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[インデックス 18554] ファイルの概要

このコミットは、Goプロジェクトのsrc/run.batファイルに対する変更です。run.batは、Windows環境におけるGoのテスト実行スクリプトであり、Goプロジェクトの継続的インテグレーション(CI)や開発者がローカルでテストを実行する際に利用されます。このファイルは、Goの様々なテストスイート(例: go test sync)を実行し、その結果を評価するためのロジックを含んでいます。

コミット

commit 72f2b56a67be0397b67679d3217b365006c5f019
Author: Alex Brainman <alex.brainman@gmail.com>
Date:   Tue Feb 18 16:48:34 2014 +1100

    run.bat: use double-colon to comment text
    
    LGTM=rsc
    R=golang-codereviews, rsc
    CC=golang-codereviews
    https://golang.org/cl/64980043

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/72f2b56a67be0397b67679d3217b365006c5f019

元コミット内容

run.bat: use double-colon to comment text

このコミットは、run.batファイル内のコメント形式を、従来の#から::に変更することを目的としています。

変更の背景

Windowsのバッチファイル(.batまたは.cmd)では、コメントを記述する方法がいくつか存在します。最も一般的なのはREM(Remark)コマンドを使用する方法です。しかし、REMは実際にはコマンドとして解釈されるため、非常に長い行や、()などの特殊文字を含む行では問題を引き起こす可能性があります。また、REMコマンドは実行時にわずかながら処理オーバーヘッドを発生させます。

一方、::(ダブルコロン)は、バッチファイルインタプリタによって「無効なラベル」として扱われます。バッチファイルでは、:で始まる行は通常、GOTOコマンドのジャンプ先となるラベルとして認識されます。しかし、::のように二重にすることで、有効なラベル名とは見なされず、結果としてその行全体が無視されます。この特性を利用することで、::は事実上のコメントとして機能し、REMよりも安全で効率的なコメントアウト方法として広く推奨されています。

Goプロジェクトはクロスプラットフォーム開発を重視しており、テストスクリプトもWindows環境で正しく動作する必要があります。この変更は、run.batスクリプトの堅牢性と互換性を向上させるために行われました。特に、#はUnix系シェルスクリプトのコメント文字であり、Windowsバッチファイルではコメントとして機能しないため、誤って使用されていた可能性を修正するものです。

また、コミットメッセージにはDisabled due to golang.org/issue/7334という記述があります。これは、当時Goのレース検出器(Race Detector)に何らかの問題(おそらくバグや互換性の問題)があり、一時的に無効化されていたことを示唆しています。このコミットは、その無効化に関するコメントの形式を修正するものであり、レース検出器自体の有効/無効を切り替えるものではありません。

前提知識の解説

バッチファイル(Batch File)

バッチファイルは、MS-DOS、OS/2、Windowsなどのオペレーティングシステムでコマンドインタプリタ(cmd.exeなど)によって実行されるスクリプトファイルです。.batまたは.cmdの拡張子を持ち、一連のコマンドを記述することで、自動化されたタスクを実行できます。

バッチファイルのコメント

バッチファイルでコメントを記述する方法は主に以下の2つです。

  1. REMコマンド: REM This is a remark. REMは「Remark」の略で、その行をコメントとして扱います。しかし、REM自体は有効なコマンドであり、インタプリタによって解析されます。そのため、REMの後に続く文字列に特殊文字が含まれる場合や、REMがコードブロック内にある場合に予期せぬ動作を引き起こす可能性があります。

  2. ::(ダブルコロン): :: This is a comment. ::は、バッチファイルインタプリタが「無効なラベル」として認識し、その行全体を無視する特性を利用したコメント方法です。REMとは異なり、コマンドとして解析されないため、より安全で高速なコメントアウト方法として推奨されます。特に、IF文やFORループなどのブロック内でコメントを使用する場合に、REMが構文エラーを引き起こす可能性があるのに対し、::は安全です。

Goのテストインフラストラクチャ

Goプロジェクトは、go testコマンドを使用してパッケージのテストを実行します。しかし、プロジェクト全体のテストや特定の環境でのテスト(例: レース検出器を有効にしたテスト)を実行するために、run.bash(Unix系)やrun.bat(Windows)のようなスクリプトが用意されています。これらのスクリプトは、Goのビルドシステムやテストフレームワークと連携し、様々なテストシナリオを自動化します。

Goのレース検出器(Race Detector)

Goのレース検出器は、並行処理におけるデータ競合(data race)を検出するためのツールです。go test -raceのように-raceフラグを付けてテストを実行することで有効になります。データ競合は、複数のゴルーチンが同時に同じメモリ位置にアクセスし、少なくとも1つが書き込み操作であり、かつアクセスが同期されていない場合に発生します。これはデバッグが困難なバグの原因となるため、レース検出器はGoの並行プログラミングにおいて非常に重要なツールです。

技術的詳細

このコミットの技術的な変更は非常にシンプルですが、その背景にはWindowsバッチファイルの挙動に関する深い理解があります。

変更前は、run.batファイル内で#がコメント文字として使用されていました。

# Race detector only supported on Linux and OS X,
# and only on amd64, and only when cgo is enabled.
# Disabled due to golang.org/issue/7334; remove XXX below
# and in run.bash to reenable.

しかし、Windowsのcmd.exeインタプリタは#をコメント文字として認識しません。#で始まる行は、通常、無効なコマンドとして扱われ、エラーメッセージが表示されるか、予期せぬ動作を引き起こす可能性があります。この場合、これらの行は単に無視されていた可能性が高いですが、ベストプラクティスではありません。

このコミットでは、これらの行を::で始まるコメントに置き換えています。

:: Race detector only supported on Linux and OS X,
:: and only on amd64, and only when cgo is enabled.
:: Disabled due to golang.org/issue/7334; remove XXX below
:: and in run.bash to reenable.

::を使用することで、これらの行はバッチファイルインタプリタによって確実に無視され、スクリプトの実行に影響を与えることはありません。これは、バッチファイルの標準的なコメントアウト手法であり、スクリプトの可読性と堅牢性を向上させます。

また、このコメントブロックは、Goのレース検出器が特定の環境(LinuxおよびOS Xのamd64アーキテクチャでcgoが有効な場合)でのみサポートされており、一時的に無効化されていること(Disabled due to golang.org/issue/7334)を示しています。このコミット自体はレース検出器の有効/無効を切り替えるものではなく、その状態に関するコメントの形式を修正するものです。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/run.bat
+++ b/src/run.bat
@@ -52,10 +52,10 @@ go test sync -short -timeout=120s -cpu=10
 if errorlevel 1 goto fail
 echo.
 
-# Race detector only supported on Linux and OS X,
-# and only on amd64, and only when cgo is enabled.
-# Disabled due to golang.org/issue/7334; remove XXX below
-# and in run.bash to reenable.
+:: Race detector only supported on Linux and OS X,
+:: and only on amd64, and only when cgo is enabled.
+:: Disabled due to golang.org/issue/7334; remove XXX below
+:: and in run.bash to reenable.
 if not "%GOHOSTOS%-%GOOS%-%GOARCH%-%CGO_ENABLED%\" == \"XXXwindows-windows-amd64-1\" goto norace
 echo # Testing race detector.
 go test -race -i runtime/race flag

コアとなるコードの解説

変更されたのは、src/run.batファイルの55行目から58行目にかけてのコメントブロックです。

  • 削除された行:

    # Race detector only supported on Linux and OS X,
    # and only on amd64, and only when cgo is enabled.
    # Disabled due to golang.org/issue/7334; remove XXX below
    # and in run.bash to reenable.
    

    これらの行は、Unix系シェルスクリプトのコメント文字である#で始まっていました。Windowsバッチファイルでは#はコメントとして機能しないため、これらの行は意図した通りにコメントとして扱われていませんでした。

  • 追加された行:

    :: Race detector only supported on Linux and OS X,
    :: and only on amd64, and only when cgo is enabled.
    :: Disabled due to golang.org/issue/7334; remove XXX below
    :: and in run.bash to reenable.
    

    これらの行は、Windowsバッチファイルで推奨されるコメント形式である::で始まっています。これにより、これらの行はバッチファイルインタプリタによって正しくコメントとして認識され、無視されるようになります。

この変更は、スクリプトの機能には影響を与えませんが、可読性と保守性を向上させ、Windows環境でのスクリプトの挙動をより予測可能にします。特に、将来的にこのコメントブロックが変更されたり、スクリプトの他の部分に影響を与えたりする可能性を低減します。

関連リンク

  • Go issue tracker: https://go.dev/issue (ただし、golang.org/issue/7334は現在のGo issue trackerでは見つかりませんでした。これは古いissueであるか、番号が変更された可能性があります。)

参考にした情報源リンク