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[インデックス 17321] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のテストスイートにおける複数の修正を含んでいます。具体的には、スライス操作に関するテストファイル test/slice3err.go の微細なバグ修正と、構文エラーメッセージを更新するための test/syntax/semi*.go ファイル群の変更が主です。これらの変更は、Goコンパイラが報告するエラーメッセージの精度向上と、特定のコーナーケースにおけるスライス構文の解釈に関する問題を修正することを目的としています。

コミット

commit a8fe176156b02011cc6628cb3602acaa6cb50236
Author: Rob Pike <r@golang.org>
Date:   Mon Aug 19 12:05:33 2013 +1000

    test: fix build
    syntax/*: update messages
    sliceerr3.go: bizarre new error fixed by deleting a space.
    
    I could have sworn I ran all.bash before submitting the CL that triggered these.
    
    TBR=golang-dev@googlegroups.com
    
    R=golang-dev
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/12812044

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/a8fe176156b02011cc6628cb3602acaa6cb50236

元コミット内容

このコミットは、以下の変更を含んでいます。

  • test/slice3err.go: スライス構文のテストファイルにおいて、コメント内のエラーメッセージの記述を修正。具体的には、array[i:j:] の行で、ERROR\"final index required in 3-index slice\" の間の余分なスペースを削除しています。これは、Goのテストフレームワークが期待するエラーメッセージのパターンマッチングに影響を与えていた可能性があります。
  • test/syntax/semi1.go, test/syntax/semi2.go, test/syntax/semi3.go, test/syntax/semi4.go: これらのファイルは、Go言語のセミコロン挿入規則と構文エラーに関するテストです。各ファイルで、期待されるエラーメッセージがより具体的で分かりやすいものに更新されています。例えば、"unexpected semicolon or newline before .?{.?|undefined" のような汎用的なメッセージから、"missing { after if clause""missing { after switch clause""missing { after for clause" のように、どの構文要素の後に { が不足しているかを明確に伝えるメッセージに変更されています。

コミットメッセージには「I could have sworn I ran all.bash before submitting the CL that triggered these.」とあり、以前の変更が原因でこれらの問題が発生したものの、コミット前に all.bash (Goのテストスイート全体を実行するスクリプト) を実行したはずだという、Rob Pike氏のコメントが添えられています。これは、Goのテスト環境やCI/CDパイプラインにおける潜在的な問題を示唆している可能性があります。

変更の背景

このコミットの背景には、Go言語のコンパイラとテストスイートの継続的な改善があります。

  1. エラーメッセージの明確化: プログラミング言語のコンパイラにとって、ユーザーに分かりやすいエラーメッセージを提供することは非常に重要です。特に、構文エラーは初心者にとって混乱を招きやすいため、具体的なエラー箇所と原因を指摘するメッセージは開発効率を大きく向上させます。このコミットでは、ifswitchfor ステートメントにおける { の欠落という一般的な構文エラーに対して、より的確なメッセージを提供するように修正されています。これにより、開発者はエラーの原因を素早く特定し、修正できるようになります。

  2. テストの厳密化とバグ修正: test/slice3err.go の修正は、非常に微細な変更ですが、テストの厳密性を保つ上で重要です。テストコード内のコメントに記述された期待されるエラーメッセージのパターンが、実際のコンパイラ出力と完全に一致しない場合、テストが誤って失敗したり、あるいは本来検出されるべきエラーが見過ごされたりする可能性があります。この「スペース1つの違い」がテストのビルドを壊していたという事実は、Goのテストスイートが非常に厳密にエラーメッセージのパターンマッチングを行っていることを示しています。これは、コンパイラのエラー報告の一貫性と正確性を保証するための重要な側面です。

  3. 開発ワークフローの課題: Rob Pike氏のコメントは、開発者が変更をコミットする前に all.bash を実行していても、特定の条件下で問題が見過ごされる可能性があることを示唆しています。これは、テストカバレッジの限界、特定の環境依存の問題、あるいはテスト実行のタイミングや順序による影響など、CI/CDパイプラインや開発ワークフローにおける潜在的な課題を浮き彫りにしています。このコミットは、これらの問題が実際にビルドを壊した結果として行われた修正であり、Goプロジェクトにおける品質保証のプロセスが継続的に改善されていることを示しています。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下のGo言語の概念とテストに関する知識が必要です。

  1. Go言語のセミコロン挿入規則: Go言語では、C言語やJavaのような明示的なセミコロンの終端記号は通常必要ありません。Goコンパイラは、特定のルールに基づいて自動的にセミコロンを挿入します。この規則は、改行や特定のトークンの後に適用されます。しかし、この自動挿入規則が期待通りに機能しない場合や、開発者が誤った構文を記述した場合に構文エラーが発生します。特に、ifforswitch などの制御構造のブロックを開始する { が欠落している場合、コンパイラはセミコロン挿入規則と組み合わせてエラーを報告します。このコミットは、そのような状況でのエラーメッセージの精度を向上させています。

  2. Go言語のスライス (Slice): スライスはGo言語の強力な機能の一つで、配列の一部を参照する動的なデータ構造です。スライスは [low:high] の形式で作成され、low から high-1 までの要素を含みます。Go 1.2からは、[low:high:capacity] という3インデックススライス構文が導入されました。これは、スライスの長さだけでなく、その基底配列の容量も指定できるものです。この構文を使用する際には、lowhighcapacity の各インデックスが適切に指定されている必要があります。test/slice3err.go は、この3インデックススライス構文の誤用に対するコンパイラのエラー報告をテストしています。

  3. Go言語のテストフレームワーク: Goには標準で testing パッケージが提供されており、ユニットテストやベンチマークテストを簡単に記述できます。テストファイルは通常 _test.go で終わるファイル名を持ち、TestXxx という関数名でテストケースを定義します。Goのテストスイートには、コンパイラが特定のコードに対して特定のエラーを報告することを期待する「エラーテスト」も含まれています。これらのテストでは、コード内の特定の行に // ERROR "expected error message" のようなコメントを記述し、コンパイラがその行で指定されたエラーメッセージを出力するかどうかを検証します。このコミットの変更は、まさにこのエラーテストの期待値(コメント内のエラーメッセージ)を、実際のコンパイラの出力に合わせて修正するものです。

  4. all.bash スクリプト: Goプロジェクトのルートディレクトリにある all.bash (または all.bat for Windows) は、Goのソースコードをビルドし、すべてのテストを実行するためのスクリプトです。これは、Goのリリースプロセスや開発者が変更をコミットする前の最終的な健全性チェックとして非常に重要な役割を果たします。Rob Pike氏のコメントは、このスクリプトの実行が必ずしもすべての問題を捕捉するわけではないという、現実的な課題を示唆しています。

技術的詳細

このコミットの技術的詳細は、Goコンパイラのフロントエンド、特に字句解析器(lexer)と構文解析器(parser)がエラーをどのように報告するか、そしてテストフレームワークがこれらのエラーメッセージをどのように検証するかに関連しています。

  1. エラーメッセージの正規表現マッチング: Goのエラーテストでは、// ERROR "..." の形式で期待されるエラーメッセージを記述します。コンパイラがエラーを報告する際、そのメッセージがこのコメント内の文字列(または正規表現)と一致するかどうかが検証されます。test/slice3err.go の修正は、ERROR と引用符で囲まれたメッセージの間に余分なスペースがあったために、このパターンマッチングが失敗していた可能性を示唆しています。これは、テストフレームワークが非常に厳密な文字列比較を行っていることを意味します。

  2. 構文解析器のエラー回復と報告: test/syntax/semi*.go の変更は、Goコンパイラの構文解析器が、ifswitchfor ステートメントの後に { が欠落している場合に、より正確なエラーメッセージを生成するように改善されたことを示しています。以前は「unexpected semicolon or newline before ...」のような一般的なメッセージだったものが、"missing { after if clause" のように、どの構文要素の後に { が不足しているかを具体的に指摘するようになりました。これは、構文解析器がエラーを検出した際に、より多くのコンテキスト情報を保持し、それをエラーメッセージに反映させるようにロジックが洗練されたことを意味します。このような改善は、コンパイラのデバッグ能力を向上させ、開発者がコードの誤りをより迅速に修正できるようにするために不可欠です。

  3. 3インデックススライスの厳密な構文チェック: test/slice3err.go は、3インデックススライス [low:high:capacity] の構文規則が厳密に適用されることを確認するためのテストです。例えば、array[::]array[i::] のように、highcapacity インデックスが欠落している場合に、コンパイラが適切なエラー(例: "middle index required in 3-index slice", "final index required in 3-index slice")を報告するかどうかを検証しています。このコミットの修正は、このテスト自体が正しく機能するように、期待されるエラーメッセージの記述を微調整したものです。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットでは、以下の5つのファイルが変更されています。

  1. test/slice3err.go
  2. test/syntax/semi1.go
  3. test/syntax/semi2.go
  4. test/syntax/semi3.go
  5. test/syntax/semi4.go

それぞれのファイルの変更は、主にコメント内の期待されるエラーメッセージの文字列修正です。

test/slice3err.go の変更

--- a/test/slice3err.go
+++ b/test/slice3err.go
@@ -20,7 +20,7 @@ func f() {
 	_ = array[::] // ERROR "middle index required in 3-index slice" "final index required in 3-index slice"
 	_ = array[i::] // ERROR "middle index required in 3-index slice" "final index required in 3-index slice"
 	_ = array[:j:] // ERROR "final index required in 3-index slice"
-	_ = array[i:j:] // ERROR  "final index required in 3-index slice"
+	_ = array[i:j:] // ERROR "final index required in 3-index slice"
 	_ = array[::k] // ERROR "middle index required in 3-index slice"
 	_ = array[i::k] // ERROR "middle index required in 3-index slice"
 	_ = array[:j:k]

test/syntax/semi1.go の変更

--- a/test/syntax/semi1.go
+++ b/test/syntax/semi1.go
@@ -7,7 +7,7 @@
 package main
 
 func main() {
-	if x; y		// ERROR "unexpected semicolon or newline before .?{.?|undefined"
+	if x; y		// ERROR "missing { after if clause|undefined"
 	{
 		z	// GCCGO_ERROR "undefined"
 

test/syntax/semi2.go の変更

--- a/test/syntax/semi2.go
+++ b/test/syntax/semi2.go
@@ -7,7 +7,7 @@
 package main
 
 func main() {
-	switch x; y	// ERROR "unexpected semicolon or newline before .?{.?|undefined"
+	switch x; y	// ERROR "missing { after switch clause|undefined"
 	{
 		z
 

test/syntax/semi3.go の変更

--- a/test/syntax/semi3.go
+++ b/test/syntax/semi3.go
@@ -7,7 +7,7 @@
 package main
 
 func main() {
-	for x; y; z	// ERROR "unexpected semicolon or newline before .?{.?|undefined"
+	for x; y; z	// ERROR "missing { after for clause|undefined"
 	{
 		z	// GCCGO_ERROR "undefined"
 

test/syntax/semi4.go の変更

--- a/test/syntax/semi4.go
+++ b/test/syntax/semi4.go
@@ -8,7 +8,7 @@ package main
 
 func main() {
 	for x		// GCCGO_ERROR "undefined"
-	{		// ERROR "unexpected semicolon or newline before .?{.?"
+	{		// ERROR "missing { after for clause"
 		z	// GCCGO_ERROR "undefined"
 
 

コアとなるコードの解説

このコミットにおける「コアとなるコード」は、Go言語のコンパイラ自体ではなく、コンパイラの挙動を検証するためのテストコードです。変更はすべて test/ ディレクトリ内のファイルに対して行われています。

  1. test/slice3err.go:

    • このファイルは、Go 1.2で導入された3インデックススライス構文の誤用に対するコンパイラのエラー報告をテストしています。
    • 変更された行 _ = array[i:j:] // ERROR "final index required in 3-index slice" は、ERROR キーワードとそれに続く期待されるエラーメッセージの間にあった余分なスペースを削除しています。
    • この修正は、Goのテストフレームワークが、テストコード内の // ERROR "..." コメントに記述された文字列と、コンパイラが実際に出力するエラーメッセージを厳密に比較していることを示しています。スペース一つでも異なると、テストが失敗する可能性があります。この修正により、テストが正しくパスし、3インデックススライスの構文エラーが期待通りに報告されることを保証します。
  2. test/syntax/semi*.go (semi1.go, semi2.go, semi3.go, semi4.go):

    • これらのファイルは、Go言語のセミコロン自動挿入規則と、ifswitchfor などの制御構造における構文エラー(特に { の欠落)に対するコンパイラのエラー報告をテストしています。
    • 変更のポイントは、期待されるエラーメッセージが、より具体的で分かりやすいものに更新された点です。
      • if x; y { ... } のような構文で { が欠落している場合、以前は "unexpected semicolon or newline before .?{.?|undefined" のような汎用的なメッセージが期待されていました。
      • これが "missing { after if clause|undefined""missing { after switch clause|undefined""missing { after for clause|undefined" のように、どの制御構造の後に { が不足しているかを明確に指摘するメッセージに変わりました。
    • この変更は、Goコンパイラの開発チームが、ユーザーフレンドリーなエラーメッセージの提供を重視していることを示しています。より具体的なエラーメッセージは、開発者が構文エラーの原因を迅速に特定し、修正するのに役立ちます。これは、Go言語の使いやすさを向上させるための継続的な取り組みの一環です。

これらの変更は、Goコンパイラの内部ロジックそのものを変更するものではなく、コンパイラが生成するエラーメッセージの品質と、それを検証するテストの正確性を向上させるためのものです。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメントおよび仕様書
  • Go言語のソースコード(特に go/src/cmd/compile/internal/syntax および go/src/cmd/compile/internal/gc ディレクトリ)
  • Go言語のテストスイートの慣習に関する情報
  • Go言語のコミット履歴と関連するコードレビュー(CL: Change List)
  • Go言語のコミュニティフォーラムやメーリングリストでの議論(該当するCLの議論など)

[インデックス 17321] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のテストスイートにおける複数の修正を含んでいます。具体的には、スライス操作に関するテストファイル test/slice3err.go の微細なバグ修正と、構文エラーメッセージを更新するための test/syntax/semi*.go ファイル群の変更が主です。これらの変更は、Goコンパイラが報告するエラーメッセージの精度向上と、特定のコーナーケースにおけるスライス構文の解釈に関する問題を修正することを目的としています。

コミット

commit a8fe176156b02011cc6628cb3602acaa6cb50236
Author: Rob Pike <r@golang.org>
Date:   Mon Aug 19 12:05:33 2013 +1000

    test: fix build
    syntax/*: update messages
    sliceerr3.go: bizarre new error fixed by deleting a space.
    
    I could have sworn I ran all.bash before submitting the CL that triggered these.
    
    TBR=golang-dev@googlegroups.com
    
    R=golang-dev
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/12812044

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/a8fe176156b02011cc6628cb3602acaa6cb50236

元コミット内容

このコミットは、以下の変更を含んでいます。

  • test/slice3err.go: スライス構文のテストファイルにおいて、コメント内のエラーメッセージの記述を修正。具体的には、array[i:j:] の行で、ERROR\"final index required in 3-index slice\" の間の余分なスペースを削除しています。これは、Goのテストフレームワークが期待するエラーメッセージのパターンマッチングに影響を与えていた可能性があります。
  • test/syntax/semi1.go, test/syntax/semi2.go, test/syntax/semi3.go, test/syntax/semi4.go: これらのファイルは、Go言語のセミコロン挿入規則と構文エラーに関するテストです。各ファイルで、期待されるエラーメッセージがより具体的で分かりやすいものに更新されています。例えば、"unexpected semicolon or newline before .?{.?|undefined" のような汎用的なメッセージから、"missing { after if clause""missing { after switch clause""missing { after for clause" のように、どの構文要素の後に { が不足しているかを明確に伝えるメッセージに変更されています。

コミットメッセージには「I could have sworn I ran all.bash before submitting the CL that triggered these.」とあり、以前の変更が原因でこれらの問題が発生したものの、コミット前に all.bash (Goのテストスイート全体を実行するスクリプト) を実行したはずだという、Rob Pike氏のコメントが添えられています。これは、Goのテスト環境やCI/CDパイプラインにおける潜在的な問題を示唆している可能性があります。

変更の背景

このコミットの背景には、Go言語のコンパイラとテストスイートの継続的な改善があります。

  1. エラーメッセージの明確化: プログラミング言語のコンパイラにとって、ユーザーに分かりやすいエラーメッセージを提供することは非常に重要です。特に、構文エラーは初心者にとって混乱を招きやすいため、具体的なエラー箇所と原因を指摘するメッセージは開発効率を大きく向上させます。このコミットでは、ifswitchfor ステートメントにおける { の欠落という一般的な構文エラーに対して、より的確なメッセージを提供するように修正されています。これにより、開発者はエラーの原因を素早く特定し、修正できるようになります。

  2. テストの厳密化とバグ修正: test/slice3err.go の修正は、非常に微細な変更ですが、テストの厳密性を保つ上で重要です。テストコード内のコメントに記述された期待されるエラーメッセージのパターンが、実際のコンパイラ出力と完全に一致しない場合、テストが誤って失敗したり、あるいは本来検出されるべきエラーが見過ごされたりする可能性があります。この「スペース1つの違い」がテストのビルドを壊していたという事実は、Goのテストスイートが非常に厳密にエラーメッセージのパターンマッチングを行っていることを示しています。これは、コンパイラのエラー報告の一貫性と正確性を保証するための重要な側面です。

  3. 開発ワークフローの課題: Rob Pike氏のコメントは、開発者が変更をコミットする前に all.bash を実行していても、特定の条件下で問題が見過ごされる可能性があることを示唆しています。これは、テストカバレッジの限界、特定の環境依存の問題、あるいはテスト実行のタイミングや順序による影響など、CI/CDパイプラインや開発ワークフローにおける潜在的な課題を浮き彫りにしています。このコミットは、これらの問題が実際にビルドを壊した結果として行われた修正であり、Goプロジェクトにおける品質保証のプロセスが継続的に改善されていることを示しています。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下のGo言語の概念とテストに関する知識が必要です。

  1. Go言語のセミコロン挿入規則: Go言語では、C言語やJavaのような明示的なセミコロンの終端記号は通常必要ありません。Goコンパイラは、特定のルールに基づいて自動的にセミコロンを挿入します。この規則は、改行や特定のトークンの後に適用されます。しかし、この自動挿入規則が期待通りに機能しない場合や、開発者が誤った構文を記述した場合に構文エラーが発生します。特に、ifforswitch などの制御構造のブロックを開始する { が欠落している場合、コンパイラはセミコロン挿入規則と組み合わせてエラーを報告します。このコミットは、そのような状況でのエラーメッセージの精度を向上させています。

  2. Go言語のスライス (Slice): スライスはGo言語の強力な機能の一つで、配列の一部を参照する動的なデータ構造です。スライスは [low:high] の形式で作成され、low から high-1 までの要素を含みます。Go 1.2からは、[low:high:capacity] という3インデックススライス構文が導入されました。これは、スライスの長さだけでなく、その基底配列の容量も指定できるものです。この構文を使用する際には、lowhighcapacity の各インデックスが適切に指定されている必要があります。test/slice3err.go は、この3インデックススライス構文の誤用に対するコンパイラのエラー報告をテストしています。

  3. Go言語のテストフレームワーク: Goには標準で testing パッケージが提供されており、ユニットテストやベンチマークテストを簡単に記述できます。テストファイルは通常 _test.go で終わるファイル名を持ち、TestXxx という関数名でテストケースを定義します。Goのテストスイートには、コンパイラが特定のコードに対して特定のエラーを報告することを期待する「エラーテスト」も含まれています。これらのテストでは、コード内の特定の行に // ERROR "expected error message" のようなコメントを記述し、コンパイラがその行で指定されたエラーメッセージを出力するかどうかを検証します。このコミットの変更は、まさにこのエラーテストの期待値(コメント内のエラーメッセージ)を、実際のコンパイラの出力に合わせて修正するものです。

  4. all.bash スクリプト: Goプロジェクトのルートディレクトリにある all.bash (または all.bat for Windows) は、Goのソースコードをビルドし、すべてのテストを実行するためのスクリプトです。これは、Goのリリースプロセスや開発者が変更をコミットする前の最終的な健全性チェックとして非常に重要な役割を果たします。Rob Pike氏のコメントは、このスクリプトの実行が必ずしもすべての問題を捕捉するわけではないという、現実的な課題を示唆しています。

技術的詳細

このコミットの技術的詳細は、Goコンパイラのフロントエンド、特に字句解析器(lexer)と構文解析器(parser)がエラーをどのように報告するか、そしてテストフレームワークがこれらのエラーメッセージをどのように検証するかに関連しています。

  1. エラーメッセージの正規表現マッチング: Goのエラーテストでは、// ERROR "..." の形式で期待されるエラーメッセージを記述します。コンパイラがエラーを報告する際、そのメッセージがこのコメント内の文字列(または正規表現)と一致するかどうかが検証されます。test/slice3err.go の修正は、ERROR と引用符で囲まれたメッセージの間に余分なスペースがあったために、このパターンマッチングが失敗していた可能性を示唆しています。これは、テストフレームワークが非常に厳密な文字列比較を行っていることを意味します。

  2. 構文解析器のエラー回復と報告: test/syntax/semi*.go の変更は、Goコンパイラの構文解析器が、ifswitchfor ステートメントの後に { が欠落している場合に、より正確なエラーメッセージを生成するように改善されたことを示しています。以前は「unexpected semicolon or newline before ...」のような一般的なメッセージだったものが、"missing { after if clause" のように、どの構文要素の後に { が不足しているかを具体的に指摘するようになりました。これは、構文解析器がエラーを検出した際に、より多くのコンテキスト情報を保持し、それをエラーメッセージに反映させるようにロジックが洗練されたことを意味します。このような改善は、コンパイラのデバッグ能力を向上させ、開発者がコードの誤りをより迅速に修正できるようにするために不可欠です。

  3. 3インデックススライスの厳密な構文チェック: test/slice3err.go は、3インデックススライス [low:high:capacity] の構文規則が厳密に適用されることを確認するためのテストです。例えば、array[::]array[i::] のように、highcapacity インデックスが欠落している場合に、コンパイラが適切なエラー(例: "middle index required in 3-index slice", "final index required in 3-index slice")を報告するかどうかを検証しています。このコミットの修正は、このテスト自体が正しく機能するように、期待されるエラーメッセージの記述を微調整したものです。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットでは、以下の5つのファイルが変更されています。

  1. test/slice3err.go
  2. test/syntax/semi1.go
  3. test/syntax/semi2.go
  4. test/syntax/semi3.go
  5. test/syntax/semi4.go

それぞれのファイルの変更は、主にコメント内の期待されるエラーメッセージの文字列修正です。

test/slice3err.go の変更

--- a/test/slice3err.go
+++ b/test/slice3err.go
@@ -20,7 +20,7 @@ func f() {
 	_ = array[::] // ERROR "middle index required in 3-index slice" "final index required in 3-index slice"
 	_ = array[i::] // ERROR "middle index required in 3-index slice" "final index required in 3-index slice"
 	_ = array[:j:] // ERROR "final index required in 3-index slice"
-	_ = array[i:j:] // ERROR  "final index required in 3-index slice"
+	_ = array[i:j:] // ERROR "final index required in 3-index slice"
 	_ = array[::k] // ERROR "middle index required in 3-index slice"
 	_ = array[i::k] // ERROR "middle index required in 3-index slice"
 	_ = array[:j:k]

test/syntax/semi1.go の変更

--- a/test/syntax/semi1.go
+++ b/test/syntax/semi1.go
@@ -7,7 +7,7 @@
 package main
 
 func main() {
-	if x; y		// ERROR "unexpected semicolon or newline before .?{.?|undefined"
+	if x; y		// ERROR "missing { after if clause|undefined"
 	{
 		z	// GCCGO_ERROR "undefined"
 

test/syntax/semi2.go の変更

--- a/test/syntax/semi2.go
+++ b/test/syntax/semi2.go
@@ -7,7 +7,7 @@
 package main
 
 func main() {
-	switch x; y	// ERROR "unexpected semicolon or newline before .?{.?|undefined"
+	switch x; y	// ERROR "missing { after switch clause|undefined"
 	{
 		z
 

test/syntax/semi3.go の変更

--- a/test/syntax/semi3.go
+++ b/test/syntax/semi3.go
@@ -7,7 +7,7 @@
 package main
 
 func main() {
-	for x; y; z	// ERROR "unexpected semicolon or newline before .?{.?|undefined"
+	for x; y; z	// ERROR "missing { after for clause|undefined"
 	{
 		z	// GCCGO_ERROR "undefined"
 

test/syntax/semi4.go の変更

--- a/test/syntax/semi4.go
+++ b/test/syntax/semi4.go
@@ -8,7 +8,7 @@ package main
 
 func main() {
 	for x		// GCCGO_ERROR "undefined"
-	{		// ERROR "unexpected semicolon or newline before .?{.?"
+	{		// ERROR "missing { after for clause"
 		z	// GCCGO_ERROR "undefined"
 
 

コアとなるコードの解説

このコミットにおける「コアとなるコード」は、Go言語のコンパイラ自体ではなく、コンパイラの挙動を検証するためのテストコードです。変更はすべて test/ ディレクトリ内のファイルに対して行われています。

  1. test/slice3err.go:

    • このファイルは、Go 1.2で導入された3インデックススライス構文の誤用に対するコンパイラのエラー報告をテストしています。
    • 変更された行 _ = array[i:j:] // ERROR "final index required in 3-index slice" は、ERROR キーワードとそれに続く期待されるエラーメッセージの間にあった余分なスペースを削除しています。
    • この修正は、Goのテストフレームワークが、テストコード内の // ERROR "..." コメントに記述された文字列と、コンパイラが実際に出力するエラーメッセージを厳密に比較していることを示しています。スペース一つでも異なると、テストが失敗する可能性があります。この修正により、テストが正しくパスし、3インデックススライスの構文エラーが期待通りに報告されることを保証します。
  2. test/syntax/semi*.go (semi1.go, semi2.go, semi3.go, semi4.go):

    • これらのファイルは、Go言語のセミコロン自動挿入規則と、ifswitchfor などの制御構造における構文エラー(特に { の欠落)に対するコンパイラのエラー報告をテストしています。
    • 変更のポイントは、期待されるエラーメッセージが、より具体的で分かりやすいものに更新された点です。
      • if x; y { ... } のような構文で { が欠落している場合、以前は "unexpected semicolon or newline before .?{.?|undefined" のような汎用的なメッセージが期待されていました。
      • これが "missing { after if clause|undefined""missing { after switch clause|undefined""missing { after for clause|undefined" のように、どの制御構造の後に { が不足しているかを明確に指摘するメッセージに変わりました。
    • この変更は、Goコンパイラの開発チームが、ユーザーフレンドリーなエラーメッセージの提供を重視していることを示しています。より具体的なエラーメッセージは、開発者が構文エラーの原因を迅速に特定し、修正するのに役立ちます。これは、Go言語の使いやすさを向上させるための継続的な取り組みの一環です。

これらの変更は、Goコンパイラの内部ロジックそのものを変更するものではなく、コンパイラが生成するエラーメッセージの品質と、それを検証するテストの正確性を向上させるためのものです。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメントおよび仕様書
  • Go言語のソースコード(特に go/src/cmd/compile/internal/syntax および go/src/cmd/compile/internal/gc ディレクトリ)
  • Go言語のテストスイートの慣習に関する情報
  • Go言語のコミット履歴と関連するコードレビュー(CL: Change List)
  • Go言語のコミュニティフォーラムやメーリングリストでの議論(該当するCLの議論など)