[インデックス 17489] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のテストスイートにおけるビルドエラーを修正するものです。具体的には、test/syntax/chan1.go
ファイル内のチャネルへの送信ステートメントが値として使用された場合に期待されるエラーメッセージが変更されたことに対応しています。Goコンパイラのエラーメッセージがより簡潔で一般的なものに更新されたため、テストコードもそれに合わせて修正されました。
コミット
commit 17e5539f7d3e17e3c585b3c4e6d4448d7f953626
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date: Fri Sep 6 16:15:30 2013 -0400
test: fix build (update for new error message)
R=golang-dev
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/13521044
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/17e5539f7d3e17e3c585b3c4e6d4448d7f953626
元コミット内容
test: fix build (update for new error message)
R=golang-dev
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/13521044
変更の背景
このコミットの背景には、Goコンパイラのエラーメッセージの改善があります。Go言語では、チャネルへの送信操作 (ch <- value
) はステートメントであり、値を返しません。したがって、この操作を if
文の条件式や変数への代入など、値が期待されるコンテキストで使用するとコンパイルエラーになります。
以前のGoコンパイラは、このような場合に「send statement.*value.*select」のような、より詳細で特定のコンテキスト(select
ステートメントとの関連など)を示唆するエラーメッセージを出力していました。しかし、コンパイラ開発の過程で、エラーメッセージをより汎用的で理解しやすいものに統一する方針が取られたと考えられます。
この変更により、チャネル送信ステートメントが値として使用された場合のエラーメッセージが「used as value」という、より簡潔で直接的な表現に変わりました。test/syntax/chan1.go
はGo言語の構文テストの一部であり、特定の構文エラーが正しく検出されることを検証する目的で書かれています。コンパイラのエラーメッセージが変更されたため、このテストファイルが期待するエラーメッセージと実際のコンパイラ出力が一致しなくなり、ビルドエラーが発生するようになりました。このコミットは、その不一致を解消し、テストが再びパスするように修正するものです。
前提知識の解説
Go言語のチャネル (Channels)
Go言語のチャネルは、ゴルーチン(軽量スレッド)間で値を送受信するための通信メカニズムです。チャネルは型付けされており、特定の型の値のみを送受信できます。
- チャネルの宣言:
ch := make(chan int)
(int型のチャネルを作成) - 値の送信:
ch <- value
(チャネルch
にvalue
を送信) - 値の受信:
value := <-ch
(チャネルch
から値を受信しvalue
に代入)
ステートメントと式 (Statements and Expressions)
プログラミング言語において、コードの構成要素は大きく「ステートメント(文)」と「式(式)」に分けられます。
- ステートメント: 何らかの動作を実行するコードの単位です。値を返しません。例:
var x int
,x = 10
,if condition { ... }
,for { ... }
,go func() { ... }
,ch <- value
(チャネル送信)。 - 式: 値を生成するコードの単位です。例:
1 + 2
,x * y
,functionCall()
,<-ch
(チャネル受信)。
Go言語では、チャネルへの送信操作 (ch <- value
) はステートメントであり、値を返しません。そのため、if
文の条件式のように値が期待される場所でこれを使用すると、コンパイルエラーになります。
Goコンパイラのエラーメッセージ
Goコンパイラは、コードがGo言語の構文規則や型規則に違反している場合にエラーメッセージを出力します。これらのエラーメッセージは、開発者が問題を特定し、修正するのに役立つように設計されています。コンパイラのエラーメッセージは、時間の経過とともに改善され、より正確で分かりやすいものになることがあります。
技術的詳細
このコミットの技術的詳細は、Goコンパイラがチャネル送信ステートメントをどのように処理し、それが値として使用された場合にどのようなエラーを報告するかという点に集約されます。
Go言語の仕様では、チャネル送信 (SendStmt
) はステートメントとして定義されており、式ではありません。したがって、if
文の条件式 (if expr { ... }
) や、変数への代入の右辺 (var x = expr
) など、式が期待されるコンテキストで ch <- value
を使用することは文法的に誤りです。
以前のコンパイラは、この種の誤用に対して、より具体的なエラーメッセージ(例: "send statement used as value in select")を出力していました。これは、おそらくコンパイラの内部で、select
ステートメントのケース内でチャネル送信が式として誤用されるパターンが頻繁に発生していたため、その特定のケースを明示的に指摘するように設計されていたのかもしれません。
しかし、コンパイラのエラー報告システムが成熟するにつれて、より一般的なエラーメッセージが好まれるようになりました。これは、エラーメッセージが特定のコンテキストに縛られず、より広範な誤用パターンに適用できるようにするためです。この変更により、「send statement used as value in select」のような特定のメッセージは、「used as value」という、より汎用的なメッセージに置き換えられました。この新しいメッセージは、チャネル送信が if
文の条件式であろうと、単純な変数代入の右辺であろうと、値が期待されるあらゆる場所でステートメントが使用された場合に適用されます。
この変更は、コンパイラのエラーメッセージの一貫性と簡潔性を向上させるための内部的なリファクタリングの結果であると考えられます。テストファイル test/syntax/chan1.go
は、このコンパイラの変更に合わせて、期待されるエラーメッセージの正規表現を更新する必要がありました。
コアとなるコードの変更箇所
diff --git a/test/syntax/chan1.go b/test/syntax/chan1.go
index 868a1226d9..4860422ad8 100644
--- a/test/syntax/chan1.go
+++ b/test/syntax/chan1.go
@@ -10,8 +10,8 @@ var c chan int
var v int
func main() {
- if c <- v { // ERROR "send statement.*value.*select"
+ if c <- v { // ERROR "used as value"
}
}
-var _ = c <- v // ERROR "send statement.*value.*select"
+var _ = c <- v // ERROR "used as value"
コアとなるコードの解説
変更されたファイルは test/syntax/chan1.go
です。このファイルは、Go言語の構文テストの一部であり、特定の構文エラーがコンパイラによって正しく検出されることを検証します。
元のコードでは、以下の2箇所でチャネル送信ステートメントが値として使用されています。
if c <- v { ... }
if
文の条件式にはブール型の式が必要です。しかし、c <- v
はチャネルへの送信ステートメントであり、値を返しません。
var _ = c <- v
- 変数
_
への代入の右辺には式が必要です。しかし、ここでもc <- v
はステートメントであり、値を返しません。
- 変数
これらの行のコメントには、Goコンパイラが検出するはずのエラーメッセージが正規表現で記述されています。
- // ERROR "send statement.*value.*select"
: 以前は、これらの誤用に対して「send statement.*value.*select」というエラーメッセージが期待されていました。.*
は任意の文字列にマッチする正規表現です。+ // ERROR "used as value"
: このコミットでは、期待されるエラーメッセージが「used as value」に変更されました。これは、Goコンパイラがこれらの構文エラーに対して出力するメッセージが、より簡潔で一般的なものに更新されたためです。
この変更は、Goコンパイラ自体の動作変更を反映したものであり、テストコードがその新しい動作に適合するように更新されたことを示しています。これにより、テストスイートがGoコンパイラの最新の挙動と同期し、ビルドが正常に完了するようになります。
関連リンク
- Go言語のチャネルに関する公式ドキュメント: https://go.dev/tour/concurrency/2
- Go言語の仕様 (Statements): https://go.dev/ref/spec#Statements
- Go言語の仕様 (Expressions): https://go.dev/ref/spec#Expressions
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント
- Go言語のソースコード (特に
go/src/cmd/compile/internal/syntax
やgo/src/cmd/compile/internal/gc
ディレクトリ) - Go言語のコミット履歴 (GitHub)
- Go言語のコードレビューシステム (Gerrit) - このコミットのCL (Change-list) へのリンク: https://golang.org/cl/13521044
- 一般的なプログラミング言語におけるステートメントと式の概念