[インデックス 18375] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のテストスイートにおけるSIGCHLD
シグナルに関するテスト(test/sigchld.go
)が、Plan 9オペレーティングシステム上でスキップされるように変更するものです。これにより、Plan 9環境でのテストの安定性と互換性が向上します。
コミット
commit 45893ebdb8c7644cb96e7da0d7457bcd55bfd54d
Author: David du Colombier <0intro@gmail.com>
Date: Wed Jan 29 09:28:23 2014 +0100
test: skip SIGCHLD test on Plan 9
LGTM=bradfitz
R=jas, mikioh.mikioh, bradfitz
CC=golang-codereviews
https://golang.org/cl/51200045
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/45893ebdb8c7644cb96e7da0d7457bcd55bfd54d
元コミット内容
test: skip SIGCHLD test on Plan 9
このコミットの目的は、SIGCHLD
シグナルに関連するテストをPlan 9オペレーティングシステム上で実行しないようにすることです。
変更の背景
この変更の背景には、Go言語のテストスイートが様々なオペレーティングシステム上で正しく動作することを確認する必要があるという点があります。SIGCHLD
シグナルは、Unix系システムにおいて子プロセスの状態が変化した際に親プロセスに送信されるシグナルです。例えば、子プロセスが終了したり、停止したり、再開したりした場合に発生します。
しかし、Plan 9はUnixとは異なる設計思想を持つオペレーティングシステムであり、シグナル処理のメカニズムがUnix系システムとは異なります。そのため、UnixのSIGCHLD
シグナルに依存するテストがPlan 9上で期待通りに動作しない、あるいは不適切な振る舞いを引き起こす可能性がありました。
このコミットは、Plan 9環境でのテストの失敗や誤動作を回避し、テストスイート全体の信頼性を向上させるために行われました。特定のOSに依存するテストをそのOSでスキップすることは、クロスプラットフォーム対応のソフトウェア開発において一般的なプラクティスです。
前提知識の解説
SIGCHLDシグナル
SIGCHLD
は、Unix系オペレーティングシステム(Linux, macOS, BSDなど)で定義されている標準シグナルの一つです。このシグナルは、親プロセスがfork()
システムコールなどによって生成した子プロセスの状態が変化した際に、カーネルによって親プロセスに送信されます。
SIGCHLD
が送信される主なケースは以下の通りです。
- 子プロセスの終了: 子プロセスが正常終了したか、異常終了(クラッシュなど)した場合。
- 子プロセスの停止: 子プロセスが
SIGSTOP
やSIGTSTP
などのシグナルによって停止した場合。 - 子プロセスの再開: 停止していた子プロセスが
SIGCONT
シグナルによって再開した場合。
親プロセスはSIGCHLD
シグナルを受け取ることで、子プロセスの状態変化を検知し、適切な処理を行うことができます。例えば、wait()
やwaitpid()
システムコールを使って子プロセスの終了ステータスを回収し、ゾンビプロセス化を防ぐといった処理が一般的です。
Plan 9オペレーティングシステム
Plan 9 from Bell Labsは、ベル研究所で開発された分散オペレーティングシステムです。Unixの設計思想を継承しつつも、より一貫性のあるリソースのファイルシステム化、名前空間の概念、そして異なるマシン間でのリソース共有を重視した設計が特徴です。
Plan 9は、Unixとは異なる多くの点で設計されています。特に、プロセス間通信やイベント通知のメカニズムがUnixのシグナルとは異なります。Plan 9では、すべてのリソースがファイルとして表現され、プロセス間の通信もファイルシステムを介して行われることが一般的です。このため、UnixのSIGCHLD
のようなシグナルベースの通知メカニズムは、Plan 9の設計哲学とは合致しません。
Go言語は、様々なプラットフォームで動作するように設計されており、Plan 9もそのターゲットの一つです。そのため、Goの標準ライブラリやテストスイートは、各プラットフォームの特性に合わせて調整される必要があります。
Go言語のビルドタグ(Build Tags)
Go言語には、特定のファイルが特定の環境でのみコンパイルされるように制御するための「ビルドタグ(Build Tags)」という機能があります。これは、ソースファイルの先頭に// +build tag_name
のようなコメントを記述することで実現されます。
// +build tag1,tag2
:tag1
とtag2
の両方が有効な場合にファイルがコンパイルされます。// +build tag1 tag2
:tag1
またはtag2
のいずれかが有効な場合にファイルがコンパイルされます。// +build !tag
:tag
が有効でない場合にファイルがコンパイルされます。
このコミットでは、!plan9
というビルドタグが使用されており、これは「Plan 9環境ではない場合」にこのファイルがコンパイルされることを意味します。
技術的詳細
このコミットは、test/sigchld.go
ファイルのビルドタグを変更することで、Plan 9環境でのコンパイルをスキップするようにしています。
元のコードでは、以下のビルドタグが記述されていました。
// +build !windows
これは、「Windows環境ではない場合」にこのファイルがコンパイルされることを意味していました。つまり、Unix系システム(Linux, macOSなど)ではコンパイルされ、SIGCHLD
シグナルに関するテストが実行されていました。
このコミットによって、ビルドタグは以下のように変更されました。
// +build !plan9,!windows
この新しいビルドタグは、「Plan 9環境ではない、かつWindows環境ではない場合」にこのファイルがコンパイルされることを意味します。
論理的には、これは以下の条件でファイルがコンパイルされることを示します。
(NOT Plan 9) AND (NOT Windows)
これにより、test/sigchld.go
は以下の環境でコンパイルされなくなります。
- Plan 9:
!plan9
の条件が偽となるため。 - Windows:
!windows
の条件が偽となるため。
結果として、SIGCHLD
シグナルに特化したテストは、Plan 9およびWindows環境では実行されなくなり、これらのOSでのテストの失敗や互換性の問題を回避できます。
コアとなるコードの変更箇所
変更されたファイル: test/sigchld.go
--- a/test/sigchld.go
+++ b/test/sigchld.go
@@ -1,4 +1,4 @@
-// +build !windows
+// +build !plan9,!windows
// cmpout
// Copyright 2009 The Go Authors. All rights reserved.
コアとなるコードの解説
変更はtest/sigchld.go
ファイルの最初の行にあるビルドタグのみです。
-
変更前:
// +build !windows
- この行は、Goコンパイラに対して、このソースファイルがWindows以外のオペレーティングシステムでのみビルドされるべきであることを指示していました。つまり、LinuxやmacOSなどのUnix系システムではこのファイルがコンパイルされ、
SIGCHLD
関連のテストが実行されていました。
- この行は、Goコンパイラに対して、このソースファイルがWindows以外のオペレーティングシステムでのみビルドされるべきであることを指示していました。つまり、LinuxやmacOSなどのUnix系システムではこのファイルがコンパイルされ、
-
変更後:
// +build !plan9,!windows
- この行は、Goコンパイラに対して、このソースファイルがPlan 9およびWindows以外のオペレーティングシステムでのみビルドされるべきであることを指示しています。
!plan9
は「Plan 9ではない」という条件を意味し、!windows
は「Windowsではない」という条件を意味します。- カンマ
,
で区切られているため、これは論理AND条件として解釈されます。つまり、「Plan 9ではなく、かつWindowsでもない」場合にこのファイルがコンパイルされます。 - これにより、Plan 9環境ではこのファイルがコンパイル対象から外され、
SIGCHLD
テストがスキップされるようになります。
この変更は、Goのクロスプラットフォーム対応戦略の一環であり、特定のOSの特性に合わないテストをそのOSで実行しないようにするための、シンプルかつ効果的な方法です。
関連リンク
- Go言語のビルドタグに関する公式ドキュメント(Go 1.13以降の
//go:build
ディレクティブについても言及されている可能性がありますが、このコミット時点では// +build
が主流でした): https://pkg.go.dev/cmd/go#hdr-Build_constraints SIGCHLD
シグナルに関する一般的な情報(Unix/Linuxプログラミングの文脈で): https://man7.org/linux/man-pages/man7/signal.7.html- Plan 9 from Bell Labsの公式ウェブサイト: https://9p.io/plan9/
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント
- Unix/Linuxシグナルに関する一般的な情報源
- Plan 9オペレーティングシステムに関する情報源
- GitHubのコミットページ: https://github.com/golang/go/commit/45893ebdb8c7644cb96e7da0d7457bcd55bfd54d
- Go Code Review: https://golang.org/cl/51200045 (このリンクは古いGo Code Reviewシステムのものであり、現在はGerritベースのシステムに移行しています。)