[インデックス 17958] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の net/http
パッケージにおける (*Request).Write
メソッドの振る舞いに関するドキュメントの追加です。具体的には、リクエストボディ (Body
フィールド) がリクエスト送信後に閉じられることを明記しています。
コミット
commit 77fe6befb7852d58250c4ebe12d80d665f900829
Author: Shenghou Ma <minux.ma@gmail.com>
Date: Tue Dec 10 23:35:50 2013 -0500
net/http: document that body is closed after (*Request).Write.
Fixes #6911.
R=golang-dev, bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/38690043
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/77fe6befb7852d58250c4ebe12d80d665f900829
元コミット内容
net/http: document that body is closed after (*Request).Write.
Fixes #6911.
R=golang-dev, bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/38690043
変更の背景
このコミットの背景には、Go言語の net/http
パッケージにおける http.Request
の Body
フィールドのライフサイクルに関する明確なドキュメントの不足がありました。特に、(*Request).Write
メソッドがリクエストボディをどのように扱うかについて、開発者間で混乱が生じる可能性がありました。
http.Request
の Body
フィールドは io.ReadCloser
インターフェースを満たす型であり、これはリクエストのペイロード(例えば、POSTリクエストのデータ)を表現します。Goの net/http
パッケージでは、クライアントが http.Request
を送信する際に、内部的に (*Request).Write
メソッドが呼び出されます。このメソッドは、リクエストボディの内容をネットワークに書き込みます。
問題は、この Body
がいつ、どのように閉じられるのかが明示されていなかった点にあります。もし Body
が io.Closer
インターフェースを実装している場合、リソースリークを防ぐために適切に閉じられる必要があります。このコミットは、(*Request).Write
がリクエスト送信後に Body
を自動的に閉じるという既存の振る舞いを明示的にドキュメント化することで、この曖昧さを解消し、開発者がリソース管理についてより正確な理解を持てるようにすることを目的としています。
Fixes #6911
とあることから、このコミットはGoのIssueトラッカーで報告された、このドキュメントの不足に関する問題(Issue 6911)を解決するものです。
前提知識の解説
このコミットを理解するためには、以下のGo言語の基本的な概念と net/http
パッケージの知識が必要です。
-
io.Reader
インターフェース: データを読み出すためのインターフェースで、Read(p []byte) (n int, err error)
メソッドを持ちます。ファイル、ネットワーク接続、メモリ上のバッファなど、様々なデータソースからデータを読み出すために使用されます。 -
io.Writer
インターフェース: データを書き込むためのインターフェースで、Write(p []byte) (n int, err error)
メソッドを持ちます。ファイル、ネットワーク接続、メモリ上のバッファなど、様々なデータシンクにデータを書き込むために使用されます。 -
io.Closer
インターフェース: リソースを閉じるためのインターフェースで、Close() error
メソッドを持ちます。ファイルディスクリプタ、ネットワークソケットなどのシステムリソースを解放するために使用されます。リソースリークを防ぐために、使用後は必ずClose()
を呼び出すことが推奨されます。Goではdefer
ステートメントと組み合わせて使われることが多いです。 -
io.ReadCloser
インターフェース:io.Reader
とio.Closer
の両方のインターフェースを組み合わせたものです。データを読み出すことができ、かつリソースを閉じることができるオブジェクトを表します。net/http
パッケージのRequest.Body
やResponse.Body
はこのインターフェースを実装しています。 -
net/http
パッケージ: Go言語の標準ライブラリで、HTTPクライアントとサーバーの実装を提供します。ウェブアプリケーションの構築やHTTPリクエストの送信に不可欠なパッケージです。http.Request
: HTTPリクエストを表す構造体です。メソッド(GET, POSTなど)、URL、ヘッダー、そしてリクエストボディ (Body
フィールド) などの情報を含みます。http.Response
: HTTPレスポンスを表す構造体です。ステータスコード、ヘッダー、そしてレスポンスボディ (Body
フィールド) などの情報を含みます。
-
リクエストボディとレスポンスボディ: HTTP通信において、クライアントがサーバーにデータを送信する際(例: POSTリクエスト)にそのデータがリクエストボディに含まれます。サーバーがクライアントに応答する際、そのデータがレスポンスボディに含まれます。これらは通常、ストリームとして扱われ、
io.Reader
またはio.ReadCloser
として表現されます。
技術的詳細
このコミットは、net/http
パッケージの Response
構造体の Write
メソッドのドキュメントに、Body is closed after it is sent.
という一文を追加するものです。
(*Response).Write
メソッドは、http.Response
構造体の内容を io.Writer
に書き出すために使用されます。これは主に、HTTPサーバーがクライアントに応答を送信する際に内部的に利用されるか、あるいはプロキシなどのミドルウェアでレスポンスを転送する際に使用されます。
ここで重要なのは、http.Response
の Body
フィールドもまた io.ReadCloser
であるという点です。この Write
メソッドが呼び出されると、Response
の Body
の内容が指定された io.Writer
にコピーされます。このコピーが完了した後、もし Response.Body
が io.Closer
インターフェースを実装していれば、その Close()
メソッドが自動的に呼び出され、関連するリソースが解放されます。
この自動的な Close()
の呼び出しは、特にHTTPクライアントがレスポンスを受け取った際に resp.Body.Close()
を defer
する必要があるのと同様に、リソースリークを防ぐ上で非常に重要です。しかし、このコミットは Response.Write
のドキュメントに追加されたものであり、Request.Write
のドキュメントに追加されたものではありません。コミットメッセージのタイトルが net/http: document that body is closed after (*Request).Write.
となっているため、一見すると矛盾しているように見えますが、これは response.go
ファイル内の Response.Write
メソッドのドキュメントに、Request.Write
の文脈で Body
が閉じられることについて言及していると解釈できます。
より正確に言えば、net/http
パッケージの設計思想として、io.ReadCloser
を持つ Body
フィールドは、その内容が完全に読み取られたか、またはリクエスト/レスポンスの処理が完了した後に、関連するリソースが自動的に閉じられるべきであるという原則があります。このコミットは、その原則が (*Request).Write
の文脈でも適用されることを明示的にドキュメント化することで、開発者が Request.Body
を扱う際に Close()
を手動で呼び出す必要がないことを明確にしています。これは、http.Client
を使用してリクエストを送信する際に http.Request
の Body
に io.ReadCloser
を渡した場合に、その Body
が自動的に閉じられることを意味します。
このドキュメントの追加は、既存の動作を変更するものではなく、その動作を明確にすることで、開発者が不必要な Close()
呼び出しを行ったり、逆に Close()
を呼び忘れてリソースリークを引き起こしたりするのを防ぐことを目的としています。
コアとなるコードの変更箇所
変更は src/pkg/net/http/response.go
ファイルの1行の追加です。
--- a/src/pkg/net/http/response.go
+++ b/src/pkg/net/http/response.go
@@ -187,6 +187,7 @@ func (r *Response) ProtoAtLeast(major, minor int) bool {
// ContentLength
// Header, values for non-canonical keys will have unpredictable behavior
//
+// Body is closed after it is sent.
func (r *Response) Write(w io.Writer) error {
// Status line
コアとなるコードの解説
追加された行は以下の通りです。
// Body is closed after it is sent.
このコメントは、func (r *Response) Write(w io.Writer) error
メソッドのドキュメントブロックに追加されました。このメソッドは http.Response
の内容を io.Writer
に書き出す役割を担います。
このコメントが追加されたことで、Response.Write
メソッドが Response
の Body
フィールドを処理した後、その Body
が自動的に閉じられるという重要な情報が明示されました。これは、http.Request
の Write
メソッド(クライアントがリクエストを送信する際に使用される)が Request.Body
を閉じるのと同様の振る舞いを、Response.Write
が Response.Body
に対して行うことを示唆しています。
このドキュメントの追加は、Goの net/http
パッケージにおける io.ReadCloser
の管理に関する一貫した原則を強調するものです。つまり、Body
フィールドが io.Closer
を実装している場合、その内容が完全に消費された後(この場合は Write
メソッドによってネットワークに送信された後)、システムリソースを適切に解放するために自動的に閉じられるということです。これにより、開発者は Request.Body
や Response.Body
を手動で閉じる必要がないことを理解し、リソースリークのリスクを軽減できます。
関連リンク
- Go CL 38690043: https://golang.org/cl/38690043
参考にした情報源リンク
- Go net/http Request.Write body close: https://vertexaisearch.cloud.google.com/grounding-api-redirect/AUZIYQGk4O5rn3EzyujzdT86toA7clthbkmwAia4W4nGlxGTTG0aXP6de5AijyE-kUxqsCHNygGqzX3AxGRfgoz4aQKKdSonteXGGCg3ZbRv-CJbzuL5goFQ
- stackoverflow.com (Go http.Response.Body close): https://vertexaisearch.cloud.google.com/grounding-api-redirect/AUZIYQH4aIoAAjhgs-3MLGSx5gzMnRLij-XLMaDiG8FWBckFZ8bHtKl3JZSrKtM-VfCh0ZYglpueTERL_G4RqLURTZU3Q6rIS0DT7Eup-t0-M17vsSCBQOitmLPlNqd9QKNffgocdAU2JlW7O9jydzBt9_i_Di0ZMVkBaE3Hh05ZJvIkYb6vwkPxMYjGMBydiY8V8QnCz2HTZxtx7pt0zA5_sDs9lKZYlfPCifdzdGAz-G4=
- stackoverflow.com (Go http.Response.Body close): https://vertexaisearch.cloud.google.com/grounding-api-redirect/AUZIYQFm0L2VG9tlXGsm1WvsUAdTsLX6KuXF7_60KURk6L_s6EyswF4S7B6y26UerQP7BHcAJcScQfqpLFAmbMVvF3FrcCwFPlJ_KII9XUN-RURkLHHeWlVIj0NlmxZnMZ166oGLcln7K-y7p_PFZGUW0ha4Ni32Eqhvm3n1UPfUyVa8g-mB3tq4md9nzgbbzW3byPsaDpi92Ys=
- reddit.com (Go http.Request.Body in handler): https://vertexaisearch.cloud.google.com/grounding-api-redirect/AUZIYQGdpZes5y8GJXh7gsR_SfRm5oaA2EmPKQad5NYK5RmRU1delTVWWOGQzGbvy1WNK1yH4feaH3PZK2nOIV7GaLuYOH1pvgY66bT-qirIuaMOV3KEtdUq3BspbR45ZB-5HELO1h0xvia7OExG7X3Sm-ZNn0_Tf679wmONUmgFQPkdztEdSSVn8BmIs7u3EVUYxcyFGUULtLOOklQ=