[インデックス 1738] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の公式仕様を記述したHTMLドキュメントである doc/go_spec.html
に対する変更です。このファイルは、Go言語の構文、セマンティクス、および組み込み機能に関する規範的な情報を提供します。
コミット
commit 461dd9126c9b8dc6a04b99a878e7cf1e4e1d00ea
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date: Wed Mar 4 14:44:51 2009 -0800
change Go logo to link to home page
fix grammar for forward declaration of interface, struct.
move array down next to slice.
fix type equal example for structs.
R=r,gri
DELTA=247 (122 added, 114 deleted, 11 changed)
OCL=25694
CL=25704
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/461dd9126c9b8dc6a04b99a878e7cf1e4e1d00ea
元コミット内容
change Go logo to link to home page
fix grammar for forward declaration of interface, struct.
move array down next to slice.
fix type equal example for structs.
変更の背景
このコミットは2009年3月に行われており、Go言語が一般に公開される前の非常に初期の段階に当たります。この時期は、Go言語の仕様が活発に議論され、定義され、文書化されていた時期です。したがって、このコミットの目的は、言語仕様ドキュメントの正確性、明確性、および論理的な構成を改善することにありました。
具体的には、以下の点が背景にあります。
- ドキュメントのユーザビリティ向上: Goロゴのリンク先変更は、ドキュメントのナビゲーションとユーザビリティを向上させるための軽微な修正です。
- 言語仕様の厳密化と明確化:
- インターフェースと構造体の前方宣言に関する文法の修正は、言語の型システムにおけるこれらの概念の定義をより厳密にし、曖昧さを排除することを目的としています。初期の言語では、このような定義がまだ固まっていないことがよくあります。
- 構造体の型等価性の例の修正は、Goの型システムがどのように動作するかについて、より正確な情報を提供し、誤解を避けるためのものです。
- ドキュメントの論理的構成の改善: 配列とスライスのセクションの配置変更は、これらがGo言語において密接に関連する概念であるため、ドキュメント内での説明の順序をより論理的にし、読者の理解を助けることを意図しています。スライスは配列の上に構築されるため、配列の直後にスライスを説明する方が自然です。
これらの変更は、Go言語が安定した仕様を持つ言語として確立される過程の一部であり、初期の設計上の決定がドキュメントに反映され、洗練されていく様子を示しています。
前提知識の解説
このコミットの技術的詳細を理解するためには、以下のプログラミングおよびGo言語に関する前提知識が必要です。
- Go言語の基本:
- 型システム: Goは静的型付け言語であり、変数は使用される前に型が宣言されます。
- 配列 (Arrays): 固定長で、同じ型の要素のシーケンスです。Goでは配列の長さも型の一部です。
- スライス (Slices): 配列のセグメントへの参照です。可変長で、Goで最も一般的に使用されるシーケンス型です。スライスは基になる配列を参照し、
len
(長さ)とcap
(容量)を持ちます。 - 構造体 (Structs): 異なる型のフィールドをまとめた複合データ型です。
- インターフェース (Interfaces): メソッドのシグネチャの集合を定義する型です。Goでは、型がインターフェースのすべてのメソッドを実装していれば、そのインターフェースを満たします(暗黙的な実装)。
- 型の完全性 (Type Completeness): Goの型システムにおいて、型が「完全である」とは、その型のサイズやレイアウトがコンパイル時に完全に決定されている状態を指します。不完全な型は、その型の完全な定義がまだ利用できない状態を指します。
- 前方宣言 (Forward Declaration):
- 多くのプログラミング言語において、識別子(変数、関数、型など)が使用される前に宣言されている必要があります。しかし、相互参照する型や関数など、一部の状況では、完全な定義の前に「前方宣言」を行うことで、コンパイラにその識別子が存在することを知らせることができます。Go言語では、型の定義順序が重要ですが、ポインタ型のように、参照先の型が不完全であってもポインタ型自体は完全であるという特性があります。
- HTMLとドキュメント構造:
doc/go_spec.html
がHTMLドキュメントであるため、HTMLの基本的なタグ(h3
,p
,pre
,code
など)と、それらがドキュメントの構造や表示にどのように影響するかを理解していると、変更内容がより明確になります。
技術的詳細
このコミットは、Go言語仕様ドキュメント doc/go_spec.html
の複数のセクションにわたる重要な修正を含んでいます。
-
Goロゴのリンク先変更:
- これはドキュメント自体のナビゲーションに関する変更であり、GoロゴがGo言語の公式ホームページにリンクするように修正されました。具体的なHTMLの変更はdiffには直接示されていませんが、コミットメッセージに明記されています。
-
インターフェースと構造体の前方宣言に関する文法修正:
- Go言語の型定義において、構造体 (
StructType
) とインターフェース (InterfaceType
) の文法定義がより厳密になりました。 - 変更前:
StructType = "struct" [ "{" [ FieldDeclList ] "}" ] . InterfaceType = "interface" [ "{" [ MethodSpecList ] "}" ] .
- 変更後:
StructType = "struct" "{" [ FieldDeclList ] "}" . InterfaceType = "interface" "{" [ MethodSpecList ] "}" .
- この変更は、
[
]
(オプションであることを示す)が削除され、{}
(波括弧)が必須になったことを意味します。これにより、構造体やインターフェースを宣言する際には、たとえフィールドやメソッドがなくても、必ず波括弧を記述する必要があるという文法的な制約が明確化されました。これは、言語の構文解析を簡素化し、曖昧さを排除するための一般的なアプローチです。 - また、
TODO: Need to figure out how forward declarations of interface fit in here.
というコメントが追加されており、この時点ではインターフェースの前方宣言に関する仕様がまだ完全に固まっていなかったことが伺えます。これは、言語設計の初期段階における継続的な検討プロセスを示しています。
- Go言語の型定義において、構造体 (
-
配列とスライスのセクションの移動:
doc/go_spec.html
内で、「Array types」のセクションが「Slice types」のセクションの直前に移動されました。- 変更前: 「Struct types」の後に「Array types」があり、さらにその後に「Slice types」がありました。
- 変更後: 「Array types」が「Slice types」の直前に配置されました。
- この変更は、Go言語における配列とスライスの関係性をより論理的に反映するためのものです。Goのスライスは、基となる配列のセグメントを参照する概念であり、配列の上に構築されます。したがって、配列の概念を先に説明し、その後にスライスを説明する方が、読者の理解を深める上で自然な流れとなります。
-
構造体の型等価性例の修正:
- Go言語の型等価性に関するセクションで、構造体の型等価性を示す例が修正されました。
- 変更前:
が等しい型としてリストされていました。T2 and T3
- 変更後:
は等しくない型として明示され、その理由が説明されました。T2 and T3
<code>T2</code> and <code>T3</code> are not equal because they have different field names.
- これは、Goの構造体の型等価性ルールが、フィールドの型だけでなく、フィールド名も考慮することを明確にするための重要な修正です。つまり、2つの構造体型が等しいと見なされるためには、フィールドの順序、型、そして名前がすべて一致している必要があります。この修正により、Goの型システムの厳密な性質が強調され、開発者が型等価性を正しく理解できるようになります。
これらの変更は、Go言語の仕様が初期段階でいかに慎重に定義され、その明確性と正確性が重視されていたかを示しています。
コアとなるコードの変更箇所
doc/go_spec.html
ファイルに対する変更の主要な部分は以下の通りです。
-
配列とスライスのセクションの移動:
<h3>Array types</h3>
で始まる配列の定義と、<h3>Slice types</h3>
で始まるスライスの定義のHTMLブロック全体が、ファイル内で移動しています。具体的には、以前は構造体 (Struct types
) の後に配列があり、その後にスライスがありましたが、このコミットで配列のセクションがスライスのセクションの直前に移動しました。
-
構造体とインターフェースの文法定義の修正:
StructType
の文法定義が変更されました。-StructType = "struct" [ "{" [ FieldDeclList ] "}" ] . +StructType = "struct" "{" [ FieldDeclList ] "}" .
InterfaceType
の文法定義が変更されました。-InterfaceType = "interface" [ "{" [ MethodSpecList ] "}" ] . +InterfaceType = "interface" "{" [ MethodSpecList ] "}" .
- これらの変更により、
struct
やinterface
の宣言において、波括弧{}
が必須となりました。
-
構造体の型等価性例の修正:
Type equality
セクションの例が修正されました。
そして、-T2 and T3 +T3 and struct { a int; c int }
T2
とT3
が等しくない理由が明記されました。
これは、+<code>T2</code> and <code>T3</code> are not equal because +they have different field names.
T2
とT3
の例が以前は等しいとされていたが、実際にはフィールド名が異なるため等しくないという修正です。
-
前方宣言に関するTODOコメントの追加:
Types
セクションのCompleteType
の説明の近くに、インターフェースの前方宣言に関するTODOコメントが追加されました。+(TODO: Need to figure out how forward declarations of +interface fit in here.)
コアとなるコードの解説
これらの変更は、Go言語の仕様の正確性と明確性を高める上で非常に重要です。
-
配列とスライスのセクションの移動:
- この変更は、Goのデータ構造の概念をより直感的に理解させるためのドキュメント構造の改善です。スライスは配列の上に構築されるため、配列の定義を先に置くことで、スライスの説明がより自然に、そして理解しやすくなります。これは、言語の設計思想(スライスがGoにおける主要なシーケンス型であること)をドキュメントの構成に反映させたものです。
-
構造体とインターフェースの文法定義の修正:
[ "{" ... "}" ]
から"{" ... "}"
への変更は、構造体やインターフェースの宣言において、たとえフィールドやメソッドが空であっても、波括弧{}
の記述が必須であることを意味します。例えば、struct {}
やinterface {}
のように記述する必要があります。この文法的な厳密化は、パーサーの実装を簡素化し、言語の構文解析における曖昧さを排除するのに役立ちます。これは、言語の初期段階で構文の安定性を確保するための典型的な調整です。
-
構造体の型等価性例の修正:
- この修正は、Goの型システムにおける構造体の等価性ルールに関する重要な明確化です。Goでは、2つの構造体型が等しいと見なされるためには、それらのフィールドが同じ順序で、同じ型を持ち、かつ同じ名前を持つ必要があります。以前の例では、フィールドの型が同じであれば名前が異なっていても等しいと誤解される可能性がありましたが、この修正により、フィールド名も等価性の判断基準に含まれることが明確になりました。これは、Goの型システムが構造体の「構造」だけでなく、「意味論」も考慮していることを示唆しています。
-
前方宣言に関するTODOコメントの追加:
- このコメントは、Go言語の設計チームが、インターフェースの前方宣言(特に再帰的なインターフェース定義など)が型システムにどのように適合するかについて、まだ検討中であったことを示しています。これは、言語の初期開発段階における未解決の設計課題や、将来の仕様改訂の可能性を示唆するものです。
全体として、このコミットは、Go言語の仕様が初期段階でいかに詳細に検討され、その正確性、一貫性、および明確性が重視されていたかを示す良い例です。
関連リンク
- Go言語公式サイト: https://go.dev/
- Go言語仕様 (現在のバージョン): https://go.dev/ref/spec
参考にした情報源リンク
- Go言語の歴史に関する情報 (Go公式サイトや関連ブログ記事など)
- Go言語の型システムに関する一般的な解説
- HTMLの文法とドキュメント構造に関する一般的な知識