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[インデックス 18014] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のレース検出ツール (race.bat) のWindowsバッチスクリプトにおいて、ビルドまたはテストの失敗時に適切な終了ステータスを設定する変更を導入しています。これにより、スクリプトの実行結果を外部のプロセスやCI/CDパイプラインが正確に判断できるようになります。

コミット

commit d24019f0fee979d6fdbb85ed29229869bee5b959
Author: Dmitriy Vyukov <dvyukov@google.com>
Date:   Tue Dec 17 15:09:42 2013 +0400

    race.bat: set exit status
    
    R=golang-dev, alex.brainman
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/43340043

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/d24019f0fee979d6fdbb85ed29229869bee5b959

元コミット内容

race.bat: set exit status

変更の背景

Go言語のレース検出ツールは、並行処理におけるデータ競合(データレース)を検出するための強力な機能です。race.batは、Windows環境でこのレース検出ツールを実行するためのバッチスクリプトです。

このコミットが導入される前は、race.batスクリプトが内部で実行するgo test -raceなどのコマンドが失敗した場合でも、スクリプト自体の終了ステータスが常に成功(通常は0)を返してしまう可能性がありました。これは、バッチスクリプトの特性上、明示的に終了ステータスを設定しない限り、最後に実行されたコマンドの終了ステータスが反映されないためです。

CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)システムや自動テスト環境では、スクリプトの終了ステータスをチェックして、その実行が成功したか失敗したかを判断します。race.batが常に成功を返してしまうと、データ競合が検出されたり、ビルドエラーが発生したりしても、CIシステムはそれを検知できず、問題のあるコードがデプロイされてしまうリスクがありました。

この問題を解決するため、race.batが内部で実行されるgo test -raceなどの結果を正確に反映し、スクリプト自体が適切な終了ステータスを返すように変更する必要がありました。

前提知識の解説

データ競合 (Data Race)

データ競合とは、複数のゴルーチン(またはスレッド)が同時に同じメモリ領域にアクセスし、少なくとも1つのアクセスが書き込みであり、かつそれらのアクセスが同期メカニズムによって保護されていない場合に発生するバグです。データ競合は予測不能な動作やクラッシュを引き起こす可能性があり、デバッグが非常に困難です。

Go Race Detector

Go言語には、実行時にデータ競合を検出する組み込みのツール「Race Detector」があります。これは、go build -racego test -raceコマンドを使用することで有効にできます。Race Detectorは、メモリへのアクセスを監視し、データ競合のパターンを検出すると、詳細なレポートを出力してプログラムを終了させます。

バッチスクリプト (.bat) と終了ステータス (Exit Status / Errorlevel)

Windowsのバッチスクリプト(.batファイル)は、コマンドプロンプトで実行される一連のコマンドを記述するためのスクリプト言語です。 バッチスクリプトにおいて、各コマンドの実行後には%ERRORLEVEL%という環境変数にそのコマンドの終了ステータスが設定されます。

  • 0: 成功
  • 非0: 失敗(エラーの種類によって異なる値)

バッチスクリプト自体が特定の終了ステータスで終了するには、exitコマンドを使用します。例えば、exit 1はスクリプトを終了し、終了ステータスとして1を返します。もしexitコマンドが明示的に使用されない場合、スクリプトは最後に実行されたコマンドの%ERRORLEVEL%を自身の終了ステータスとして返すことが期待されますが、複雑なスクリプトでは意図しない動作をすることがあります。

GOBUILDEXITGOBUILDFAIL

このコミットのコード変更を見ると、GOBUILDEXITGOBUILDFAILという変数が使われています。これらは、Goのビルドシステムやテストスクリプト内で、ビルドやテストの成否を示すために内部的に使用される環境変数またはバッチスクリプト内の変数であると推測されます。

  • GOBUILDEXIT: ビルドまたはテストが終了したことを示すフラグ、またはその終了ステータスを保持する変数。
  • GOBUILDFAIL: ビルドまたはテストが失敗したことを示す値(例えば、1)。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、Windowsバッチスクリプトにおける条件付き終了ステータスの設定です。

変更前のrace.batスクリプトは、レース検出テストの実行後、echo All tests passed.というメッセージを出力し、その後:endラベルにジャンプしてスクリプトを終了していました。この場合、スクリプトの終了ステータスは、echoコマンドの成功ステータス(通常は0)に依存するか、あるいはスクリプトの複雑性によっては予期しない値になる可能性がありました。

追加された行 if x%GOBUILDEXIT%==x1 exit %GOBUILDFAIL% は、この問題を解決します。

  1. x%GOBUILDEXIT%==x1: これは、GOBUILDEXITという変数の値が1であるかどうかをチェックする条件式です。バッチスクリプトでは、変数が未定義の場合にエラーを避けるため、xのような文字を前置して比較することが一般的です(例: x%VAR%)。もしGOBUILDEXIT1であれば、それはビルドまたはテストが失敗したことを示唆しています。
  2. exit %GOBUILDFAIL%: 上記の条件が真(GOBUILDEXIT1)の場合、このコマンドが実行されます。exitコマンドはバッチスクリプトを終了させ、%GOBUILDFAIL%の値を終了ステータスとして返します。これにより、race.batスクリプトは、内部で発生したビルド/テストの失敗を正確に外部に伝えることができるようになります。

この変更により、CI/CDシステムや他の自動化ツールは、race.batの終了ステータスをチェックするだけで、Goのレース検出テストが成功したか、それともデータ競合が検出されたり、ビルドエラーが発生したりして失敗したかを確実に判断できるようになります。

コアとなるコードの変更箇所

変更はsrc/race.batファイルに1行追加されています。

--- a/src/race.bat
+++ b/src/race.bat
@@ -53,4 +53,5 @@ goto end
 echo All tests passed.
 
 :end
+if x%GOBUILDEXIT%==x1 exit %GOBUILDFAIL%

コアとなるコードの解説

追加された行は以下の通りです。

if x%GOBUILDEXIT%==x1 exit %GOBUILDFAIL%

この行は、race.batスクリプトの:endラベルの直前に追加されています。

  • if x%GOBUILDEXIT%==x1: この条件文は、GOBUILDEXITという変数の値が文字列1と等しいかどうかをチェックします。xを前置しているのは、変数が空の場合に構文エラーを避けるための一般的なバッチスクリプトのテクニックです。もしGOBUILDEXIT1であれば、それは通常、Goのビルドまたはテストプロセスが失敗したことを示します。
  • exit %GOBUILDFAIL%: GOBUILDEXIT1であった場合、このコマンドが実行されます。exitコマンドは現在のバッチスクリプトの実行を終了させ、%GOBUILDFAIL%変数の値をスクリプトの終了コードとして設定します。これにより、race.batは、内部で発生したエラー(例えば、データ競合の検出によるテストの失敗)を、その終了ステータスを通じて外部に正確に伝達できるようになります。

このシンプルな追加により、race.batの堅牢性が向上し、自動化された環境での利用がより信頼性の高いものになりました。

関連リンク

参考にした情報源リンク