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[インデックス 18504] ファイルの概要

このコミットは、Goランタイムのメモリ管理に関するコメントの更新です。具体的には、src/pkg/runtime/malloc.hファイル内のMSpan.needzeroフィールドと、メモリのゼロ初期化に関する説明を修正しています。これは、以前の変更(CL 57680046)で提案された改善点を見落としていたことに対する修正です。

コミット

commit e8ecd9f67ad32008c973bba38b505d53373953e0
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Thu Feb 13 14:31:48 2014 -0500

    runtime: update malloc comment for MSpan.needzero
    
    Missed this suggestion in CL 57680046.
    
    LGTM=iant
    R=iant
    CC=golang-codereviews
    https://golang.org/cl/63390043

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/e8ecd9f67ad32008c973bba38b505d53373953e0

元コミット内容

このコミットは、Goランタイムのメモリ割り当てに関するコメントを更新するものです。特に、MSpan.needzeroフィールドの動作と、ページヒープからのメモリ割り当てにおけるゼロ初期化の挙動について、より正確な説明を提供するように修正されています。これは、以前の変更セット(CL 57680046)で提案された改善点を見落としていたことに対するフォローアップです。

変更の背景

Goランタイムのメモリ管理は、パフォーマンスと効率性を最大化するために非常に複雑な設計になっています。その中でも、新しく割り当てられたメモリ領域をゼロで初期化するかどうかは、セキュリティとパフォーマンスの両面で重要な考慮事項です。Goでは、ポインタを含む可能性のあるメモリはゼロ初期化されることが保証されていますが、それ以外のデータ(例えば、スタックフレーム上のプリミティブ型)は必ずしもゼロ初期化されません。

このコミットの背景には、Goのメモリ割り当て器(mheapmcentralmcache)がどのように連携してメモリを管理し、いつメモリがゼロ初期化されるかについてのドキュメントの正確性を向上させるという目的があります。特に、MSpan構造体に含まれるneedzeroフラグの役割について、既存のコメントが十分に明確でなかったため、その説明を修正する必要がありました。

以前のCL(変更リスト)57680046で、メモリゼロ初期化の遅延に関する議論が行われ、その中でMSpan.needzeroに関するコメントの改善が提案されました。このコミットは、その提案が以前のCLで取り込まれていなかったことに対する修正であり、ドキュメントの正確性を保つためのものです。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、Goランタイムのメモリ管理の基本的な概念を理解しておく必要があります。

  1. Goのメモリ割り当て器 (Go Memory Allocator): Goのメモリ割り当て器は、大きく分けて3つの層で構成されています。

    • MCache (Memory Cache): 各P(プロセッサ、OSスレッドに相当)にローカルなキャッシュです。小さなオブジェクトの割り当てを高速化するために使用されます。ロックフリーでアクセスできます。
    • MCentral (Memory Central): 複数のMCache間で共有されるメモリプールです。MCacheがメモリを使い果たしたときに、MCentralからメモリを取得します。また、MCacheがメモリをMCentralに返すこともあります。
    • MHeap (Memory Heap): システムからメモリを要求し、それをMCentralに提供するグローバルなヒープです。大きなオブジェクトの割り当てや、MCentralへのメモリ供給を行います。
  2. MSpan: MSpanは、Goランタイムのメモリ管理における基本的な単位です。これは、連続したページ(通常は8KB)のブロックを表します。MSpanは、特定のサイズのオブジェクトを格納するために使用されるか、または大きなオブジェクトのために直接割り当てられます。MSpan構造体には、そのスパンの状態(空き、使用中、特定のオブジェクトサイズ用など)や、ゼロ初期化が必要かどうかを示すフラグなどが含まれます。

  3. ゼロ初期化 (Zeroing): Goでは、新しく割り当てられたメモリは、そのメモリがポインタを含む可能性がある場合、ゼロで初期化されることが保証されています。これは、セキュリティ上の理由(以前のデータが漏洩するのを防ぐ)と、プログラマが未初期化のメモリにアクセスするバグを防ぐためです。しかし、すべてのメモリ割り当てが常にゼロ初期化されるわけではありません。例えば、スタックフレーム上のプリミティブ型は、コンパイラがゼロ初期化が不要であると判断した場合、ゼロ初期化されないことがあります。 メモリのゼロ初期化はコストのかかる操作であるため、Goランタイムは可能な限りゼロ初期化を遅延させたり、スキップしたりすることでパフォーマンスを最適化しています。

  4. MSpan.needzero: MSpan構造体内のneedzeroフィールドは、そのスパンがゼロ初期化を必要とするかどうかを示すフラグです。このフラグは、スパンがページヒープから取得され、小さなオブジェクトに分割される際に、そのオブジェクトがゼロ初期化されるべきかどうかを制御します。

技術的詳細

このコミットは、src/pkg/runtime/malloc.hファイル内のコメントブロックを修正しています。このコメントブロックは、Goランタイムのメモリ割り当て器におけるゼロ初期化の挙動について説明しています。

修正前のコメントでは、ページヒープ内のスパンは常にゼロ初期化されると記述されていました。しかし、これはMSpan.needzeroの存在と矛盾する可能性があり、誤解を招く表現でした。

修正後のコメントでは、この点がより正確に記述されています。

  • 変更点1: 「ページヒープ内のスパンは常にゼロ初期化される」という記述が、「ページヒープ内のスパンは、s->needzeroが設定されていない限りゼロ初期化される」という記述に修正されました。 これは、MSpan.needzeroフラグが、スパンがゼロ初期化されるべきかどうかを制御する主要なメカニズムであることを明確にしています。つまり、needzeroが設定されている場合(通常は、そのスパンから割り当てられるオブジェクトがゼロ初期化を必要としない場合)、スパン自体はゼロ初期化されない可能性があります。

  • 変更点2: 「スパンがオブジェクトで満たされてページヒープに返されるとき、ゼロ初期化が必要なオブジェクトは最初にゼロ初期化される」という記述が、「スパンが小さなオブジェクトに分割するために割り当てられるとき、必要に応じてゼロ初期化され、s->needzeroが設定される」という記述に修正されました。 この変更は、ゼロ初期化のタイミングとneedzeroフラグの設定タイミングをより正確に説明しています。スパンがページヒープから取得され、小さなオブジェクトに分割される際に、そのスパンがゼロ初期化されるべきであれば、その時点でゼロ初期化が行われ、needzeroフラグが適切に設定されることを示唆しています。

  • 変更点3: ゼロ初期化を遅延させることの利点に関する箇条書きの修正。 「スタックフレームが小さなオブジェクトリストから割り当てられる場合、ゼロ初期化を完全に回避できる」という記述に、「またはページヒープから割り当てられる場合」という文言が追加されました。 これは、スタックフレームの割り当てが、小さなオブジェクトリストだけでなく、ページヒープから直接行われる場合でも、ゼロ初期化を回避できる可能性があることを明確にしています。これは、コンパイラがゼロ初期化が不要であると判断した場合に適用されます。

これらの変更は、Goランタイムのメモリ管理におけるゼロ初期化の挙動、特にMSpan.needzeroの役割について、より正確で詳細な情報を提供することを目的としています。これにより、Goのメモリ管理の内部動作を理解しようとする開発者にとって、ドキュメントの信頼性が向上します。

コアとなるコードの変更箇所

変更はsrc/pkg/runtime/malloc.hファイル内のコメントブロックに限定されています。

--- a/src/pkg/runtime/malloc.h
+++ b/src/pkg/runtime/malloc.h
@@ -66,14 +66,14 @@
 //
 // The small objects on the MCache and MCentral free lists
 // may or may not be zeroed.  They are zeroed if and only if
-// the second word of the object is zero.  The spans in the
-// page heap are always zeroed.  When a span full of objects
-// is returned to the page heap, the objects that need to be
-// are zeroed first.  There are two main benefits to delaying the
+// the second word of the object is zero.  A span in the
+// page heap is zeroed unless s->needzero is set. When a span
+// is allocated to break into small objects, it is zeroed if needed
+// and s->needzero is set. There are two main benefits to delaying the
 // zeroing this way:\n //
 //\t1. stack frames allocated from the small object lists
-//\t   can avoid zeroing altogether.\n+//\t   or the page heap can avoid zeroing altogether.\n //\t2. the cost of zeroing when reusing a small object is
 //\t   charged to the mutator, not the garbage collector.\n //

コアとなるコードの解説

このコミットは、Goランタイムのメモリ割り当て器のヘッダーファイルであるsrc/pkg/runtime/malloc.h内のコメントを修正しています。このファイルは、Goのメモリ管理の低レベルな詳細を定義しており、MSpan構造体や、MCacheMCentralMHeapといったメモリ管理の主要コンポーネントに関する情報が含まれています。

変更されたコメントブロックは、特にメモリのゼロ初期化のポリシーと、それがMSpanneedzeroフィールドとどのように関連しているかを説明しています。

  • 変更前:

    • 「ページヒープ内のスパンは常にゼロ初期化される。」と記述されていました。これは、MSpan.needzeroの存在を考慮すると、誤解を招く可能性がありました。
    • 「スタックフレームが小さなオブジェクトリストから割り当てられる場合、ゼロ初期化を完全に回避できる。」と記述されていました。
  • 変更後:

    • 「ページヒープ内のスパンは、s->needzeroが設定されていない限りゼロ初期化される。」と修正されました。これにより、needzeroフラグがゼロ初期化の挙動を制御する重要な要素であることが明確になりました。
    • 「スパンが小さなオブジェクトに分割するために割り当てられるとき、必要に応じてゼロ初期化され、s->needzeroが設定される。」という文が追加されました。これは、スパンがページヒープから取得され、小さなオブジェクトに分割される際のゼロ初期化のタイミングとneedzeroフラグの設定について、より詳細な情報を提供します。
    • 「スタックフレームが小さなオブジェクトリストから割り当てられる場合、またはページヒープから割り当てられる場合、ゼロ初期化を完全に回避できる。」と修正されました。これにより、ゼロ初期化の回避が可能な範囲がより正確に記述されました。

これらの変更は、コードの動作自体には影響を与えませんが、Goランタイムのメモリ管理の複雑なロジックを理解するためのドキュメントの正確性と明瞭性を大幅に向上させます。特に、MSpan.needzeroの役割と、メモリのゼロ初期化がいつ、どのように行われるかについての誤解を解消するのに役立ちます。

関連リンク

  • Goのメモリ管理に関する公式ドキュメントやブログ記事
  • Goのソースコードリポジトリ: https://github.com/golang/go
  • Goのメモリ割り当て器に関する詳細な解説記事(非公式を含む)

参考にした情報源リンク