[インデックス 18992] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のツール群に含まれていたbenchcmpスクリプトの取り扱いに関する変更です。具体的には、misc/benchcmpパスにあったスクリプトを、新しい場所へ誘導するためのフォワーディングスクリプトに置き換えるものです。これにより、ユーザーが古いパスでbenchcmpを実行しようとした際に、正しいツールの場所を案内し、混乱を避けることを目的としています。
コミット
commit f8c25b62b8a154a523d48410096e07f80eec7e6d
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date: Mon Mar 31 16:39:41 2014 -0400
benchcmp: leave a forwarding script
People (like me!) will still try to run misc/benchcmp
and wonder where it went. Tell them.
LGTM=bradfitz
R=golang-codereviews, bradfitz, dave
CC=adg, golang-codereviews, r
https://golang.org/cl/82710043
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/f8c25b62b8a154a523d48410096e07f80eec7e6d
元コミット内容
benchcmp: leave a forwarding script
People (like me!) will still try to run misc/benchcmp
and wonder where it went. Tell them.
変更の背景
このコミットの背景には、Go言語のツールエコシステムの進化があります。benchcmpは、Goのベンチマーク結果を比較するためのユーティリティであり、元々はGoリポジトリ内のmisc/ディレクトリに存在していました。しかし、Goのツール群は時間の経過とともに独立したリポジトリ(例: golang.org/x/tools)に移行される傾向にありました。これは、Go本体のリリースサイクルからツールの開発を切り離し、より柔軟な更新と管理を可能にするためです。
benchcmpもこの移行の一環として、code.google.com/p/go.tools/cmd/benchcmp(後にgolang.org/x/tools/cmd/benchcmpに移行)へ移動しました。この変更により、以前のパスでbenchcmpを探していたユーザーがツールを見つけられなくなるという問題が発生する可能性がありました。
コミットメッセージにある「People (like me!) will still try to run misc/benchcmp and wonder where it went. Tell them.」という記述は、開発者自身もこのようなツールの移動によって混乱する可能性があることを示唆しており、ユーザーエクスペリエンスを向上させるための配慮がこの変更の動機であることを明確にしています。古いパスにフォワーディングスクリプトを残すことで、ユーザーはツールの新しい場所を簡単に知ることができ、スムーズな移行を促すことができます。
前提知識の解説
- Go言語のベンチマーク: Go言語には、コードのパフォーマンスを測定するための組み込みのベンチマーク機能があります。
go test -bench=.コマンドを実行することで、ベンチマーク関数(BenchmarkXxxという命名規則に従う関数)を実行し、その結果(操作あたりのナノ秒数、メモリ割り当て数、割り当てバイト数など)を出力できます。 benchcmpツール:benchcmpは、Goのベンチマーク結果を比較するためのコマンドラインツールです。通常、コード変更の前後にベンチマークを実行し、それぞれの結果をファイルに保存します(例:old.txt,new.txt)。その後、benchcmp old.txt new.txtを実行することで、パフォーマンスの変化(改善または劣化)を分かりやすく表示します。これにより、開発者はコード変更がパフォーマンスに与える影響を定量的に評価できます。misc/ディレクトリ: Go言語の公式リポジトリには、様々なユーティリティや実験的なスクリプトがmisc/ディレクトリに置かれていました。これらはGo本体のビルドには直接関係しないが、開発者にとって役立つ可能性のあるツール群でした。golang.org/x/tools: Go言語の公式ツール群をホストする独立したリポジトリです。go vet,goimports,gorenameなど、Go開発を支援する多くのツールが含まれています。Go本体とは異なるリリースサイクルで開発・配布されるため、より迅速な更新が可能です。go getコマンド: Goのパッケージやモジュールをダウンロードしてインストールするためのコマンドです。go get -uは、指定されたパッケージを最新バージョンに更新します。- 標準エラー出力 (
>&2): シェルスクリプトにおいて、>は標準出力のリダイレクト、2>は標準エラー出力のリダイレクトを意味します。>&2は、標準出力の内容を標準エラー出力にリダイレクトする際に使用されます。これにより、エラーメッセージや警告メッセージを通常のプログラム出力とは別に表示できます。 - 終了ステータス (
exit 2): シェルスクリプトやコマンドが終了する際に返す数値です。通常、0は成功、1以上の数値はエラーを示します。exit 2は、このスクリプトがエラーで終了したことを示し、特に「コマンドが見つからない」といった種類の問題を示す際に使われることがあります。
技術的詳細
このコミットは、misc/benchcmpというパスに新しいファイルを作成し、その内容をシェルスクリプトとして定義しています。このスクリプトは、ユーザーがmisc/benchcmpを実行した際に、benchcmpツールが新しい場所へ移動したことを通知し、新しい場所からツールを取得するためのgo getコマンドを案内します。
スクリプトの動作は以下の通りです。
#!/bin/bash: この行は、スクリプトがbashシェルで実行されることを指定するシバン(shebang)です。echo 'misc/benchcmp has moved:' >&2: この行は、misc/benchcmpが移動したことを示すメッセージを標準エラー出力に表示します。標準エラー出力を使用することで、このメッセージが通常のプログラム出力と混同されることなく、ユーザーに警告として伝わります。echo '\tgo get -u code.google.com/p/go.tools/cmd/benchcmp' >&2: この行は、新しいbenchcmpツールを取得するためのgo getコマンドを標準エラー出力に表示します。タブ文字\tを使って、コマンドがインデントされて表示されるようにしています。exit 2: この行は、スクリプトが終了コード2で終了することを示します。これは、コマンドが正常に実行されなかったことを示す非ゼロの終了コードであり、特に「コマンドが見つからない」または「不正な使用法」といった状況で使われることがあります。これにより、このスクリプトが単なる情報提供だけでなく、古いパスでの実行がもはや有効ではないことをシステムに伝える役割も果たします。
この変更は、Goリポジトリのmisc/ディレクトリから特定のツールを削除するのではなく、その場所にフォワーディングメカニズムを設けることで、後方互換性を維持しつつ、ツールの場所の変更をユーザーに透過的に伝えるという、優れたユーザーエクスペリエンスへの配慮を示しています。
コアとなるコードの変更箇所
変更はmisc/benchcmpファイルに限定されており、このファイルが新規作成されています。
--- /dev/null
+++ b/misc/benchcmp
@@ -0,0 +1,5 @@
+#!/bin/bash
+
+echo 'misc/benchcmp has moved:' >&2
+echo '\tgo get -u code.google.com/p/go.tools/cmd/benchcmp' >&2
+exit 2
コアとなるコードの解説
このコミットで追加されたmisc/benchcmpファイルは、非常にシンプルながら効果的なシェルスクリプトです。
#!/bin/bash: スクリプトがBashシェルで実行されることを宣言しています。これにより、システムはスクリプトを実行する際に適切なインタプリタを選択します。echo 'misc/benchcmp has moved:' >&2: ユーザーに対して、benchcmpツールが移動したことを伝えるメッセージを出力します。>&2は、このメッセージを標準エラー出力にリダイレクトするためのものです。これにより、このメッセージは通常のプログラムの出力とは区別され、ユーザーの注意を引くことができます。これは、エラーや警告メッセージを表示する際の一般的な慣習です。echo '\tgo get -u code.google.com/p/go.tools/cmd/benchcmp' >&2: ツールが移動した新しい場所から取得するための具体的なコマンド(go get -u code.google.com/p/go.tools/cmd/benchcmp)をユーザーに提示します。ここでも>&2を使って標準エラー出力にリダイレクトしています。\tはタブ文字で、コマンドを見やすくインデントするために使われています。exit 2: スクリプトを終了し、終了ステータスとして2を返します。0以外の終了ステータスは、通常、何らかのエラーや異常終了を示します。この場合、古いパスでツールを実行しようとしたことが「不正な操作」であることを示唆し、ユーザーに適切なアクション(新しいツールをインストールすること)を促す意図があります。
このスクリプトは、Goツールのエコシステムが進化し、特定のツールがGo本体のリポジトリから独立したリポジトリへ移行する際の、ユーザーへの配慮とスムーズな移行を支援する典型的な例と言えます。
関連リンク
- Go言語のベンチマークに関する公式ドキュメント(
go testコマンドのベンチマーク機能について): https://pkg.go.dev/testing golang.org/x/toolsリポジトリ: https://pkg.go.dev/golang.org/x/toolsbenchstatツール(benchcmpの後継): https://pkg.go.dev/golang.org/x/perf/cmd/benchstat
参考にした情報源リンク
- Go言語の
benchcmpツールの目的と歴史に関するWeb検索結果 - Go言語の
go getコマンドに関する公式ドキュメント - シェルスクリプトにおける標準エラー出力のリダイレクトと終了ステータスに関する一般的な情報
- GitHub上のコミットページ: https://github.com/golang/go/commit/f8c25b62b8a154a523d48410096e07f80eec7e6d