[インデックス 18578] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のcmd/pack
パッケージのテストにおいて、go env
コマンドの出力をテスト失敗時にダンプするように変更するものです。これにより、特にPlan 9やWindows環境でのビルド失敗の原因究明を支援し、デバッグ情報の強化を図っています。
コミット
commit 8ac499916e2ea58e04d756f692a85c587b11a39e
Author: Rob Pike <r@golang.org>
Date: Wed Feb 19 15:01:50 2014 -0800
cmd/pack: dump output of command of "go env" command in test
Get more information to help understand build failure on Plan 9.
Also Windows.
(TestHello is failing because GOCHAR does not appear in output.
What does?)
Update #7362
LGTM=bradfitz
R=rsc, bradfitz
CC=golang-codereviews
https://golang.org/cl/66070044
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/8ac499916e2ea58e04d756f692a85c587b11a39e
元コミット内容
このコミットは、src/cmd/pack/pack_test.go
ファイル内のTestHello
関数におけるエラーメッセージを修正しています。元々は、go env
コマンドの出力からGOCHAR
環境変数が見つからない場合に、単に「cannot find GOCHAR in 'go env' output」というメッセージを出力していました。
変更の背景
この変更の背景には、Go言語のビルドシステムが特定の環境、特にPlan 9やWindowsで不安定な挙動を示すことがあったという問題があります。TestHello
テストが失敗する際、GOCHAR
環境変数がgo env
の出力に見つからないことが原因であると推測されていました。しかし、単に「見つからない」というメッセージだけでは、なぜ見つからないのか、go env
が実際にはどのような出力をしているのか、といった詳細なデバッグ情報が得られませんでした。
このコミットの目的は、テストが失敗した際にgo env
コマンドの実際の出力をエラーメッセージに含めることで、デバッグを容易にし、ビルド失敗の原因特定を迅速に行えるようにすることです。これにより、開発者が問題の根本原因をより効率的に特定できるようになります。コミットメッセージにあるUpdate #7362
は、おそらくGoの内部バグトラッカーにおける関連する課題番号を示しています。
前提知識の解説
go env
コマンド
go env
コマンドは、Go言語の環境変数を表示するためのツールです。Goのビルドプロセスやツールの動作は、これらの環境変数によって大きく影響を受けます。例えば、GOROOT
はGoのインストールディレクトリを、GOPATH
はGoのワークスペースディレクトリを、GOOS
はターゲットOSを、GOARCH
はターゲットアーキテクチャを示します。
GOCHAR
環境変数
GOCHAR
は、Goのビルドシステム内部で使用される環境変数の一つで、ターゲットアーキテクチャとOSの組み合わせを表す短い文字列です。例えば、GOOS=linux
かつGOARCH=amd64
の場合、GOCHAR
は6
(amd64のコード)とl
(linuxのコード)を組み合わせた6l
のような値になることがあります。これは、Goのコンパイラやアセンブラが特定のアーキテクチャとOSの組み合わせに対応するバイナリを生成するために利用されます。
Goのビルドプロセスとクロスコンパイル
Goは強力なクロスコンパイル機能を備えています。これは、あるOS/アーキテクチャの環境で、別のOS/アーキテクチャ向けのバイナリを生成できることを意味します。このクロスコンパイルの際に、GOOS
やGOARCH
といった環境変数が重要な役割を果たします。GOCHAR
もまた、このビルドチェーンの内部で、特定のターゲット環境を識別するために利用されます。
cmd/pack
パッケージ
cmd/pack
は、Goのツールチェーンの一部であり、Goのパッケージをアーカイブ(パック)するためのコマンドです。これは、Goのビルドプロセスにおいて、コンパイルされたオブジェクトファイルなどをまとめるために使用されることがあります。pack_test.go
はそのテストファイルであり、TestHello
関数はcmd/pack
の基本的な機能が正しく動作するかどうかを検証するテストの一つです。
技術的詳細
このコミットの技術的な詳細は、エラーメッセージの改善によるデバッグ能力の向上にあります。
Goのテストフレームワークでは、t.Fatal()
関数が呼び出されると、テストは即座に失敗し、指定されたメッセージが出力されます。元のコードでは、GOCHAR
が見つからないという事実のみを伝えていました。しかし、go env
の出力は、Goのビルド環境に関する多くの情報を含んでいます。例えば、GOROOT
, GOPATH
, GOOS
, GOARCH
などの値が正しく設定されているか、あるいは予期せぬ値になっているかなどを確認できます。
go env
の出力をエラーメッセージに含めることで、テストが失敗した際に、開発者は以下の情報を直接確認できるようになります。
GOCHAR
が本当に存在しないのか?: もしかしたら、GOCHAR
は存在するが、予期せぬ形式で出力されているのかもしれません。go env
の実際の出力を確認することで、この仮説を検証できます。- 他の環境変数の状態:
GOCHAR
が見つからない原因が、他の環境変数の誤設定にある可能性もあります。例えば、GOOS
やGOARCH
が正しく設定されていないために、GOCHAR
が期待される値にならない、あるいは全く出力されない、といったケースが考えられます。go env
の出力全体を見ることで、関連する環境変数の状態を一度に把握できます。 - 環境固有の問題: Plan 9やWindowsのような特定の環境でビルドが失敗する場合、その環境特有のパス設定やシェルスクリプトの挙動が
go env
の出力に影響を与えている可能性があります。出力全体をダンプすることで、これらの環境固有の問題を特定する手がかりが得られます。
この変更は、コードのロジック自体を変更するものではなく、デバッグ情報の質を向上させるためのものです。これは、特に異なるOSやアーキテクチャでの互換性問題を解決する上で非常に有効なアプローチです。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/cmd/pack/pack_test.go
+++ b/src/cmd/pack/pack_test.go
@@ -195,7 +195,7 @@ func TestHello(t *testing.T) {
out := run("go", "env")
i := strings.Index(out, "GOCHAR=\"")
if i < 0 {
- t.Fatal("cannot find GOCHAR in 'go env' output")
+ t.Fatal("cannot find GOCHAR in 'go env' output:\n", out)
}
char := out[i+8 : i+9]
run("go", "build", "cmd/pack") // writes pack binary to dir
コアとなるコードの解説
変更はsrc/cmd/pack/pack_test.go
ファイルのTestHello
関数内の一行です。
元のコード:
t.Fatal("cannot find GOCHAR in 'go env' output")
変更後のコード:
t.Fatal("cannot find GOCHAR in 'go env' output:\n", out)
この変更は、t.Fatal()
関数に渡す引数を追加しただけです。
out
変数は、run("go", "env")
の呼び出しによって取得されたgo env
コマンドの標準出力全体を保持しています。- 変更前は、
GOCHAR
が見つからなかった場合に固定のエラーメッセージを出力していました。 - 変更後は、固定のエラーメッセージに加えて、改行文字
\n
とgo env
コマンドの実際の出力内容であるout
変数の値を追加しています。
これにより、テストが失敗した際に、GOCHAR
が見つからなかったという情報だけでなく、その時点でのgo env
コマンドの完全な出力がテストログに記録されるようになります。これは、特にCI/CD環境やリモート環境でのテスト実行時に、手元でgo env
を実行できない場合に非常に貴重なデバッグ情報となります。
関連リンク
- Go issue #7362: このコミットメッセージで参照されているGoの内部バグトラッカーの課題番号ですが、公開されているGoのGitHubリポジトリのIssueでは直接見つかりませんでした。これは、非常に古いIssueであるか、内部的なトラッカーでのみ参照されている可能性があります。
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント:
go env
コマンドに関する情報 - Go言語のソースコード:
src/cmd/pack/pack_test.go
- Gitのコミットログと差分表示
- 一般的なソフトウェア開発におけるデバッグ手法とエラーメッセージの重要性に関する知識