[インデックス 1749] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の正規表現パッケージ src/lib/regexp/regexp.go
から、不要なコメント行を削除するものです。具体的には、Regexp
型が Regexp
インターフェースを実装していることを示すコメントが削除されています。これは、コードのクリーンアップと、冗長な情報の排除を目的としています。
コミット
commit d1ac21849ef249e6793ed3079db3df7c4edfac50
Author: Rob Pike <r@golang.org>
Date: Wed Mar 4 22:03:35 2009 -0800
delete bogus vestige
R=rsc
OCL=25730
CL=25730
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/d1ac21849ef249e679db3df7c4edfac50
元コミット内容
このコミットは、src/lib/regexp/regexp.go
ファイルから以下の3行のコメントを削除しています。
--- a/src/lib/regexp/regexp.go
+++ b/src/lib/regexp/regexp.go
@@ -718,7 +718,6 @@ func (re *Regexp) doExecute(str string, pos int) []int {
// s[a[2*i]:a[2*i+1]] for i > 0 is the substring matched by the ith parenthesized subexpression.
// A negative value means the subexpression did not match any element of the string.
// An empty array means "no match".
-// (Regexp is an internal type that implements the Regexp interface.)
func (re *Regexp) Execute(s string) (a []int) {
return re.doExecute(s, 0)
}
@@ -726,7 +725,6 @@ func (re *Regexp) Match returns whether the Regexp matches the string s.
// The return value is a boolean: true for match, false for no match.
-// (Regexp is an internal type that implements the Regexp interface.)
func (re *Regexp) Match(s string) bool {
return len(re.doExecute(s, 0)) > 0
}
@@ -737,7 +735,6 @@ func (re *Regexp) MatchStrings(s string) (a []string) {
// a[0] is the substring matched by the entire expression.
// a[i] for i > 0 is the substring matched by the ith parenthesized subexpression.
// An empty array means ``no match''.
-// (Regexp is an internal type that implements the Regexp interface.)
func (re *Regexp) MatchStrings(s string) (a []string) {
r := re.doExecute(s, 0);
if r == nil {
削除されたコメントは、Regexp
型が Regexp
インターフェースを実装していることを示唆するものでした。
変更の背景
このコミットの背景には、Go言語の設計思想と、初期開発段階におけるコードベースの進化があります。Go言語は、シンプルさ、明瞭さ、そして効率性を重視しています。そのため、コード内の冗長な情報や、誤解を招く可能性のあるコメントは、積極的に削除される傾向にあります。
この特定のコメント「(Regexp is an internal type that implements the Regexp interface.)
」は、おそらく初期の設計段階で Regexp
型と Regexp
インターフェースの関係を明確にするために追加されたものと考えられます。しかし、Go言語のインターフェースは、型が特定のメソッドセットを実装していれば、そのインターフェースを「暗黙的に」実装していると見なされます。つまり、明示的に「implements
」というキーワードを記述する必要はありません。
時間が経ち、Go言語の設計が固まり、開発者がその慣習に慣れてくるにつれて、このようなコメントは冗長であると判断されたのでしょう。また、Regexp
型が内部型であることや、インターフェースを実装していることは、コードを読めば明らかであるため、コメントとして残しておく必要がないと判断された可能性があります。
このコミットは、Go言語のコードベース全体における継続的なクリーンアップと、より簡潔で自己説明的なコードを目指す取り組みの一環と見ることができます。
前提知識の解説
このコミットを理解するためには、以下のGo言語の基本的な概念と、正規表現に関する知識が必要です。
Go言語のインターフェース
Go言語のインターフェースは、メソッドのシグネチャの集合を定義する型です。Goのインターフェースの最大の特徴は、暗黙的な実装です。これは、ある型がインターフェースで定義されたすべてのメソッドを実装していれば、その型は自動的にそのインターフェースを実装していると見なされるというものです。JavaやC#のように、implements
キーワードを使って明示的にインターフェースを実装することを宣言する必要はありません。
例えば、以下のようなインターフェースがあるとします。
type Greeter interface {
Greet() string
}
そして、以下のような型があるとします。
type Person struct {
Name string
}
func (p Person) Greet() string {
return "Hello, " + p.Name
}
Person
型は Greet()
メソッドを実装しているため、Person
型は自動的に Greeter
インターフェースを実装していると見なされます。
この暗黙的な実装の仕組みにより、Goのコードはより柔軟で、結合度が低くなります。しかし、初期の段階では、この概念に慣れていない開発者向けに、コメントで補足説明が加えられることがありました。
正規表現 (Regular Expression)
正規表現は、文字列のパターンを記述するための強力なツールです。Go言語の標準ライブラリには、regexp
パッケージが含まれており、正規表現のコンパイル、マッチング、置換などの機能を提供します。
正規表現エンジンは、与えられた文字列が特定のパターンに一致するかどうかを判断し、一致した部分文字列を抽出することができます。Goの regexp
パッケージは、GoogleのRE2エンジンに基づいており、線形時間でのマッチングを保証し、バックトラッキングによる指数関数的な遅延を防ぐという特徴があります。
regexp.go
ファイルの役割
src/lib/regexp/regexp.go
は、Go言語の標準ライブラリにおける正規表現パッケージの主要な実装ファイルの一つです。このファイルには、正規表現のコンパイル、マッチング、部分文字列の抽出などを行うための Regexp
型とそのメソッドが定義されています。
技術的詳細
このコミットは、Go言語の正規表現パッケージ regexp
の内部実装に関するものです。削除されたコメントは、Regexp
型が Regexp
インターフェースを実装していることを示唆していました。
Go言語のインターフェースの設計思想からすると、このようなコメントは冗長です。なぜなら、Goでは型がインターフェースのメソッドセットを実装していれば、自動的にそのインターフェースを実装していると見なされるため、明示的な宣言やコメントは不要だからです。
このコミットが行われた2009年3月は、Go言語がまだ一般に公開される前の初期開発段階でした。この時期は、言語仕様や標準ライブラリのAPIが活発に議論され、洗練されていく過程にありました。初期のコードベースには、開発者がGoの新しいパラダイムに慣れるための補助的なコメントが含まれていた可能性があります。しかし、言語の設計が固まり、Goの慣習が確立されるにつれて、これらの補助的なコメントは不要と判断され、削除されていったと考えられます。
特に、Regexp
型が「内部型」であるという記述も削除されています。これは、パッケージの外部から利用されるAPIとしての Regexp
型の役割が明確になったため、その内部的な性質をコメントで強調する必要がなくなったことを示唆しているかもしれません。Goのパッケージシステムでは、エクスポートされた(大文字で始まる)型や関数のみが外部からアクセス可能であり、内部的な実装の詳細は通常、コメントで説明する必要はありません。
この変更は、コードの可読性を向上させ、冗長な情報を排除するという、Go言語の設計哲学に沿ったものです。コメントは、コードが自明でない場合にのみ追加されるべきであり、コード自体が意図を明確に表現できる場合は、コメントは不要であるという原則が適用されています。
コアとなるコードの変更箇所
変更は src/lib/regexp/regexp.go
ファイルの3箇所にわたります。それぞれ、Regexp
型の Execute
、Match
、MatchStrings
メソッドのドキュメンテーションコメントから、以下の行が削除されています。
// (Regexp is an internal type that implements the Regexp interface.)
コアとなるコードの解説
削除されたコメントは、Regexp
型が Regexp
インターフェースを実装していることを説明していました。
func (re *Regexp) Execute(s string) (a []int)
: このメソッドは、正規表現re
を文字列s
に適用し、マッチした部分文字列の開始/終了インデックスのペアを返します。func (re *Regexp) Match(s string) bool
: このメソッドは、正規表現re
が文字列s
にマッチするかどうかを真偽値で返します。func (re *Regexp) MatchStrings(s string) (a []string)
: このメソッドは、正規表現re
を文字列s
に適用し、マッチした部分文字列を文字列スライスとして返します。
これらのメソッドは、Regexp
型が正規表現の操作を行うための主要なAPIの一部です。コメントが削除されたことで、これらのメソッドの機能的な説明はそのまま残り、冗長な型に関する説明が取り除かれました。これは、Go言語のインターフェースの暗黙的な実装という特性を考慮すると、適切なクリーンアップと言えます。
関連リンク
- Go言語の正規表現パッケージ
regexp
のドキュメント: https://pkg.go.dev/regexp - Go言語のインターフェースに関する公式ドキュメントやチュートリアル
参考にした情報源リンク
- GitHubのコミットページ: https://github.com/golang/go/commit/d1ac21849ef249e679db3df7c4edfac50
- Go言語のインターフェースに関する一般的な情報源(例: Go公式ブログ、Effective Goなど)
- Go言語の初期開発に関する歴史的資料(もしあれば)
- Go言語の
regexp
パッケージに関する技術記事や解説 - Rob Pike氏のGo言語における役割に関する情報