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[インデックス 17605] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の公式フォーマッタであるgofmtツールのドキュメントを更新し、-sフラグが実行するコード変換(簡略化)について詳細な説明を追加するものです。具体的には、配列、スライス、マップの複合リテラル、スライス式、およびrangeループにおける特定のパターンがどのように簡略化されるかを明記しています。

コミット

commit d445b76331aa342711b79dd6796cd832e9766c26
Author: Andrew Gerrand <adg@golang.org>
Date:   Mon Sep 16 11:19:39 2013 +1000

    cmd/gofmt: document -s transformations
    
    R=golang-dev, dsymonds
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/13721043

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/d445b76331aa342711b79dd6796cd832e9766c26

元コミット内容

cmd/gofmt: document -s transformations

このコミットは、gofmtコマンドの-sオプションによって行われるコード変換(簡略化)について、その動作をドキュメントに追加することを目的としています。

変更の背景

gofmtはGo言語のコードを自動的にフォーマットするツールであり、Goコミュニティにおいてコードスタイルの一貫性を保つ上で不可欠な存在です。-sフラグは、単なるフォーマットだけでなく、コードをより簡潔で慣用的なGoのスタイルに「簡略化」する機能を提供します。しかし、この簡略化の具体的な内容がドキュメントに明記されていなかったため、ユーザーが-sフラグの挙動を完全に理解することが困難でした。

このコミットの背景には、以下の目的があったと考えられます。

  1. 透明性の向上: -sフラグがどのようなコードパターンを検出し、どのように変換するのかを明確にすることで、ユーザーが安心してこの機能を利用できるようにする。
  2. 学習の促進: Goの慣用的な書き方を学ぶ開発者にとって、gofmt -sが推奨する簡略化パターンを知ることは、より良いコードを書くための指針となる。
  3. ツールの信頼性: ツールの動作が明確に文書化されることで、予期せぬコード変更に対する懸念を減らし、gofmtの信頼性を高める。

この変更は、gofmtの機能自体を変更するものではなく、その既存の動作を正確に文書化することに焦点を当てています。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下のGo言語およびgofmtに関する基本的な知識が必要です。

  • gofmt: Go言語のソースコードを自動的にフォーマットするツールです。Goのコードベース全体で一貫したスタイルを強制し、コードレビューの負担を軽減します。gofmtは、AST(抽象構文木)を解析し、Goの公式スタイルガイドに沿ってコードを再構築します。
  • gofmt -s: gofmtのオプションの一つで、コードを「簡略化」(simplify)します。これは単なる空白やインデントの調整だけでなく、より慣用的なGoの表現に書き換えることを含みます。例えば、冗長な記述を省略したり、より効率的な構文に変換したりします。
  • 複合リテラル (Composite Literals): Go言語で構造体、配列、スライス、マップなどの複合型を初期化するための構文です。例えば、[]int{1, 2, 3}はスライスの複合リテラルです。
  • スライス式 (Slice Expressions): 配列やスライスから新しいスライスを作成するための構文です。s[low:high]s[low:]s[:high]s[:]などの形式があります。len(s)はスライスの長さを返す組み込み関数です。
  • for ... rangeループ: スライス、配列、文字列、マップ、チャネルなどのコレクションをイテレートするためのGoの構文です。for index, value := range collection {}のように使用します。インデックスや値が不要な場合は、_(ブランク識別子)を使用して破棄できます。

技術的詳細

このコミットは、gofmt -sが実行する具体的な簡略化ルールをsrc/cmd/gofmt/doc.goファイルに追記することで、その動作を明確にしています。追加されたドキュメントは、以下の3つの主要な変換パターンを説明しています。

  1. 複合リテラルの簡略化:

    • 変換前: []T{T{}, T{}} (配列、スライス、またはマップの複合リテラルで、要素の型が明示的に指定されている場合)
    • 変換後: []T{{}, {}}
    • 詳細: Goの複合リテラルでは、要素の型が外側の型から推論できる場合、内側の要素の型を省略できます。例えば、[]struct{i int}{struct{i int}{1}, struct{i int}{2}}[]struct{i int}{{1}, {2}} と書くことができます。この簡略化は、コードの冗長性を減らし、可読性を向上させます。特に、要素の型名が長い場合に効果的です。
  2. スライス式の簡略化:

    • 変換前: s[a:len(s)]
    • 変換後: s[a:]
    • 詳細: スライス式において、上限がスライスの全長(len(s))である場合、その上限は省略可能です。s[a:len(s)]s[a:]は全く同じ意味を持ちます。後者の形式はより簡潔で、Goの慣用的な書き方とされています。この簡略化は、コードの視覚的なノイズを減らし、意図をより明確にします。
  3. for ... rangeループの簡略化:

    • 変換前: for x, _ = range v {...}
    • 変換後: for x = range v {...}
    • 詳細: for ... rangeループで、2番目の戻り値(通常は値)がブランク識別子_に割り当てられている場合、それはその値が使用されていないことを意味します。Goでは、使用されない変数を宣言することはエラーとなるため、_を使用します。しかし、インデックスのみが必要で値が完全に不要な場合、for x = range vという形式でループを記述できます。この形式は、値が不要であることをより明確に示し、コードを簡潔にします。

これらの簡略化は、Goのコードベース全体で一貫した、より慣用的なスタイルを促進することを目的としています。gofmt -sは、これらのパターンを自動的に検出し、適用することで、開発者が手動でこれらの最適化を行う手間を省きます。

コアとなるコードの変更箇所

変更はsrc/cmd/gofmt/doc.goファイルに対して行われました。これはgofmtコマンドのドキュメントを記述するGoのソースファイルです。

--- a/src/cmd/gofmt/doc.go
+++ b/src/cmd/gofmt/doc.go
@@ -71,6 +71,25 @@ To remove the parentheses:
 To convert the package tree from explicit slice upper bounds to implicit ones:\n \n \tgofmt -r \'α[β:len(α)] -> α[β:]\' -w $GOROOT/src/pkg
+\n+The simplify command
+\n+When invoked with -s gofmt will make the following source transformations where possible.\n+\n+\tAn array, slice, or map composite literal of the form:\n+\t\t[]T{T{}, T{}}\n+\twill be simplified to:\n+\t\t[]T{{}, {}}\n+\n+\tA slice expression of the form:\n+\t\ts[a:len(s)]\n+\twill be simplified to:\n+\t\ts[a:]\n+\n+\tA range of the form:\n+\t\tfor x, _ = range v {...}\n+\twill be simplified to:\n+\t\tfor x = range v {...}\
 */
 package main
 

コアとなるコードの解説

追加されたコードは、src/cmd/gofmt/doc.goファイルの既存のコメントブロック内に、The simplify commandという新しいセクションを導入しています。このセクションは、gofmt-sフラグと共に呼び出されたときに実行される具体的なソースコード変換について説明しています。

  • The simplify command: 新しいドキュメントセクションのタイトル。
  • When invoked with -s gofmt will make the following source transformations where possible.: -sフラグが有効な場合にgofmtが行う変換の概要。
  • An array, slice, or map composite literal of the form: ... will be simplified to: ...: 複合リテラルの簡略化ルールを説明しています。[]T{T{}, T{}}のような冗長な型指定を[]T{{}, {}}のように省略できることを示しています。
  • A slice expression of the form: ... will be simplified to: ...: スライス式の簡略化ルールを説明しています。s[a:len(s)]のような明示的なlen(s)の指定をs[a:]のように省略できることを示しています。
  • A range of the form: ... will be simplified to: ...: for ... rangeループの簡略化ルールを説明しています。for x, _ = range v {...}のように値がブランク識別子に割り当てられている場合に、for x = range v {...}のように値を完全に省略できることを示しています。

これらの追加は、gofmt -sの動作を明確にし、ユーザーがこの機能の恩恵をよりよく理解できるようにするための純粋なドキュメントの変更です。

関連リンク

参考にした情報源リンク