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[インデックス 17575] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のツールチェインの一部であるcmd/8l(386アーキテクチャ向けリンカ)におけるビルドの問題を修正するものです。具体的には、使用されていない変数を削除することで、コンパイル時の警告やエラーを解消し、386環境でのビルドを正常に行えるようにします。

コミット

commit e38eddbfe4f2aff84a200d51b52fab4b38ae4f26
Author: Dave Cheney <dave@cheney.net>
Date:   Thu Sep 12 11:18:34 2013 +1000

    cmd/8l: fix 386 builds

    Remove set but unused variable.

    R=rsc
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/13490047

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/e38eddbfe4f2aff84a200d51b52fab4b38ae4f26

元コミット内容

cmd/8l: fix 386 builds Remove set but unused variable.

このコミットは、cmd/8l、すなわち386アーキテクチャ用のGoリンカにおけるビルド問題を修正するものです。修正内容は、「設定されているが使用されていない変数」をコードから削除することです。

変更の背景

Go言語のコンパイラやリンカは、特定のアーキテクチャ(この場合は386、つまりIntel 80386互換の32ビットアーキテクチャ)向けにコードを生成・リンクする際に、そのアーキテクチャ固有のコードパスや最適化を含んでいます。

このコミットが行われた2013年9月時点では、Go言語の開発は活発であり、様々なアーキテクチャやオペレーティングシステムへの対応が進められていました。cmd/8lは、Goのソースコードを386アーキテクチャ上で実行可能なバイナリに変換する最終段階であるリンク処理を担当します。

「set but unused variable(設定されているが使用されていない変数)」は、プログラミングにおいてよくある問題の一つです。これは、変数が宣言され、値が代入されているにもかかわらず、その後のコードで一度もその変数が読み出されたり、利用されたりしない状態を指します。このような変数は、コンパイラによっては警告(warning)として報告されることがありますが、厳格なコンパイル設定や特定のコンパイラバージョン、あるいはクロスコンパイル環境においては、エラー(error)として扱われ、ビルドプロセスが中断される原因となることがあります。

このコミットの背景には、おそらく386環境でのGoのビルドプロセスにおいて、このような未使用変数が原因でビルドが失敗するか、あるいは不必要な警告が大量に発生し、開発の妨げになっていたという状況があったと考えられます。Go言語の設計哲学として、シンプルさと効率性が重視されるため、未使用のコード要素は積極的に排除される傾向にあります。

前提知識の解説

Go言語のツールチェイン

Go言語は、独自のコンパイラ、アセンブラ、リンカ、デバッガなどを含む包括的なツールチェインを持っています。これは、C/C++のような外部のツールに依存せず、Go自身でビルドプロセスを完結させることを目指しています。

  • コンパイラ (cmd/compile): Goのソースコードをアセンブリコードに変換します。
  • アセンブラ (cmd/asm): アセンブリコードをオブジェクトファイルに変換します。
  • リンカ (cmd/link): 複数のオブジェクトファイルやライブラリを結合し、実行可能なバイナリを生成します。このコミットで言及されているcmd/8lは、cmd/linkの386アーキテクチャ版に相当します(Goの初期のツールチェインでは、アーキテクチャごとに異なるリンカ名が使われていました。8lは386、6lはamd64など)。

386アーキテクチャ

386は、Intel 80386プロセッサに由来する32ビットのx86アーキテクチャを指します。Go言語は、初期から様々なアーキテクチャをサポートしており、386もその一つです。32ビットシステムでは、メモリのアドレッシングやレジスタのサイズが64ビットシステムとは異なるため、コンパイラやリンカはそれぞれのアーキテクチャに特化した処理を行う必要があります。

未使用変数 (Unused Variable)

プログラミングにおいて、変数が宣言され、値が代入されたにもかかわらず、その変数がプログラムの実行フローの中で一度も参照されない場合、その変数は「未使用変数」と呼ばれます。

  • なぜ問題になるのか?:
    • コードの可読性低下: 未使用変数は、コードを読解する際に混乱を招く可能性があります。「この変数は何のためにあるのか?」「後で使われるのか?」といった疑問を生じさせ、コードの意図を不明瞭にします。
    • リソースの無駄: 宣言された変数は、メモリなどのリソースを消費します。未使用変数は、そのリソースを不必要に占有します。現代のコンパイラは未使用変数を最適化で削除することが多いですが、それでもソースコードレベルでの無駄は残ります。
    • コンパイルエラー/警告: 多くのプログラミング言語やコンパイラは、未使用変数を警告またはエラーとして扱います。これは、プログラマが意図しないバグ(例えば、変数の名前を間違えたために参照されていないなど)を見つけるのに役立ちます。特にGo言語は、未使用変数をコンパイルエラーとして扱うことで知られており、これはGoの厳格な設計思想の一部です。しかし、このコミットの文脈では、Goのリンカ自体のビルドプロセスにおけるC言語のコード(pass.c)での未使用変数が問題になっていたと考えられます。C言語のコンパイラも、未使用変数に対して警告を出すことが一般的です。
    • ビルドの失敗: 厳格なビルド設定やCI/CDパイプラインでは、警告が一つでもあればビルドを失敗させるように設定されていることがあります。この場合、未使用変数の警告がビルド失敗の原因となり得ます。

技術的詳細

このコミットは、src/cmd/8l/pass.cというファイルに対する変更です。ファイル名から、これがGoリンカ(8l)のパス(pass)処理に関連するC言語のソースファイルであることがわかります。Goのツールチェインの多くの部分はC言語で書かれています。

変更内容は非常にシンプルで、dostkoff関数内のローカル変数q1の宣言を削除しています。

元のコード:

static Sym *symmorestack;
void
dostkoff(void)
{
	Prog *p, *q, *q1; // q1が宣言されている
	int32 autoffset, deltasp;
	int a;

// ... (中略) ...

		q = P;
		q1 = P; // q1に値が代入されている

// ... (中略) ...

変更後のコード:

static Sym *symmorestack;
void
dostkoff(void)
{
	Prog *p, *q; // q1が削除されている
	int32 autoffset, deltasp;
	int a;

// ... (中略) ...

		q = P;
//		q1 = P; // q1への代入も削除されるか、あるいは元々q1が使われていなかったため、この行が問題だった可能性もある。diffを見る限り、宣言のみの削除で、代入行は残っているように見えるが、これはdiffの表示の都合か、あるいは代入はあってもその後の使用がなかったため。

// ... (中略) ...

diffを見ると、Prog *p, *q, *q1;Prog *p, *q;に変更され、q1 = P;の行が削除されています。これは、q1という変数が宣言され、Pという値が代入されていたものの、その後のコードで一度もq1が使用されていなかったことを示しています。

Pは、Goのリンカのコードベースでよく使われるマクロまたは定数で、通常はnilNULLに相当するポインタ値を表します。つまり、q1は初期化はされていたものの、その後の処理で利用されることがなかったため、コンパイラが未使用変数として警告またはエラーを出していたと考えられます。

この修正は、コードの論理的な振る舞いには影響を与えません。単に、コンパイル時の警告/エラーの原因となっていた冗長なコードを削除するものです。これにより、386アーキテクチャでのGoのビルドがスムーズに行われるようになります。

コアとなるコードの変更箇所

変更はsrc/cmd/8l/pass.cファイル内の一箇所のみです。

--- a/src/cmd/8l/pass.c
+++ b/src/cmd/8l/pass.c
@@ -415,7 +415,7 @@ static Sym *symmorestack;
 void
 dostkoff(void)
 {
-	Prog *p, *q, *q1;
+	Prog *p, *q;
 	int32 autoffset, deltasp;
 	int a;
 
@@ -443,7 +443,6 @@ dostkoff(void)\n \t\t\tautoffset = 0;\n \n \t\tq = P;\n-\t\tq1 = P;\n \n \t\tif(!(p->from.scale & NOSPLIT)) {\n \t\t\tp = appendp(p);\n```

## コアとなるコードの解説

`dostkoff`関数は、Goのリンカ(`8l`)において、スタックオフセットの計算と調整を行う役割を担っていると考えられます。Goの関数呼び出し規約では、スタックフレームの管理が非常に重要であり、リンカはその最終的なレイアウトを決定します。

変更された行は以下の通りです。

1.  **`Prog *p, *q, *q1;` から `Prog *p, *q;` への変更**:
    これは、`dostkoff`関数内で宣言されていたローカル変数`q1`が削除されたことを意味します。`Prog`型は、Goのリンカ内部で命令(プログラムカウンタ)を表す構造体であると推測されます。

2.  **`q1 = P;` の行の削除**:
    `q1`変数が削除されたことに伴い、その変数への初期化(`P`の代入)も不要となるため、この行も削除されました。

この変更は、`q1`という変数が`dostkoff`関数のロジックにおいて実際に使用されていなかったことを示しています。GoのツールチェインのC言語コードは、パフォーマンスと低レベルな制御のために書かれており、このような未使用変数は、コンパイラの警告やエラーを引き起こす可能性があります。この修正は、コードのクリーンアップと、特定のビルド環境(386)でのコンパイル成功を保証するためのものです。

## 関連リンク

*   Go言語の公式リポジトリ: [https://github.com/golang/go](https://github.com/golang/go)
*   Go Code Review Comments (Go言語のコードレビューガイドライン): [https://go.dev/doc/effective_go#commentary](https://go.dev/doc/effective_go#commentary) (未使用変数に関する直接的な言及は少ないが、Goの設計思想が反映されている)
*   Go言語のツールチェインに関するドキュメント(Goのバージョンによって内容は異なる可能性がありますが、一般的な構造は理解できます): [https://go.dev/doc/](https://go.dev/doc/)

## 参考にした情報源リンク

*   Go言語のソースコード(GitHub)
*   Go言語の公式ドキュメント
*   一般的なプログラミングにおける「未使用変数」の概念
*   Go言語のツールチェインに関する一般的な知識
*   コミットメッセージとdiffの内容
*   Go CL 13490047: [https://golang.org/cl/13490047](https://golang.org/cl/13490047) (このコミットのChange-ID)