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[インデックス 17926] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のツールチェインにおいて、clangコンパイラを使用する際にエラーメッセージのワードラッピングを無効にするための変更を導入しています。具体的には、cmd/dist(Goの配布ツール)とcmd/go(Goコマンドラインツール)がclangを呼び出す際に、-fmessage-length=0というフラグを渡すように修正されています。これにより、clangが出力するエラーメッセージが、端末の幅に合わせて自動的に折り返されることなく、一行で表示されるようになります。

コミット

cmd/dist, cmd/go: clang使用時に-fmessage-length=0を渡す

このオプションは、clangによって生成される個々のエラーメッセージのワードラッピングを無効にします。ラッピングはエラーを読みにくくし、リサイズ可能なターミナルウィンドウの概念と衝突します。

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/79479ac486c15ed5919773f1f28c1eecea19b8b9

元コミット内容

commit 79479ac486c15ed5919773f1f28c1eecea19b8b9
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Mon Dec 9 10:33:27 2013 -0500

    cmd/dist, cmd/go: pass -fmessage-length=0 when using clang
    
    That option turns off word wrapping of individual
    error messages generated by clang. The wrapping
    makes the errors harder to read and conflicts with the
    idea of a terminal window that can be resized.
    
    R=golang-dev, r
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/35810043

変更の背景

この変更の背景には、clangコンパイラが生成するエラーメッセージの表示方法に関するユーザビリティの問題がありました。従来のclangの挙動では、エラーメッセージが特定の行長で自動的にワードラッピング(折り返し)されていました。これは、特に長いエラーメッセージや、構造化された診断情報を含む場合に、メッセージの可読性を著しく低下させる可能性がありました。

開発者は通常、ターミナルウィンドウのサイズを自由に調整して作業を行います。しかし、コンパイラがメッセージを自動的に折り返してしまうと、ターミナルウィンドウの幅を広げてもメッセージが一行に収まらず、視覚的に追いにくくなるという問題がありました。また、自動折り返しは、エラーメッセージの特定の箇所をコピー&ペーストしたり、他のツールで処理したりする際にも不便をもたらすことがあります。

Go言語のビルドシステムは、内部的にCコンパイラ(GCCやClangなど)を呼び出して、Goランタイムや標準ライブラリの一部をコンパイルします。そのため、Go開発者がコンパイルエラーに遭遇した際に、clangの出力するエラーメッセージが読みにくいという問題は、Go開発体験全体に影響を与えていました。

このコミットは、このような問題を解決し、clangのエラーメッセージをより読みやすく、ターミナル環境に適した形式で表示することを目的としています。

前提知識の解説

Clang (LLVM Clang)

Clangは、C、C++、Objective-C、Objective-C++言語のコンパイラフロントエンドです。LLVMプロジェクトの一部として開発されており、高速なコンパイル、詳細な診断メッセージ、モジュール性などの特徴を持っています。特に、その診断メッセージは非常に詳細で、エラーや警告の原因を特定しやすいように設計されています。

コンパイラの診断メッセージ

コンパイラは、ソースコードの構文エラーや意味エラー、潜在的な問題(警告)を検出した際に、その情報をユーザーに伝えるためのメッセージを出力します。これらのメッセージは「診断メッセージ」と呼ばれ、通常はエラーの種類、発生したファイル名、行番号、そして問題の詳細な説明が含まれます。

ワードラッピング (Word Wrapping)

ワードラッピングとは、テキストが特定の行の長さを超えた場合に、自動的に次の行に折り返す処理のことです。テキストエディタやワードプロセッサで一般的に見られる機能ですが、コンパイラの出力においても、メッセージが長すぎる場合に適用されることがあります。

cmd/dist

cmd/distは、Go言語の配布(distribution)ツールであり、GoのソースコードからGoツールチェイン全体をビルドするために使用されます。これはGoのブートストラッププロセスの一部であり、Goのコンパイラ、リンカ、その他のツールを構築する役割を担っています。

cmd/go

cmd/goは、Go言語の公式コマンドラインツールであり、Goプログラムのビルド、テスト、実行、パッケージ管理など、Go開発における主要な操作を提供します。go buildgo runなどのコマンドを実行する際に、内部的にCコンパイラを呼び出すことがあります。

-fmessage-length=0

これはclangコンパイラに渡されるオプションの一つです。

  • -fmessage-lengthは、診断メッセージの行の長さを指定するオプションです。
  • =0を指定することで、メッセージの行の長さに制限を設けず、ワードラッピングを無効にします。これにより、メッセージは可能な限り一行で表示されるようになります。

技術的詳細

このコミットは、Goのビルドシステムがclangコンパイラを呼び出す際に、追加のフラグ-fmessage-length=0を渡すように変更することで、エラーメッセージのワードラッピングを無効にしています。

具体的には、以下の2つのファイルが修正されています。

  1. src/cmd/dist/build.c: cmd/distツールがC/C++コンパイラ(この場合はclang)を呼び出す際の引数を管理する部分です。このファイルは、Goのブートストラッププロセスにおいて、Goランタイムや標準ライブラリの一部をコンパイルするために使用されます。 変更箇所では、clangが使用されている場合に、既存の-fno-caret-diagnostics(診断メッセージのキャレット表示を無効にする)や-Qunused-arguments(未使用のコマンドライン引数に関する警告を抑制する)といったオプションに加えて、-fmessage-length=0が追加されています。

  2. src/cmd/go/build.go: cmd/goツールがC/C++コンパイラを呼び出す際の引数を管理するGo言語のソースファイルです。go buildなどのコマンドがCgoコードやGoランタイムの一部をコンパイルする際に、このロジックが使用されます。 同様に、clangが使用されている場合に、-fno-caret-diagnostics-Qunused-argumentsといったオプションの後に、-fmessage-length=0が追加されています。

これらの変更により、Goのビルドプロセス全体でclangが使用される際に、エラーメッセージのワードラッピングが統一的に無効化されることになります。これにより、開発者はよりクリーンで読みやすいエラー出力を得られるようになります。

コアとなるコードの変更箇所

src/cmd/dist/build.c

--- a/src/cmd/dist/build.c
+++ b/src/cmd/dist/build.c
@@ -677,6 +677,8 @@ install(char *dir)
 		vadd(&gccargs, "-fno-caret-diagnostics");
 		// clang is too smart about unused command-line arguments
 		vadd(&gccargs, "-Qunused-arguments");
+		// disable line wrapping in error messages
+		vadd(&gccargs, "-fmessage-length=0");
 	}
 	if(streq(gohostos, "darwin")) {
 		// golang.org/issue/5261

src/cmd/go/build.go

--- a/src/cmd/go/build.go
+++ b/src/cmd/go/build.go
@@ -1890,6 +1890,8 @@ func (b *builder) ccompilerCmd(envvar, defcmd, objdir string) []string {
 		a = append(a, "-fno-caret-diagnostics")
 		// clang is too smart about command-line arguments
 		a = append(a, "-Qunused-arguments")
+		// disable word wrapping in error messages
+		a = append(a, "-fmessage-length=0")
 	}
 
 	// On OS X, some of the compilers behave as if -fno-common

コアとなるコードの解説

上記のコード変更は、Goのビルドシステムがclangコンパイラを呼び出す際に、コマンドライン引数リストに-fmessage-length=0を追加するものです。

src/cmd/dist/build.c の変更

build.cファイルでは、install関数内でコンパイラの引数を構築しています。clangが使用される条件分岐(おそらくstreq(goos, "darwin")のようなOS判定や、特定のコンパイラ検出ロジック内)において、vadd(&gccargs, ...)という関数呼び出しを使って、gccargsという引数リストに新しいオプションを追加しています。

  • vadd(&gccargs, "-fmessage-length=0"); この行が追加されており、コメント// disable line wrapping in error messagesがその目的を明確に示しています。

src/cmd/go/build.go の変更

build.goファイルでは、builder構造体のccompilerCmdメソッド内でCコンパイラのコマンドと引数を構築しています。ここでも、clangが使用される条件分岐(if b.isClang(cmd)のようなチェック)の中で、引数スライスaにオプションを追加しています。

  • a = append(a, "-fmessage-length=0") この行が追加されており、コメント// disable word wrapping in error messagesがその目的を説明しています。

両方のファイルで同様の変更が行われているのは、Goのビルドプロセスにおいて、cmd/distがGoツールチェイン自体のビルドを担当し、cmd/goがユーザーのGoプログラムのビルドを担当するためです。これにより、Goのブートストラップからユーザーアプリケーションのビルドまで、一貫してclangのエラーメッセージの表示が改善されます。

-fmessage-length=0は、clangの診断メッセージのフォーマットを制御する重要なオプションであり、これを設定することで、ターミナルでのエラーメッセージの視認性が大幅に向上します。

関連リンク

参考にした情報源リンク