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[インデックス 17975] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のテストスイート内のtest/fixedbugs/issue4618.goファイルに対する変更です。このファイルは、特定のバグ(issue 4618)に関連する回帰テストとして機能し、Goプログラムのメモリ割り当て動作を検証することを目的としています。具体的には、AllocsPerRunというヘルパー関数を使用して、特定の関数が実行される際に発生するメモリ割り当ての回数を計測し、期待される割り当て回数と比較します。

コミット

test: adjust issue4618 for gccgo allocation behaviour

このコミットは、issue4618のテストをgccgoコンパイラのメモリ割り当て動作に合わせて調整するものです。

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/bbf762582fd7f45ac5e145021d3f5bed2ea481b3

元コミット内容

test: adjust issue4618 for gccgo allocation behaviour

R=golang-dev, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/41550044
---
 test/fixedbugs/issue4618.go | 3 ++-
 1 file changed, 2 insertions(+), 1 deletion(-)

diff --git a/test/fixedbugs/issue4618.go b/test/fixedbugs/issue4618.go
index 335feaadb0..ff91ae7067 100644
--- a/test/fixedbugs/issue4618.go
+++ b/test/fixedbugs/issue4618.go
@@ -9,6 +9,7 @@ package main
 import (
 	"fmt"
 	"os"
+	"runtime"
 	"testing"
 )

@@ -33,7 +34,7 @@ func main() {
 		fmt.Printf("AllocsPerRun(100, F) = %v, want 1\n", nf)
 		os.Exit(1)
 	}
-	if int(ng) != 0 {
+	if int(ng) != 0 && (runtime.Compiler != "gccgo" || int(ng) != 1) {
 		fmt.Printf("AllocsPerRun(100, G) = %v, want 0\n", ng)
 		os.Exit(1)
 	}

変更の背景

Go言語には、公式のコンパイラであるgc(Go Compiler)と、GCC(GNU Compiler Collection)をバックエンドとして使用するgccgoという、主に2つの主要なコンパイラ実装が存在します。これらのコンパイラは、Goのソースコードを機械語に変換するという同じ目的を持っていますが、その内部実装や最適化戦略には違いがあります。

特に、メモリ割り当ての挙動はコンパイラの実装に大きく依存する可能性があります。AllocsPerRunのような関数は、特定のコードパスが実行される際に発生するヒープ割り当ての数を計測します。これは、パフォーマンス最適化やメモリリークの検出において非常に重要な指標となります。

このコミットの背景には、gccgoが標準のgcコンパイラとは異なるメモリ割り当てパターンを示す場合があるという事実があります。具体的には、AllocsPerRun(100, G)のテストにおいて、gcでは割り当てが0回と期待されるのに対し、gccgoでは1回の割り当てが発生する可能性があったため、テストがgccgo環境で失敗していました。

この変更は、gccgoの特定の割り当て動作を許容することで、テストの堅牢性を高め、両方のコンパイラ実装でテストがパスするようにするために行われました。これは、Go言語が複数のコンパイラ実装をサポートし、それぞれの特性を考慮する必要があることを示しています。

前提知識の解説

AllocsPerRun関数

AllocsPerRunは、Goのtestingパッケージに含まれるヘルパー関数で、ベンチマークテストなどで特定の操作が実行される際のメモリ割り当て回数を計測するために使用されます。

  • 目的: 関数fn回実行したときに発生する平均的なヒープ割り当ての回数を返します。
  • 使い方: testing.AllocsPerRun(n int, f func())のように使用します。nは関数を実行する回数、fは計測対象の関数です。
  • 内部動作: AllocsPerRunは、runtime.MemStats構造体を使用して、関数の実行前後のメモリ統計(特にヒープ割り当てのバイト数やオブジェクト数)を比較することで、割り当て回数を算出します。

runtime.Compiler

runtimeパッケージは、Goランタイムとの相互作用を可能にする関数を提供します。runtime.Compilerは、現在Goプログラムを実行しているコンパイラの名前を示す文字列定数です。

  • :
    • 標準のGoコンパイラ(gc)の場合: "gc"
    • GCCをバックエンドとするGoコンパイラ(gccgo)の場合: "gccgo"
  • 用途: この定数を使用することで、実行時にどのコンパイラが使用されているかを判別し、コンパイラ固有の動作に基づいてコードの挙動を調整することができます。これは、クロスコンパイラ互換性を確保したり、特定のコンパイラ実装の特性に対応したりする際に役立ちます。

Go言語のメモリ割り当て

Go言語はガベージコレクション(GC)を備えた言語であり、開発者が手動でメモリを解放する必要はありません。しかし、プログラムが実行される際には、変数やデータ構造のためにメモリがヒープ上に割り当てられます。

  • ヒープ割り当て: makenewキーワード、あるいはスライスやマップの成長などによって、ヒープメモリが動的に割り当てられます。
  • スタック割り当て: 小さな値や、関数のスコープ内で完結する値は、コンパイラの最適化によってスタックに割り当てられることがあります。スタック割り当てはヒープ割り当てよりも高速で、GCの対象にならないため、パフォーマンスの観点から望ましいとされます。
  • 割り当ての最適化: Goコンパイラは、可能な限りヒープ割り当てを減らすように最適化を行います。しかし、コンパイラの実装(gcgccgoなど)によって、この最適化の度合いや戦略が異なる場合があります。これが、同じGoコードでも異なるコンパイラで実行するとメモリ割り当て回数が変わる原因となることがあります。

技術的詳細

このコミットの核心は、AllocsPerRunによって計測されるメモリ割り当て回数が、コンパイラによって異なる可能性があるという問題に対処することです。

issue4618.goのテストでは、Gという関数(コミット内容には含まれていませんが、AllocsPerRun(100, G)で計測されていることから存在すると推測されます)のメモリ割り当て回数を検証しています。元のテストでは、G関数の割り当て回数が常に0であることを期待していました。

しかし、gccgoコンパイラを使用した場合、G関数の実行時に1回のメモリ割り当てが発生することが判明しました。これは、gcコンパイラとgccgoコンパイラの内部的な最適化やランタイムの挙動の違いに起因すると考えられます。例えば、特定の小さなオブジェクトのスタック割り当ての判断、あるいは内部的なデータ構造の初期化方法などが異なる可能性があります。

この差異は、テストが厳密に「0回の割り当て」を要求している場合、gccgo環境でテストが失敗する原因となります。テストの目的が、特定のバグの回帰を防ぐことであり、かつgccgoの割り当て動作が許容範囲内であると判断されたため、テストの条件を緩和する必要がありました。

変更後のコードでは、runtime.Compilerを使用して現在のコンパイラがgccgoであるかどうかをチェックしています。もしgccgoが使用されており、かつG関数の割り当て回数が1であるならば、その結果を許容するようにテストの条件が変更されました。これにより、gcでは0回の割り当て、gccgoでは0回または1回の割り当てが期待されるようになり、両方のコンパイラでテストがパスするようになりました。

このアプローチは、特定のコンパイラ実装の特性を考慮しつつ、テストの目的(バグの回帰防止)を達成するための実用的な解決策です。

コアとなるコードの変更箇所

変更はtest/fixedbugs/issue4618.goファイルに集中しています。

  1. runtimeパッケージのインポート追加:

    --- a/test/fixedbugs/issue4618.go
    +++ b/test/fixedbugs/issue4618.go
    @@ -9,6 +9,7 @@ package main
     import (
      "fmt"
      "os"
    + "runtime"
      "testing"
     )
    

    runtime.Compilerを使用するために、runtimeパッケージがインポートされました。

  2. AllocsPerRun(100, G)の検証条件の変更:

    --- a/test/fixedbugs/issue4618.go
    +++ b/test/fixedbugs/issue4618.go
    @@ -33,7 +34,7 @@ func main() {
     		fmt.Printf("AllocsPerRun(100, F) = %v, want 1\n", nf)
     		os.Exit(1)
     	}
    -	if int(ng) != 0 {
    +	if int(ng) != 0 && (runtime.Compiler != "gccgo" || int(ng) != 1) {
     		fmt.Printf("AllocsPerRun(100, G) = %v, want 0\n", ng)
     		os.Exit(1)
     	}
    

    if文の条件が変更され、gccgoコンパイラの場合にngAllocsPerRun(100, G)の結果)が1であってもテストが失敗しないように調整されました。

コアとなるコードの解説

変更されたif文の条件式は以下の通りです。

if int(ng) != 0 && (runtime.Compiler != "gccgo" || int(ng) != 1) {

この条件式は、論理AND (&&) と論理OR (||) を組み合わせています。

  1. int(ng) != 0:

    • これは、G関数の割り当て回数ngが0ではない場合に真となります。
    • 元のテストでは、ngが0でない場合は常にエラーとしていました。
  2. (runtime.Compiler != "gccgo" || int(ng) != 1):

    • この括弧内の条件は、int(ng) != 0が真である場合に評価されます。
    • runtime.Compiler != "gccgo": 現在のコンパイラがgccgoではない場合に真となります。つまり、gcコンパイラやその他のコンパイラの場合です。
    • int(ng) != 1: G関数の割り当て回数ngが1ではない場合に真となります。

これらの条件を組み合わせると、if文は以下のいずれかのシナリオで真となり、テストが失敗します。

  • シナリオ1: ngが0ではない AND 現在のコンパイラがgccgoではない。
    • これは、gcコンパイラなどでngが0以外の場合にテストを失敗させます。gcではngが0であることを期待しているため、これは正しい挙動です。
  • シナリオ2: ngが0ではない AND 現在のコンパイラがgccgoであり、かつngが1ではない。
    • これは、gccgoコンパイラでngが0でも1でもない場合にテストを失敗させます。gccgoではngが0または1であることを許容しているため、これ以外の値はエラーとします。

要するに、この変更は、gcコンパイラではG関数の割り当てが厳密に0であることを要求しつつ、gccgoコンパイラでは割り当てが0または1であることを許容するようにテストのロジックを調整しています。これにより、異なるコンパイラ実装間の微妙な動作の違いに対応し、テストの誤検出を防ぎながらも、本来のテスト目的(特定のバグの回帰防止)を維持しています。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント(testingおよびruntimeパッケージ)
  • Go言語のWikiページ(GccgoおよびCompiler
  • コミットメッセージとコードの差分
  • Web検索("Go issue4618", "golang issue 4618", "Go AllocsPerRun", "Go runtime.Compiler", "Go gc vs gccgo allocation")