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[インデックス 17714] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のテストスイートにおける blank1.go ファイルの変更に関するものです。具体的には、_ (ブランク識別子) の使用に関するコンパイラのエラーメッセージが、gccgo コンパイラと一致するように調整されています。

コミット

commit 4da408f676087d6e22356e2564a3e23d49440d16
Author: Ian Lance Taylor <iant@golang.org>
Date:   Sat Sep 28 15:19:05 2013 -0700

    test: match gccgo error messages for blank1.go
    
    blank1.go:10:9: error: invalid package name _
    blank1.go:17:2: error: cannot use _ as value
    blank1.go:18:7: error: cannot use _ as value
    blank1.go:20:8: error: invalid use of ‘_’
    
    R=golang-dev, r
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/14088044

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/4da408f676087d6e22356e2564a3e23d49440d16

元コミット内容

test: match gccgo error messages for blank1.go

このコミットは、blank1.go というテストファイルにおいて、gccgo コンパイラが出力するエラーメッセージと、Goの標準コンパイラ (gc) が期待するエラーメッセージを一致させるためのものです。具体的には、ブランク識別子 _ の不正な使用に関するエラーメッセージのパターンを更新しています。

コミットメッセージには、blank1.go で発生する可能性のある特定のエラーメッセージの例が示されています。

  • blank1.go:10:9: error: invalid package name _
  • blank1.go:17:2: error: cannot use _ as value
  • blank1.go:18:7: error: cannot use _ as value
  • blank1.go:20:8: error: invalid use of ‘_’

変更の背景

Go言語には、公式のコンパイラである gc (Go Compiler) の他に、GCC (GNU Compiler Collection) のフロントエンドとして実装された gccgo が存在します。Go言語の仕様は一つですが、異なるコンパイラ実装が存在するため、同じ不正なコードに対して異なるエラーメッセージを出力する可能性があります。

Goのテストスイートは、コンパイラが特定のコードに対してどのようなエラーを報告するかを検証するために、エラーメッセージのパターンマッチングを使用することがよくあります。このコミットの背景には、blank1.go というテストファイルが、_ (ブランク識別子) の不正な使用に関する様々なケースを網羅しており、gcgccgo の両方で期待されるエラーメッセージが一致するように調整する必要があったという事情があります。

特に、_ = t._ のようなケースでは、gcgccgo でエラーメッセージの表現が異なっていたため、テストが両方のコンパイラでパスするように、より柔軟なパターンマッチングが必要とされました。これは、Go言語の進化の過程で、コンパイラの実装が成熟し、エラー報告の一貫性を高めるための継続的な努力の一環と言えます。

前提知識の解説

Go言語のブランク識別子 (_)

Go言語におけるブランク識別子 (_) は、特殊な意味を持つ識別子です。主に以下の目的で使用されます。

  1. 未使用の変数やインポートの抑制: Go言語は、宣言されたが使用されていない変数やインポートをエラーとします。これはコードの品質を保つための設計思想ですが、特定の状況では、値を受け取る必要があるがその値自体は不要な場合があります。このような場合に _ を使用することで、コンパイラにその変数が意図的に未使用であることを伝え、エラーを抑制できます。
    func doSomething() (int, error) {
        // ...
    }
    
    func main() {
        _, err := doSomething() // エラー値のみが必要で、int型の戻り値は不要
        if err != nil {
            // エラー処理
        }
    }
    
  2. パッケージの副作用のためのインポート: パッケージをインポートする際に、そのパッケージの初期化関数 (init 関数) を実行したいだけで、パッケージ内のエクスポートされた識別子を直接使用しない場合にも _ を使用します。
    import _ "net/http/pprof" // pprofパッケージのinit関数を実行し、デバッグ情報を有効にする
    
  3. メソッドの実装の強制: インターフェースを実装する際に、特定のメソッドが不要な場合でも、インターフェースの要件を満たすためにダミーのメソッドを定義し、そのレシーバを _ にすることで、そのメソッドが使用されないことを明示できます。

ブランク識別子の制約

ブランク識別子は非常に便利ですが、その使用にはいくつかの厳格な制約があります。

  • 値としての使用不可: _ は値を保持しないため、通常の変数のように値として使用することはできません。例えば、x := _ + 1 のような操作は不正です。
  • パッケージ名としての使用不可: パッケージ名は有効な識別子である必要がありますが、_ はパッケージ名として使用できません。
  • フィールド名としての使用不可: 構造体のフィールド名として _ を使用することはできません。

これらの制約は、Go言語の型安全性とコードの明確性を保つために設けられています。ブランク識別子は、コンパイラに対して「この値は無視してよい」という指示を与えるものであり、実際のデータやロジックの一部として扱われるものではありません。

Goコンパイラ (gc) と gccgo

  • gc (Go Compiler): Go言語の公式かつ主要なコンパイラです。Go言語のソースコードを直接機械語にコンパイルします。Goの開発チームによってメンテナンスされており、Go言語の最新の機能や最適化が最も早く取り入れられます。
  • gccgo: GCC (GNU Compiler Collection) のフロントエンドとして実装されたGoコンパイラです。GoのソースコードをGCCの中間表現に変換し、その後GCCのバックエンドが機械語にコンパイルします。gccgo は、GCCがサポートする様々なアーキテクチャや最適化を利用できるという利点がありますが、gc と比較してGo言語の最新機能のサポートが遅れることがあります。また、エラーメッセージの形式や詳細が gc と異なる場合があります。

Goのテストスイートでは、これら複数のコンパイラ実装でコードが正しく動作し、期待されるエラーが報告されることを確認するために、両方のコンパイラでテストを実行することが一般的です。

技術的詳細

このコミットの技術的詳細は、Go言語のテストフレームワークにおけるエラーメッセージのパターンマッチングの仕組みと、_ (ブランク識別子) の不正な使用に関するコンパイラの挙動に焦点を当てています。

Goのテストファイルでは、特定の行でコンパイルエラーが発生することを期待する場合、その行のコメントに // ERROR "expected error message" の形式で期待されるエラーメッセージのパターンを記述します。テストランナーは、コンパイル時に出力されるエラーメッセージとこのパターンを比較し、一致すればテストは成功とみなされます。

このコミットでは、test/blank1.go ファイルの以下の行が変更されています。

--- a/test/blank1.go
+++ b/test/blank1.go
@@ -21,7 +21,7 @@ func main() {
  	_()\t// ERROR "cannot use _ as value"
  	x := _+1\t// ERROR "cannot use _ as value"
  	_ = x
-	_ = t._ // ERROR "cannot refer to blank field"\n
+	_ = t._ // ERROR "cannot refer to blank field|invalid use of"\n
  
        var v1, v2 T
        _ = v1 == v2 // ERROR "cannot be compared|non-comparable"\n

変更前は、_ = t._ の行に対して // ERROR "cannot refer to blank field" という単一のエラーメッセージパターンが期待されていました。しかし、gccgo コンパイラはこのケースで異なるエラーメッセージ (invalid use of '_') を出力していたため、テストが失敗していました。

このコミットでは、エラーメッセージのパターンを // ERROR "cannot refer to blank field|invalid use of" に変更しています。これは正規表現の | (OR) 演算子を使用しており、「cannot refer to blank field」または「invalid use of」のいずれかの文字列がエラーメッセージに含まれていれば、テストが成功するようにしています。

この変更により、gcgccgo の両方のコンパイラで blank1.go のテストがパスするようになり、異なるコンパイラ実装間でのテストの一貫性が保たれます。これは、Go言語のコンパイラ開発において、異なる実装間での互換性とテストの堅牢性を確保するための一般的なアプローチです。

コアとなるコードの変更箇所

変更は test/blank1.go ファイルの1行のみです。

--- a/test/blank1.go
+++ b/test/blank1.go
@@ -21,7 +21,7 @@ func main() {
  	_()\t// ERROR "cannot use _ as value"
  	x := _+1\t// ERROR "cannot use _ as value"
  	_ = x
-	_ = t._ // ERROR "cannot refer to blank field"\n
+	_ = t._ // ERROR "cannot refer to blank field|invalid use of"\n
  
        var v1, v2 T
        _ = v1 == v2 // ERROR "cannot be compared|non-comparable"\n

具体的には、24行目のコメント部分が変更されています。

コアとなるコードの解説

変更された行は以下の通りです。

_ = t._ // ERROR "cannot refer to blank field|invalid use of"

この行は、構造体 t のフィールド _ にアクセスしようとしています。Go言語では、構造体のフィールド名としてブランク識別子 _ を使用することはできません。したがって、このコードはコンパイルエラーになることが期待されます。

元のコードでは、期待されるエラーメッセージが "cannot refer to blank field" とされていました。これは gc コンパイラがこのエラーに対して出力するメッセージです。

しかし、gccgo コンパイラは同じ状況で "invalid use of" というメッセージを出力していました。

このコミットによって、期待されるエラーメッセージのパターンが "cannot refer to blank field|invalid use of" に変更されました。この正規表現は、エラーメッセージが「cannot refer to blank field」という文字列を含むか、または「invalid use of」という文字列を含む場合にマッチします。これにより、gcgccgo の両方のコンパイラでこのテストケースが正しく処理されるようになりました。

この変更は、Go言語のテストスイートが、異なるコンパイラ実装の挙動の違いを吸収し、テストの安定性を高めるためにどのように調整されるかを示す良い例です。

関連リンク

参考にした情報源リンク