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[インデックス 17783] ファイルの概要

このコミットは、Goコンパイラ(cmd/gc)におけるエラーメッセージの文言を改善することを目的としています。具体的には、変数宣言と定数宣言における構文エラーメッセージを、より明確でユーザーフレンドリーな表現に修正しています。

コミット

commit 7dba510c7b4110ddda93ce9829636e33411267e5
Author: Shenghou Ma <minux.ma@gmail.com>
Date:   Thu Oct 10 22:43:34 2013 -0400

    cmd/gc: re-word some error messages
    Fixes #6557.
    
    R=golang-dev, rsc, tracey.brendan
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/14432053

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/7dba510c7b4110ddda93ce9829636e33411267e5

元コミット内容

cmd/gc: re-word some error messages
Fixes #6557.

R=golang-dev, rsc, tracey.brendan
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/14432053

変更の背景

プログラミング言語のコンパイラにおいて、エラーメッセージの質は開発者の生産性に直結します。不明瞭なエラーメッセージは、問題の特定と解決に時間を要させ、フラストレーションの原因となります。このコミットは、Goコンパイラが生成する特定のエラーメッセージが、ユーザーにとって分かりにくいという問題意識から生まれました。特に、変数や定数の宣言時に発生する構文エラーについて、より具体的で理解しやすいメッセージに改善することで、開発者がコードの誤りを迅速に修正できるよう支援することを目的としています。

コミットメッセージに記載されている Fixes #6557 は、この変更がGoプロジェクトのIssueトラッカーに登録されていた問題番号6557を解決するものであることを示しています。ただし、現在の公開されているGoのIssueトラッカーではこの番号のIssueが見つからないため、これは内部的なIssue番号であったか、あるいは非常に古いIssueであり現在はアーカイブされている可能性があります。

前提知識の解説

Goコンパイラ (cmd/gc)

cmd/gc は、Go言語の公式コンパイラの一つであり、Goソースコードを機械語に変換する役割を担っています。Goのツールチェインの一部として提供され、Goプログラムのビルド時に自動的に呼び出されます。コンパイルの過程で構文解析、型チェック、最適化などを行い、エラーを検出した場合には適切なメッセージを出力します。

宣言 (Declarations)

Go言語における「宣言」とは、変数、定数、型、関数などをプログラム内で使用可能にするための構文です。

  • 変数宣言: var name type = expression または name := expression の形式で変数を宣言します。
  • 定数宣言: const name type = expression の形式で定数を宣言します。定数宣言では、型を省略することも可能です。

エラーメッセージの重要性

コンパイラのエラーメッセージは、プログラマがコードの誤りを理解し、修正するための重要な手がかりです。良いエラーメッセージは以下の特徴を持ちます。

  1. 具体的: 何が間違っているのかを明確に示します。
  2. 場所の特定: エラーが発生したコードの行や位置を正確に示します。
  3. 解決策の示唆: 可能であれば、どのように修正すべきかを示唆します。 このコミットは、特に「具体的」であるという点に焦点を当てています。

yyerror 関数

yyerror は、コンパイラやパーサーの文脈でよく使われるエラー報告関数です。通常、構文解析中にエラーが検出された際に呼び出され、指定されたエラーメッセージを標準エラー出力に出力します。この関数は、Goコンパイラの内部で構文エラーを報告するために使用されています。

技術的詳細

このコミットは、Goコンパイラのソースコード内の src/cmd/gc/dcl.c ファイルに対して行われています。このファイルは、Go言語の宣言(変数、定数など)の処理に関連するロジックを含んでいます。

変更の核心は、yyerror 関数に渡される文字列リテラルを修正することです。以前のエラーメッセージは、例えば「missing expr in var dcl」のように、略語(expr for expression, dcl for declaration)を使用したり、文言がやや不明瞭であったりしました。このコミットでは、これらの略語を完全な単語に展開し、より自然な英語表現に修正することで、メッセージの可読性と理解度を向上させています。

具体的には、以下のエラーメッセージが変更されています。

  1. missing expr in var dclmissing expression in var declaration
    • 変数宣言において、初期化式が不足している場合に表示されるメッセージ。
  2. extra expr in var dclextra expression in var declaration
    • 変数宣言において、余分な初期化式が存在する場合に表示されるメッセージ。
  3. constdcl cannot have type without exprconst declaration cannot have type without expression
    • 定数宣言において、型が指定されているにもかかわらず、値(式)が指定されていない場合に表示されるメッセージ。Goの定数宣言では、型を明示する場合、必ず値を指定する必要があります。
  4. missing expr in const dclmissing value in const declaration
    • 定数宣言において、値が不足している場合に表示されるメッセージ。
  5. extra expr in const dclextra expression in const declaration
    • 定数宣言において、余分な値(式)が存在する場合に表示されるメッセージ。

これらの変更は、コンパイラの動作自体には影響を与えませんが、コンパイルエラーに遭遇した開発者にとって、エラーの原因をより迅速に特定し、修正するための手助けとなります。これは、ユーザーエクスペリエンスの向上という観点から非常に重要な改善です。

コアとなるコードの変更箇所

src/cmd/gc/dcl.c ファイル内の以下の行が変更されています。

--- a/src/cmd/gc/dcl.c
+++ b/src/cmd/gc/dcl.c
@@ -289,7 +289,7 @@ variter(NodeList *vl, Node *t, NodeList *el)\n 	for(; vl; vl=vl->next) {\n 		if(doexpr) {\n 			if(el == nil) {\n-\t\t\t\tyyerror("missing expr in var dcl");\n+\t\t\t\tyyerror("missing expression in var declaration");\n 				break;\n 			}\n 			e = el->n;\
@@ -312,7 +312,7 @@ variter(NodeList *vl, Node *t, NodeList *el)\n 		}\n 	}\n 	if(el != nil)\n-\t\tyyerror("extra expr in var dcl");\n+\t\t\tyyerror("extra expression in var declaration");\n 	return init;\n }\n \n@@ -329,7 +329,7 @@ constiter(NodeList *vl, Node *t, NodeList *cl)\n 	vv = nil;\n 	if(cl == nil) {\n 		if(t != N)\n-\t\t\tyyerror("constdcl cannot have type without expr");\n+\t\t\t\tyyerror("const declaration cannot have type without expression");\n 		cl = lastconst;\n 		t = lasttype;\n 	} else {\
@@ -340,7 +340,7 @@ constiter(NodeList *vl, Node *t, NodeList *cl)\n \n 	for(; vl; vl=vl->next) {\n 		if(cl == nil) {\n-\t\t\t\tyyerror("missing expr in const dcl");\n+\t\t\t\tyyerror("missing value in const declaration");\n 			break;\n 		}\n 		c = cl->n;\
@@ -356,7 +356,7 @@ constiter(NodeList *vl, Node *t, NodeList *cl)\n 		vv = list(vv, nod(ODCLCONST, v, N));\n 	}\n 	if(cl != nil)\n-\t\tyyerror("extra expr in const dcl");\n+\t\t\tyyerror("extra expression in const declaration");\n 	iota += 1;\n 	return vv;\n }\

コアとなるコードの解説

このコードは、Goコンパイラの宣言処理部分、特に変数宣言 (variter 関数)と定数宣言 (constiter 関数)におけるエラーチェックとメッセージ出力を行っています。

  • variter 関数: 変数宣言のイテレーション処理を担当します。

    • if(el == nil) のブロックでは、変数宣言に初期化式が不足している場合にエラーを報告します。以前は "missing expr in var dcl" でしたが、より明確な "missing expression in var declaration" に変更されました。
    • if(el != nil) のブロックでは、変数宣言に余分な初期化式がある場合にエラーを報告します。以前は "extra expr in var dcl" でしたが、より明確な "extra expression in var declaration" に変更されました。
  • constiter 関数: 定数宣言のイテレーション処理を担当します。

    • if(t != N) のブロックでは、定数宣言で型が指定されているにもかかわらず、値が不足している場合にエラーを報告します。以前は "constdcl cannot have type without expr" でしたが、より明確な "const declaration cannot have type without expression" に変更されました。
    • if(cl == nil) のブロックでは、定数宣言に値が不足している場合にエラーを報告します。以前は "missing expr in const dcl" でしたが、より適切な "missing value in const declaration" に変更されました。
    • if(cl != nil) のブロックでは、定数宣言に余分な値がある場合にエラーを報告します。以前は "extra expr in const dcl" でしたが、より明確な "extra expression in const declaration" に変更されました。

これらの変更は、yyerror 関数に渡す文字列リテラルを直接修正するものであり、コンパイラのロジック自体には変更を加えていません。純粋にエラーメッセージの文言を改善することに特化しています。

関連リンク

参考にした情報源リンク