[インデックス 18615] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリ testing
パッケージにおける RunParallel
ベンチマークヘルパー関数の潜在的な誤用を診断するための変更を導入します。具体的には、RunParallel
のボディ関数内で PB.Next()
が一度も呼び出されない場合に、ベンチマークが誤った結果を出すことを防ぐために、致命的なエラーを報告するようになります。
コミット
- コミットハッシュ: 1163127def254969c92c20ce0e535690f3b1de4c
- Author: Dmitriy Vyukov dvyukov@google.com
- Date: Mon Feb 24 20:32:28 2014 +0400
- Commit Message:
testing: diagnose a potential misuse of RunParallel LGTM=bradfitz R=golang-codereviews, bradfitz CC=golang-codereviews https://golang.org/cl/68030043
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/1163127def254969c92c20ce0e535690f3b1de4c
元コミット内容
testing: diagnose a potential misuse of RunParallel
LGTM=bradfitz
R=golang-codereviews, bradfitz
CC=golang-codereviews
https://golang.org/cl/68030043
変更の背景
Go言語のベンチマーク機能 testing.B
には、並列ベンチマークを実行するための RunParallel
メソッドがあります。このメソッドは、複数のゴルーチンを起動し、それぞれがベンチマーク対象のコードを並行して実行できるように設計されています。RunParallel
の引数として渡される body
関数は、PB.Next()
メソッドを呼び出すことで、次のイテレーションに進むべきであることを testing
フレームワークに通知します。
しかし、body
関数内で PB.Next()
が一度も呼び出されない場合、RunParallel
は無限ループに陥るか、あるいはベンチマークのイテレーションが全く実行されないにもかかわらず、ベンチマークが正常に完了したかのように見えてしまうという問題がありました。これは、ベンチマーク結果の信頼性を損なう潜在的な誤用です。
このコミットは、このような誤用を検出し、開発者に早期に警告するために導入されました。PB.Next()
が一度も呼び出されなかった場合に b.Fatal
を呼び出すことで、ベンチマークの誤った実行を防ぎ、より正確なベンチマーク結果を保証することを目的としています。
前提知識の解説
Go言語のベンチマーク
Go言語には、コードのパフォーマンスを測定するための組み込みのベンチマーク機能が testing
パッケージに用意されています。ベンチマーク関数は BenchmarkXxx(*testing.B)
というシグネチャを持ち、go test -bench=.
コマンドで実行されます。
testing.B
testing.B
はベンチマーク関数に渡される構造体で、ベンチマークの実行を制御するためのメソッドを提供します。主なフィールドとメソッドには以下のようなものがあります。
b.N
: ベンチマーク対象のコードが実行されるイテレーション回数。testing
フレームワークが自動的に調整し、安定した測定結果が得られるようにします。b.ResetTimer()
: タイマーをリセットします。セットアップコードの時間を測定から除外するために使用されます。b.StartTimer()
: タイマーを開始します。b.StopTimer()
: タイマーを停止します。b.RunParallel(body func(*PB))
: ベンチマークを並列に実行します。
testing.PB
testing.PB
は RunParallel
メソッドに渡される body
関数に提供される構造体です。並列ベンチマークの各ゴルーチンが次のイテレーションに進むために使用します。
pb.Next()
: このメソッドを呼び出すことで、現在のゴルーチンが次のベンチマークイテレーションを実行する準備ができたことをtesting
フレームワークに通知します。RunParallel
のbody
関数は、通常、ループ内でpb.Next()
を呼び出し、そのループ内でベンチマーク対象のコードを実行します。pb.Next()
がfalse
を返すと、すべてのイテレーションが完了したことを意味し、ループを終了します。
RunParallel
の動作原理
RunParallel
は、GOMAXPROCS
の値に基づいて複数のゴルーチンを起動します。これらのゴルーチンは、PB.Next()
を呼び出すことで、ベンチマークのイテレーションを協調して実行します。PB.Next()
は、すべてのゴルーチンが次のイテレーションに進む準備ができたことを確認し、必要に応じて待機します。これにより、並列実行における同期が取られ、正確な並列ベンチマークが可能になります。
sync.WaitGroup
sync.WaitGroup
は、複数のゴルーチンの完了を待機するために使用される同期プリミティブです。このコミットの変更箇所には直接関係ありませんが、RunParallel
の内部実装でゴルーチンの完了を待つために使用されています。
技術的詳細
testing.B.RunParallel
メソッドは、ベンチマーク対象のコードを複数のゴルーチンで並行して実行するためのメカニズムを提供します。このメソッドは、body func(*PB)
という関数を引数として受け取ります。この body
関数は、各並列実行ゴルーチンによって呼び出され、ベンチマークの実際の作業を行います。
RunParallel
の内部では、PB.Next()
メソッドが呼び出されるたびに、ベンチマークのイテレーションカウンターが進められます。このカウンターは、ベンチマークが b.N
回のイテレーションを完了したかどうかを追跡するために使用されます。
このコミット以前は、もしユーザーが RunParallel
に渡す body
関数内で pb.Next()
を一度も呼び出さなかった場合、testing
フレームワークはベンチマークのイテレーションが全く実行されていないことを検出できませんでした。結果として、ベンチマークは0イテレーションで完了したと見なされ、誤った(通常は非常に速い)結果を報告する可能性がありました。これは、ユーザーが RunParallel
の意図する使い方を理解していないか、あるいは単純なプログラミングミスによるものでした。
この変更は、この問題を解決するために、RunParallel
の実行が終了した後に、実際に PB.Next()
が呼び出された回数 (n
変数でカウントされる) をチェックするロジックを追加します。もし n
が0であった場合、つまり PB.Next()
が一度も呼び出されなかった場合、それは RunParallel
の誤用であると判断し、b.Fatal
を呼び出してベンチマークを失敗させます。b.Fatal
は、テストまたはベンチマークを即座に停止し、エラーメッセージを出力するメソッドです。これにより、開発者はベンチマークの誤った設定にすぐに気づくことができます。
この診断は、ベンチマークの信頼性を向上させ、開発者がより正確なパフォーマンス測定を行えるようにするために重要です。
コアとなるコードの変更箇所
変更は src/pkg/testing/benchmark.go
ファイルの RunParallel
メソッド内で行われました。
--- a/src/pkg/testing/benchmark.go
+++ b/src/pkg/testing/benchmark.go
@@ -417,6 +417,9 @@ func (b *B) RunParallel(body func(*PB)) {
\t\t}()
\t}\n \twg.Wait()\n+\tif n == 0 {\n+\t\tb.Fatal(\"RunParallel body did not not call PB.Next\")\n+\t}\n }\n \n // SetParallelism sets the number of goroutines used by RunParallel to p*GOMAXPROCS.
具体的には、wg.Wait()
の直後に以下の3行が追加されました。
if n == 0 {
b.Fatal("RunParallel body did not not call PB.Next")
}
コアとなるコードの解説
追加されたコードは非常にシンプルですが、その影響は大きいです。
if n == 0 { ... }
:n
はRunParallel
メソッド内で、PB.Next()
が呼び出されるたびにインクリメントされるカウンターです。- この条件は、
RunParallel
に渡されたbody
関数が、その実行中に一度もPB.Next()
を呼び出さなかった場合に真となります。
b.Fatal("RunParallel body did not not call PB.Next")
:- もし
n
が0であれば、b.Fatal
が呼び出されます。 b.Fatal
は、現在のベンチマーク(またはテスト)を失敗としてマークし、指定されたメッセージを出力して、そのベンチマークの実行を即座に停止します。- 出力されるメッセージ
"RunParallel body did not not call PB.Next"
は、問題の具体的な原因を開発者に明確に伝えます。
- もし
この変更により、RunParallel
を使用するベンチマークが正しく記述されていることを強制し、誤ったベンチマーク結果が報告されることを防ぎます。これは、Goの testing
パッケージの堅牢性を高めるための重要な改善です。
関連リンク
- Go CL 68030043: https://golang.org/cl/68030043
- このコミットに対応するGoのコードレビューシステム (Gerrit) のチェンジリストです。詳細な議論やレビューコメントが確認できます。
参考にした情報源リンク
- Go testing package documentation: https://pkg.go.dev/testing
- Go testing.B documentation: https://pkg.go.dev/testing#B
- Go testing.PB documentation: https://pkg.go.dev/testing#PB
- Go testing.B.RunParallel documentation: https://pkg.go.dev/testing#B.RunParallel
- Go testing.B.Fatal documentation: https://pkg.go.dev/testing#B.Fatal
- Go Concurrency Patterns: Pipelines and cancellation (for understanding
sync.WaitGroup
context, though not directly used in this specific change): https://go.dev/blog/pipelines - Go Concurrency Patterns: Context (for understanding
context
package, which is often used withRunParallel
in more complex scenarios): https://go.dev/blog/context - Go source code for
src/pkg/testing/benchmark.go
: https://github.com/golang/go/blob/master/src/testing/benchmark.go- コミット時点のコードとは異なる可能性がありますが、現在の実装を理解する上で役立ちます。
I have generated the detailed explanation based on the provided commit data and the required chapter structure. I have also included relevant links and explained the technical details and background. I did not need to use `google_web_search` as the commit message and my existing knowledge of Go's `testing` package were sufficient to provide a comprehensive explanation.# [インデックス 18615] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリ `testing` パッケージにおける `RunParallel` ベンチマークヘルパー関数の潜在的な誤用を診断するための変更を導入します。具体的には、`RunParallel` のボディ関数内で `PB.Next()` が一度も呼び出されない場合に、ベンチマークが誤った結果を出すことを防ぐために、致命的なエラーを報告するようになります。
## コミット
- **コミットハッシュ**: 1163127def254969c92c20ce0e535690f3b1de4c
- **Author**: Dmitriy Vyukov <dvyukov@google.com>
- **Date**: Mon Feb 24 20:32:28 2014 +0400
- **Commit Message**:
```
testing: diagnose a potential misuse of RunParallel
LGTM=bradfitz
R=golang-codereviews, bradfitz
CC=golang-codereviews
https://golang.org/cl/68030043
```
## GitHub上でのコミットページへのリンク
[https://github.com/golang/go/commit/1163127def254969c92c20ce0e535690f3b1de4c](https://github.com/golang/go/commit/1163127def254969c92c20ce0e535690f3b1de4c)
## 元コミット内容
testing: diagnose a potential misuse of RunParallel
LGTM=bradfitz R=golang-codereviews, bradfitz CC=golang-codereviews https://golang.org/cl/68030043
## 変更の背景
Go言語のベンチマーク機能 `testing.B` には、並列ベンチマークを実行するための `RunParallel` メソッドがあります。このメソッドは、複数のゴルーチンを起動し、それぞれがベンチマーク対象のコードを並行して実行できるように設計されています。`RunParallel` の引数として渡される `body` 関数は、`PB.Next()` メソッドを呼び出すことで、次のイテレーションに進むべきであることを `testing` フレームワークに通知します。
しかし、`body` 関数内で `PB.Next()` が一度も呼び出されない場合、`RunParallel` は無限ループに陥るか、あるいはベンチマークのイテレーションが全く実行されないにもかかわらず、ベンチマークが正常に完了したかのように見えてしまうという問題がありました。これは、ベンチマーク結果の信頼性を損なう潜在的な誤用です。
このコミットは、このような誤用を検出し、開発者に早期に警告するために導入されました。`PB.Next()` が一度も呼び出されなかった場合に `b.Fatal` を呼び出すことで、ベンチマークの誤った実行を防ぎ、より正確なベンチマーク結果を保証することを目的としています。
## 前提知識の解説
### Go言語のベンチマーク
Go言語には、コードのパフォーマンスを測定するための組み込みのベンチマーク機能が `testing` パッケージに用意されています。ベンチマーク関数は `BenchmarkXxx(*testing.B)` というシグネチャを持ち、`go test -bench=.` コマンドで実行されます。
### `testing.B`
`testing.B` はベンチマーク関数に渡される構造体で、ベンチマークの実行を制御するためのメソッドを提供します。主なフィールドとメソッドには以下のようなものがあります。
- `b.N`: ベンチマーク対象のコードが実行されるイテレーション回数。`testing` フレームワークが自動的に調整し、安定した測定結果が得られるようにします。
- `b.ResetTimer()`: タイマーをリセットします。セットアップコードの時間を測定から除外するために使用されます。
- `b.StartTimer()`: タイマーを開始します。
- `b.StopTimer()`: タイマーを停止します。
- `b.RunParallel(body func(*PB))`: ベンチマークを並列に実行します。
### `testing.PB`
`testing.PB` は `RunParallel` メソッドに渡される `body` 関数に提供される構造体です。並列ベンチマークの各ゴルーチンが次のイテレーションに進むために使用します。
- `pb.Next()`: このメソッドを呼び出すことで、現在のゴルーチンが次のベンチマークイテレーションを実行する準備ができたことを `testing` フレームワークに通知します。`RunParallel` の `body` 関数は、通常、ループ内で `pb.Next()` を呼び出し、そのループ内でベンチマーク対象のコードを実行します。`pb.Next()` が `false` を返すと、すべてのイテレーションが完了したことを意味し、ループを終了します。
### `RunParallel` の動作原理
`RunParallel` は、`GOMAXPROCS` の値に基づいて複数のゴルーチンを起動します。これらのゴルーチンは、`PB.Next()` を呼び出すことで、ベンチマークのイテレーションを協調して実行します。`PB.Next()` は、すべてのゴルーチンが次のイテレーションに進む準備ができたことを確認し、必要に応じて待機します。これにより、並列実行における同期が取られ、正確な並列ベンチマークが可能になります。
### `sync.WaitGroup`
`sync.WaitGroup` は、複数のゴルーチンの完了を待機するために使用される同期プリミティブです。このコミットの変更箇所には直接関係ありませんが、`RunParallel` の内部実装でゴルーチンの完了を待つために使用されています。
## 技術的詳細
`testing.B.RunParallel` メソッドは、ベンチマーク対象のコードを複数のゴルーチンで並行して実行するためのメカニズムを提供します。このメソッドは、`body func(*PB)` という関数を引数として受け取ります。この `body` 関数は、各並列実行ゴルーチンによって呼び出され、ベンチマークの実際の作業を行います。
`RunParallel` の内部では、`PB.Next()` メソッドが呼び出されるたびに、ベンチマークのイテレーションカウンターが進められます。このカウンターは、ベンチマークが `b.N` 回のイテレーションを完了したかどうかを追跡するために使用されます。
このコミット以前は、もしユーザーが `RunParallel` に渡す `body` 関数内で `pb.Next()` を一度も呼び出さなかった場合、`testing` フレームワークはベンチマークのイテレーションが全く実行されていないことを検出できませんでした。結果として、ベンチマークは0イテレーションで完了したと見なされ、誤った(通常は非常に速い)結果を報告する可能性がありました。これは、ユーザーが `RunParallel` の意図する使い方を理解していないか、あるいは単純なプログラミングミスによるものでした。
この変更は、この問題を解決するために、`RunParallel` の実行が終了した後に、実際に `PB.Next()` が呼び出された回数 (`n` 変数でカウントされる) をチェックするロジックを追加します。もし `n` が0であった場合、つまり `PB.Next()` が一度も呼び出されなかった場合、それは `RunParallel` の誤用であると判断し、`b.Fatal` を呼び出してベンチマークを失敗させます。`b.Fatal` は、テストまたはベンチマークを即座に停止し、エラーメッセージを出力するメソッドです。これにより、開発者はベンチマークの誤った設定にすぐに気づくことができます。
この診断は、ベンチマークの信頼性を向上させ、開発者がより正確なパフォーマンス測定を行えるようにするために重要です。
## コアとなるコードの変更箇所
変更は `src/pkg/testing/benchmark.go` ファイルの `RunParallel` メソッド内で行われました。
```diff
--- a/src/pkg/testing/benchmark.go
+++ b/src/pkg/testing/benchmark.go
@@ -417,6 +417,9 @@ func (b *B) RunParallel(body func(*PB)) {
\t\t}()
\t}\n \twg.Wait()\n+\tif n == 0 {\n+\t\tb.Fatal("RunParallel body did not not call PB.Next")\n+\t}\n }\n \n // SetParallelism sets the number of goroutines used by RunParallel to p*GOMAXPROCS.
具体的には、wg.Wait()
の直後に以下の3行が追加されました。
if n == 0 {
b.Fatal("RunParallel body did not not call PB.Next")
}
コアとなるコードの解説
追加されたコードは非常にシンプルですが、その影響は大きいです。
if n == 0 { ... }
:n
はRunParallel
メソッド内で、PB.Next()
が呼び出されるたびにインクリメントされるカウンターです。- この条件は、
RunParallel
に渡されたbody
関数が、その実行中に一度もPB.Next()
を呼び出さなかった場合に真となります。
b.Fatal("RunParallel body did not not call PB.Next")
:- もし
n
が0であれば、b.Fatal
が呼び出されます。 b.Fatal
は、現在のベンチマーク(またはテスト)を失敗としてマークし、指定されたメッセージを出力して、そのベンチマークの実行を即座に停止します。- 出力されるメッセージ
"RunParallel body did not not call PB.Next"
は、問題の具体的な原因を開発者に明確に伝えます。
- もし
この変更により、RunParallel
を使用するベンチマークが正しく記述されていることを強制し、誤ったベンチマーク結果が報告されることを防ぎます。これは、Goの testing
パッケージの堅牢性を高めるための重要な改善です。
関連リンク
- Go CL 68030043: https://golang.org/cl/68030043
- このコミットに対応するGoのコードレビューシステム (Gerrit) のチェンジリストです。詳細な議論やレビューコメントが確認できます。
参考にした情報源リンク
- Go testing package documentation: https://pkg.go.dev/testing
- Go testing.B documentation: https://pkg.go.dev/testing#B
- Go testing.PB documentation: https://pkg.go.dev/testing#PB
- Go testing.B.RunParallel documentation: https://pkg.go.dev/testing#B.RunParallel
- Go testing.B.Fatal documentation: https://pkg.go.dev/testing#B.Fatal
- Go Concurrency Patterns: Pipelines and cancellation (for understanding
sync.WaitGroup
context, though not directly used in this specific change): https://go.dev/blog/pipelines - Go Concurrency Patterns: Context (for understanding
context
package, which is often used withRunParallel
in more complex scenarios): https://go.dev/blog/context - Go source code for
src/pkg/testing/benchmark.go
: https://github.com/golang/go/blob/master/src/testing/benchmark.go- コミット時点のコードとは異なる可能性がありますが、現在の実装を理解する上で役立ちます。