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[インデックス 18906] ファイルの概要

このコミットは、Goコンパイラ(cmd/6g、AMD64アーキテクチャ向け)から未使用の変数 stosptr を削除するものです。これはコードベースのクリーンアップであり、コンパイラの効率性や保守性を向上させるための変更です。

コミット

commit 6ea340fd61b73d94992a4930ef0d2ee09a1ffd64
Author: Ian Lance Taylor <iant@golang.org>
Date:   Wed Mar 19 17:18:25 2014 -0700

    cmd/6g: remove unused stosptr variable
    
    LGTM=bradfitz
    R=golang-codereviews, bradfitz
    CC=golang-codereviews
    https://golang.org/cl/78030043

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/6ea340fd61b73d94992a4930ef0d2ee09a1ffd64

元コミット内容

cmd/6g: remove unused stosptr variable

このコミットは、Goコンパイラのcmd/6g(AMD64アーキテクチャ向け)から、もはや使用されていないstosptrという変数を削除します。

変更の背景

ソフトウェア開発において、コードベースの健全性を維持することは非常に重要です。時間が経つにつれて、機能の変更やリファクタリングにより、一部の変数やコードパスが不要になることがあります。このような未使用のコードは、コンパイラのバイナリサイズを不必要に増加させたり、コードの可読性を低下させたり、将来のメンテナンス時に混乱を招いたりする可能性があります。

このコミットの背景には、stosptr変数がGoコンパイラのcmd/6g内でその役割を終え、もはやコード生成に必要なくなったという事実があります。具体的な変更履歴はコミットメッセージからは読み取れませんが、おそらくGoコンパイラの内部的なコード生成ロジックの進化や最適化により、stos命令(またはそれに対応する抽象化)が特定の状況下で不要になったか、別のより効率的な方法で処理されるようになったと考えられます。未使用のコードを削除することは、コードベースをスリムに保ち、理解しやすく、保守しやすい状態に保つための一般的なプラクティスです。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下の前提知識が必要です。

  • Goコンパイラ (cmd/6g): Go言語のソースコードを機械語に変換するツールチェーンの一部です。6gは、Go 1.5より前のバージョンでAMD64(x86-64)アーキテクチャ向けのコンパイラを指していました。Go 1.5以降は、コンパイラはGo言語自体で書かれ、go tool compileとして統合されていますが、このコミットが作成された2014年時点では6gという名称が使われていました。コンパイラは、ソースコードを解析し、中間表現を生成し、最終的にターゲットアーキテクチャの機械語(アセンブリコード)を生成します。

  • アセンブリ言語とSTOS命令: アセンブリ言語は、CPUが直接実行できる機械語に非常に近い低レベルのプログラミング言語です。x86アーキテクチャには、文字列操作を効率的に行うための特別な命令セットがあります。 STOS (Store String) 命令は、レジスタ(通常はAL, AX, EAX, RAX)の内容を、ES:DI(またはES:EDI, ES:RDI)レジスタが指すメモリ位置に格納し、その後DIレジスタ(またはEDI, RDI)を自動的にインクリメントまたはデクリメントする命令です。これは、メモリブロックを特定のバイトで埋めたり、文字列をコピーしたりする際に使用されます。

    • STOSB: バイト単位でストア
    • STOSW: ワード(2バイト)単位でストア
    • STOSD: ダブルワード(4バイト)単位でストア
    • STOSQ: クアッドワード(8バイト)単位でストア (64ビット環境)
  • コンパイラのコード生成: コンパイラは、高水準言語の操作をターゲットアーキテクチャの具体的なアセンブリ命令に変換します。例えば、メモリの初期化や大きなデータ構造のコピーなど、特定の操作はSTOSのような文字列命令を使って効率的に実装されることがあります。コンパイラのバックエンド(コード生成部分)は、これらのアセンブリ命令を抽象化された形で表現し、必要に応じて具体的な命令にマッピングします。

  • galign.cgg.h: Goコンパイラのソースコードにおけるファイル名です。

    • galign.c: おそらく、Goコンパイラのコード生成フェーズにおいて、メモリのアライメント(配置)や特定のデータ構造の配置に関連するアセンブリ命令の選択や生成ロジックを扱うC言語のソースファイルです。
    • gg.h: 6gコンパイラのグローバルな定義や外部変数宣言を含むヘッダファイルである可能性が高いです。

技術的詳細

このコミットは、Goコンパイラcmd/6gのコードベースから、stosptrという名前の変数を削除しています。この変数は、galign.c内でASTOSQまたはASTOSLという値に初期化されていました。

  • ASTOSQ: STOSQ命令に対応する内部的な定数またはマクロ。64ビット環境で8バイト(クアッドワード)をストアする命令。
  • ASTOSL: STOSL命令に対応する内部的な定数またはマクロ。32ビット環境で4バイト(ロングワード)をストアする命令。

stosptr変数は、ポインタのサイズ(32ビットか64ビットか)に応じて、適切なSTOS命令のオペコードを保持するために使用されていたと推測されます。Goコンパイラは、ターゲットアーキテクチャが32ビットか64ビットかによって、生成するアセンブリ命令を切り替える必要があります。stosptrのような変数は、この切り替えを抽象化し、コード生成ロジック内で一貫した方法でSTOS命令を参照するために使われていたと考えられます。

しかし、このコミットではstosptrが「未使用」であると明記されています。これは以下のいずれかの理由が考えられます。

  1. コード生成ロジックの変更: STOS命令を使用する特定のコード生成パターンが、Goコンパイラの進化に伴い、別の命令シーケンスや最適化された方法で置き換えられた。例えば、memsetのようなメモリ初期化操作が、より汎用的なループや他の命令で処理されるようになった、あるいはコンパイラがより高レベルの抽象化でこれらの操作を扱うようになった、など。
  2. 特定の最適化の廃止: かつてSTOS命令を利用していた特定の最適化が、もはや有効でなくなったか、より良い最適化手法が導入されたため、そのコードパスが削除された。
  3. デッドコード: 単純に、過去の機能や実験的なコードの一部として存在していたが、実際には呼び出されることがなく、そのまま残されていたデッドコードであった。

いずれにせよ、stosptr変数がもはやコンパイラのコード生成パスで参照されなくなったため、その宣言、初期化、および使用箇所を削除することで、コードベースを整理し、不要な複雑さを取り除いています。これは、コンパイラの保守性を高め、将来の開発者がコードを理解しやすくするための重要なステップです。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットによる変更は、以下の2つのファイルにわたります。

1. src/cmd/6g/galign.c

--- a/src/cmd/6g/galign.c
+++ b/src/cmd/6g/galign.c
@@ -22,7 +22,6 @@ vlong MAXWIDTH = 1LL<<50;
 int	addptr = AADDQ;
 int	movptr = AMOVQ;
 int	leaptr = ALEAQ;
-int	stosptr = ASTOSQ;
 int	cmpptr = ACMPQ;
 
 /*
@@ -49,7 +48,6 @@ betypeinit(void)\n \t\taddptr = AADDL;\n \t\tmovptr = AMOVL;\n \t\tleaptr = ALEAL;\n-\t\tstosptr = ASTOSL;\n \t\tcmpptr = ACMPL;\n \t\ttypedefs[0].sameas = TINT32;\n \t\ttypedefs[1].sameas = TUINT32;\
  • stosptr変数の宣言と初期化 (int stosptr = ASTOSQ;) が削除されました。
  • betypeinit関数内のstosptrへの代入 (stosptr = ASTOSL;) が削除されました。この関数は、コンパイラが32ビットモードで動作する場合に、ポインタ関連の命令を32ビット版に切り替えるための初期化を行っていたと考えられます。

2. src/cmd/6g/gg.h

--- a/src/cmd/6g/gg.h
+++ b/src/cmd/6g/gg.h
@@ -28,7 +28,6 @@ extern	int	addptr;
 extern	int	cmpptr;
 extern	int	movptr;
 extern	int	leaptr;
-extern	int	stosptr;
 
 /*
  * ggen.c
  • stosptr変数の外部宣言 (extern int stosptr;) が削除されました。これは、galign.c以外のファイルからstosptrを参照する必要がなくなったことを意味します。

コアとなるコードの解説

このコミットのコアとなる変更は、stosptrという単一の変数の削除です。

galign.cファイルは、Goコンパイラのバックエンドの一部であり、アセンブリ命令の選択と生成に関連するロジックを含んでいます。このファイルには、addptr, movptr, leaptr, cmpptrといった他の変数も定義されており、これらも同様にポインタ操作に関連するアセンブリ命令(ADD, MOV, LEA, CMP)のオペコードを保持していると推測されます。これらの変数は、コンパイラが生成するコードが32ビットか64ビットかによって、対応する命令のサイズ(例: AADDQ vs AADDL)を動的に切り替えるために使用されます。

stosptrも同様に、STOSQ(64ビット)またはSTOSL(32ビット)のオペコードを保持し、メモリのストア操作に関連するコード生成で使用されることを意図していました。しかし、このコミットによって、この変数がもはや必要とされていないことが示されています。

gg.hは、6gコンパイラの他の部分からこれらのグローバル変数にアクセスするためのヘッダファイルです。stosptrgalign.cから削除されたため、gg.hからもそのextern宣言を削除することは、整合性を保つ上で自然な変更です。

この変更は、Goコンパイラのコード生成戦略が進化し、stosptrが表す特定のSTOS命令の使用パターンが廃止されたことを示唆しています。これは、より効率的なコード生成方法が導入されたか、あるいは特定の最適化がもはや必要なくなったためと考えられます。結果として、コンパイラのコードベースはより簡潔になり、保守性が向上しました。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • x86 STOS命令に関する情報 (例: Intel Software Developer's Manuals, Agner Fog's optimization manualsなど)
  • Goコンパイラの歴史と進化に関する情報 (特にGo 1.5以前のコンパイラ構造について)
  • 一般的なコンパイラのコード生成に関する資料