[インデックス 17787] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のビルドシステムにおいて、gccgo
コンパイラが使用するパッケージディレクトリの命名規則を修正するものです。具体的には、パッケージディレクトリ名にGOOS
(オペレーティングシステム)とGOARCH
(アーキテクチャ)の情報を追加することで、cmd/go/build.go
のbuilder.includeArgs
の挙動と一致させるように変更されています。これにより、異なるOSやアーキテクチャ向けのビルドが、それぞれ独立したパッケージディレクトリを持つようになり、ビルドの整合性が向上します。
コミット
commit 5b2f62615970532374c9bd1b48dfe7f7ffef217a
Author: Ian Lance Taylor <iant@golang.org>
Date: Fri Oct 11 16:17:45 2013 -0700
go/build: add GOOS and GOARCH to name of gccgo pkg directory
This matches the behaviour of builder.includeArgs in
cmd/go/build.go.
R=golang-dev, minux.ma
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/14535048
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/5b2f62615970532374c9bd1b48dfe7f7ffef217a
元コミット内容
go/build: add GOOS and GOARCH to name of gccgo pkg directory
This matches the behaviour of builder.includeArgs in
cmd/go/build.go.
変更の背景
Go言語のビルドシステムでは、コンパイルされたパッケージ(ライブラリ)は特定のディレクトリに保存されます。gccgo
はGo言語のフロントエンドを持つGCCコンパイラであり、Goの標準コンパイラ(gc
)とは異なるビルドパスやパッケージ管理の仕組みを持つことがあります。
このコミット以前は、go/build
パッケージがgccgo
用のパッケージディレクトリ名を生成する際に、GOOS
(ターゲットOS)とGOARCH
(ターゲットアーキテクチャ)の情報を考慮していませんでした。しかし、cmd/go/build.go
内のbuilder.includeArgs
は、これらの環境変数を考慮してビルドパスを構築していました。この不一致により、異なるOSやアーキテクチャ向けのgccgo
ビルドが同じパッケージディレクトリを共有してしまう可能性がありました。これは、クロスコンパイルを行う際や、異なる環境でビルドされたパッケージが混在する際に問題を引き起こす可能性があります。
この変更の目的は、go/build
パッケージにおけるgccgo
のパッケージディレクトリ命名規則を、cmd/go/build.go
の既存の挙動と一致させることで、ビルドシステム全体の整合性を高め、異なる環境向けのビルドが適切に分離されるようにすることです。これにより、ビルドの信頼性と予測可能性が向上します。
前提知識の解説
-
GOOS
とGOARCH
:GOOS
はGoプログラムが実行されるターゲットオペレーティングシステム(例:linux
,windows
,darwin
など)を指定する環境変数です。GOARCH
はGoプログラムが実行されるターゲットアーキテクチャ(例:amd64
,arm
,386
など)を指定する環境変数です。- これらの環境変数は、クロスコンパイルを行う際や、特定のプラットフォーム向けに最適化されたバイナリを生成する際に非常に重要です。
-
gccgo
:gccgo
は、GCC(GNU Compiler Collection)のフロントエンドとして実装されたGo言語のコンパイラです。Go言語の標準コンパイラであるgc
とは異なり、GCCの最適化パスやバックエンドを利用できるという特徴があります。gccgo
は、Goの標準ライブラリとは別に、独自のパッケージパスやビルド成果物の管理方法を持つことがあります。
-
go/build
パッケージ:- Go言語の標準ライブラリの一部であり、Goのソースコードパッケージの構造を解析し、ビルドに必要な情報を取得するための機能を提供します。
go build
コマンドなどのGoツールチェインの内部で利用され、ソースファイルの依存関係の解決、パッケージのインポートパスの解決などを行います。
-
cmd/go/build.go
:- Goツールチェインの
go build
コマンドの実装の一部です。 - ビルドプロセス全体を管理し、コンパイラの呼び出し、リンク、パッケージのインストールなどを行います。
builder.includeArgs
は、ビルド時にコンパイラに渡されるインクルードパスなどの引数を生成するロジックの一部であり、GOOS
やGOARCH
を考慮してパスを構築します。
- Goツールチェインの
-
パッケージディレクトリ:
- Go言語では、コンパイルされたパッケージ(
.a
ファイルなど)は、通常、$GOPATH/pkg
以下の特定のディレクトリに保存されます。 - これらのディレクトリは、Goのツールチェインがパッケージを検索し、リンクするために使用されます。
- Go言語では、コンパイルされたパッケージ(
技術的詳細
このコミットの核心は、go/build
パッケージ内のContext.Import
メソッドにおけるgccgo
コンパイラ向けのパッケージアーカイブ(.a
ファイル)のパス生成ロジックの変更です。
変更前は、gccgo
のパッケージアーカイブのパスは以下のように生成されていました。
pkga = "pkg/gccgo/" + dir + "lib" + elem + ".a"
このパスは、pkg/gccgo/
という固定のプレフィックスを使用しており、GOOS
やGOARCH
の情報を一切含んでいませんでした。このため、例えばLinux/amd64でビルドされたgccgo
パッケージと、Windows/amd64でビルドされたgccgo
パッケージが、同じpkg/gccgo/
ディレクトリ以下に保存される可能性がありました。これは、異なるプラットフォーム向けのバイナリが混在し、予期せぬビルドエラーやランタイムエラーを引き起こす原因となります。
このコミットでは、この行が以下のように変更されました。
pkga = "pkg/gccgo_" + ctxt.GOOS + "_" + ctxt.GOARCH + "/" + dir + "lib" + elem + ".a"
この変更により、pkg/gccgo/
の後に_
区切りで現在のContext
オブジェクトが持つGOOS
とGOARCH
の値が追加されるようになりました。例えば、Linux/amd64環境であればpkg/gccgo_linux_amd64/
、Windows/386環境であればpkg/gccgo_windows_386/
といった形で、プラットフォーム固有のディレクトリが生成されるようになります。
この修正は、cmd/go/build.go
内のbuilder.includeArgs
が既にGOOS
とGOARCH
を考慮してビルドパスを構築している挙動と一致させるためのものです。これにより、go/build
パッケージが生成するパッケージディレクトリのパスと、cmd/go
が期待するパスとの間に整合性が生まれ、gccgo
を用いたクロスコンパイルやマルチプラットフォームビルドがより堅牢になります。
結果として、各GOOS
/GOARCH
の組み合わせに対して独立したgccgo
パッケージディレクトリが作成されるため、異なる環境向けのビルド成果物が適切に分離され、ビルドシステムの信頼性が向上します。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/pkg/go/build/build.go
+++ b/src/pkg/go/build/build.go
@@ -445,7 +445,7 @@ func (ctxt *Context) Import(path string, srcDir string, mode ImportMode) (*Packa
switch ctxt.Compiler {
case "gccgo":
dir, elem := pathpkg.Split(p.ImportPath)
- pkga = "pkg/gccgo/" + dir + "lib" + elem + ".a"
+ pkga = "pkg/gccgo_" + ctxt.GOOS + "_" + ctxt.GOARCH + "/" + dir + "lib" + elem + ".a"
case "gc":
suffix := ""
if ctxt.InstallSuffix != "" {
コアとなるコードの解説
変更された行は、src/pkg/go/build/build.go
ファイルのContext.Import
メソッド内にあります。このメソッドは、指定されたインポートパスに基づいてパッケージをインポートする際に呼び出されます。
switch ctxt.Compiler
文は、現在使用されているコンパイラの種類(gccgo
またはgc
)に基づいて異なるロジックを実行します。
変更があったのはcase "gccgo":
のブロック内です。
-
変更前:
pkga = "pkg/gccgo/" + dir + "lib" + elem + ".a"
この行では、
gccgo
コンパイラが生成するパッケージアーカイブ(.a
ファイル)のパスを構築しています。dir
はパッケージのディレクトリ部分、elem
はパッケージ名です。このパスは常にpkg/gccgo/
という固定のプレフィックスで始まっていました。 -
変更後:
pkga = "pkg/gccgo_" + ctxt.GOOS + "_" + ctxt.GOARCH + "/" + dir + "lib" + elem + ".a"
変更後では、
pkg/gccgo/
の代わりにpkg/gccgo_
に続けて、現在のビルドコンテキスト(ctxt
)から取得したGOOS
とGOARCH
の値がアンダースコアで連結されて追加されています。これにより、生成されるパッケージディレクトリのパスは、pkg/gccgo_linux_amd64/
やpkg/gccgo_windows_386/
のように、ターゲットのOSとアーキテクチャに固有のものとなります。
この修正により、gccgo
でビルドされたパッケージは、そのターゲットプラットフォームに応じた専用のディレクトリに保存されるようになり、異なるプラットフォーム向けのパッケージが混在することによる問題を回避します。これは、Goのビルドシステム全体の堅牢性と正確性を向上させるための重要な変更です。
関連リンク
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント
- Go言語のソースコード
- GCCGoに関する情報
- Goのビルドプロセスに関する一般的な知識