[インデックス 17386] ファイルの概要
このコミットは、cmd/api
ツールが一時ファイルを扱う際の堅牢性を向上させるためのものです。特に macOS (OS X) のように、オペレーティングシステムが一時ファイルを自動的に削除する挙動に対して、go.tools
ディレクトリのチェックアウトが破損していないかをより確実に検証するメカニズムを導入しています。これにより、開発者が遭遇していた一時ファイル関連の問題を解決しています。
コミット
e7b125fc65695e22e33da1f6bc5bec7efae2bf65
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/e7b125fc65695e22e33da1f6bc5bec7efae2bf65
元コミット内容
cmd/api: be more robust against OS deleting temp files
OS X in particular deletes tmp files (but not directories)
pretty reliably.
Ask hg whether the go.tools directory in tmp is good before
using it.
Fixes issue Rob and others were reporting, which I just hit
myself now.
R=golang-dev, r
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/13084049
変更の背景
この変更の背景には、cmd/api
ツールが依存する go.tools
ディレクトリの管理における問題がありました。cmd/api
は、Go の API 定義を生成・検証するためのツールであり、その過程で一時的な作業ディレクトリに go.tools
リポジトリをクローンして利用します。
しかし、特定のオペレーティングシステム、特に macOS (当時の OS X) は、システムが管理する一時ディレクトリ内のファイルを定期的に削除する挙動を持っていました。この削除はディレクトリ自体ではなく、その中のファイルに対して行われることが多く、結果として go.tools
のクローンが不完全な状態になったり、一部のファイルが失われたりする可能性がありました。
このような状況が発生すると、cmd/api
ツールは破損した go.tools
ディレクトリを使用しようとし、予期せぬエラーやクラッシュを引き起こしていました。コミットメッセージにあるように、Rob などの複数のユーザーがこの問題を報告しており、コミットの作者自身もこの問題に遭遇したことから、その解決が急務と判断されました。
このコミットは、go.tools
ディレクトリが使用可能であるかをより厳密にチェックすることで、OS による一時ファイルの削除に起因する問題を回避し、cmd/api
の堅牢性と信頼性を向上させることを目的としています。
前提知識の解説
cmd/api
: Go の標準ライブラリの API 定義を生成・検証するために使用されるツールです。Go のリリースプロセスの一部として、API の互換性を保証するために重要な役割を果たします。このツールは、Go のソースコードリポジトリ内のgo.tools
というサブモジュールに依存しています。GOPATH
: Go 言語のワークスペースの概念です。Go 1.11 以前では、Go のソースコード、パッケージ、実行可能ファイルが配置されるルートディレクトリを指定するために使用されました。cmd/api
のようなツールは、内部的に一時的なGOPATH
環境を構築して作業を行うことがあります。- 一時ファイル/ディレクトリ: プログラムが一時的にデータを保存するために作成するファイルやディレクトリです。通常、処理が完了すると削除されることが期待されます。オペレーティングシステムによっては、ディスクスペースの管理やセキュリティのために、特定の一時ディレクトリ内のファイルを自動的にクリーンアップするメカニズムを持っています。macOS の
/tmp
や/private/var/folders
などがこれに該当します。 - Mercurial (
hg
): 分散型バージョン管理システムの一つです。Git と同様に、コードの変更履歴を管理するために使用されます。Go プロジェクトの初期段階では、Mercurial が主要なバージョン管理システムとして使用されており、go.tools
リポジトリも Mercurial で管理されていました。このコミットでは、Mercurial のコマンド (hg id
,hg status
) を利用して、クローンされたリポジトリの状態を検証しています。hg id --id
: 現在の作業ディレクトリのリビジョンID(コミットハッシュ)を表示します。hg status
: 作業ディレクトリ内の変更されたファイル、追加されたファイル、削除されたファイルなどを表示します。何も変更がない場合は何も出力しません。
os.Stat
: Go 言語の標準ライブラリos
パッケージの関数で、指定されたパスのファイルまたはディレクトリの情報を取得します。ファイルやディレクトリが存在しない場合はエラーを返します。os.RemoveAll
: Go 言語の標準ライブラリos
パッケージの関数で、指定されたパスのファイルまたはディレクトリとその内容をすべて削除します。
技術的詳細
このコミットの主要な技術的変更は、prepGoPath
関数内で go.tools
ディレクトリの健全性を確認するための新しいヘルパー関数 goToolsCheckoutGood
が導入されたことです。
以前の prepGoPath
関数では、go.tools
ディレクトリが存在し、かつそれがディレクトリであれば、そのまま使用していました。しかし、OS による一時ファイルの削除によって、ディレクトリは存在しても中身が破損している可能性があるため、このチェックだけでは不十分でした。
新しいアプローチでは、goToolsCheckoutGood(finalDir)
関数を呼び出して、finalDir
(つまり go.tools
ディレクトリ) が本当に使用可能な状態であるかを厳密に検証します。
goToolsCheckoutGood
関数は以下の3つのチェックを行います。
- ディレクトリの存在確認:
os.Stat(dir)
を使用して、指定されたdir
が存在するかどうかを確認します。存在しない場合はfalse
を返します。 - Mercurial リビジョンIDの確認:
hg id --id
コマンドをdir
内で実行し、現在のリビジョンIDを取得します。- 取得したリビジョンIDが、
go.tools
の期待されるバージョン (goToolsVersion
という定数で定義されていると推測される) と一致するかを確認します。一致しない場合はfalse
を返します。これは、誤ったバージョンのgo.tools
がクローンされている場合や、クローンが途中で中断された場合に検出できます。
- Mercurial 作業ディレクトリのクリーン状態確認:
hg status
コマンドをdir
内で実行します。hg status
の出力が空であること (len(out) > 0
でないこと) を確認します。出力がある場合、それは作業ディレクトリに未コミットの変更や追跡されていないファイルが存在することを示し、クローンが不完全であるか、何らかの理由で変更が加えられていることを意味するため、false
を返します。
これらのチェックのいずれかが失敗した場合、goToolsCheckoutGood
は false
を返し、prepGoPath
関数は go.tools
ディレクトリが破損していると判断します。
goToolsCheckoutGood
が false
を返した場合、または最初のチェックで go.tools
ディレクトリが存在しない場合、prepGoPath
は以下のクリーンアップ処理を実行します。
os.RemoveAll(finalDir)
: 破損している可能性のあるgo.tools
ディレクトリを完全に削除します。os.RemoveAll(tmpDir)
: 一時的なクローン作業ディレクトリも削除します。これは、以前のhg clone
が中断された場合などに残されたゴミをクリーンアップするためです。
これらのクリーンアップの後、prepGoPath
は go.tools
リポジトリを最初からクリーンな状態で再クローンする処理に進みます。これにより、OS による一時ファイルの削除やその他の要因で go.tools
ディレクトリが破損しても、cmd/api
が常に健全な環境で動作することが保証されます。
コアとなるコードの変更箇所
diff --git a/src/cmd/api/run.go b/src/cmd/api/run.go
index a13d9a5496..067be4eb05 100644
--- a/src/cmd/api/run.go
+++ b/src/cmd/api/run.go
@@ -110,12 +110,13 @@ func prepGoPath() string {
tmpDir := filepath.Join(cloneDir, tempBase)
// finalDir is where the checkout will live once it's complete.
- // If this exists already, we're done.
finalDir := filepath.Join(cloneDir, "go.tools")
- if fi, err := os.Stat(finalDir); err == nil && fi.IsDir() {
+ if goToolsCheckoutGood(finalDir) {
return gopath
}
+ os.RemoveAll(finalDir) // in case it's there but corrupt
+ os.RemoveAll(tmpDir) // in case of aborted hg clone before
if err := os.MkdirAll(cloneDir, 0700); err != nil {
log.Fatal(err)
@@ -138,3 +139,29 @@ func prepGoPath() string {
}\n return gopath
}\n+\n+func goToolsCheckoutGood(dir string) bool {\n+\tif _, err := os.Stat(dir); err != nil {\n+\t\treturn false\n+\t}\n+\n+\tcmd := exec.Command(\"hg\", \"id\", \"--id\")\n+\tcmd.Dir = dir\n+\tout, err := cmd.Output()\n+\tif err != nil {\n+\t\treturn false\n+\t}\n+\tid := strings.TrimSpace(string(out))\n+\tif id != goToolsVersion {\n+\t\treturn false\n+\t}\n+\n+\tcmd = exec.Command(\"hg\", \"status\")\n+\tcmd.Dir = dir\n+\tout, err = cmd.Output()\n+\tif err != nil || len(out) > 0 {\n+\t\treturn false\n+\t}\n+\n+\treturn true\n+}\n```
## コアとなるコードの解説
変更は `src/cmd/api/run.go` ファイルに集中しています。
1. **`prepGoPath` 関数の変更**:
* 以前は `os.Stat(finalDir)` で `go.tools` ディレクトリの存在とそれがディレクトリであることを確認するだけでした。
* 変更後、このチェックは `goToolsCheckoutGood(finalDir)` という新しい関数呼び出しに置き換えられました。この関数が `true` を返した場合のみ、既存の `go.tools` ディレクトリが使用されます。
* `goToolsCheckoutGood(finalDir)` が `false` を返した場合(つまり、`go.tools` ディレクトリが破損しているか、存在しない場合)、以下のクリーンアップ処理が追加されました。
* `os.RemoveAll(finalDir)`: 既存の `go.tools` ディレクトリを強制的に削除します。コメントには「破損している可能性がある場合」とあります。
* `os.RemoveAll(tmpDir)`: 一時的なクローンディレクトリも削除します。コメントには「中断された `hg clone` の場合」とあります。
* これらのクリーンアップにより、常にクリーンな状態から `go.tools` のクローンが試みられるようになります。
2. **`goToolsCheckoutGood` 関数の追加**:
この新しい関数は、指定されたディレクトリ `dir` が健全な `go.tools` のチェックアウトであるかを検証します。
* **`if _, err := os.Stat(dir); err != nil { return false }`**:
* まず、`dir` が存在するかどうかを `os.Stat` で確認します。存在しない場合やアクセスできない場合はエラーとなり、`false` を返します。これは基本的な存在チェックです。
* **`cmd := exec.Command("hg", "id", "--id")`**:
* Mercurial コマンド `hg id --id` を実行するための `exec.Command` オブジェクトを作成します。このコマンドは、現在のリポジトリの短いリビジョンID(コミットハッシュ)を返します。
* `cmd.Dir = dir`: コマンドの実行ディレクトリを `dir` に設定します。これにより、指定された `go.tools` ディレクトリ内で Mercurial コマンドが実行されます。
* `out, err := cmd.Output()`: コマンドを実行し、その標準出力を `out` に、エラーを `err` に格納します。
* `if err != nil { return false }`: コマンドの実行に失敗した場合(例: `hg` コマンドが見つからない、`dir` が Mercurial リポジトリではないなど)は `false` を返します。
* `id := strings.TrimSpace(string(out))`: 取得した出力(バイトスライス)を文字列に変換し、前後の空白を削除してリビジョンIDを取得します。
* `if id != goToolsVersion { return false }`: 取得したリビジョンIDが、期待される `goToolsVersion` と一致するかを検証します。`goToolsVersion` は、`cmd/api` が依存する `go.tools` の特定のコミットハッシュを表す定数であると推測されます。これにより、正しいバージョンの `go.tools` がクローンされていることを保証します。
* **`cmd = exec.Command("hg", "status")`**:
* 次に、Mercurial コマンド `hg status` を実行するための `exec.Command` オブジェクトを作成します。このコマンドは、作業ディレクトリ内の変更されたファイルや追跡されていないファイルを表示します。
* `cmd.Dir = dir`: 同様に、実行ディレクトリを `dir` に設定します。
* `out, err = cmd.Output()`: コマンドを実行し、出力を取得します。
* `if err != nil || len(out) > 0 { return false }`:
* コマンドの実行に失敗した場合、または `hg status` の出力が空でない場合(つまり、作業ディレクトリに未コミットの変更や追跡されていないファイルが存在する場合)は `false` を返します。
* `len(out) > 0` のチェックは非常に重要で、これによりクローンが完全に完了し、かつ OS による削除などでファイルが失われていない(Mercurial がそれを「変更」として検出しない)ことを間接的に確認します。
* **`return true`**: 上記のすべてのチェックを通過した場合、`go.tools` ディレクトリは健全であると判断され、`true` が返されます。
この一連の変更により、`cmd/api` は一時ディレクトリ内の `go.tools` の状態をより厳密に検証し、破損した状態での使用を避け、必要に応じてクリーンな再クローンを行うことで、ツールの安定性と信頼性を大幅に向上させています。
## 関連リンク
* Go CL 13084049: [https://golang.org/cl/13084049](https://golang.org/cl/13084049)
## 参考にした情報源リンク
* Mercurial 公式ドキュメント: `hg id` および `hg status` コマンドに関する情報
* Go 言語 `os` パッケージのドキュメント: `os.Stat`, `os.RemoveAll`
* Go 言語 `os/exec` パッケージのドキュメント: `exec.Command`
* Go 言語 `strings` パッケージのドキュメント: `strings.TrimSpace`
* macOS (OS X) の一時ファイル管理に関する一般的な情報 (`/tmp` ディレクトリの挙動など)
# [インデックス 17386] ファイルの概要
このコミットは、`cmd/api` ツールが一時ファイルを扱う際の堅牢性を向上させるためのものです。特に macOS (OS X) のように、オペレーティングシステムが一時ファイルを自動的に削除する挙動に対して、`go.tools` ディレクトリのチェックアウトが破損していないかをより確実に検証するメカニズムを導入しています。これにより、開発者が遭遇していた一時ファイル関連の問題を解決しています。
## コミット
e7b125fc65695e22e33da1f6bc5bec7efae2bf65
## GitHub上でのコミットページへのリンク
[https://github.com/golang/go/commit/e7b125fc65695e22e33da1f6bc5bec7efae2bf65](https://github.com/golang/go/commit/e7b125fc65695e22e33da1f6bc5bec7efae2bf65)
## 元コミット内容
cmd/api: be more robust against OS deleting temp files
OS X in particular deletes tmp files (but not directories) pretty reliably.
Ask hg whether the go.tools directory in tmp is good before using it.
Fixes issue Rob and others were reporting, which I just hit myself now.
R=golang-dev, r CC=golang-dev https://golang.org/cl/13084049
## 変更の背景
この変更の背景には、`cmd/api` ツールが依存する `go.tools` ディレクトリの管理における問題がありました。`cmd/api` は、Go の API 定義を生成・検証するためのツールであり、その過程で一時的な作業ディレクトリに `go.tools` リポジトリをクローンして利用します。
しかし、特定のオペレーティングシステム、特に macOS (当時の OS X) は、システムが管理する一時ディレクトリ内のファイルを定期的に削除する挙動を持っていました。この削除はディレクトリ自体ではなく、その中のファイルに対して行われることが多く、結果として `go.tools` のクローンが不完全な状態になったり、一部のファイルが失われたりする可能性がありました。
このような状況が発生すると、`cmd/api` ツールは破損した `go.tools` ディレクトリを使用しようとし、予期せぬエラーやクラッシュを引き起こしていました。コミットメッセージにあるように、Rob などの複数のユーザーがこの問題を報告しており、コミットの作者自身もこの問題に遭遇したことから、その解決が急務と判断されました。
このコミットは、`go.tools` ディレクトリが使用可能であるかをより厳密にチェックすることで、OS による一時ファイルの削除に起因する問題を回避し、`cmd/api` の堅牢性と信頼性を向上させることを目的としています。
## 前提知識の解説
* **`cmd/api`**: Go の標準ライブラリの API 定義を生成・検証するために使用されるツールです。Go のリリースプロセスの一部として、API の互換性を保証するために重要な役割を果たします。このツールは、Go のソースコードリポジトリ内の `go.tools` というサブモジュールに依存しています。
* **`GOPATH`**: Go 言語のワークスペースの概念です。Go 1.11 以前では、Go のソースコード、パッケージ、実行可能ファイルが配置されるルートディレクトリを指定するために使用されました。`cmd/api` のようなツールは、内部的に一時的な `GOPATH` 環境を構築して作業を行うことがあります。
* **一時ファイル/ディレクトリ**: プログラムが一時的にデータを保存するために作成するファイルやディレクトリです。通常、処理が完了すると削除されることが期待されます。オペレーティングシステムによっては、ディスクスペースの管理やセキュリティのために、特定の一時ディレクトリ内のファイルを自動的にクリーンアップするメカニズムを持っています。macOS の `/tmp` や `/private/var/folders` などがこれに該当します。
* **Mercurial (`hg`)**: 分散型バージョン管理システムの一つです。Git と同様に、コードの変更履歴を管理するために使用されます。Go プロジェクトの初期段階では、Mercurial が主要なバージョン管理システムとして使用されており、`go.tools` リポジトリも Mercurial で管理されていました。このコミットでは、Mercurial のコマンド (`hg id`, `hg status`) を利用して、クローンされたリポジトリの状態を検証しています。
* `hg id --id`: 現在の作業ディレクトリのリビジョンID(コミットハッシュ)を表示します。
* `hg status`: 作業ディレクトリ内の変更されたファイル、追加されたファイル、削除されたファイルなどを表示します。何も変更がない場合は何も出力しません。
* **`os.Stat`**: Go 言語の標準ライブラリ `os` パッケージの関数で、指定されたパスのファイルまたはディレクトリの情報を取得します。ファイルやディレクトリが存在しない場合はエラーを返します。
* **`os.RemoveAll`**: Go 言語の標準ライブラリ `os` パッケージの関数で、指定されたパスのファイルまたはディレクトリとその内容をすべて削除します。
## 技術的詳細
このコミットの主要な技術的変更は、`prepGoPath` 関数内で `go.tools` ディレクトリの健全性を確認するための新しいヘルパー関数 `goToolsCheckoutGood` が導入されたことです。
以前の `prepGoPath` 関数では、`go.tools` ディレクトリが存在し、かつそれがディレクトリであれば、そのまま使用していました。しかし、OS による一時ファイルの削除によって、ディレクトリは存在しても中身が破損している可能性があるため、このチェックだけでは不十分でした。
新しいアプローチでは、`goToolsCheckoutGood(finalDir)` 関数を呼び出して、`finalDir` (つまり `go.tools` ディレクトリ) が本当に使用可能な状態であるかを厳密に検証します。
`goToolsCheckoutGood` 関数は以下の3つのチェックを行います。
1. **ディレクトリの存在確認**: `os.Stat(dir)` を使用して、指定された `dir` が存在するかどうかを確認します。存在しない場合は `false` を返します。
2. **Mercurial リビジョンIDの確認**:
* `hg id --id` コマンドを `dir` 内で実行し、現在のリビジョンIDを取得します。
* 取得したリビジョンIDが、`go.tools` の期待されるバージョン (`goToolsVersion` という定数で定義されていると推測される) と一致するかを確認します。一致しない場合は `false` を返します。これは、誤ったバージョンの `go.tools` がクローンされている場合や、クローンが途中で中断された場合に検出できます。
3. **Mercurial 作業ディレクトリのクリーン状態確認**:
* `hg status` コマンドを `dir` 内で実行します。
* `hg status` の出力が空であること (`len(out) > 0` でないこと) を確認します。出力がある場合、それは作業ディレクトリに未コミットの変更や追跡されていないファイルが存在することを示し、クローンが不完全であるか、何らかの理由で変更が加えられていることを意味するため、`false` を返します。
これらのチェックのいずれかが失敗した場合、`goToolsCheckoutGood` は `false` を返し、`prepGoPath` 関数は `go.tools` ディレクトリが破損していると判断します。
`goToolsCheckoutGood` が `false` を返した場合、または最初のチェックで `go.tools` ディレクトリが存在しない場合、`prepGoPath` は以下のクリーンアップ処理を実行します。
* `os.RemoveAll(finalDir)`: 破損している可能性のある `go.tools` ディレクトリを完全に削除します。
* `os.RemoveAll(tmpDir)`: 一時的なクローン作業ディレクトリも削除します。これは、以前の `hg clone` が中断された場合などに残されたゴミをクリーンアップするためです。
これらのクリーンアップの後、`prepGoPath` は `go.tools` リポジトリを最初からクリーンな状態で再クローンする処理に進みます。これにより、OS による一時ファイルの削除やその他の要因で `go.tools` ディレクトリが破損しても、`cmd/api` が常に健全な環境で動作することが保証されます。
## コアとなるコードの変更箇所
```diff
diff --git a/src/cmd/api/run.go b/src/cmd/api/run.go
index a13d9a5496..067be4eb05 100644
--- a/src/cmd/api/run.go
+++ b/src/cmd/api/run.go
@@ -110,12 +110,13 @@ func prepGoPath() string {
tmpDir := filepath.Join(cloneDir, tempBase)
// finalDir is where the checkout will live once it's complete.
- // If this exists already, we're done.
finalDir := filepath.Join(cloneDir, "go.tools")
- if fi, err := os.Stat(finalDir); err == nil && fi.IsDir() {
+ if goToolsCheckoutGood(finalDir) {
return gopath
}
+ os.RemoveAll(finalDir) // in case it's there but corrupt
+ os.RemoveAll(tmpDir) // in case of aborted hg clone before
if err := os.MkdirAll(cloneDir, 0700); err != nil {
log.Fatal(err)
@@ -138,3 +139,29 @@ func prepGoPath() string {
}\n return gopath
}\n+\n+func goToolsCheckoutGood(dir string) bool {\n+\tif _, err := os.Stat(dir); err != nil {\n+\t\treturn false\n+\t}\n+\n+\tcmd := exec.Command(\"hg\", \"id\", \"--id\")\n+\tcmd.Dir = dir\n+\tout, err := cmd.Output()\n+\tif err != nil {\n+\t\treturn false\n+\t}\n+\tid := strings.TrimSpace(string(out))\n+\tif id != goToolsVersion {\n+\t\treturn false\n+\t}\n+\n+\tcmd = exec.Command(\"hg\", \"status\")\n+\tcmd.Dir = dir\n+\tout, err = cmd.Output()\n+\tif err != nil || len(out) > 0 {\n+\t\treturn false\n+\t}\n+\n+\treturn true\n+}\n```
## コアとなるコードの解説
変更は `src/cmd/api/run.go` ファイルに集中しています。
1. **`prepGoPath` 関数の変更**:
* 以前は `os.Stat(finalDir)` で `go.tools` ディレクトリの存在とそれがディレクトリであることを確認するだけでした。
* 変更後、このチェックは `goToolsCheckoutGood(finalDir)` という新しい関数呼び出しに置き換えられました。この関数が `true` を返した場合のみ、既存の `go.tools` ディレクトリが使用されます。
* `goToolsCheckoutGood(finalDir)` が `false` を返した場合(つまり、`go.tools` ディレクトリが破損しているか、存在しない場合)、以下のクリーンアップ処理が追加されました。
* `os.RemoveAll(finalDir)`: 既存の `go.tools` ディレクトリを強制的に削除します。コメントには「破損している可能性がある場合」とあります。
* `os.RemoveAll(tmpDir)`: 一時的なクローンディレクトリも削除します。コメントには「中断された `hg clone` の場合」とあります。
* これらのクリーンアップにより、常にクリーンな状態から `go.tools` のクローンが試みられるようになります。
2. **`goToolsCheckoutGood` 関数の追加**:
この新しい関数は、指定されたディレクトリ `dir` が健全な `go.tools` のチェックアウトであるかを検証します。
* **`if _, err := os.Stat(dir); err != nil { return false }`**:
* まず、`dir` が存在するかどうかを `os.Stat` で確認します。存在しない場合やアクセスできない場合はエラーとなり、`false` を返します。これは基本的な存在チェックです。
* **`cmd := exec.Command("hg", "id", "--id")`**:
* Mercurial コマンド `hg id --id` を実行するための `exec.Command` オブジェクトを作成します。このコマンドは、現在のリポジトリの短いリビジョンID(コミットハッシュ)を返します。
* `cmd.Dir = dir`: コマンドの実行ディレクトリを `dir` に設定します。これにより、指定された `go.tools` ディレクトリ内で Mercurial コマンドが実行されます。
* `out, err := cmd.Output()`: コマンドを実行し、その標準出力を `out` に、エラーを `err` に格納します。
* `if err != nil { return false }`: コマンドの実行に失敗した場合(例: `hg` コマンドが見つからない、`dir` が Mercurial リポジトリではないなど)は `false` を返します。
* `id := strings.TrimSpace(string(out))`: 取得した出力(バイトスライス)を文字列に変換し、前後の空白を削除してリビジョンIDを取得します。
* `if id != goToolsVersion { return false }`: 取得したリビジョンIDが、期待される `goToolsVersion` と一致するかを検証します。`goToolsVersion` は、`cmd/api` が依存する `go.tools` の特定のコミットハッシュを表す定数であると推測されます。これにより、正しいバージョンの `go.tools` がクローンされていることを保証します。
* **`cmd = exec.Command("hg", "status")`**:
* 次に、Mercurial コマンド `hg status` を実行するための `exec.Command` オブジェクトを作成します。このコマンドは、作業ディレクトリ内の変更されたファイルや追跡されていないファイルを表示します。
* `cmd.Dir = dir`: 同様に、実行ディレクトリを `dir` に設定します。
* `out, err = cmd.Output()`: コマンドを実行し、出力を取得します。
* `if err != nil || len(out) > 0 { return false }`:
* コマンドの実行に失敗した場合、または `hg status` の出力が空でない場合(つまり、作業ディレクトリに未コミットの変更や追跡されていないファイルが存在する場合)は `false` を返します。
* `len(out) > 0` のチェックは非常に重要で、これによりクローンが完全に完了し、かつ OS による削除などでファイルが失われていない(Mercurial がそれを「変更」として検出しない)ことを間接的に確認します。
* **`return true`**: 上記のすべてのチェックを通過した場合、`go.tools` ディレクトリは健全であると判断され、`true` が返されます。
この一連の変更により、`cmd/api` は一時ディレクトリ内の `go.tools` の状態をより厳密に検証し、破損した状態での使用を避け、必要に応じてクリーンな再クローンを行うことで、ツールの安定性と信頼性を大幅に向上させています。
## 関連リンク
* Go CL 13084049: [https://golang.org/cl/13084049](https://golang.org/cl/13084049)
## 参考にした情報源リンク
* Mercurial 公式ドキュメント: `hg id` および `hg status` コマンドに関する情報
* Go 言語 `os` パッケージのドキュメント: `os.Stat`, `os.RemoveAll`
* Go 言語 `os/exec` パッケージのドキュメント: `exec.Command`
* Go 言語 `strings` パッケージのドキュメント: `strings.TrimSpace`
* macOS (OS X) の一時ファイル管理に関する一般的な情報 (`/tmp` ディレクトリの挙動など)