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[インデックス 18701] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の標準ライブラリsync/atomicパッケージ内のテストに関する修正です。具体的には、freebsd/armおよびnetbsd/armプラットフォームで発生していた、nilポインタのデリファレンスに関連するテストの失敗を回避するために、これらのテストをスキップする変更が加えられました。

コミット

commit 5b456c74889e0316feda328bf3be1ed11f549519
Author: Dave Cheney <dave@cheney.net>
Date:   Sun Mar 2 08:30:45 2014 +1100

    sync/atomic: skip broken tests on freebsd/arm and netbsd/arm
    
    Update #7338
    
    The nil deref tests are currently failing on the *bsd/arm platforms. In an effort to avoid the build deteriorating further I would like to skip these tests on freebsd/arm and netbsd/arm.
    
    LGTM=bradfitz, minux.ma
    R=golang-codereviews, bradfitz, minux.ma
    CC=golang-codereviews
    https://golang.org/cl/69870045

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/5b456c74889e0316feda328bf3be1ed11f549519

元コミット内容

sync/atomic: freebsd/arm および netbsd/arm 上で壊れているテストをスキップする

Issue #7338 を更新

nilデリファレンスに関するテストが現在、*bsd/armプラットフォームで失敗しています。これ以上ビルドが悪化するのを避けるため、これらのテストをfreebsd/armおよびnetbsd/arm上でスキップしたいと考えています。

LGTM=bradfitz, minux.ma R=golang-codereviews, bradfitz, minux.ma CC=golang-codereviews https://golang.org/cl/69870045

変更の背景

この変更の背景には、Go言語のsync/atomicパッケージに含まれるテストが、特定のプラットフォーム(freebsd/armおよびnetbsd/arm)で予期せぬ失敗を起こしていたという問題があります。コミットメッセージによると、これらの失敗は「nilデリファレンス」に関連するテストで発生していました。

Goプロジェクトでは、様々なオペレーティングシステム(OS)とアーキテクチャの組み合わせ(GOOS/GOARCH)でコードが正しく動作することを保証するために、広範なテストスイートを実行しています。しかし、特定の環境でのみ問題が顕在化することは珍しくありません。この場合、freebsd/armnetbsd/armという組み合わせが問題を引き起こしていました。

テストの失敗は、CI/CDパイプラインにおけるビルドの健全性を損ない、他の開発者が新しい変更をコミットする際の妨げとなる可能性があります。ビルドが継続的に失敗している状態は「ビルドの劣化 (build deteriorating)」と呼ばれ、開発効率を著しく低下させます。このコミットは、根本的な問題を解決するまでの間、一時的な措置として、問題のあるテストをスキップすることでビルドの健全性を維持することを目的としています。これにより、他の開発作業が滞りなく進むようになります。

コミットメッセージに記載されているUpdate #7338は、この問題がGoのIssueトラッカーで追跡されていたことを示唆していますが、現在の公開情報からは直接的なIssueの特定はできませんでした。また、golang.org/cl/69870045というChange List (CL) へのリンクも、現在の公開情報からは確認できませんでした。これは、Goプロジェクトのコードレビューシステムが時間とともに進化し、古いCLのURLが変更されたか、あるいは内部的な参照であった可能性が考えられます。

前提知識の解説

Go言語のsync/atomicパッケージ

sync/atomicパッケージは、Go言語において低レベルのアトミック操作(不可分操作)を提供するパッケージです。アトミック操作とは、複数のゴルーチン(Goの軽量スレッド)が同時にアクセスしても、その操作が中断されることなく、常に完全に実行されることが保証される操作のことです。これにより、並行処理におけるデータ競合(data race)を防ぎ、安全な並行プログラミングを実現します。

このパッケージは、主に以下のような操作を提供します。

  • AddInt32, AddInt64, AddUint32, AddUint64, AddUintptr: 指定された値にアトミックに加算する。
  • CompareAndSwapInt32, CompareAndSwapInt64, CompareAndSwapUint32, CompareAndSwapUint64, CompareAndSwapUintptr, CompareAndSwapPointer: 指定されたメモリ位置の値が期待値と一致する場合にのみ、新しい値にアトミックに交換する(CAS操作)。
  • LoadInt32, LoadInt64, LoadUint32, LoadUint64, LoadUintptr, LoadPointer: 指定されたメモリ位置の値をアトミックに読み込む。
  • StoreInt32, StoreInt64, StoreUint32, StoreUint64, StoreUintptr, StorePointer: 指定されたメモリ位置に値をアトミックに書き込む。

これらの関数は、ミューテックス(sync.Mutex)などのロック機構を使用するよりも、特定のシナリオで高いパフォーマンスを発揮することがあります。特に、カウンタの実装やロックフリーデータ構造の構築に利用されます。

nilポインタのデリファレンス

Go言語において、nilはポインタ、スライス、マップ、チャネル、インターフェース、関数などのゼロ値です。nilポインタは、何も指していないポインタを意味します。nilポインタをデリファレンス(ポインタが指す先の値にアクセスしようとすること)しようとすると、ランタイムパニック(panic: runtime error: invalid memory address or nil pointer dereference)が発生し、プログラムが異常終了します。

sync/atomicパッケージの関数は、通常、ポインタ引数を受け取ります。例えば、atomic.CompareAndSwapInt32(addr *int32, old, new int32)のように、addrint32型へのポインタです。もしこのaddrnilが渡された場合、内部でそのポインタをデリファレンスしようとすると、nilデリファレンスが発生します。

runtime.GOOSruntime.GOARCH

Go言語の標準ライブラリruntimeパッケージは、Goランタイムに関する情報や低レベルの操作を提供します。

  • runtime.GOOS: プログラムがコンパイルまたは実行されているオペレーティングシステムの名前を表す文字列定数です。例えば、linux, windows, darwin (macOS), freebsd, netbsdなどがあります。
  • runtime.GOARCH: プログラムがコンパイルまたは実行されているプロセッサアーキテクチャの名前を表す文字列定数です。例えば、amd64, arm, arm64, 386などがあります。

これらの定数は、クロスコンパイルやプラットフォーム固有のコードを書く際に非常に役立ちます。このコミットでは、runtime.GOOSruntime.GOARCHを組み合わせて、特定のプラットフォーム(freebsd/armおよびnetbsd/arm)を識別し、その環境でのみテストをスキップする条件を記述しています。

Goのテストフレームワークとt.Skipf

Go言語には、標準でテストフレームワークが組み込まれています。テストファイルは通常、テスト対象のファイルと同じディレクトリに_test.goというサフィックスを付けて配置されます。テスト関数はTestで始まり、*testing.T型の引数を取ります。

*testing.T型は、テストの実行を制御するための様々なメソッドを提供します。その一つがt.Skipfです。

  • t.Skipf(format string, args ...interface{}): このメソッドは、テストをスキップするために使用されます。指定されたフォーマット文字列と引数を使ってスキップ理由をログに出力し、現在のテストの実行を中断します。テストがスキップされた場合、そのテストは失敗とはみなされず、テスト結果には「スキップされたテスト」として記録されます。これは、特定の環境や条件でのみ発生する問題がある場合や、まだ実装されていない機能のテストを一時的に無効にする場合などに便利です。

技術的詳細

このコミットの技術的詳細の中心は、Goのテストコードに条件付きのスキップロジックを追加することです。

src/pkg/sync/atomic/atomic_test.goファイルは、sync/atomicパッケージの機能が正しく動作するかを検証するためのテストスイートを含んでいます。コミットメッセージによると、TestNilDerefというテスト関数が問題の原因でした。このテストは、nilポインタをsync/atomicパッケージの関数に渡した場合に、期待されるpanicが発生するかどうかを検証することを目的としていると推測されます。

通常、nilポインタのデリファレンスはGoプログラムではランタイムパニックを引き起こします。sync/atomicパッケージの関数がnilポインタを受け取った場合に、適切にパニックするか、あるいは他の方法でエラーを処理するか(この場合はパニックが期待される動作である可能性が高い)を検証するのがTestNilDerefの役割です。

しかし、freebsd/armおよびnetbsd/armという特定のOS/アーキテクチャの組み合わせにおいて、このテストが期待通りに動作せず、失敗していました。これは、これらのプラットフォームにおけるGoランタイムの挙動、特にメモリ管理やシグナルハンドリングの細かな違いが原因である可能性があります。例えば、nilポインタのデリファレンスが、他のプラットフォームとは異なる方法で処理されたり、予期せぬクラッシュを引き起こしたりする可能性が考えられます。

この問題を一時的に回避するため、コミットは以下のロジックを追加しました。

if p := runtime.GOOS + "/" + runtime.GOARCH; p == "freebsd/arm" || p == "netbsd/arm" {
	t.Skipf("issue 7338: skipping test on %q", p)
}

このコードスニペットは、テスト関数TestNilDerefの冒頭に挿入されています。

  1. p := runtime.GOOS + "/" + runtime.GOARCH;: 現在の実行環境のOSとアーキテクチャの組み合わせを文字列として取得し、変数pに代入します。例えば、"linux/amd64""freebsd/arm"のようになります。
  2. p == "freebsd/arm" || p == "netbsd/arm": pの値が"freebsd/arm"または"netbsd/arm"のいずれかと一致するかどうかをチェックします。
  3. t.Skipf("issue 7338: skipping test on %q", p): もし条件が真(つまり、現在のプラットフォームがfreebsd/armまたはnetbsd/armである)であれば、t.Skipfを呼び出してテストをスキップします。スキップ理由として「issue 7338: skipping test on "freebsd/arm"」のようなメッセージが出力されます。

この変更により、問題が解決されるまでの間、これらのプラットフォームでのビルドがテスト失敗によって中断されることを防ぎます。これは、開発プロセスを円滑に進めるための実用的なアプローチです。根本的な原因の調査と修正は、このコミットの範囲外であり、おそらく別のIssueやCLで追跡されることになります。

コアとなるコードの変更箇所

変更はsrc/pkg/sync/atomic/atomic_test.goファイルにのみ行われました。

--- a/src/pkg/sync/atomic/atomic_test.go
+++ b/src/pkg/sync/atomic/atomic_test.go
@@ -1463,6 +1463,9 @@ func TestUnaligned64(t *testing.T) {
 }
 
 func TestNilDeref(t *testing.T) {
+	if p := runtime.GOOS + "/" + runtime.GOARCH; p == "freebsd/arm" || p == "netbsd/arm" {
+		t.Skipf("issue 7338: skipping test on %q", p)
+	}
 	funcs := [...]func(){
 		func() { CompareAndSwapInt32(nil, 0, 0) },
 		func() { CompareAndSwapInt64(nil, 0, 0) },

コアとなるコードの解説

上記の差分は、TestNilDeref関数の先頭に3行のコードが追加されたことを示しています。

追加されたコードは以下の通りです。

	if p := runtime.GOOS + "/" + runtime.GOARCH; p == "freebsd/arm" || p == "netbsd/arm" {
		t.Skipf("issue 7338: skipping test on %q", p)
	}

このコードブロックは、TestNilDerefが実行される際に、現在の実行環境がfreebsd/armまたはnetbsd/armであるかどうかをチェックします。

  1. p := runtime.GOOS + "/" + runtime.GOARCH;:

    • runtime.GOOSは現在のオペレーティングシステム(例: "freebsd")を返します。
    • runtime.GOARCHは現在のアーキテクチャ(例: "arm")を返します。
    • これらを文字列結合することで、"freebsd/arm""netbsd/arm"のような形式の文字列pが生成されます。
  2. p == "freebsd/arm" || p == "netbsd/arm":

    • 生成された文字列pが、"freebsd/arm"と完全に一致するか、または"netbsd/arm"と完全に一致するかを評価します。
    • 論理OR (||) 演算子により、どちらか一方でも真であれば条件全体が真となります。
  3. t.Skipf("issue 7338: skipping test on %q", p):

    • if文の条件が真であった場合(つまり、テストが問題のプラットフォームで実行されている場合)、t.Skipf関数が呼び出されます。
    • t.Skipfは、現在のテストをスキップし、その理由をフォーマットされた文字列で出力します。
    • %qは、文字列pを引用符で囲んで出力するためのフォーマット動詞です。これにより、例えば「issue 7338: skipping test on "freebsd/arm"」のようなメッセージがテストログに表示されます。

この変更により、TestNilDerefは、問題が確認されている特定のプラットフォームでは実行されなくなり、テストスイート全体の健全性が保たれます。これは、根本的なバグ修正ではなく、ビルドの安定性を優先するための暫定的な措置です。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント (上記リンク)
  • Go言語のテストに関する一般的な知識
  • nilポインタデリファレンスに関するGo言語の挙動に関する一般的な知識
  • runtime.GOOSruntime.GOARCHに関する一般的な知識
  • t.Skipfの使用方法に関する一般的な知識
  • GitHubのコミットページ: https://github.com/golang/go/commit/5b456c74889e0316feda328bf3be1ed11f549519
  • (注: コミットメッセージに記載されているIssue #7338およびChange List golang.org/cl/69870045は、現在の公開情報からは直接的な参照を見つけることができませんでした。そのため、これらのリンクは含んでいません。)