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[インデックス 18649] ファイルの概要

このコミットは、GoランタイムのARMアーキテクチャ向け仮想レジスタランタイム(vlrt_arm.c)に、runtime·panicdivide という関数のプロトタイプ(宣言)を追加するものです。これは、Goプログラムにおけるゼロ除算エラーのハンドリングに関連する変更の一部と考えられます。

コミット

  • コミットハッシュ: 391002a82bf3033b51818df5aaa4a82cc81bc81f
  • 作者: Keith Randall khr@golang.org
  • コミット日時: 2014年2月25日 火曜日 11:49:37 -0800

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/391002a82bf3033b51818df5aaa4a82cc81bc81f

元コミット内容

runtime: add prototype for panicdivide

LGTM=bradfitz
R=golang-codereviews, bradfitz, khr
CC=golang-codereviews
https://golang.org/cl/68680043

変更の背景

このコミットは、Goランタイムがゼロ除算(division by zero)エラーをどのように処理するかというメカニズムの一部として、panicdivide という関数のプロトタイプを追加しています。Go言語では、ゼロ除算のような実行時エラーが発生した場合、プログラムはパニック(panic)を引き起こします。このパニックは、通常、プログラムの異常終了につながりますが、recover 機構によって捕捉することも可能です。

panicdivide のような関数は、特定のアーキテクチャ(この場合はARM)において、コンパイラやランタイムがゼロ除算を検出した際に呼び出すためのフックとして機能します。これにより、Goランタイムは、ハードウェアレベルでのゼロ除算例外の発生を待つのではなく、ソフトウェア的にゼロ除算を検出し、Goのパニック機構を通じて一貫したエラーハンドリングを提供できるようになります。

この変更は、Goのランタイムがより堅牢に、かつ予測可能な形で実行時エラーを処理するための継続的な改善の一環として行われました。特に、異なるCPUアーキテクチャ間での挙動の一貫性を保つ上で重要です。

前提知識の解説

Goランタイム (Go Runtime)

Goランタイムは、Goプログラムの実行を管理する低レベルのシステムです。これには、ガベージコレクション、スケジューラ(ゴルーチンの管理)、メモリ割り当て、プリミティブな同期メカニズム、そしてパニックやリカバリといった実行時エラーハンドリングの機能が含まれます。Goプログラムは、コンパイル時にランタイムとリンクされ、ランタイムの機能を利用して実行されます。

パニック (Panic) と リカバリ (Recover)

Go言語には、エラーハンドリングのための2つの主要なメカニズムがあります。

  1. エラー (error): 予期されるが、通常ではない状況(例: ファイルが見つからない)を扱うためのもので、関数の戻り値としてerror型を返します。
  2. パニック (panic): 予期されない、回復不可能なエラー(例: ゼロ除算、nilポインタ参照)が発生した場合に、プログラムの実行を停止させるメカニズムです。パニックが発生すると、現在のゴルーチンの通常の実行フローは中断され、遅延関数(defer)が実行されながらスタックが巻き戻されます。

recoverは、defer関数内で呼び出すことで、パニックを捕捉し、プログラムの実行を継続させることを可能にします。これにより、サーバーアプリケーションなどで、一部のゴルーチンがパニックを起こしても、全体がクラッシュするのを防ぐことができます。

C言語のプロトタイプ (Function Prototype)

C言語において、関数のプロトタイプ(または関数宣言)は、関数の名前、戻り値の型、および引数の型と数をコンパイラに伝えるものです。これにより、コンパイラは関数が定義される前にその関数がどのように呼び出されるべきかを検証できます。

例: void func(int a, char b);

このコミットでは、void runtime·panicdivide(void); というプロトタイプが追加されています。これは、runtime·panicdivide という名前の関数が、引数を取らず(void)、何も値を返さない(void)ことを宣言しています。Goランタイムのコードベースでは、C言語とアセンブリ言語が混在しており、C言語のファイルでアセンブリで実装された関数のプロトタイプを宣言することがよくあります。

ARMアーキテクチャ

ARM(Advanced RISC Machine)は、モバイルデバイスや組み込みシステムで広く使用されているCPUアーキテクチャです。Go言語は、ARMを含む複数のアーキテクチャをサポートしており、それぞれのアーキテクチャに特化したランタイムコードを持っています。src/pkg/runtime/vlrt_arm.c は、ARMアーキテクチャ向けの仮想レジスタランタイムに関連するC言語のソースファイルです。

技術的詳細

このコミットの核心は、runtime·panicdivide という関数のプロトタイプ宣言です。Goランタイムでは、C言語で書かれた部分とアセンブリ言語で書かれた部分が密接に連携しています。特に、パフォーマンスが要求される低レベルの操作や、特定のアーキテクチャのレジスタや命令セットに直接アクセスする必要がある場合、アセンブリ言語が使用されます。

ゼロ除算の検出は、CPUの命令セットレベルで発生する可能性がありますが、GoランタイムはこれをGoのパニック機構にマッピングする必要があります。panicdivide 関数は、このマッピングを行うためのエントリポイントとして機能します。

src/pkg/runtime/vlrt_arm.c ファイルは、ARMアーキテクチャにおけるGoランタイムの仮想レジスタ管理に関連するコードを含んでいます。このファイルに panicdivide のプロトタイプが追加されたということは、ARMアーキテクチャのコンパイラやアセンブリコードが、ゼロ除算を検出した際にこの runtime·panicdivide 関数を呼び出すことを意図していることを示唆しています。

具体的なゼロ除算の検出方法は、コンパイラが除算命令を生成する際に、除数がゼロである可能性をチェックするコードを挿入するか、あるいはCPUがゼロ除算例外を発生させた場合に、その例外ハンドラが panicdivide を呼び出すように設定されるかのいずれか、または両方の組み合わせが考えられます。このプロトタイプ宣言は、その呼び出し規約をCコンパイラに知らせる役割を果たします。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/pkg/runtime/vlrt_arm.c
+++ b/src/pkg/runtime/vlrt_arm.c
@@ -27,6 +27,7 @@
 
 // declared here to avoid include of runtime.h
 void	runtime·panicstring(char*);
+void	runtime·panicdivide(void);
 
 typedef unsigned long   ulong;
 typedef unsigned int    uint;

コアとなるコードの解説

変更は src/pkg/runtime/vlrt_arm.c ファイルの28行目に追加された1行です。

void runtime·panicdivide(void);

この行は、C言語の関数プロトタイプ宣言です。

  • void: この関数が値を返さないことを示します。
  • runtime·panicdivide: 関数の名前です。Goランタイムの内部関数では、C言語のリンケージと衝突しないように、関数名の前に runtime· というプレフィックスが付くことがよくあります。
  • (void): この関数が引数を取らないことを示します。

この宣言により、vlrt_arm.c またはこのファイルを含む他のC言語ファイルから、runtime·panicdivide 関数を呼び出すことが可能になります。この関数自体の実装は、通常、アセンブリ言語で書かれた別のファイル(例: asm_arm.s のようなファイル)に存在し、Goのパニック機構をトリガーする役割を担います。

このプロトタイプが追加されたことで、ARMアーキテクチャ向けのGoコンパイラやランタイムは、ゼロ除算が発生する可能性のある箇所で、この runtime·panicdivide 関数を安全に呼び出すことができるようになります。これにより、Goプログラムは、アーキテクチャに依存しない一貫したゼロ除算エラーハンドリングの挙動を示すことができます。

関連リンク

  • Go Code Review: https://golang.org/cl/68680043

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント (Panic and Recover): https://go.dev/blog/defer-panic-and-recover
  • Goランタイムのソースコード (GoのGitHubリポジトリ): https://github.com/golang/go
  • C言語の関数プロトタイプに関する情報 (一般的なC言語のドキュメント)
  • ARMアーキテクチャに関する情報 (一般的なARMアーキテクチャのドキュメント)
  • Go言語におけるゼロ除算の挙動に関する議論 (Goコミュニティのフォーラムやメーリングリスト)