Keyboard shortcuts

Press or to navigate between chapters

Press S or / to search in the book

Press ? to show this help

Press Esc to hide this help

[インデックス 18438] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のプロファイリングツールであるpprofスクリプトが、Windows環境(特にCygwin経由)でWebプロファイル(SVG形式のグラフ)を正しく開けるようにするための変更です。これにより、WindowsユーザーもpprofのWebインターフェースが提供する視覚的なプロファイリング結果を直接ブラウザで確認できるようになります。

コミット

commit fa3a2a84cc2f4aa10ddb2a205e9fb0656d46ff83
Author: Dmitriy Vyukov <dvyukov@google.com>
Date:   Mon Feb 10 13:52:58 2014 +0400

    misc/pprof: support web profiles on windows
    
    LGTM=bradfitz
    R=golang-codereviews, bradfitz, alex.brainman
    CC=golang-codereviews
    https://golang.org/cl/61260044

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/fa3a2a84cc2f4aa10ddb2a205e9fb0656d46ff83

元コミット内容

--- a/misc/pprof
+++ b/misc/pprof
@@ -730,6 +730,13 @@ sub RunWeb {
      return;
    }
 
+  if (`uname` =~ /CYGWIN/) {
+    # Windows(cygwin): open will use standard preference for SVG files.
+    my $winname = `cygpath -wa $fname`;
+    system("explorer.exe", $winname);
+    return;
+  }
+
    # Some kind of Unix; try generic symlinks, then specific browsers.
    # (Stop once we find one.)
    # Works best if the browser is already running.

変更の背景

Go言語のpprofツールは、プログラムのパフォーマンスプロファイル(CPU使用率、メモリ割り当てなど)を収集し、それを解析・可視化するための強力なツールです。Webプロファイル機能は、プロファイルデータをSVG形式のコールグラフとして生成し、それをWebブラウザで表示することで、視覚的にパフォーマンスボトルネックを特定しやすくします。

しかし、この機能は元々Unix系のシステム(Linux, macOSなど)を主なターゲットとして設計されており、Webプロファイルを開くためのコマンド(例: xdg-open, gnome-open, openなど)がUnix系の環境に特化していました。Windows環境、特にCygwinのようなUnix互換レイヤーを介してpprofスクリプトを実行した場合、これらのUnix系コマンドは利用できず、生成されたSVGファイルを自動的に開くことができませんでした。

このコミットは、WindowsユーザーがCygwin環境でpprofを使用する際に、生成されたWebプロファイルをシームレスに開けるようにするためのものです。これにより、Windows上でのGo言語開発におけるプロファイリングのワークフローが改善されます。

前提知識の解説

Go pprof

pprofは、Go言語の標準ライブラリに含まれるプロファイリングツールです。Goプログラムの実行中にCPU使用率、ヒープメモリ割り当て、Goroutineのスタックトレース、ブロックプロファイルなどを収集できます。収集されたプロファイルデータは、テキスト形式で表示したり、グラフ形式(SVGなど)で可視化したりすることが可能です。Webプロファイルは、特にコールグラフを視覚的に表示する際に非常に有用で、どの関数がどれだけのCPU時間やメモリを消費しているかを一目で把握できます。

WebプロファイルとSVG

pprofのWebプロファイル機能は、プロファイルデータを基にSVG (Scalable Vector Graphics) 形式の画像を生成します。SVGはXMLベースのベクター画像フォーマットであり、拡大・縮小しても画質が劣化しないという特徴があります。Webブラウザは通常、SVGファイルを直接表示する機能を備えています。pprofは、このSVGファイルを生成した後、OSのデフォルトのアプリケーション(通常はWebブラウザ)で開こうとします。

Cygwin

Cygwinは、Windows上でUnixライクな環境を提供するソフトウェアコレクションです。GNUツールチェイン(GCC, makeなど)や多くのUnixユーティリティ(bash, grep, awkなど)をWindows上で利用できるようにします。これにより、Unix/Linux向けに書かれたスクリプトやプログラムを、WindowsのネイティブなAPIを直接呼び出すことなく、比較的容易に実行できるようになります。Go言語のツールチェーンもCygwin環境で利用されることがあります。

unameコマンド

unameはUnix系のシステムで、システム情報を表示するコマンドです。unameコマンドの出力は、オペレーティングシステムのカーネル名、ホスト名、カーネルバージョン、ハードウェア名などを含みます。Cygwin環境でunameを実行すると、通常は出力に"CYGWIN"という文字列が含まれます。このコミットでは、unameの出力に"CYGWIN"が含まれるかどうかをチェックすることで、現在の実行環境がCygwinであるかどうかを判定しています。

cygpathコマンド

cygpathはCygwinに特有のユーティリティで、Unix形式のパスとWindows形式のパス(DOSパス、UNCパスなど)を相互に変換するために使用されます。

  • -w: Windows形式のパスに変換します。
  • -a: 絶対パスに変換します。
  • -wa: Windows形式の絶対パスに変換します。 pprofスクリプトはUnix形式のパスでファイル名を扱いますが、Windowsのネイティブアプリケーション(explorer.exeなど)はWindows形式のパスを期待するため、この変換が必要になります。

explorer.exe

explorer.exeはWindowsのシェルプログラムであり、ファイルエクスプローラーのプロセスです。コマンドラインからexplorer.exe <ファイルパス>を実行すると、指定されたファイルをそのファイルの関連付けられたデフォルトアプリケーションで開くことができます。例えば、.svgファイルがWebブラウザに関連付けられていれば、explorer.exeはそのSVGファイルをWebブラウザで開きます。

技術的詳細

misc/pprofスクリプトはPerlで書かれており、プロファイルデータの解析と可視化を担当しています。Webプロファイルを表示する際には、RunWebサブルーチンが呼び出されます。このサブルーチンは、生成されたSVGファイルをOSのデフォルトアプリケーションで開くためのロジックを含んでいます。

変更前のRunWebサブルーチンは、主にUnix系の環境を想定しており、xdg-open, gnome-open, openといったコマンドを順に試してSVGファイルを開こうとしていました。これらのコマンドはWindows(Cygwin)環境では利用できないため、Webプロファイルを開くことができませんでした。

このコミットでは、RunWebサブルーチンに以下のロジックが追加されました。

  1. 環境判定: unameコマンドの出力に"CYGWIN"という文字列が含まれるかどうかを正規表現でチェックします。これにより、スクリプトがCygwin環境で実行されていることを検出します。

    if (`uname` =~ /CYGWIN/) {
    

    バッククォート(`)はPerlにおいて外部コマンドを実行し、その標準出力を文字列として取得するための構文です。

  2. パス変換: Cygwin環境であることが検出された場合、生成されたSVGファイルのパス($fname変数に格納されている)を、Windowsが理解できる形式に変換します。これにはcygpath -waコマンドが使用されます。

    my $winname = `cygpath -wa $fname`;
    

    $winname変数には、例えば/tmp/pprof001.svgのようなCygwinパスがC:\cygwin\tmp\pprof001.svgのようなWindowsパスに変換されて格納されます。

  3. ファイルオープン: 変換されたWindowsパスを使用して、explorer.exeコマンドを実行し、SVGファイルを開きます。

    system("explorer.exe", $winname);
    

    system関数はPerlにおいて外部コマンドを実行するための関数です。ここでは、explorer.exeを直接呼び出し、変換されたWindowsパスを引数として渡しています。これにより、Windowsのファイル関連付けメカニズムが働き、通常はデフォルトのWebブラウザでSVGファイルが開かれます。

この変更により、pprofスクリプトはCygwin環境を特別に扱い、Windowsネイティブのファイルオープンメカニズムを利用することで、Webプロファイルの表示問題を解決しています。

コアとなるコードの変更箇所

変更はmisc/pprofファイル内のRunWebサブルーチンに集中しています。

--- a/misc/pprof
+++ b/misc/pprof
@@ -730,6 +730,13 @@ sub RunWeb {
      return;
    }
 
+  if (`uname` =~ /CYGWIN/) {
+    # Windows(cygwin): open will use standard preference for SVG files.
+    my $winname = `cygpath -wa $fname`;
+    system("explorer.exe", $winname);
+    return;
+  }
+
    # Some kind of Unix; try generic symlinks, then specific browsers.
    # (Stop once we find one.)
    # Works best if the browser is already running.

具体的には、既存のUnix系コマンドを試すロジックの前に、Cygwin環境を検出してWindows固有の処理を行うための7行が追加されています。

コアとなるコードの解説

追加されたコードブロックは以下の通りです。

  if (`uname` =~ /CYGWIN/) {
    # Windows(cygwin): open will use standard preference for SVG files.
    my $winname = `cygpath -wa $fname`;
    system("explorer.exe", $winname);
    return;
  }
  • if (uname =~ /CYGWIN/):

    • unameコマンドを実行し、その出力(例: CYGWIN_NT-6.1-WOW64 ...)を取得します。
    • 正規表現/CYGWIN/を使用して、出力文字列に"CYGWIN"が含まれているかをチェックします。
    • もし含まれていれば、現在の環境がCygwinであると判断し、ifブロック内の処理を実行します。
  • # Windows(cygwin): open will use standard preference for SVG files.:

    • コメント行で、このブロックの目的を説明しています。Windowsのファイル関連付け機能を利用してSVGファイルを開くことを意図しています。
  • my $winname = cygpath -wa $fname;:

    • $fnameは、pprofスクリプト内で生成されたSVGファイルへのパス(Cygwin形式のパス)を保持する変数です。
    • cygpath -wa $fnameを実行し、$fnameで指定されたCygwinパスをWindows形式の絶対パスに変換します。
    • 変換されたWindowsパスは$winname変数に格納されます。
  • system("explorer.exe", $winname);:

    • explorer.exeコマンドを実行し、$winnameで指定されたファイルをWindowsのデフォルトアプリケーションで開くように指示します。
    • これにより、通常はWebブラウザが起動し、生成されたSVG形式のWebプロファイルが表示されます。
  • return;:

    • explorer.exeによるファイルオープンが成功した場合、これ以上他のファイルオープン方法を試す必要がないため、RunWebサブルーチンから即座に抜けます。

この変更は、クロスプラットフォーム対応において、OS固有の挙動を適切にハンドリングするための典型的なアプローチを示しています。

関連リンク

参考にした情報源リンク