[インデックス 17757] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリ os/user
パッケージのテストに関する変更です。具体的には、user_test.go
ファイルから、特定のプラットフォームでのみテストを実行するという条件分岐を削除し、サポートされている全てのプラットフォームでテストが実行されるように修正しています。
コミット
commit fba015ecb415ecd84b2d2e2c98f1a6efc09fbd5b
Author: Joel Sing <jsing@google.com>
Date: Mon Oct 7 09:12:17 2013 -0700
os/user: enable tests on all supported platforms
All of the currently supported platforms have a working user
implementation and do not use stubs. As a result, enable the tests
on all platforms rather than whitelisting.
R=golang-dev, dave, iant
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/14454044
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/fba015ecb415ecd84b2d2e2c98f1a6efc09fbd5b
元コミット内容
os/user: enable tests on all supported platforms
現在サポートされている全てのプラットフォームで、ユーザー実装が機能しており、スタブを使用していません。その結果、ホワイトリスト方式ではなく、全てのプラットフォームでテストを有効にします。
変更の背景
このコミットが行われた背景には、Go言語の os/user
パッケージのクロスプラットフォーム対応の成熟があります。以前は、os/user
パッケージが提供するユーザー情報取得機能(例: Lookup
、Current
)は、一部のプラットフォームでは完全に実装されていなかったり、スタブ(仮の実装)が使われていたりする状況がありました。そのため、テストコード user_test.go
では、runtime.GOOS
を用いて現在のOSを判別し、"linux"
, "freebsd"
, "darwin"
, "windows"
, "plan9"
といった特定のプラットフォームでのみテストを実行する「ホワイトリスト」方式が採用されていました。
しかし、コミットメッセージにあるように、このコミットが作成された時点では、Goがサポートする全てのプラットフォームにおいて os/user
パッケージのユーザー情報取得機能が完全に機能するようになっていました。つまり、もはや特定のプラットフォームでのみテストを有効にする必要がなくなり、むしろ全てのサポート対象プラットフォームでテストを実行することで、より広範な環境での動作保証と品質向上が期待できるようになったため、この変更が導入されました。これにより、テストの網羅性が向上し、将来的なプラットフォーム追加や既存プラットフォームでの回帰テストが容易になります。
前提知識の解説
Go言語の os/user
パッケージ
os/user
パッケージは、Goプログラムから現在のシステムユーザーに関する情報を取得するための機能を提供します。これには、現在のユーザーのユーザー名、UID (User ID)、GID (Group ID)、ホームディレクトリなどの情報が含まれます。このパッケージは、オペレーティングシステムに依存するユーザー管理APIを抽象化し、Goプログラムがクロスプラットフォームでユーザー情報を扱えるようにします。
主な関数には以下のようなものがあります。
user.Current()
: 現在のユーザーの情報を返します。user.Lookup(username string)
: 指定されたユーザー名のユーザー情報を返します。user.LookupId(uid string)
: 指定されたUIDのユーザー情報を返します。user.LookupGroup(groupname string)
: 指定されたグループ名のグループ情報を返します。user.LookupGroupId(gid string)
: 指定されたGIDのグループ情報を返します。
これらの関数は、内部的に各OSのシステムコール(例: Linux/Unix系では getpwnam
、getpwuid
、Windowsでは GetUserName
など)を呼び出して情報を取得します。
runtime.GOOS
runtime.GOOS
は、Go言語の runtime
パッケージで提供される定数で、Goプログラムがコンパイルされ、実行されているオペレーティングシステムの名前を表す文字列です。例えば、Linuxでは "linux"
、macOSでは "darwin"
、Windowsでは "windows"
となります。
Go言語では、runtime.GOOS
や runtime.GOARCH
(アーキテクチャ) を利用して、ビルド時に特定のOSやアーキテクチャに特化したコードをコンパイルに含める「ビルドタグ」や、実行時にOSを判別して処理を分岐させる「条件付きコンパイル」のようなメカニズムがよく用いられます。
Go言語のクロスプラットフォームテスト
Go言語はクロスプラットフォーム開発を強く意識しており、標準ライブラリの多くは様々なOSで動作するように設計されています。しかし、OS固有の機能に依存するパッケージ(os/user
など)では、特定のOSでのみ利用可能な機能や、OSによって実装が異なる機能が存在します。
このような場合、テストコードでは runtime.GOOS
を使って、そのテストが実行されるべきOSを判別し、それ以外のOSではテストをスキップする(t.Skip()
や t.Skipf()
を使用)というパターンが一般的でした。これは、テストが失敗する原因がコードのバグではなく、単にそのOSで機能がサポートされていないためである場合に、テストスイート全体が失敗するのを防ぐための措置です。
このコミットは、os/user
パッケージのクロスプラットフォーム実装が成熟し、もはや特定のOSでのみテストをスキップする必要がなくなったことを示しています。
技術的詳細
このコミットの技術的な核心は、src/pkg/os/user/user_test.go
内の check
関数から、プラットフォームをホワイトリスト化してテストをスキップするロジックを削除した点にあります。
元のコードでは、check
関数内で runtime.GOOS
の値に基づいて switch
ステートメントを使用し、"linux"
, "freebsd"
, "darwin"
, "windows"
, "plan9"
のいずれかである場合にのみテストの実行を許可していました。これ以外のOS(例えば、当時Goがサポートしていたが os/user
の実装が不完全だったOSや、将来的にサポートされるOS)では、t.Skipf
を呼び出してテストをスキップしていました。
この変更により、check
関数は implemented
変数(os/user
パッケージがそのプラットフォームで実装されているかどうかを示す内部フラグ)のみをチェックするようになります。implemented
が false
の場合のみテストをスキップし、それ以外の場合は無条件にテストを実行します。
これは以下のことを意味します。
- テストの網羅性の向上: Goがサポートする全てのプラットフォームで
os/user
のテストが実行されるようになります。これにより、特定のOSでのみ発生する可能性のあるバグや、OS間の挙動の差異に起因する問題を早期に発見できるようになります。 - コードの簡素化: プラットフォームごとの条件分岐が削除されたことで、テストコードがより簡潔になり、可読性が向上します。
- メンテナンスの容易性: 新しいOSがGoによってサポートされるようになった場合でも、
os/user
パッケージがそのOSで適切に実装されていれば、テストコードを変更することなく自動的にそのOSでのテストが有効になります。以前のように、新しいOSがサポートされるたびにホワイトリストにOS名を追加する必要がなくなります。 - 実装の成熟の証: この変更は、
os/user
パッケージのクロスプラットフォーム実装が十分に成熟し、全てのサポート対象プラットフォームで安定して機能するようになったという、Go開発チームからの明確なシグナルです。
この変更は、Go言語の標準ライブラリが継続的に改善され、より堅牢でクロスプラットフォームな互換性を持つように進化していることを示しています。
コアとなるコードの変更箇所
変更は src/pkg/os/user/user_test.go
ファイルにのみ行われています。
--- a/src/pkg/os/user/user_test.go
+++ b/src/pkg/os/user/user_test.go
@@ -13,12 +13,6 @@ func check(t *testing.T) {
if !implemented {
t.Skip("user: not implemented; skipping tests")
}
- switch runtime.GOOS {
- case "linux", "freebsd", "darwin", "windows", "plan9":
- // test supported
- default:
- t.Skipf("user: Lookup not implemented on %q; skipping test", runtime.GOOS)
- }
}
func TestCurrent(t *testing.T) {
具体的には、check
関数内の以下の6行が削除されました。
switch runtime.GOOS {
case "linux", "freebsd", "darwin", "windows", "plan9":
// test supported
default:
t.Skipf("user: Lookup not implemented on %q; skipping test", runtime.GOOS)
}
コアとなるコードの解説
削除されたコードブロックは、check
関数内で runtime.GOOS
の値に基づいて条件分岐を行い、テストをスキップするかどうかを決定していました。
switch runtime.GOOS
: 現在のオペレーティングシステムを判別します。case "linux", "freebsd", "darwin", "windows", "plan9":
: これらのOSの場合、テストはそのまま続行されます(コメント// test supported
が示すように、特別な処理は行われません)。default:
: 上記のいずれのOSでもない場合、t.Skipf
を呼び出してテストをスキップします。t.Skipf
は、テストフレームワークに対して「このテストはスキップされた」と通知し、指定されたフォーマット文字列と引数でスキップ理由を出力します。この場合、「user: Lookup not implemented on %q; skipping test
」というメッセージが表示され、%q
の部分には現在のruntime.GOOS
の値が入ります。
このコードが削除されたことにより、check
関数は、os/user
パッケージがそのプラットフォームで実装されているかどうかを示す implemented
変数のみをチェックするようになりました。implemented
が false
であれば、t.Skip("user: not implemented; skipping tests")
が実行され、テストがスキップされます。これは、os/user
パッケージ自体がそのプラットフォームで全く機能しない場合にのみテストをスキップするという、より一般的な条件に変わったことを意味します。
つまり、以前は「特定のOSでのみテストを実行する」というホワイトリスト方式だったものが、このコミットによって「os/user
が実装されていない場合にのみテストをスキップする」という、より柔軟で包括的なアプローチに移行したと言えます。これは、Goのクロスプラットフォームサポートが成熟した結果であり、テストの保守性と網羅性を向上させる変更です。
関連リンク
- Go CL 14454044: https://golang.org/cl/14454044
参考にした情報源リンク
- Go言語
os/user
パッケージのドキュメント: https://pkg.go.dev/os/user - Go言語
runtime
パッケージのドキュメント: https://pkg.go.dev/runtime - Go言語
testing
パッケージのドキュメント: https://pkg.go.dev/testing - Go言語のクロスコンパイルとビルドタグに関する情報 (一般的なGoのドキュメントやブログ記事)