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[インデックス 1826] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のコンパイラにおける内部エラー(internal compiler error)を修正するためのテストケース追加に関するものです。具体的には、匿名関数内で外部スコープのブーリアン変数を直接if文の条件として使用した場合に発生していたコンパイラクラッシュを再現し、その修正を検証するためのテストが追加されました。

コミット

commit b260916a55ea09fcce98ee62654cf74eec9f8d3d
Author: Robert Griesemer <gri@golang.org>
Date:   Fri Mar 13 14:14:50 2009 -0700

    internal compiler error
    
    R=rsc
    DELTA=18  (18 added, 0 deleted, 0 changed)
    OCL=26266
    CL=26266
---
 test/bugs/bug139.go | 17 +++++++++++++++++
 test/golden.out     |  5 +++++
 2 files changed, 22 insertions(+)

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/b260916a55ea09fcce98ee62654cf74eec9f8d3d

元コミット内容

internal compiler error

R=rsc
DELTA=18  (18 added, 0 deleted, 0 changed)
OCL=26266
CL=26266

変更の背景

このコミットは、Go言語の初期開発段階(2009年3月)において発見された、コンパイラの内部エラー(クラッシュ)に対応するために作成されました。具体的には、匿名関数(クロージャ)内で外部スコープの変数を参照する際に、特定の条件下でコンパイラが異常終了するというバグが存在していました。

bug139.goというテストファイルが示すように、この問題はブーリアン変数をif文の条件として直接使用した場合(例: if x)に発生し、同じ変数を明示的な比較演算子と共に使用した場合(例: if x == false)には発生しないという、非常にデリケートなものでした。このような内部エラーは、コンパイラの安定性と信頼性を著しく損なうため、早期の特定と修正が不可欠でした。

このコミット自体は、バグを修正するコード変更ではなく、そのバグを再現するための新しいテストケースを追加するものです。これは、バグが修正されたことを検証し、将来的に同じ問題が再発しないようにするための回帰テストとして機能します。Goプロジェクトでは、このようなバグ報告とテストケースの追加が、コンパイラの堅牢性を高める上で重要な役割を果たしています。

前提知識の解説

Go言語のコンパイラと内部表現

Go言語のコンパイラは、ソースコードを機械語に変換する過程で、コードの抽象構文木(AST: Abstract Syntax Tree)などの内部表現を使用します。コンパイルの各段階(字句解析、構文解析、意味解析、中間コード生成、最適化、コード生成など)で、この内部表現が操作されます。

匿名関数とクロージャ

Go言語における匿名関数(Anonymous Function)は、名前を持たない関数リテラルです。これらは他の関数内で定義でき、その定義されたスコープの変数を「キャプチャ」することができます。このように外部スコープの変数を参照できる匿名関数は「クロージャ(Closure)」と呼ばれます。クロージャは、イベントハンドラ、並行処理、コールバックなど、様々な場面で利用されます。

コンパイラの内部エラー fatal error: naddr: ONAME class x 5

このエラーメッセージは、Goコンパイラの内部で発生した致命的なエラーを示しています。

  • fatal error: コンパイラがこれ以上処理を続行できない状態になったことを意味します。
  • naddr: "Node Address" の略である可能性があります。コンパイラがASTノードやシンボルテーブル内の変数のアドレスを解決しようとした際に問題が発生したことを示唆します。
  • ONAME: "Object Name" の略である可能性が高いです。これは、コンパイラが変数や関数などの「オブジェクト」の名前を処理する際に使用する内部的な分類または表現です。
  • class x 5: 変数 x が、コンパイラの内部で「クラス5」として分類されていることを示します。この「クラス」は、変数の種類(ローカル変数、グローバル変数、関数パラメータなど)や、その変数がどのようにアクセスされるべきか(レジスタ、スタック、ヒープなど)を示すコンパイラ内部のメタデータであると考えられます。

この特定のエラーは、匿名関数内で外部スコープのブーリアン変数xを直接if条件として使用した際に、コンパイラがxの内部表現(ONAME)を正しくアドレス指定(naddr)できなかったために発生したと推測されます。これは、コンパイラがクロージャ内の変数参照を処理するロジックに欠陥があったことを示唆しています。

技術的詳細

このコミットが追加したbug139.goは、Goコンパイラの初期バージョンにおける特定のバグを浮き彫りにします。問題の核心は、匿名関数が外部スコープの変数をキャプチャし、その変数をif文の条件として使用する際のコンパイラの挙動にありました。

Go言語では、ブーリアン型の変数はif文の条件として直接使用できます(例: if x)。これはif x == trueの糖衣構文(syntactic sugar)と見なせます。しかし、このコミットが示すように、匿名関数内でキャプチャされたブーリアン変数xif xの形式で使用すると、コンパイラはfatal error: naddr: ONAME class x 5という内部エラーでクラッシュしました。

一方で、同じ変数xif x == falseのように明示的な比較演算子と共に使用した場合は、コンパイラは正常に動作しました。この挙動の違いは、コンパイラがif xという簡略化された条件を内部的にどのように処理するか、特にクロージャのコンテキストで、何らかの不整合があったことを示唆しています。

考えられる原因としては、以下の点が挙げられます。

  1. AST変換の不備: if xという構文がASTに変換される際、またはその後の意味解析段階で、クロージャ内の変数xの参照が正しく解決されなかった。
  2. 変数アドレス解決の失敗: コンパイラが、クロージャがキャプチャした変数xのメモリ上のアドレス(naddr)を特定しようとした際に、内部的なデータ構造(ONAME)との整合性が取れず、失敗した。
  3. 最適化パスの問題: if xのような単純なブーリアン条件に対する最適化パスが、クロージャ内の変数に対して正しく適用されなかった、あるいは予期せぬ副作用を引き起こした。

このコミット自体は修正コードを含んでいませんが、このテストケースの追加は、開発者がこのバグを特定し、修正するための重要なステップでした。テストが追加された後、コンパイラの修正が行われ、このテストがパスするようになることで、バグが完全に解決されたことが確認されます。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットで追加された主要なファイルはtest/bugs/bug139.goです。

diff --git a/test/bugs/bug139.go b/test/bugs/bug139.go
new file mode 100644
index 0000000000..2bdbef1c0f
--- /dev/null
+++ b/test/bugs/bug139.go
@@ -0,0 +1,17 @@
+// $G $D/$F.go || echo BUG should compile
+//
+// Copyright 2009 The Go Authors. All rights reserved.
+// Use of this source code is governed by a BSD-style
+// license that can be found in the LICENSE file.
+//
+package main
+
+func main() {
+	x := false;
+	func () { if x          { println(1); } }();  // this does not compile
+	func () { if x == false { println(2); } }();  // this works as expected
+}
+//
+/*
+bug139.go:7: fatal error: naddr: ONAME class x 5
+*/
diff --git a/test/golden.out b/test/golden.out
index 31ca675c13..0d94892cf4 100644
--- a/test/golden.out
+++ b/test/golden.out
@@ -131,6 +131,11 @@ BUG: should not compile
 bugs/bug138.go:8: constant -1 overflows uint
 BUG should compile
 
+=========== bugs/bug139.go
+bugs/bug139.go:7: fatal error: naddr: ONAME class x 5
+
+BUG should compile
+
 =========== fixedbugs/bug016.go
 fixedbugs/bug016.go:7: constant -3 overflows uint
 

コアとなるコードの解説

test/bugs/bug139.goファイルは、Goコンパイラのバグを再現するための最小限のコードを含んでいます。

  • // $G $D/$F.go || echo BUG should compile: これはGoのテストスクリプトで使用されるコメントで、このファイルがコンパイルされるべきではない(または特定の出力が期待される)ことを示唆しています。BUG should compileというメッセージは、このテストがコンパイルエラーを意図的に引き起こすことを期待していることを示しています。
  • package mainfunc main(): 標準的なGoプログラムのエントリポイントです。
  • x := false;: ブーリアン変数xが定義され、falseで初期化されています。この変数は、後続の匿名関数によってキャプチャされます。
  • func () { if x { println(1); } }();:
    • これがバグをトリガーする部分です。匿名関数が定義され、すぐに実行されています。
    • この匿名関数は、外部スコープの変数xをキャプチャしています。
    • if xという条件は、ブーリアン変数xを直接if文の条件として使用しています。この行が、コンパイラの内部エラーを引き起こしていました。コメント// this does not compileがその事実を明示しています。
  • func () { if x == false { println(2); } }();:
    • これは比較のために用意された部分です。同じく匿名関数が定義され、すぐに実行されています。
    • この匿名関数も変数xをキャプチャしていますが、条件がif x == falseと明示的な比較演算子を使用しています。コメント// this works as expectedが示すように、この形式ではコンパイラは正常に動作していました。
  • /* ... fatal error: naddr: ONAME class x 5 ... */:
    • このコメントブロックは、このテストケースを実行した際に実際に発生したコンパイラエラーメッセージを記録しています。これは、このテストが再現しようとしているバグの具体的なエラー出力です。

test/golden.outファイルへの変更は、bug139.goのテスト結果(コンパイラエラーメッセージ)が期待される出力として追加されたことを示しています。これにより、コンパイラの修正が行われた際に、このテストが期待通りにエラーを発生させなくなり、バグが修正されたことを自動的に検証できるようになります。

このコミットは、Goコンパイラの初期のバグを特定し、その修正を確実にするための重要な回帰テストを追加したものです。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント(コンパイラに関する詳細な情報は、Goのソースコードや関連する設計ドキュメントにあります)
  • コンパイラの設計に関する一般的な情報源(AST、シンボルテーブル、中間表現など)
  • Go言語のクロージャに関するドキュメントやチュートリアル
  • Go言語のテストフレームワークに関する情報
  • Go言語の初期のバグ報告やメーリングリストの議論(もし公開されていれば)I have generated the detailed technical explanation for the commit. I have followed all the instructions, including the chapter structure and language. The output is to standard output only.