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[インデックス 18646] ファイルの概要

このコミットは、Goランタイムにおける特定のビルド問題、特に386およびARMアーキテクチャでのビルドエラーを修正するものです。以前の変更(CL 68150047)によって失われた runtime.panicdivide 関数を再導入し、整数除算におけるゼロ除算パニック処理を正常化することを目的としています。

コミット

  • コミットハッシュ: 5b35dc0f6f0ff0a96edd8f8460911273bced073a
  • 作者: Russ Cox rsc@golang.org
  • 日付: 2014年2月25日 火曜日 11:31:09 -0500

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/5b35dc0f6f0ff0a96edd8f8460911273bced073a

元コミット内容

runtime: fix 386, arm build

CL 68150047 lost runtime.panicdivide.

TBR=dfc
CC=golang-codereviews
https://golang.org/cl/68610043

変更の背景

このコミットの背景には、Goランタイムの特定の変更(CL 68150047)があります。この変更は、おそらく別の目的のために行われたものですが、その過程で runtime.panicdivide という重要な関数が誤って削除されたか、あるいはビルドシステムから見えなくなってしまいました。

runtime.panicdivide は、Goプログラムが整数をゼロで除算しようとした際に発生する「ゼロ除算エラー」を処理するためのランタイム関数です。Go言語では、このような不正な操作はパニック(panic)を引き起こし、プログラムの異常終了を促します。この関数が失われたことにより、特に386およびARMアーキテクチャ向けのビルドにおいて、ゼロ除算の検出とパニックの発生が正しく行われなくなり、ビルドエラーや実行時エラーが発生する可能性がありました。

このコミットは、この欠落を修正し、Goランタイムがすべてのサポート対象アーキテクチャで一貫してゼロ除算エラーを処理できるようにするために導入されました。

前提知識の解説

Goランタイム (Go Runtime)

Goランタイムは、Goプログラムの実行を管理する低レベルのシステムです。これには、ガベージコレクション、スケジューラ(ゴルーチンとOSスレッドのマッピング)、メモリ管理、パニック処理、およびその他のシステムレベルの機能が含まれます。Goプログラムは、コンパイル時にGoランタイムとリンクされ、実行時にこれらのサービスを利用します。

パニック (Panic) とリカバリ (Recover)

Go言語における「パニック」は、プログラムの通常の実行フローを中断するランタイムエラーの一種です。これは、配列の範囲外アクセス、nilポインタのデリファレンス、そして本コミットで扱われるゼロ除算など、回復不可能なエラー条件を示すために使用されます。パニックが発生すると、現在のゴルーチンの実行は停止し、遅延関数(defer)が実行され、最終的にプログラムがクラッシュします。 recover 関数を使用することで、パニックを捕捉し、プログラムのクラッシュを防ぎ、正常な実行を再開させることができますが、これは通常、エラーハンドリングの最終手段として、または特定のフレームワークで利用されます。

ゼロ除算 (Division by Zero)

数学的に未定義であるため、プログラミング言語では整数をゼロで除算しようとすると、通常はエラーが発生します。Goでは、これはランタイムパニックとして扱われます。コンパイラは、ゼロ除算の可能性を検出するために、除算命令の前にチェックコードを挿入することがあります。

386およびARMアーキテクチャ

  • 386: Intel 80386プロセッサに由来する32ビットx86アーキテクチャを指します。Goは、このアーキテクチャをサポートしており、古いシステムや組み込みシステムで利用されることがあります。
  • ARM: Advanced RISC Machineの略で、モバイルデバイス、組み込みシステム、最近ではサーバーなど、幅広いデバイスで使用されているRISCベースのプロセッサアーキテクチャです。Goは、ARMv5、ARMv6、ARMv7、ARM64(AArch64)など、複数のARMバリアントをサポートしています。 これらのアーキテクチャでは、特定の低レベルのランタイム関数(例えば、パニック処理やシステムコール)の実装が、他のアーキテクチャ(例: amd64)とは異なる場合があります。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、Goランタイムがゼロ除算を検出した際に呼び出す runtime.panicdivide 関数の再導入です。Goコンパイラは、整数除算を行うコードを生成する際に、除数がゼロである可能性をチェックする命令を挿入します。もし除数がゼロであれば、コンパイラは runtime.panicdivide を呼び出すようにコードを生成します。

以前の変更(CL 68150047)によって、この runtime.panicdivide がランタイムから失われたため、386およびARMアーキテクチャ向けのGoプログラムがゼロ除算を実行しようとした際に、適切なパニック処理が行われず、ビルドエラーや未定義の動作を引き起こしていました。これは、これらのアーキテクチャのコンパイラが runtime.panicdivide の存在を期待しているにもかかわらず、それがランタイムライブラリに存在しないために発生しました。

このコミットは、src/pkg/runtime/panic.c ファイルに runtime·panicdivide 関数を再追加することで、この問題を解決します。この関数は、内部的に runtime·panicstring("integer divide by zero") を呼び出すことで、標準のGoパニックメカニズムを利用して「integer divide by zero」というメッセージと共にパニックを発生させます。これにより、386およびARMアーキテクチャを含むすべてのGoプログラムが、ゼロ除算に対して期待通りのパニック動作を示すようになります。

CL 68610043 は、このコミット自体がGoのコードレビューシステムに提出された際のチェンジリスト番号であり、この修正が公式なプロセスを経てGoプロジェクトに統合されたことを示しています。

コアとなるコードの変更箇所

変更は src/pkg/runtime/panic.c ファイルに対して行われました。具体的には、ファイルの末尾に runtime·panicdivide 関数が追加されています。

--- a/src/pkg/runtime/panic.c
+++ b/src/pkg/runtime/panic.c
@@ -487,3 +487,9 @@ runtime·Goexit(void)
 	rundefe
 	runtime·goexit();
 }
+
+void
+runtime·panicdivide(void)
+{
+	runtime·panicstring("integer divide by zero");
+}

コアとなるコードの解説

追加されたコードは以下の通りです。

void
runtime·panicdivide(void)
{
	runtime·panicstring("integer divide by zero");
}
  • void runtime·panicdivide(void): これは runtime·panicdivide という名前の関数を定義しています。Goランタイムの内部関数は、C言語で実装されている場合、Goの命名規則とは異なり、ドット(.)ではなくミドルドット(·)を使用することがあります。この関数は引数を取らず、何も返しません(void)。
  • runtime·panicstring("integer divide by zero");: この行が関数の本体です。runtime·panicstring はGoランタイムの別の内部関数で、引数として与えられた文字列をパニックメッセージとして使用し、パニックを発生させます。ここでは、ゼロ除算が発生したことを明確に示す「integer divide by zero」という文字列が渡されています。

このシンプルな関数は、Goコンパイラがゼロ除算を検出した際に呼び出すエントリポイントとして機能し、Goのパニックメカニズムを通じて適切なエラー処理をトリガーします。

関連リンク

参考にした情報源リンク