[インデックス 17401] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリである go/ast
パッケージ内の src/pkg/go/ast/commentmap.go
ファイルに対する変更です。具体的には、コメントのフォーマットに関する修正が行われています。
コミット
go/ast: fix comment formatting
A bullet list was getting mangled in godoc.
R=golang-dev, bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/13060047
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/8b047893a08f316a5f5179e2d71b45a068c9108a
元コミット内容
Go言語の go/ast
パッケージにおいて、コメントのフォーマットが修正されました。特に、godoc
で表示される際に箇条書きリストが正しくレンダリングされない問題("mangled")が発生していたため、その表示を修正するための変更です。
変更の背景
Go言語では、ソースコード内のコメントが godoc
ツールによって自動的にドキュメントとして生成されます。godoc
は、コメントを解析し、Markdownのような形式でレンダリングする機能を持っています。このコミットが行われた当時、src/pkg/go/ast/commentmap.go
内のコメントで定義されていた箇条書きリストが、godoc
で表示される際に意図しない形で崩れて表示される問題がありました。
この問題は、godoc
がコメント内のテキストをどのように解釈し、HTMLとしてレンダリングするかに起因します。特に、箇条書きのインデントや行頭文字の認識に関する挙動が、期待通りでなかったと考えられます。開発者は、このドキュメントの可読性を向上させるため、コメントのフォーマットを godoc
が正しく解釈できるように修正する必要がありました。
前提知識の解説
go/ast
パッケージ
go/ast
パッケージは、Go言語のソースコードを抽象構文木(Abstract Syntax Tree, AST)として表現するためのデータ構造と関数を提供します。ASTは、プログラムの構造を木構造で表現したもので、コンパイラ、リンター、コードフォーマッター、ドキュメンテーションツールなど、Goコードを解析・操作する様々なツールで利用されます。
commentmap.go
ファイルは、この go/ast
パッケージの一部であり、ソースコード内のコメントグループとASTノードとの関連付けを管理するロジックを含んでいます。Go言語では、コメントは単なる注釈ではなく、特定のコード要素(関数、変数、型など)に意味的に関連付けられることがあります。この関連付けは、godoc
が適切なドキュメントを生成するために非常に重要です。
godoc
ツール
godoc
は、Go言語のソースコードからドキュメンテーションを生成し、Webブラウザで表示するためのツールです。Goのドキュメンテーションは、ソースコード内のエクスポートされた識別子(関数、変数、型など)の直前にあるコメントから自動的に生成されます。godoc
は、これらのコメントを解析し、Markdownに似た軽量マークアップ言語として解釈し、HTMLとしてレンダリングします。
godoc
のコメント解釈ルールには、以下のようなものがあります。
- 段落: 空行で区切られたテキストは新しい段落として扱われます。
- 箇条書き: 行頭に
-
や*
、または数字とピリオド(1.
)があり、その後にスペースが続く行は箇条書きリストとして解釈されます。インデントによってネストされたリストも表現できます。 - コードブロック: インデントされた行はコードブロックとして扱われます。
コメントとノードの関連付けルール
commentmap.go
内のコメントは、Go言語におけるコメントグループとASTノードの関連付けルールを説明しています。このルールは、godoc
がどのコメントがどのコード要素に属するかを判断するために使用されます。コミットで修正された箇条書きは、以下の3つの主要なルールを説明していました。
- コメントグループ
g
がノードn
と同じ行で終わる場合。 - コメントグループ
g
がノードn
の直後の行から始まり、g
の後に次のノードの前に少なくとも1つの空行がある場合。 - コメントグループ
g
がノードn
の前に始まり、前のルールで前のノードに関連付けられていない場合。
これらのルールは、Goのソースコードにおけるコメントの配置と、それがドキュメンテーションにどのように影響するかを理解する上で重要です。
技術的詳細
このコミットの技術的詳細は、godoc
がコメント内の箇条書きをどのように解釈するかに焦点を当てています。元のコメントでは、箇条書きの各項目の行頭文字 (-
) の直後にスペースが1つだけありました。
// - g starts on the same line as n ends
// - g starts on the line immediately following n, and there is
// at least one empty line after g and before the next node
// - g starts before n and is not associated to the node before n
// via the previous rules
多くのMarkdownパーサーや、godoc
のようなドキュメンテーションツールでは、箇条書きの行頭文字の後に少なくとも2つのスペース、またはタブが続くことで、その項目が箇条書きとして正しく認識され、かつその後のテキストが適切にインデントされるという慣習があります。スペースが1つだけの場合、一部のパーサーはそれを通常のテキストとして扱ったり、インデントが崩れたりする可能性があります。
このコミットでは、各箇条書き項目の行頭文字 (-
) の後に、さらにスペースを3つ追加し、合計で4つのスペース(// -
)になるように変更しています。
// - g starts on the same line as n ends
// - g starts on the line immediately following n, and there is
// at least one empty line after g and before the next node
// - g starts before n and is not associated to the node before n
// via the previous rules
この変更により、godoc
は箇条書きの各項目をより明確に認識し、適切にインデデントされたHTMLリストとしてレンダリングできるようになります。これは、godoc
の内部的なコメント解析ロジックが、特定のインデントパターンを箇条書きの構造として解釈するように設計されているためです。この修正は、コードの機能には影響を与えず、純粋にドキュメンテーションの表示品質を向上させるためのものです。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/pkg/go/ast/commentmap.go
+++ b/src/pkg/go/ast/commentmap.go
@@ -129,11 +129,11 @@ func (s *nodeStack) pop(pos token.Pos) (top Node) {
//
// A comment group g is associated with a node n if:
//
-// - g starts on the same line as n ends
-// - g starts on the line immediately following n, and there is
-// at least one empty line after g and before the next node
-// - g starts before n and is not associated to the node before n
-// via the previous rules
+// - g starts on the same line as n ends
+// - g starts on the line immediately following n, and there is
+// at least one empty line after g and before the next node
+// - g starts before n and is not associated to the node before n
+// via the previous rules
//
// NewCommentMap tries to associate a comment group to the "largest"\n // node possible: For instance, if the comment is a line comment\n
コアとなるコードの解説
変更は src/pkg/go/ast/commentmap.go
ファイルの129行目付近にあります。
元のコードでは、箇条書きの各項目は // -
の形式で記述されていました。これは、コメントスラッシュ (//
) の後にスペースが1つ、ハイフン (-
)、そしてさらにスペースが1つ続く形です。
修正後のコードでは、この部分が // -
となっています。これは、コメントスラッシュ (//
) の後にスペースが3つ、ハイフン (-
)、そしてさらにスペースが1つ続く形です。
この変更のポイントは、ハイフン (-
) の前のスペースの数が増えたことです。これにより、godoc
がコメントを解析する際に、この部分を明確に箇条書きの項目として認識し、適切なインデントでレンダリングするようになります。特に、godoc
はMarkdownの解釈に似たルールを持っており、箇条書きの行頭文字の後に十分なスペースがないと、リストとして認識されなかったり、インデントが崩れたりする可能性があります。この修正は、その認識を確実にするためのものです。
関連リンク
- https://golang.org/cl/13060047 (Go Gerrit Code Review)
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメンテーション (
go/ast
パッケージ,godoc
コマンド) - Markdownの箇条書きに関する一般的なフォーマットルール
- Go言語のコメントスタイルガイド (Go Code Review Comments)