[インデックス 18228] ファイルの概要
このコミットは、Goランタイムのsrc/pkg/runtime/symtab.c
ファイルに対する変更です。symtab.c
は、Goプログラムの実行時に使用されるシンボルテーブル(特にPC-Lineテーブル、pclntab
)の初期化と管理に関連するコードを含んでいます。シンボルテーブルは、プログラムカウンタ(PC)アドレスとソースコードの行番号、関数名などをマッピングするために使用され、デバッグ情報やスタックトレースの生成に不可欠です。
コミット
commit a2edc469a0d4f744c26d3245a6600a02b4ebf426
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date: Mon Jan 13 11:39:04 2014 -0500
runtime: remove redundant 0x prefix in error print
%x already adds the prefix unconditionally
R=golang-codereviews, bradfitz
CC=golang-codereviews
https://golang.org/cl/51550043
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/a2edc469a0d4f744c26d3245a6600a02b4ebf426
元コミット内容
このコミットは、Goランタイム内のエラーメッセージ出力において、冗長な0x
プレフィックスを削除するものです。具体的には、runtime·printf
関数で16進数を出力する際に、フォーマット指定子%x
が既に0x
プレフィックスを無条件に追加するため、コード内で明示的に0x
を記述する必要がないという修正です。
変更の背景
Goランタイムの内部で使用されるruntime·printf
関数は、標準Cライブラリのprintf
に似た機能を提供します。通常、C言語のprintf
において16進数(%x
または%X
)を出力する際、0x
または0X
のプレフィックスを付けるには、#
フラグ(例: %#x
)を使用する必要があります。しかし、Goランタイムの特定のprintf
実装では、%x
フォーマット指定子自体が既に0x
プレフィックスを自動的に付加するようになっています。
このコミットが行われる前は、src/pkg/runtime/symtab.c
内のエラー出力で、runtime·printf("... 0x%x ...", ...)
のように、フォーマット指定子の前に手動で0x
を記述していました。これは、%x
が既に0x
を付加するGoランタイムのprintf
の挙動と重複し、結果として0x0x...
のような冗長な出力になる可能性がありました(あるいは、単にコード上の冗長性として認識されていました)。このコミットは、この冗長性を排除し、コードをよりクリーンにするために行われました。
前提知識の解説
Goランタイム (Go Runtime)
Goランタイムは、Goプログラムの実行を管理するソフトウェアコンポーネントの集合体です。これには、ガベージコレクション、スケジューラ(ゴルーチンの管理)、メモリ割り当て、スタック管理、プリミティブな同期メカニズム、そして低レベルのI/O操作などが含まれます。Goプログラムは、オペレーティングシステム上で直接実行されるのではなく、このランタイム上で動作します。src/pkg/runtime
ディレクトリには、これらのランタイム機能のソースコードが含まれています。
printf
フォーマット指定子と%x
printf
は、C言語とその派生言語(Goランタイムの内部関数も含む)で広く使われる、書式付き出力を行う関数です。フォーマット文字列内の%
で始まるシーケンスは、引数の値をどのように表示するかを指示する「フォーマット指定子」です。
%d
: 10進整数%s
: 文字列%p
: ポインタのアドレス(通常は16進数)%x
または%X
: 符号なし整数を16進数で表示します。%x
は小文字のa-fを使用し、%X
は大文字のA-Fを使用します。
標準Cのprintf
では、%x
はデフォルトで0x
プレフィックスを付けません。プレフィックスを付けるには、%#x
のように#
フラグを使用します。しかし、このコミットの背景にあるように、Goランタイムのruntime·printf
の内部実装では、%x
が既に0x
プレフィックスを無条件に付加するようになっている点が重要です。
シンボルテーブルとpclntab
Goプログラムがコンパイルされると、実行可能ファイルにはデバッグ情報やプロファイリング情報の一部として「シンボルテーブル」が含まれます。シンボルテーブルは、プログラム内の関数名、変数名、ソースコードの行番号と、それらがメモリ上のどのアドレスに対応するかをマッピングするデータ構造です。
pclntab
(PC-Line Table)は、Goランタイムにおけるシンボルテーブルの重要な部分です。これは、プログラムカウンタ(PC、現在実行中の命令のアドレス)から、対応する関数名やソースファイルの行番号を効率的にルックアップするために最適化されたデータ構造です。スタックトレースの生成や、デバッガが現在実行中のコードの場所を特定する際に利用されます。src/pkg/runtime/symtab.c
は、このpclntab
の初期化と検証を行うコードを含んでいます。
技術的詳細
このコミットの技術的詳細は、Goランタイムの内部的なprintf
実装の挙動に集約されます。
src/pkg/runtime/symtab.c
内のruntime·symtabinit
関数は、pclntab
のヘッダが期待される形式であるかを検証します。もしヘッダが不正な場合、エラーメッセージを出力してプログラムを終了させます。
変更前のコードでは、このエラーメッセージの出力にruntime·printf("... 0x%x 0x%x\\n", ...)
という形式が使われていました。ここで、0x
という文字列リテラルが明示的に記述され、その後に%x
フォーマット指定子が続いていました。
コミットメッセージが示すように、Goランタイムのruntime·printf
における%x
の内部実装は、標準Cのprintf
とは異なり、#
フラグがなくても自動的に0x
プレフィックスを付加するようになっています。したがって、0x%x
と書くと、runtime·printf
は0x
というリテラル文字列を出力し、その後に%x
によって生成された値(これも0x
プレフィックスが付いている)を出力することになり、結果として0x0x...
のような冗長な出力、または少なくとも意図しない二重のプレフィックスが発生する可能性がありました。
このコミットは、この冗長な0x
リテラルを削除し、runtime·printf("... %x %x\\n", ...)
とすることで、%x
フォーマット指定子に任せて適切な0x
プレフィックス付きの16進数を出力させるように修正しました。これにより、出力はより正確で意図通りになり、コードも簡潔になりました。この変更は機能的な影響はほとんどなく、主にコードのクリーンアップと正確性の向上を目的としています。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/pkg/runtime/symtab.c
+++ b/src/pkg/runtime/symtab.c
@@ -38,7 +38,7 @@ runtime·symtabinit(void)
// two zero bytes, a byte giving the PC quantum,
// and a byte giving the pointer width in bytes.
if(*(uint32*)pclntab != 0xfffffffb || pclntab[4] != 0 || pclntab[5] != 0 || pclntab[6] != PCQuantum || pclntab[7] != sizeof(void*)) {
-\t\truntime·printf("runtime: function symbol table header: 0x%x 0x%x\\n", *(uint32*)pclntab, *(uint32*)(pclntab+4));
+\t\truntime·printf("runtime: function symbol table header: %x %x\\n", *(uint32*)pclntab, *(uint32*)(pclntab+4));
\t\truntime·throw("invalid function symbol table\\n");
\t}
コアとなるコードの解説
変更はsrc/pkg/runtime/symtab.c
ファイルのruntime·symtabinit
関数内の一行です。
元のコード:
runtime·printf("runtime: function symbol table header: 0x%x 0x%x\\n", *(uint32*)pclntab, *(uint32*)(pclntab+4));
この行では、pclntab
のヘッダが不正な場合にエラーメッセージを出力しています。0x%x
というフォーマット文字列が2回使われており、これはリテラルの0x
と、その後に続く16進数フォーマット指定子%x
を組み合わせたものです。
変更後のコード:
runtime·printf("runtime: function symbol table header: %x %x\\n", *(uint32*)pclntab, *(uint32*)(pclntab+4));
変更点としては、フォーマット文字列から明示的に記述されていた0x
リテラルが削除されました。これにより、%x
フォーマット指定子のみが残ります。Goランタイムのruntime·printf
の%x
が既に0x
プレフィックスを自動的に付加する性質を持つため、この変更によって出力されるメッセージは、依然として0x
プレフィックス付きの16進数を含みますが、冗長な0x
が二重に出力される可能性がなくなります。これは、コードの意図をより明確にし、出力の正確性を保証するためのクリーンアップです。
関連リンク
- Go言語の公式ドキュメント: https://golang.org/doc/
- Goのソースコードリポジトリ: https://github.com/golang/go
- Goの
fmt
パッケージ(ユーザーレベルのprintf
に相当): https://pkg.go.dev/fmt
参考にした情報源リンク
- Goのコミットメッセージと差分情報: https://github.com/golang/go/commit/a2edc469a0d4f744c26d3245a6600a02b4ebf426
- C言語の
printf
フォーマット指定子に関する一般的な情報 (例:man 3 printf
またはオンラインリソース) - Goランタイムの内部実装に関する一般的な知識