[インデックス 17408] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリ sync
パッケージに含まれる Once.Do
メソッドのドキュメンテーションの可読性を向上させることを目的としています。特に、以前の記述が持つ曖昧さを解消し、ユーザーが Do
メソッドの動作をより正確に理解できるように修正が加えられました。
コミット
commit cbea724378e1586cd92f1fffddcad61af893ba1d
Author: Josh Bleecher Snyder <josharian@gmail.com>
Date: Wed Aug 28 12:53:59 2013 +1000
sync: improve once.Do documentation readability
The previous wording, though accurate, was hard to parse.
In particular, it was tempting to interpret "the method"
as referring to "the function f" instead of "Do", and
required effort to find the correct antecedent for
"this receiver".
R=golang-dev, bradfitz, r
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/13307043
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/cbea724378e1586cd92f1fffddcad61af893ba1d
元コミット内容
// Do calls the function f if and only if the method is being called for the
// first time with this receiver. In other words, given
// var once Once
// if once.Do(f) is called multiple times, only the first call will invoke f,
// even if f has a different value in each invocation. A new instance of
変更の背景
sync.Once
は、特定の処理がアプリケーションのライフサイクル中に一度だけ実行されることを保証するためのGo言語のプリミティブです。この機能は、初期化処理やリソースのセットアップなど、冪等性(何度実行しても同じ結果になること)が求められる場面で非常に重要です。
しかし、このコミットがなされる前の Once.Do
メソッドのドキュメンテーションは、その意図が正確に伝わりにくいという問題がありました。具体的には、以下の点が曖昧でした。
- "the method" の指す対象: ドキュメンテーション内の「the method」という表現が、
Once.Do
メソッド自体を指すのか、それともDo
に渡される関数f
を指すのかが不明瞭でした。これは、Do
メソッドがf
を呼び出すという文脈から、f
を指すと誤解される可能性がありました。 - "this receiver" の指す対象:
Once
型のインスタンスを指す「this receiver」という表現も、文脈によっては混乱を招く可能性がありました。
これらの曖昧さにより、開発者が Once.Do
の正確な動作、特に「一度だけ実行される」という保証が何に対して適用されるのかを理解するのに余分な労力が必要でした。このコミットは、このような誤解を解消し、ドキュメンテーションの可読性と明確性を向上させることを目的としています。
前提知識の解説
Go言語の sync
パッケージ
sync
パッケージは、Go言語における並行処理の同期プリミティブを提供します。これには、ミューテックス (sync.Mutex
)、条件変数 (sync.Cond
)、排他制御 (sync.WaitGroup
)、そして一度だけ実行を保証する sync.Once
などが含まれます。これらのプリミティブは、複数のGoroutineが共有リソースに安全にアクセスし、プログラムの整合性を保つために不可欠です。
sync.Once
の役割
sync.Once
は、プログラムの実行中に特定の関数が一度だけ実行されることを保証するための構造体です。これは、主に以下のようなシナリオで利用されます。
- 遅延初期化 (Lazy Initialization): アプリケーションの起動時にすぐに必要ではないが、後で一度だけ初期化が必要なリソース(データベース接続、設定の読み込み、シングルトンインスタンスの生成など)の初期化。
- グローバルな状態のセットアップ: アプリケーション全体で共有されるグローバルな変数の初期化など。
sync.Once
は、複数のGoroutineから同時に Do
メソッドが呼び出された場合でも、渡された関数 f
が一度だけ実行されることを保証します。最初のGoroutineが Do
を呼び出した際に f
が実行され、それ以降の呼び出しでは f
は実行されずにすぐに戻ります。
sync.Once
の内部動作(簡略化)
sync.Once
の内部には、通常、アトミック操作によって管理されるフラグ(done
)と、ミューテックス(m
)が含まれています。
Do(f func())
が呼び出されると、まずdone
フラグがチェックされます。- もし
done
フラグが0
(未実行) であれば、ミューテックスをロックし、再度done
フラグをチェックします(二重チェックロックパターン)。 - まだ
done
が0
であれば、関数f
を実行し、done
フラグを1
(実行済み) に設定し、ミューテックスをアンロックします。 - もし
done
フラグが1
であれば、関数f
は実行されずにすぐに戻ります。
このメカニズムにより、f
は一度だけ実行されることが保証されます。
技術的詳細
このコミットの技術的詳細は、sync.Once.Do
メソッドのドキュメンテーションにおける特定の単語の置き換えと、それによってもたらされる意味の明確化にあります。
変更前:
// Do calls the function f if and only if the method is being called for the
// first time with this receiver.
変更後:
// Do calls the function f if and only if Do is being called for the
// first time for this instance of Once.
具体的な変更点は以下の通りです。
-
the method
からDo
へ:- 変更前: 「
the method
がこのレシーバーで初めて呼び出された場合にのみ、関数f
を呼び出す」 - 変更後: 「
Do
がこのOnce
のインスタンスに対して初めて呼び出された場合にのみ、関数f
を呼び出す」 - この変更により、「the method」が
Once.Do
メソッド自体を指すことが明確になりました。以前の表現では、Do
に渡される匿名関数f
を指すと誤解される可能性がありましたが、Do
と明示することでその曖昧さが解消されました。
- 変更前: 「
-
with this receiver
からfor this instance of Once
へ:- 変更前: 「このレシーバーで初めて呼び出された場合」
- 変更後: 「この
Once
のインスタンスに対して初めて呼び出された場合」 - 「this receiver」という表現は、Go言語のメソッドの文脈では一般的ですが、このドキュメンテーションの文脈では、
Once
型の特定のインスタンスを指すことがより明確に伝わるように「this instance of Once」に置き換えられました。これにより、Once
のインスタンスごとにDo
が一度だけ実行されるというsync.Once
の本質的な動作が強調されます。
これらの変更は、単なる言葉の置き換え以上の意味を持ちます。それは、sync.Once
の「一度だけ実行」という保証が、Do
メソッドが呼び出される Once
の特定のインスタンスに対して適用されることを、より直感的かつ正確に伝えるためのものです。これにより、開発者は sync.Once
のスコープとライフサイクルを誤解することなく、正しく利用できるようになります。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/pkg/sync/once.go
+++ b/src/pkg/sync/once.go
@@ -14,8 +14,8 @@ type Once struct {
done uint32
}
-// Do calls the function f if and only if the method is being called for the
-// first time with this receiver. In other words, given
+// Do calls the function f if and only if Do is being called for the
+// first time for this instance of Once. In other words, given
// var once Once
// if once.Do(f) is called multiple times, only the first call will invoke f,
// even if f has a different value in each invocation. A new instance of
コアとなるコードの解説
変更されたのは src/pkg/sync/once.go
ファイル内の Once.Do
メソッドのコメント行です。
元のコメント:
// Do calls the function f if and only if the method is being called for the
// first time with this receiver.
この行は、Do
メソッドが関数 f
を呼び出す条件を説明しています。「the method
」と「this receiver
」という表現が使われていました。
変更後のコメント:
// Do calls the function f if and only if Do is being called for the
// first time for this instance of Once.
この変更では、以下の点が修正されています。
the method
がDo
に変更されました。これにより、Do
メソッド自体が一度だけ呼び出されるという文脈が明確になります。with this receiver
がfor this instance of Once
に変更されました。これにより、Once
型の特定のインスタンスに対してDo
が一度だけ実行されるという点がより具体的に示されます。
この修正により、sync.Once
の「一度だけ実行」という保証が、Once
のインスタンスごとに適用されるという重要な概念が、より明確かつ誤解の余地なく伝わるようになりました。
関連リンク
- Go言語の
sync
パッケージ公式ドキュメンテーション: https://pkg.go.dev/sync - Go言語の
sync.Once
公式ドキュメンテーション: https://pkg.go.dev/sync#Once - このコミットのGo Gerrit Code Reviewリンク: https://golang.org/cl/13307043
参考にした情報源リンク
- Go言語の
sync
パッケージのソースコード (Goの公式リポジトリ) - Go言語の
sync.Once
の利用例や解説記事 (一般的なGoプログラミングのブログやチュートリアル) - Go言語のドキュメンテーション規約に関する情報 (Goの公式ドキュメントやスタイルガイド)
- Go言語のレシーバーに関する情報 (Goの公式ドキュメントやチュートリアル)I have generated the detailed technical explanation in Markdown format, following all your instructions and the specified chapter structure. The output is provided directly to standard output as requested.