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[インデックス 17619] ファイルの概要

このコミットは、Goランタイムの一部である src/pkg/runtime/sys_freebsd_amd64.s ファイルに対する変更です。このファイルは、FreeBSDオペレーティングシステム上のAMD64アーキテクチャ向けに、Goランタイムがシステムコールを行うためのアセンブリコードを含んでいます。Goランタイムは、ガベージコレクション、スケジューリング、システムコールなど、Goプログラムの実行を支える低レベルな機能を提供します。特に、sys_freebsd_amd64.s のようなファイルは、OS固有のシステムコール規約に合わせたアセンブリ言語での実装が必要となる部分です。

コミット

このコミットは、FreeBSD上でのGoのビルド問題を修正することを目的としています。具体的には、FreeBSD/amd64環境におけるシステムコール命令 SYSCALL の使用に関する問題に対処し、より互換性の高い INT $0x80 命令に切り替えることで、ビルドが成功するようにしています。

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/a70cbf1329e4ca7f3aaa62ab825dd33933c80e9e

元コミット内容

commit a70cbf1329e4ca7f3aaa62ab825dd33933c80e9e
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Mon Sep 16 14:22:24 2013 -0400

    runtime: fix freebsd build
    
    TBR=golang-dev
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/13720044

変更の背景

この変更の背景には、FreeBSD/amd64環境におけるシステムコール命令 SYSCALL の挙動に関する問題がありました。Goランタイムは、OSの機能を利用するためにシステムコールを発行しますが、その際に特定のレジスタ規約に従う必要があります。

コミットメッセージのコメントアウトされた部分に記載されているように、FreeBSD/amd64の SYSCALL 命令は、システムコールの第三引数を R10 レジスタに期待します。しかし、Goランタイムのアセンブリコードがこの規約に合致していなかったため、ビルドエラーや実行時エラーが発生する可能性がありました。

この問題を解決するために、既存のアセンブリコードをすべて書き直すのではなく、より互換性の高い INT $0x80 命令を使用するアプローチが選択されました。INT $0x80 は、LinuxやFreeBSDなどのUnix系システムで広く使われているソフトウェア割り込みによるシステムコール発行メカニズムです。これは SYSCALL 命令よりもわずかに遅い可能性がありますが、正確性を優先して採用されました。

また、コメントには golang.org/issue/6372 というIssueへの参照がありますが、Goの公式Issueトラッカーではこの番号のIssueは直接見つかりませんでした。これは、内部的な追跡番号であるか、あるいは非常に古いIssueで現在はアーカイブされているか、または別のプロジェクトのIssueである可能性が考えられます。しかし、このコミットの文脈から、FreeBSDビルドに関する既知の問題を指していることは明らかです。

前提知識の解説

Goランタイム (Go Runtime)

Goランタイムは、Go言語で書かれたプログラムの実行を管理する低レベルなコンポーネント群です。これには、ガベージコレクタ、ゴルーチン(軽量スレッド)スケジューラ、メモリ管理、そしてオペレーティングシステムとのインタラクション(システムコール)などが含まれます。Goプログラムは、コンパイル時にこのランタイムとリンクされ、自己完結型のバイナリを生成します。

システムコール (System Call)

システムコールは、ユーザー空間で実行されているプログラムが、カーネル空間で提供されるオペレーティングシステム(OS)のサービスを要求するためのメカニズムです。ファイルI/O、ネットワーク通信、メモリ管理、プロセス管理など、OSが提供するほとんどの機能はシステムコールを通じて利用されます。

SYSCALL 命令

SYSCALL は、x86-64アーキテクチャで導入された高速なシステムコール命令です。この命令は、特定のレジスタにシステムコール番号と引数を設定し、カーネルに制御を渡すことでシステムコールを実行します。OSによって、どのレジスタにどの引数を配置するかという「システムコール規約」が異なります。

INT $0x80 命令

INT $0x80 は、x86アーキテクチャで古くから使われているソフトウェア割り込み命令です。0x80 は割り込み番号を示し、この割り込みが発生すると、OSは割り込みハンドラを実行し、システムコールを処理します。SYSCALL と同様に、システムコール番号と引数は特定のレジスタに設定されますが、その規約はOSによって異なります。INT $0x80SYSCALL よりもオーバーヘッドが大きい場合がありますが、より広範な互換性を持つことがあります。

FreeBSD

FreeBSDは、UNIX系のオープンソースオペレーティングシステムです。高性能で安定しており、サーバーや組み込みシステムで広く利用されています。Go言語は、Linux、macOS、Windowsなどと同様に、FreeBSDも公式にサポートしています。

AMD64 (x86-64)

AMD64は、AMDが開発し、Intelも採用している64ビットの命令セットアーキテクチャです。現代のほとんどのデスクトップPCやサーバーで使用されています。

技術的詳細

このコミットの技術的詳細は、FreeBSD/amd64環境におけるシステムコール規約の差異に起因します。

Goランタイムは、システムコールを効率的に行うためにアセンブリ言語で記述されたコードを使用します。FreeBSD/amd64では、SYSCALL 命令を使用する際に、システムコールの引数を特定のレジスタに配置する必要があります。特に、第三引数は R10 レジスタに置かれることが期待されます。

しかし、Goランタイムの既存のアセンブリコードがこのFreeBSD固有の SYSCALL 規約に完全には対応していなかったため、ビルド時に問題が発生していました。具体的には、Goランタイムがシステムコールを呼び出す際に、第三引数を R10 以外のレジスタに配置しようとしていた可能性があります。

この問題を解決するために、開発者は SYSCALL 命令の使用を避け、代わりに INT $0x80 命令を使用することを選択しました。INT $0x80 は、より一般的なシステムコール発行メカニズムであり、FreeBSD/amd64のシステムコール規約において、SYSCALL とは異なるレジスタ規約を持つか、あるいはGoランタイムの既存のアセンブリコードが INT $0x80 の規約により適合していたと考えられます。

コミットのコメントアウトされた部分にあるように、「SYSCALL は第三引数を R10 に期待するが、このファイル内のすべてのアセンブリを書き直す代わりに、INT $0x80 を使用した安全なシミュレーションに SYSCALL#define する」というアプローチが取られました。これは、Goのビルドシステムやアセンブリプリプロセッサが、SYSCALL というシンボルを INT $0x80 を含むアセンブリコードに置き換えることを意味します。これにより、既存のアセンブリコードの大規模な変更を避けつつ、FreeBSDビルドの問題を解決することができました。

この変更は、パフォーマンスの観点からは SYSCALL よりも INT $0x80 がわずかに遅い可能性があることを認識しつつも、「正確性が勝る」という判断に基づいています。これは、ビルドが成功し、プログラムが正しく動作することが最優先されたことを示しています。

コアとなるコードの変更箇所

diff --git a/src/pkg/runtime/sys_freebsd_amd64.s b/src/pkg/runtime/sys_freebsd_amd64.s
index ef3beaedcd..63cd3ac074 100644
--- a/src/pkg/runtime/sys_freebsd_amd64.s
+++ b/src/pkg/runtime/sys_freebsd_amd64.s
@@ -28,7 +28,7 @@
 // but it expects the third argument in R10. Instead of rewriting
 // all the assembly in this file, #define SYSCALL to a safe simulation
 // using INT $0x80.
-/-/
+//
 // INT $0x80 is a little slower than SYSCALL, but correctness wins.
 //
 // See golang.org/issue/6372.

コアとなるコードの解説

このコミットによるコードの変更は非常に小さいですが、その意味は大きいです。

変更されたのは src/pkg/runtime/sys_freebsd_amd64.s ファイル内のコメント行のみです。具体的には、以下の行が変更されました。

-///
+//

これは、元々コメントアウトされていた行の先頭の / を削除し、コメントを有効にする変更です。

この変更自体が直接的なコードの動作を変更するわけではありません。しかし、このコメントは、Goのビルドシステムやアセンブラがどのように SYSCALL 命令を処理するかに関する指示を含んでいます。

元のコメントアウトされた行は、おそらくGoのアセンブラが特定のプリプロセッサディレクティブ(例えば #define のようなもの)を解釈し、SYSCALL というシンボルを INT $0x80 を使用したコードに置き換えるためのメカニズムの一部であったと考えられます。この行をコメントアウトから外すことで、そのメカニズムが有効になり、FreeBSD/amd64環境でのシステムコール発行が INT $0x80 を介して行われるようになります。

つまり、この変更は、アセンブリコードそのものを書き換えるのではなく、ビルドプロセスにおける SYSCALL 命令の解釈方法を変更することで、FreeBSDビルドの問題を回避する賢い方法です。これにより、既存の複雑なアセンブリコードに手を加えることなく、互換性の問題を解決しています。

関連リンク

  • Go Issue Tracker: コミットメッセージに golang.org/issue/6372 と記載されていますが、Goの公式Issueトラッカーでは直接この番号のIssueは見つかりませんでした。これは、内部的な追跡番号であるか、非常に古いIssueである可能性があります。しかし、このコミットの文脈から、FreeBSDビルドに関する既知の問題を指していることは明らかです。

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント (Go Runtime, System Callsに関する一般的な情報)
  • x86-64アーキテクチャのシステムコール規約に関する一般的な知識
  • FreeBSDのシステムコールに関する一般的な知識
  • この解説は、提供されたコミット情報と一般的なGoランタイムおよびシステムプログラミングの知識に基づいて作成されました。