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[インデックス 18118] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の標準ライブラリ crypto/cipher パッケージから、未使用の shift1 関数を削除するものです。コードベースのクリーンアップと保守性の向上を目的としています。

コミット

  • コミットハッシュ: 4133407061407816a66e209f88cff7407cf587e2
  • Author: Shawn Smith shawn.p.smith@gmail.com
  • Date: Fri Dec 27 08:39:54 2013 -0800
  • Subject: crypto/cipher: remove unused shift1 function

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/4133407061407816a66e209f88cff7407cf587e2

元コミット内容

commit 4133407061407816a66e209f88cff7407cf587e2
Author: Shawn Smith <shawn.p.smith@gmail.com>
Date:   Fri Dec 27 08:39:54 2013 -0800

    crypto/cipher: remove unused shift1 function
    
    R=golang-codereviews, bradfitz
    CC=golang-codereviews
    https://golang.org/cl/38990045
---
 src/pkg/crypto/cipher/cipher.go | 10 ----------
 1 file changed, 10 deletions(-)

diff --git a/src/pkg/crypto/cipher/cipher.go b/src/pkg/crypto/cipher/cipher.go
index 1ffaa8c2c3..67afdb1e05 100644
--- a/src/pkg/crypto/cipher/cipher.go
+++ b/src/pkg/crypto/cipher/cipher.go
@@ -46,16 +46,6 @@ type BlockMode interface {
  
 // Utility routines
  
-func shift1(dst, src []byte) byte {
-	var b byte
-	for i := len(src) - 1; i >= 0; i-- {
-		bb := src[i] >> 7
-		dst[i] = src[i]<<1 | b
-		b = bb
-	}
-	return b
-}
-
 func dup(p []byte) []byte {
  	q := make([]byte, len(p))\n \tcopy(q, p)\n

変更の背景

このコミットの背景は非常にシンプルです。crypto/cipher パッケージ内に shift1 という関数が存在していましたが、コードベースのどこからも呼び出されていませんでした。つまり、この関数は未使用であり、デッドコードとなっていました。

未使用のコードを削除することは、ソフトウェア開発においていくつかの重要な利点があります。

  1. コードの簡潔性: 不要なコードがなくなることで、コードベースがより読みやすく、理解しやすくなります。
  2. 保守性の向上: 開発者がコードを理解し、変更を加える際の認知負荷が軽減されます。
  3. 潜在的なバグの削減: 未使用のコードであっても、将来的に誤って呼び出されたり、意図しない副作用を引き起こしたりする可能性があります。また、未使用のコードはテストされていないことが多く、潜在的なバグの温床となることがあります。
  4. セキュリティの向上: 特に暗号ライブラリのようなセキュリティが重視される領域では、コードベースが小さいほど、攻撃対象領域(attack surface)が減少し、脆弱性が潜む可能性が低くなります。
  5. コンパイル時間とバイナリサイズの削減: ごくわずかではありますが、未使用のコードを削除することで、コンパイル時間と最終的なバイナリサイズが削減される可能性があります。

このような理由から、Go言語のプロジェクトでは、未使用のコードは積極的に削除される傾向にあります。

前提知識の解説

crypto/cipher パッケージ

crypto/cipher はGo言語の標準ライブラリの一部であり、共通の暗号化インターフェースとユーティリティを提供します。このパッケージ自体は具体的な暗号アルゴリズム(AES, DESなど)を実装しているわけではありませんが、それらのアルゴリズムが利用するブロック暗号モード(CBC, CTR, GCMなど)やストリーム暗号のインターフェースを定義しています。

  • Block インターフェース: ブロック暗号の基本操作(ブロックサイズの取得、暗号化、復号化)を定義します。
  • BlockMode インターフェース: ブロック暗号を特定のモード(例: CBC)で動作させるためのインターフェースです。このインターフェースを実装することで、複数のブロックを効率的に処理できます。
  • Stream インターフェース: ストリーム暗号のインターフェースを定義します。

このパッケージは、暗号アルゴリズムの実装と、それらを利用するアプリケーションコードの間に抽象化レイヤーを提供し、異なる暗号アルゴリズムやモードを容易に切り替えられるように設計されています。

ビット演算とバイトスライス

shift1 関数はバイトスライス ([]byte) に対してビット演算を行っていました。

  • バイトスライス ([]byte): Go言語におけるバイトのシーケンスを表すデータ構造です。ファイルI/O、ネットワーク通信、暗号化処理など、バイナリデータを扱う際に頻繁に使用されます。
  • ビットシフト演算子:
    • << (左シフト): オペランドのビットを左に指定された数だけシフトします。左端からあふれたビットは破棄され、右端には0が埋められます。x << 1x * 2 と同等です。
    • >> (右シフト): オペランドのビットを右に指定された数だけシフトします。右端からあふれたビットは破棄されます。x >> 1x / 2 と同等です(符号なし整数または非負の符号付き整数)。
  • ビット論理演算子:
    • | (ビットOR): 両方のオペランドの対応するビットのいずれか一方が1であれば、結果のビットは1になります。

shift1 関数は、バイトスライス内の各バイトを左に1ビットシフトし、その際に最上位ビット(MSB)を次のバイトの最下位ビット(LSB)に「繰り越し」ていました。このような操作は、暗号学における特定のモード(例: GCMのGHASH計算の一部)や、有限体(Galois Field)上での乗算など、ビットレベルでの厳密な操作が必要な場面で用いられることがあります。

技術的詳細

削除された shift1 関数のシグネチャは func shift1(dst, src []byte) byte でした。これは、src バイトスライスの内容を左に1ビットシフトした結果を dst バイトスライスに書き込み、同時に、src スライスの最も左のバイト(元の src[0])からあふれた最上位ビットを byte 型で返すことを意図していたと考えられます。

関数の内部ロジックは以下の通りです。

func shift1(dst, src []byte) byte {
	var b byte // キャリービットを保持する変数
	for i := len(src) - 1; i >= 0; i-- { // srcスライスの末尾から先頭に向かってループ
		bb := src[i] >> 7 // 現在のバイトの最上位ビット (MSB) を取得
		dst[i] = src[i]<<1 | b // 現在のバイトを1ビット左シフトし、前のバイトからのキャリービットをLSBに結合
		b = bb // 次のループのために現在のバイトのMSBをキャリービットとして保存
	}
	return b // 最終的なキャリービット(元のsrc[0]のMSB)を返す
}

この関数は、バイト配列全体を1ビット左にシフトする操作を実装しています。例えば、src[0b10000000, 0b00000001] の場合、shift1 を適用すると dst[0b00000000, 0b00000010] となり、戻り値は 1 となるでしょう(src[0] のMSBが繰り越されるため)。

このようなビットシフト操作は、暗号アルゴリズムの内部で、特に有限体上の演算や、特定のブロック暗号モード(例: GCMのGHASH関数)におけるブロックの処理で必要となることがあります。しかし、このコミットの時点で、crypto/cipher パッケージ内の他のコードがこの shift1 関数を呼び出していなかったため、デッドコードとして削除されました。

暗号ライブラリにおいて未使用の関数が存在することは、単なるコードの肥大化以上の問題を引き起こす可能性があります。

  • セキュリティ監査の複雑化: 未使用であっても、コードが存在する限り、セキュリティ監査の対象となります。不要なコードは監査の範囲を広げ、潜在的な脆弱性を見落とすリスクを高めます。
  • 誤解と混乱: 開発者がコードベースを理解しようとする際に、未使用の関数がなぜそこにあるのか、どのような目的で書かれたのかといった疑問が生じ、混乱を招く可能性があります。
  • 将来的な誤用: 未使用の関数が、その意図しない目的で将来的に誤って再利用されるリスクがあります。

したがって、この shift1 関数の削除は、コードベースの健全性を保ち、セキュリティを強化するための適切な措置と言えます。

コアとなるコードの変更箇所

変更は src/pkg/crypto/cipher/cipher.go ファイルのみです。

--- a/src/pkg/crypto/cipher/cipher.go
+++ b/src/pkg/crypto/cipher/cipher.go
@@ -46,16 +46,6 @@ type BlockMode interface {
  
 // Utility routines
  
-func shift1(dst, src []byte) byte {
-	var b byte
-	for i := len(src) - 1; i >= 0; i-- {
-		bb := src[i] >> 7
-		dst[i] = src[i]<<1 | b
-		b = bb
-	}
-	return b
-}
-
 func dup(p []byte) []byte {
  	q := make([]byte, len(p))\n \tcopy(q, p)\n

この差分は、shift1 関数がファイルから完全に削除されたことを示しています。

コアとなるコードの解説

削除された shift1 関数は、バイトスライス src の内容を1ビット左にシフトし、その結果を dst に格納するユーティリティ関数でした。

  • var b byte: src スライス内のバイト間で繰り越される最上位ビット(MSB)を保持するための変数です。
  • for i := len(src) - 1; i >= 0; i--: ループは src スライスの末尾から先頭に向かって逆順に処理します。これは、ビットシフトの際にキャリービットが正しく伝播するようにするためです。
  • bb := src[i] >> 7: 現在のバイト src[i] の最上位ビット(8ビット目のビット)を抽出します。これは、次の(より上位のインデックスの)バイトに繰り越されるビットになります。
  • dst[i] = src[i]<<1 | b:
    • src[i]<<1: 現在のバイト src[i] を1ビット左にシフトします。これにより、最上位ビットは失われ、最下位ビットには0が埋められます。
    • | b: 前のバイト(i+1 の位置のバイト)から繰り越されてきたビット b を、現在のバイトの最下位ビットに結合します。
  • b = bb: 現在のバイトから抽出した最上位ビット bb を、次のループ(より下位のインデックスのバイト)で利用するために b に保存します。
  • return b: ループが終了した後、元の src[0] からあふれた最上位ビットを返します。

この関数は、バイト配列全体をビットレベルで操作する、比較的低レベルなユーティリティでした。しかし、このコミットの時点で、crypto/cipher パッケージ内の他のコードがこの関数を呼び出していなかったため、その存在意義が失われ、削除されることになりました。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント
  • Go言語のGitHubリポジトリ
  • ビット演算に関する一般的な情報