は、バッファb
を解放しています。
この変更は、mkdtemp
の呼び出し自体を変更するものではなく、そのエラーハンドリングとメッセージングを改善するものです。これにより、ビルドシステムが一時ディレクトリの作成に失敗した際に、開発者がより迅速に問題の原因を特定できるようになります。
関連リンク
- Go言語の
cmd/dist
に関する公式ドキュメントや詳細な説明は、Goのソースコードリポジトリ内や、Goのビルドプロセスに関する記事で確認できます。 mkdtemp
関数のmanページ (例:man 3 mkdtemp
)strerror
関数のmanページ (例:man 3 strerror
)- Go言語のブートストラッププロセスに関する記事やGoの内部構造に関するブログ記事。
参考にした情報源リンク
- Go言語のGitHubリポジトリ: https://github.com/golang/go
- Goのコードレビューシステム (Gerrit): https://go-review.googlesource.com/ (コミットメッセージに記載されている
https://golang.org/cl/13095043
はこのGerritのリンクです) - Unix/Linuxのmanページ (
mkdtemp
,strerror
,errno
) - C言語の標準ライブラリに関する一般的な知識。
- Go言語のビルドシステムに関する一般的な知識。