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[インデックス 17365] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の net パッケージ内のテスト TestVariousDeadlines4Proc がWindows環境、特に windows-386 ビルダーで不安定になる問題を解決するために、タイムアウト時間を延長する変更を加えています。具体的には、Windowsプラットフォームでのみ、テストの待機時間を2秒から5秒に延長することで、テストの信頼性を向上させることを目的としています。

コミット

commit ec9e3e62a1282fb7c9afc0dfd2339511e384b277
Author: Alex Brainman <alex.brainman@gmail.com>
Date:   Fri Aug 23 15:07:42 2013 +1000

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/ec9e3e62a1282fb7c9afc0dfd2339511e384b277

元コミット内容

    net: wait longer before failing TestVariousDeadlines4Proc on windows
    
    This is an attempt to make our slow
    windows-386 builder more reliable.
    
    R=golang-dev, dave
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/12798045

変更の背景

この変更の背景には、Goプロジェクトの継続的インテグレーション(CI)システムにおける特定の環境、特に windows-386 ビルダーの不安定性がありました。CIシステムでは、コードの変更がコミットされるたびに自動的にテストが実行され、問題がないか確認されます。しかし、一部のテストが特定の環境で断続的に失敗する「flaky test(不安定なテスト)」となることがあります。

TestVariousDeadlines4Proc は、ネットワークのタイムアウト処理を検証するテストであり、時間的な要素が絡むため、環境のパフォーマンスやスケジューリングのわずかな違いによって結果が左右されやすい性質を持っています。当時の windows-386 ビルダーは、他の環境と比較して処理が遅い、あるいはリソースの競合が発生しやすいといった特性があったと考えられます。これにより、テストが本来検出したいバグとは関係なく、単に処理が完了するまでに設定されたタイムアウト時間を超えてしまい、テストが失敗するという事態が発生していました。

このような不安定なテストは、開発者が実際のバグとCI環境の問題を区別するのを困難にし、CIの信頼性を低下させます。そのため、テストのロジック自体に問題がない場合、環境固有のパフォーマンス特性に合わせてタイムアウト値を調整することが、テストの信頼性を向上させるための一般的なアプローチとなります。このコミットは、まさにそのアプローチを採用し、Windows環境でのみタイムアウトを延長することで、windows-386 ビルダーの信頼性向上を図ったものです。

前提知識の解説

Go言語の net パッケージ

net パッケージは、Go言語でネットワークプログラミングを行うための基本的な機能を提供します。TCP/IP、UDP、Unixドメインソケットなどのネットワークプロトコルを扱うためのインターフェースや、IPアドレスの解決、ポートのリスニング、接続の確立といった機能が含まれます。このコミットで変更された timeout_test.go は、この net パッケージが提供するネットワーク操作におけるタイムアウト処理が正しく機能するかを検証するためのテストファイルです。

time.Duration

time.Duration は、Go言語の time パッケージで定義されている型で、時間の長さを表します。これは int64 型のナノ秒単位で表現され、time.Secondtime.Millisecond といった定数を使って、人間が読みやすい形で時間を指定できます。例えば、2 * time.Second は2秒間を意味します。ネットワーク操作におけるタイムアウト値の設定など、時間の長さを扱う多くのGoのAPIで利用されます。

runtime.GOOS

runtime.GOOS は、Go言語の runtime パッケージで提供される定数で、プログラムが実行されているオペレーティングシステム(OS)の名前を表す文字列です。例えば、Linuxでは "linux"、macOSでは "darwin"、Windowsでは "windows" となります。この定数を利用することで、OSに依存する処理を条件分岐させ、異なるOSで異なる動作をさせることが可能になります。このコミットでは、Windows環境でのみタイムアウト値を変更するために runtime.GOOS == "windows" という条件が使用されています。

TestVariousDeadlines4Proc

TestVariousDeadlines4Proc は、net パッケージ内のテスト関数の一つで、様々なデッドライン(タイムアウト)設定がネットワーク接続に対して正しく適用されるかを検証します。特に、複数のプロセッサ(4Proc の部分が示唆するように)環境下での並行処理におけるタイムアウトの挙動を確認することを意図していると考えられます。ネットワーク操作はI/O処理であり、OSのスケジューリングやネットワークの状況に影響されやすいため、このようなテストは環境依存の不安定さを露呈しやすい傾向があります。

技術的詳細

このコミットの技術的な詳細は、Go言語のテストフレームワークと、OSごとの挙動の違いを吸収するための条件付きコンパイル(または実行時条件分岐)の利用に集約されます。

TestVariousDeadlines 関数(TestVariousDeadlines4Proc が内部で呼び出す汎用的なテスト関数)では、ネットワーク操作のタイムアウトを検証するために tooLong という変数が定義されています。この変数は、操作がタイムアウトするまでの「長すぎる」と判断される時間を表します。元のコードでは、この tooLong は一律に 2000 * time.Millisecond (2秒) に設定されていました。

しかし、windows-386 ビルダーのような特定の環境では、テストが実行されるマシンのパフォーマンス特性やOSのスケジューリングのオーバーヘッドにより、ネットワーク操作が2秒以内に完了しないことが頻繁に発生していました。これは、テスト対象のコードにバグがあるわけではなく、テスト環境の制約によるものでした。

この問題を解決するため、コミットでは tooLong の値を runtime.GOOS を使って条件分岐させるように変更しました。具体的には、runtime.GOOS == "windows" の場合にのみ tooLong5 * time.Second (5秒) に設定するようにしました。これにより、Windows環境では他のOSよりも長いタイムアウトが許容されるようになり、テストが不必要に失敗するのを防ぎます。

このアプローチは、テストのロバスト性(堅牢性)を高める上で非常に重要です。テストは、コードのバグを検出するために存在しますが、環境の不安定さによって失敗するようでは、その目的を達成できません。OS固有のパフォーマンス特性を考慮してタイムアウト値を調整することは、テストの信頼性を向上させ、開発者がCIのフィードバックをより信頼できるようにするための実用的な解決策です。

コアとなるコードの変更箇所

diff --git a/src/pkg/net/timeout_test.go b/src/pkg/net/timeout_test.go
index 7ea81fe34b..350ec8f7b1 100644
--- a/src/pkg/net/timeout_test.go
+++ b/src/pkg/net/timeout_test.go
@@ -496,7 +496,10 @@ func testVariousDeadlines(t *testing.T, maxProcs int) {
 			clientc <- copyRes{n, err, d}
 		}()
 
-			const tooLong = 2000 * time.Millisecond
+			tooLong := 2 * time.Second
+			if runtime.GOOS == "windows" {
+				tooLong = 5 * time.Second
+			}
 			select {
 			case res := <-clientc:
 				if isTimeout(res.err) {

コアとなるコードの解説

変更は src/pkg/net/timeout_test.go ファイルの testVariousDeadlines 関数内で行われています。

元のコードでは、tooLong という定数が 2000 * time.Millisecond (2秒) として定義されていました。

			const tooLong = 2000 * time.Millisecond

変更後のコードでは、tooLong が定数から変数 tooLong := 2 * time.Second (2秒) として初期化され、その後に if 文による条件分岐が追加されています。

			tooLong := 2 * time.Second
			if runtime.GOOS == "windows" {
				tooLong = 5 * time.Second
			}

この変更により、以下の挙動が実現されます。

  1. 初期値の設定: まず tooLong はデフォルトで2秒に設定されます。これは、Windows以外のOS(Linux, macOSなど)でのテストに適用されるタイムアウト値です。
  2. Windows固有の調整: runtime.GOOS == "windows" という条件式によって、現在の実行環境がWindowsであるかどうかがチェックされます。
  3. タイムアウトの延長: もし実行環境がWindowsであれば、tooLong の値は 5 * time.Second (5秒) に上書きされます。これにより、Windows環境でのみ、ネットワーク操作のタイムアウト判定が5秒に延長されます。

このシンプルな条件分岐によって、Goのテストスイートは、OSごとのパフォーマンス特性の違いを吸収し、特定の環境でのみ発生する不安定なテストの失敗を回避できるようになりました。これは、クロスプラットフォーム開発においてテストの信頼性を維持するための一般的なプラクティスです。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント(nettimeruntime パッケージに関する情報)
  • Go言語のテストに関する一般的な情報
  • 継続的インテグレーション(CI)における不安定なテスト(flaky tests)に関する一般的な情報