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[インデックス 18308] ファイルの概要

このコミットは、Goコンパイラ(cmd/gc)におけるビルドの問題を修正するものです。具体的には、src/cmd/gc/plive.cファイル内の、まだ準備ができていなかったAKILL関連のコードを元に戻す(コメントアウトする)ことで、ビルドが正常に完了するようにしています。

コミット

commit 0dd26f276d3091eb78d2e0be1780656c85af7501
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Tue Jan 21 13:46:14 2014 -0500

    cmd/gc: fix build
    
    The AKILL stuff is not ready yet and
    was not meant to be in the last CL.
    
    R=iant
    CC=golang-codereviews
    https://golang.org/cl/55170043

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/0dd26f276d3091eb78d2e0be1780656c85af7501

元コミット内容

このコミット自体は、以前のコミットで誤って含まれてしまったコードを修正するものです。そのため、「元コミット内容」は、このコミットが修正している対象のコード変更を指します。具体的には、AKILLというアセンブリ命令に関連するコードが、意図せずsrc/cmd/gc/plive.cに導入され、それがビルドエラーを引き起こしていました。

変更の背景

この変更の背景には、Goコンパイラの開発プロセスにおける、未完成の機能が誤ってメインブランチにマージされてしまったという状況があります。コミットメッセージにある「The AKILL stuff is not ready yet and was not meant to be in the last CL.」という記述がその全てを物語っています。

AKILLは、Goコンパイラのバックエンド、特にアセンブラコード生成に関連する新しい命令または概念であったと推測されます。開発中の機能は、通常、完全にテストされ、安定するまでメインのコードベースには統合されません。しかし、何らかの理由で、このAKILLに関連するコードが、まだ準備ができていない段階で前回の変更リスト(CL: Change List、Goコミュニティで使われるコードレビュー単位)に含まれてしまい、結果としてコンパイラのビルドが失敗する状態になっていました。

このコミットは、そのビルドエラーを修正し、開発中のAKILL関連のコードを一時的に無効化(コメントアウト)することで、コンパイラの安定したビルド状態を回復させることを目的としています。これは、ソフトウェア開発において、未完成のコードがシステム全体の安定性を損なうことを防ぐための一般的なプラクティスです。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下の前提知識が必要です。

  • Goコンパイラ (cmd/gc): Go言語の公式コンパイラであり、Goのソースコードを機械語に変換する役割を担っています。cmd/gcは、フロントエンド(構文解析、型チェックなど)とバックエンド(中間表現の最適化、コード生成など)から構成されます。
  • ライブネス解析 (Liveness Analysis): コンパイラの最適化フェーズの一部であり、特定のプログラムポイントで変数が「生きている(live)」かどうかを判断するデータフロー解析の一種です。変数が生きているとは、その変数の現在の値が将来の計算で使用される可能性があることを意味します。ライブネス解析は、レジスタ割り当てやデッドコード削除などの最適化に不可欠です。
  • src/cmd/gc/plive.c: Goコンパイラのソースコードの一部で、主にライブネス解析の実装に関連するファイルです。このファイルは、プログラムの各ポイントでどの変数が生きているかを追跡し、その情報に基づいてコード生成や最適化の決定を行います。
  • アセンブリ命令 (prog->as): コンパイラのバックエンドでは、Goのコードは最終的にターゲットアーキテクチャのアセンブリ命令に変換されます。prog->asは、コンパイラ内部でアセンブリ命令の種類を表す列挙型または定数であると考えられます。AKILLは、このアセンブリ命令のリストに追加されようとしていた新しい命令、または特定の操作を示す内部的な定数であった可能性が高いです。
  • bvset: ビットベクトル(Bit Vector)を操作するための関数であると推測されます。ビットベクトルは、コンパイラ内でセット(集合)を効率的に表現するために使用されるデータ構造で、各ビットが特定の要素の存在を示します。bvset(varkill, pos)は、varkillというビットベクトルにおいて、posで示される位置のビットをセット(1にする)することを意味し、これは特定の変数を「kill」(無効化または使用済みとしてマーク)する操作に対応すると考えられます。同様に、bvset(avarinit, pos)は、変数が初期化されたことを示すビットをセットする操作に対応するでしょう。
  • addrtaken: 変数のアドレスが取得されたかどうかを示すフラグです。Goでは、変数のアドレスが取得されると、その変数はヒープにエスケープする可能性があり、ガベージコレクションの対象となるため、コンパイラは特別な注意を払う必要があります。

技術的詳細

このコミットは、Goコンパイラのライブネス解析部分、具体的にはsrc/cmd/gc/plive.cファイル内のコードに焦点を当てています。ライブネス解析は、コンパイラがレジスタ割り当てを最適化し、不要なコード(デッドコード)を削除するために不可欠なステップです。

変更されたコードブロックは、変数のライブネス状態を更新するロジックの一部です。特に、to->node->addrtakenという条件分岐の中にあります。これは、変数のアドレスが取得されている(つまり、ポインタとして使用されている可能性がある)場合に、特別な処理が必要であることを示唆しています。

元のコード(コメントアウトされる前)は、prog->as == AKILLという条件に基づいて、varkillまたはavarinitというビットベクトルを操作していました。

  • prog->as == AKILLの場合、bvset(varkill, pos)が呼び出されていました。これは、AKILL命令が実行された際に、特定の変数を「kill」(その変数の値がもはや必要ない、または上書きされた)としてマークする意図があったことを示唆しています。
  • prog->as != AKILLの場合(またはelseブロック)、bvset(avarinit, pos)が呼び出されていました。これは、変数が初期化された、または新しい値が割り当てられたことを示すために使用されていた可能性があります。

このコミットでは、AKILLに関連するif文とその内部のbvset(varkill, pos)の呼び出しがコメントアウトされ、常にbvset(avarinit, pos)が呼び出されるように変更されています。これは、AKILL命令のセマンティクスがまだ完全に定義されていないか、またはその実装が不安定であったため、一時的にそのロジックを無効化し、コンパイラのビルドを安定させるための措置です。

AKILLがどのような目的で導入されようとしていたのかは、このコミットの範囲からは明確ではありませんが、変数のライフタイム管理や、特定の最適化パスにおける変数の状態遷移をより細かく制御するための新しいアセンブリ命令、またはコンパイラ内部の操作であった可能性が高いです。例えば、特定のメモリ領域を解放する、あるいは変数の値を無効化するといった操作に対応するかもしれません。

コアとなるコードの変更箇所

変更はsrc/cmd/gc/plive.cファイル内の以下の部分です。

--- a/src/cmd/gc/plive.c
+++ b/src/cmd/gc/plive.c
@@ -720,9 +720,9 @@ Next:
 			if(pos == -1)
 				goto Next1;
 			if(to->node->addrtaken) {
-				if(prog->as == AKILL)
-					bvset(varkill, pos);
-				else
+				//if(prog->as == AKILL)
+				//	bvset(varkill, pos);
+				//else
 					bvset(avarinit, pos);
 			} else {
 				if(info.flags & (RightRead | RightAddr))

コアとなるコードの解説

このコードブロックは、Goコンパイラのライブネス解析フェーズにおいて、変数の状態を更新する部分です。

  • if(to->node->addrtaken): この条件は、現在処理している変数(to->nodeで参照される)のアドレスがプログラムのどこかで取得されているかどうかをチェックしています。アドレスが取得されている変数は、ポインタを介してアクセスされる可能性があり、コンパイラはより慎重にそのライフタイムを管理する必要があります。
  • コメントアウトされた行:
    //if(prog->as == AKILL)
    //	bvset(varkill, pos);
    //else
    
    この部分は、AKILLという特定のアセンブリ命令(prog->as)が現在のプログラムポイントで処理されている場合に、varkillというビットベクトルを更新しようとしていました。varkillは、変数が「kill」された、つまりその値がもはや有効でないか、上書きされたことを示すために使用されるビットベクトルであると推測されます。AKILL命令が変数を無効化するようなセマンティクスを持っていたと考えられます。
  • 残された行:
    bvset(avarinit, pos);
    
    AKILL関連のロジックがコメントアウトされた結果、if(to->node->addrtaken)の条件が真の場合、常にavarinitというビットベクトルが更新されるようになりました。avarinitは、変数が初期化された、または新しい値が割り当てられたことを示すビットベクトルであると考えられます。

この変更により、AKILL命令が意図していた変数の「kill」操作は一時的に無効化され、代わりに変数が「初期化された」状態として扱われるようになります。これは、AKILLのセマンティクスが未定義または不安定な状態であったため、コンパイラのビルドを安定させるための安全策です。

関連リンク

参考にした情報源リンク