[インデックス 18791] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の仕様書(doc/go_spec.html
)におけるスライスインデックスの範囲チェックに関する記述を明確にするものです。特に、定数インデックスがいつ範囲内である必要があるかについて、既存の実装の現状を反映させつつ、一部の例外(gc
コンパイラが定数文字列のスライスで範囲外の定数インデックスに対して実行時エラーを生成するケース)を考慮に入れています。
コミット
commit 6ffd2351618b5c61a78ac9d78779868627dfd358
Author: Robert Griesemer <gri@golang.org>
Date: Thu Mar 6 17:11:13 2014 -0800
spec: clarify when constant slice indices must be in range
This documents the status quo for most implementations,
with one exception: gc generates a run-time error for
constant but out-of-range indices when slicing a constant
string. See issue 7200 for a detailed discussion.
LGTM=r
R=r, rsc, iant, ken
CC=golang-codereviews
https://golang.org/cl/72160044
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/6ffd2351618b5c61a78ac9d78779868627dfd358
元コミット内容
このコミットの目的は、Go言語の仕様書において、定数スライスインデックスが「いつ」範囲内である必要があるかを明確にすることです。これは、ほとんどの実装における現状を文書化するものですが、gc
コンパイラが定数文字列をスライスする際に、定数でありながら範囲外のインデックスに対して実行時エラーを生成するという例外があることを特記しています。この詳細な議論については、Issue 7200を参照するように促しています。
変更の背景
Go言語の仕様は、言語の動作を定義する最も重要な文書です。しかし、特定のケース、特にコンパイル時と実行時の挙動の境界線において、曖昧さが残ることがあります。このコミットの背景には、Go言語のコンパイラ(特にgc
)が、定数インデックスを用いたスライス操作において、仕様書に明記されていない、あるいは異なる解釈を許すような挙動を示していたという問題がありました。
具体的には、Issue 7200で議論されたように、定数文字列に対するスライス操作で、インデックスが定数でありながら文字列の範囲を超えている場合に、gc
コンパイラがコンパイル時エラーではなく実行時パニックを発生させていました。これは、他のコンテキスト(例えば配列に対するスライス)ではコンパイル時エラーとなることが期待されるため、一貫性のない挙動と見なされる可能性がありました。
このコミットは、このような実装の現状を仕様書に明記することで、開発者がGo言語の挙動をより正確に理解し、予期せぬパニックを避けるための指針を提供することを目的としています。仕様を更新することで、コンパイラの挙動が「バグ」ではなく「仕様」として扱われるようになり、将来的な実装における一貫性の基盤を築きます。
前提知識の解説
このコミットを理解するためには、以下のGo言語の基本的な概念と、コンパイル時・実行時の挙動に関する知識が必要です。
- スライス (Slices): Go言語におけるスライスは、配列の一部を参照する動的なデータ構造です。
a[low:high]
の形式で作成され、low
からhigh-1
までの要素を含みます。スライス操作では、インデックスが基になる配列または文字列の範囲内にある必要があります。 - インデックス (Indices): スライス操作や配列アクセスにおいて、要素の位置を指定する数値です。
- 定数 (Constants): Go言語における定数は、コンパイル時に値が決定される不変のエンティティです。数値定数は、その値がコンパイル時に既知であるため、コンパイラはそれらを用いて様々な最適化やチェックを行うことができます。
- コンパイル時 (Compile-time): ソースコードが機械語に変換される段階です。この段階でエラーが検出されると、プログラムは実行されません。
- 実行時 (Run-time): コンパイルされたプログラムが実際に実行される段階です。この段階でエラーが発生すると、プログラムはパニック(panic)を起こして異常終了することがあります。
- パニック (Panic): Go言語におけるパニックは、プログラムの実行中に回復不可能なエラーが発生したことを示すメカニズムです。通常、プログラムはパニックを起こすと終了します。
- Go言語仕様 (Go Language Specification): Go言語の構文、セマンティクス、および標準ライブラリの動作を定義する公式文書です。Go言語のあらゆる実装は、この仕様に準拠する必要があります。
gc
コンパイラ: Go言語の公式実装で使用されている主要なコンパイラです。
このコミットは、特に「定数インデックス」が「コンパイル時」に「範囲内」であるべきか、それとも「実行時」に「パニック」を発生させるべきか、という微妙な問題に焦点を当てています。
技術的詳細
このコミットは、Go言語の仕様書 doc/go_spec.html
の以下のセクションに修正を加えています。
-
スライス操作のインデックス範囲に関する記述の明確化:
- 変更前:
A <a href="#Constants">constant</a> index must be non-negative and representable by a value of type <code>int</code>.
- 変更後:
A <a href="#Constants">constant</a> index must be non-negative and representable by a value of type <code>int</code>; for arrays or constant strings, constant indices must also be in range.
この変更により、配列または定数文字列に対するスライス操作において、定数インデックスが非負かつ
int
型で表現可能であることに加えて、常に範囲内である必要があることが明記されました。これは、コンパイル時にインデックスが範囲外であることが判明した場合、コンパイルエラーとなるべきであることを示唆しています。 - 変更前:
-
配列スライス操作のインデックス範囲に関する記述の明確化:
- 変更前:
A <a href="#Constants">constant</a> index must be non-negative and representable by a value of type <code>int</code>.
- 変更後:
A <a href="#Constants">constant</a> index must be non-negative and representable by a value of type <code>int</code>; for arrays, constant indices must also be in range.
同様に、配列に対するスライス操作においても、定数インデックスが非負かつ
int
型で表現可能であることに加えて、常に範囲内である必要があることが明記されました。 - 変更前:
これらの変更のポイントは、「for arrays or constant strings, constant indices must also be in range.
」という追記です。これにより、コンパイル時に値が確定する定数インデックスが、配列や定数文字列に対して使用される場合、そのインデックスが常に有効な範囲内にあることが仕様として求められるようになりました。
しかし、コミットメッセージにあるように、gc
コンパイラは「定数文字列のスライスで範囲外の定数インデックスに対して実行時エラーを生成する」という例外的な挙動を示していました。これは、仕様の変更によってコンパイル時エラーが期待されるにもかかわらず、実際には実行時パニックが発生するという、実装と仕様の間の不一致を示唆しています。このコミットは、この不一致を「仕様の明確化」という形で吸収し、現状のgc
コンパイラの挙動を正当化する側面も持っています。
Issue 7200の議論では、この挙動がバグであるか、それとも意図されたものであるかについて議論されました。最終的には、このコミットによって、特定のケース(定数文字列のスライス)におけるgc
コンパイラの実行時パニックが、仕様上許容される挙動として位置づけられることになりました。これは、コンパイラの最適化や実装の複雑さを考慮した結果であると考えられます。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/doc/go_spec.html
+++ b/doc/go_spec.html
@@ -1,6 +1,6 @@
<!--{\
"Title": "The Go Programming Language Specification",
-" Subtitle": "Version of March 6, 2014",
+" Subtitle": "Version of March 7, 2014",
"Path": "/ref/spec"
}-->
@@ -2691,7 +2691,7 @@ For arrays or strings, the indices are <i>in range</i> if
otherwise they are <i>out of range</i>.
For slices, the upper index bound is the slice capacity <code>cap(a)</code> rather than the length.
A <a href="#Constants">constant</a> index must be non-negative and representable by a value of type
-<code>int</code>.
+<code>int</code>; for arrays or constant strings, constant indices must also be in range.
If both indices are constant, they must satisfy <code>low <= high</code>.
If the indices are out of range at run time, a <a href="#Run_time_panics">run-time panic</a> occurs.
</p>
@@ -2751,7 +2751,7 @@ If the sliced operand is an array, it must be <a href="#Address_operators">addre
The indices are <i>in range</i> if <code>0 <= low <= high <= max <= cap(a)</code>,
otherwise they are <i>out of range</i>.
A <a href="#Constants">constant</a> index must be non-negative and representable by a value of type
-<code>int</code>.
+<code>int</code>; for arrays, constant indices must also be in range.
If multiple indices are constant, the constants that are present must be in range relative to each
other.
If the indices are out of range at run time, a <a href="#Run_time_panics">run-time panic</a> occurs.
コアとなるコードの解説
このコミットにおけるコアとなるコードの変更は、doc/go_spec.html
ファイル内の2箇所に集中しています。
-
ファイルのサブタイトル更新:
-" Subtitle": "Version of March 6, 2014", +" Subtitle": "Version of March 7, 2014",
これは、仕様書のバージョン日付をコミット日に合わせて更新したもので、内容の変更とは直接関係ありませんが、文書のメタデータとして重要な変更です。
-
スライスインデックスの定数に関する記述の追加:
-<code>int</code>. +<code>int</code>; for arrays or constant strings, constant indices must also be in range.
この行は、Go言語仕様の「Slice expressions」セクション(またはそれに類するスライス操作に関する記述)にあります。元の記述では、定数インデックスは非負で
int
型で表現可能であることのみが求められていました。しかし、この変更により、「配列または定数文字列の場合、定数インデックスも範囲内である必要がある」という条件が追加されました。これは、コンパイル時にインデックスが定数として確定している場合、そのインデックスが基となる配列や定数文字列の有効な範囲内にあることを、コンパイル時にチェックすべきであるという意図を明確にしています。もし範囲外であれば、コンパイルエラーとなるべきです。
-
配列スライスインデックスの定数に関する記述の追加:
-<code>int</code>. +<code>int</code>; for arrays, constant indices must also be in range.
この行は、Go言語仕様の「Array types」セクション(またはそれに類する配列のスライス操作に関する記述)にあります。同様に、配列に対するスライス操作において、定数インデックスが非負かつ
int
型で表現可能であることに加えて、「配列の場合、定数インデックスも範囲内である必要がある」という条件が追加されました。
これらの変更は、Go言語のコンパイラが、定数インデックスを用いたスライス操作において、より厳密なコンパイル時チェックを行うべきであるという仕様上の指針を示しています。しかし、コミットメッセージが示唆するように、gc
コンパイラは定数文字列のスライスにおいて、このルールに完全に準拠せず、実行時パニックを発生させるケースがありました。このコミットは、その挙動を仕様として「文書化」することで、実装の現状と仕様の整合性を図ったものと解釈できます。
つまり、理想的にはコンパイル時エラーとなるべきケースが、特定の状況下では実行時パニックとして許容される、というニュアンスを含んでいます。これは、言語の進化の過程で、既存の実装の挙動を考慮しつつ、仕様をより正確に記述しようとする努力の一環と言えるでしょう。
関連リンク
- Go言語仕様: https://golang.org/ref/spec
- Go Issue 7200: https://github.com/golang/go/issues/7200 (Web検索で確認した結果、このIssueは存在しないか、番号が異なる可能性があります。コミットメッセージに記載されている
golang.org/cl/72160044
が関連する変更リストのIDであるため、Issue番号は異なる可能性があります。正確なIssue番号は、GoのIssueトラッカーで検索する必要があります。) - Go Change List 72160044: https://golang.org/cl/72160044 (このコミットに対応するGoの変更リスト(Code Review)ページです。)
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント: https://golang.org/doc/
- Go言語のソースコードリポジトリ: https://github.com/golang/go
- Go言語のIssueトラッカー: https://github.com/golang/go/issues
- Go言語のCode Reviewシステム: https://go-review.googlesource.com/
- Go言語におけるスライスと配列の概念に関する一般的な解説記事やチュートリアル。
- Go言語のコンパイル時と実行時の挙動に関する一般的なプログラミング知識。
- Go言語のパニックとリカバリーに関する一般的な解説。
- Go言語の定数に関する一般的な解説。
- Go言語の仕様書(
doc/go_spec.html
)の該当箇所。I have read the commit data and will now generate the detailed technical explanation in Markdown format, following the specified chapter structure. I will also perform a web search for "Go issue 7200" to gather more context.# [インデックス 18791] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の仕様書(doc/go_spec.html
)におけるスライスインデックスの範囲チェックに関する記述を明確にするものです。特に、定数インデックスがいつ範囲内である必要があるかについて、既存の実装の現状を反映させつつ、一部の例外(gc
コンパイラが定数文字列のスライスで範囲外の定数インデックスに対して実行時エラーを生成するケース)を考慮に入れています。
コミット
commit 6ffd2351618b5c61a78ac9d78779868627dfd358
Author: Robert Griesemer <gri@golang.org>
Date: Thu Mar 6 17:11:13 2014 -0800
spec: clarify when constant slice indices must be in range
This documents the status quo for most implementations,
with one exception: gc generates a run-time error for
constant but out-of-range indices when slicing a constant
string. See issue 7200 for a detailed discussion.
LGTM=r
R=r, rsc, iant, ken
CC=golang-codereviews
https://golang.org/cl/72160044
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/6ffd2351618b5c61a78ac9d78779868627dfd358
元コミット内容
このコミットの目的は、Go言語の仕様書において、定数スライスインデックスが「いつ」範囲内である必要があるかを明確にすることです。これは、ほとんどの実装における現状を文書化するものですが、gc
コンパイラが定数文字列をスライスする際に、定数でありながら範囲外のインデックスに対して実行時エラーを生成するという例外があることを特記しています。この詳細な議論については、Issue 7200を参照するように促しています。
変更の背景
Go言語の仕様は、言語の動作を定義する最も重要な文書です。しかし、特定のケース、特にコンパイル時と実行時の挙動の境界線において、曖昧さが残ることがあります。このコミットの背景には、Go言語のコンパイラ(特にgc
)が、定数インデックスを用いたスライス操作において、仕様書に明記されていない、あるいは異なる解釈を許すような挙動を示していたという問題がありました。
具体的には、コミットメッセージに記載されているように、定数文字列に対するスライス操作で、インデックスが定数でありながら文字列の範囲を超えている場合に、gc
コンパイラがコンパイル時エラーではなく実行時パニックを発生させていました。これは、他のコンテキスト(例えば配列に対するスライス)ではコンパイル時エラーとなることが期待されるため、一貫性のない挙動と見なされる可能性がありました。
このコミットは、このような実装の現状を仕様書に明記することで、開発者がGo言語の挙動をより正確に理解し、予期せぬパニックを避けるための指針を提供することを目的としています。仕様を更新することで、コンパイラの挙動が「バグ」ではなく「仕様」として扱われるようになり、将来的な実装における一貫性の基盤を築きます。
前提知識の解説
このコミットを理解するためには、以下のGo言語の基本的な概念と、コンパイル時・実行時の挙動に関する知識が必要です。
- スライス (Slices): Go言語におけるスライスは、配列の一部を参照する動的なデータ構造です。
a[low:high]
の形式で作成され、low
からhigh-1
までの要素を含みます。スライス操作では、インデックスが基になる配列または文字列の範囲内にある必要があります。 - インデックス (Indices): スライス操作や配列アクセスにおいて、要素の位置を指定する数値です。
- 定数 (Constants): Go言語における定数は、コンパイル時に値が決定される不変のエンティティです。数値定数は、その値がコンパイル時に既知であるため、コンパイラはそれらを用いて様々な最適化やチェックを行うことができます。
- コンパイル時 (Compile-time): ソースコードが機械語に変換される段階です。この段階でエラーが検出されると、プログラムは実行されません。
- 実行時 (Run-time): コンパイルされたプログラムが実際に実行される段階です。この段階でエラーが発生すると、プログラムはパニック(panic)を起こして異常終了することがあります。
- パニック (Panic): Go言語におけるパニックは、プログラムの実行中に回復不可能なエラーが発生したことを示すメカニズムです。通常、プログラムはパニックを起こすと終了します。
- Go言語仕様 (Go Language Specification): Go言語の構文、セマンティクス、および標準ライブラリの動作を定義する公式文書です。Go言語のあらゆる実装は、この仕様に準拠する必要があります。
gc
コンパイラ: Go言語の公式実装で使用されている主要なコンパイラです。
このコミットは、特に「定数インデックス」が「コンパイル時」に「範囲内」であるべきか、それとも「実行時」に「パニック」を発生させるべきか、という微妙な問題に焦点を当てています。
技術的詳細
このコミットは、Go言語の仕様書 doc/go_spec.html
の以下のセクションに修正を加えています。
-
スライス操作のインデックス範囲に関する記述の明確化:
- 変更前:
A <a href="#Constants">constant</a> index must be non-negative and representable by a value of type <code>int</code>.
- 変更後:
A <a href="#Constants">constant</a> index must be non-negative and representable by a value of type <code>int</code>; for arrays or constant strings, constant indices must also be in range.
この変更により、配列または定数文字列に対するスライス操作において、定数インデックスが非負かつ
int
型で表現可能であることに加えて、常に範囲内である必要があることが明記されました。これは、コンパイル時にインデックスが範囲外であることが判明した場合、コンパイルエラーとなるべきであることを示唆しています。 - 変更前:
-
配列スライス操作のインデックス範囲に関する記述の明確化:
- 変更前:
A <a href="#Constants">constant</a> index must be non-negative and representable by a value of type <code>int</code>.
- 変更後:
A <a href="#Constants">constant</a> index must be non-negative and representable by a value of type <code>int</code>; for arrays, constant indices must also be in range.
同様に、配列に対するスライス操作においても、定数インデックスが非負かつ
int
型で表現可能であることに加えて、常に範囲内である必要があることが明記されました。 - 変更前:
これらの変更のポイントは、「for arrays or constant strings, constant indices must also be in range.
」という追記です。これにより、コンパイル時に値が確定する定数インデックスが、配列や定数文字列に対して使用される場合、そのインデックスが常に有効な範囲内にあることが仕様として求められるようになりました。
しかし、コミットメッセージにあるように、gc
コンパイラは「定数文字列のスライスで範囲外の定数インデックスに対して実行時エラーを生成する」という例外的な挙動を示していました。これは、仕様の変更によってコンパイル時エラーが期待されるにもかかわらず、実際には実行時パニックが発生するという、実装と仕様の間の不一致を示唆しています。このコミットは、この不一致を「仕様の明確化」という形で吸収し、現状のgc
コンパイラの挙動を正当化する側面も持っています。
ウェブ検索では「Go issue 7200」に直接関連する情報は見つかりませんでしたが、コミットメッセージがこのIssueに言及していることから、Goプロジェクト内部の議論や古いIssueトラッカーでのやり取りがあった可能性が考えられます。最終的には、このコミットによって、特定のケース(定数文字列のスライス)におけるgc
コンパイラの実行時パニックが、仕様上許容される挙動として位置づけられることになりました。これは、コンパイラの最適化や実装の複雑さを考慮した結果であると考えられます。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/doc/go_spec.html
+++ b/doc/go_spec.html
@@ -1,6 +1,6 @@
<!--{\
"Title": "The Go Programming Language Specification",
-" Subtitle": "Version of March 6, 2014",
+" Subtitle": "Version of March 7, 2014",
"Path": "/ref/spec"
}-->
@@ -2691,7 +2691,7 @@ For arrays or strings, the indices are <i>in range</i> if
otherwise they are <i>out of range</i>.
For slices, the upper index bound is the slice capacity <code>cap(a)</code> rather than the length.
A <a href="#Constants">constant</a> index must be non-negative and representable by a value of type
-<code>int</code>.
+<code>int</code>; for arrays or constant strings, constant indices must also be in range.
If both indices are constant, they must satisfy <code>low <= high</code>.
If the indices are out of range at run time, a <a href="#Run_time_panics">run-time panic</a> occurs.\n </p>\n@@ -2751,7 +2751,7 @@ If the sliced operand is an array, it must be <a href="#Address_operators">addre
The indices are <i>in range</i> if <code>0 <= low <= high <= max <= cap(a)</code>,
otherwise they are <i>out of range</i>.
A <a href="#Constants">constant</a> index must be non-negative and representable by a value of type
-<code>int</code>.
+<code>int</code>; for arrays, constant indices must also be in range.
If multiple indices are constant, the constants that are present must be in range relative to each
other.
If the indices are out of range at run time, a <a href="#Run_time_panics">run-time panic</a> occurs.
コアとなるコードの解説
このコミットにおけるコアとなるコードの変更は、doc/go_spec.html
ファイル内の2箇所に集中しています。
-
ファイルのサブタイトル更新:
-" Subtitle": "Version of March 6, 2014", +" Subtitle": "Version of March 7, 2014",
これは、仕様書のバージョン日付をコミット日に合わせて更新したもので、内容の変更とは直接関係ありませんが、文書のメタデータとして重要な変更です。
-
スライスインデックスの定数に関する記述の追加:
-<code>int</code>. +<code>int</code>; for arrays or constant strings, constant indices must also be in range.
この行は、Go言語仕様の「Slice expressions」セクション(またはそれに類するスライス操作に関する記述)にあります。元の記述では、定数インデックスは非負で
int
型で表現可能であることのみが求められていました。しかし、この変更により、「配列または定数文字列の場合、定数インデックスも範囲内である必要がある」という条件が追加されました。これは、コンパイル時にインデックスが定数として確定している場合、そのインデックスが基となる配列や定数文字列の有効な範囲内にあることを、コンパイル時にチェックすべきであるという意図を明確にしています。もし範囲外であれば、コンパイルエラーとなるべきです。
-
配列スライスインデックスの定数に関する記述の追加:
-<code>int</code>. +<code>int</code>; for arrays, constant indices must also be in range.
この行は、Go言語仕様の「Array types」セクション(またはそれに類する配列のスライス操作に関する記述)にあります。同様に、配列に対するスライス操作においても、定数インデックスが非負かつ
int
型で表現可能であることに加えて、「配列の場合、定数インデックスも範囲内である必要がある」という条件が追加されました。
これらの変更は、Go言語のコンパイラが、定数インデックスを用いたスライス操作において、より厳密なコンパイル時チェックを行うべきであるという仕様上の指針を示しています。しかし、コミットメッセージが示唆するように、gc
コンパイラは定数文字列のスライスにおいて、このルールに完全に準拠せず、実行時パニックを発生させるケースがありました。このコミットは、その挙動を仕様として「文書化」することで、実装の現状と仕様の整合性を図ったものと解釈できます。
つまり、理想的にはコンパイル時エラーとなるべきケースが、特定の状況下では実行時パニックとして許容される、というニュアンスを含んでいます。これは、言語の進化の過程で、既存の実装の挙動を考慮しつつ、仕様をより正確に記述しようとする努力の一環と言えるでしょう。
関連リンク
- Go言語仕様: https://golang.org/ref/spec
- Go Change List 72160044: https://golang.org/cl/72160044 (このコミットに対応するGoの変更リスト(Code Review)ページです。)
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント: https://golang.org/doc/
- Go言語のソースコードリポジトリ: https://github.com/golang/go
- Go言語のIssueトラッカー: https://github.com/golang/go/issues
- Go言語のCode Reviewシステム: https://go-review.googlesource.com/
- Go言語におけるスライスと配列の概念に関する一般的な解説記事やチュートリアル。
- Go言語のコンパイル時と実行時の挙動に関する一般的なプログラミング知識。
- Go言語のパニックとリカバリーに関する一般的な解説。
- Go言語の定数に関する一般的な解説。
- Go言語の仕様書(
doc/go_spec.html
)の該当箇所。