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[インデックス 19051] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のビルドツール (cmd/go) において、SWIG (Simplified Wrapper and Interface Generator) を使用したリンク処理のエラーハンドリングを改善するものです。具体的には、SWIGによって生成されたコードをC/C++コンパイラ(通常はGCC)でリンクする際に発生する可能性のあるエラーが、これまで適切にチェックされていなかった問題を修正し、エラーが発生した場合にはそれを適切に伝播するように変更しています。

コミット

commit 0b07effab1a009c345d732fb66a9ea86139d91e7
Author: Albert Strasheim <fullung@gmail.com>
Date:   Mon Apr 7 12:59:55 2014 -0700

    cmd/go: Check error from SWIG link step.
    
    LGTM=iant
    R=iant
    CC=golang-codereviews
    https://golang.org/cl/85070043

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/0b07effab1a009c345d732fb66a9ea86139d91e7

元コミット内容

cmd/go: Check error from SWIG link step.

LGTM=iant
R=iant
CC=golang-codereviews
https://golang.org/cl/85070043

変更の背景

Go言語は、Cgoというメカニズムを通じてC言語のコードと連携することができます。さらに、SWIGのようなツールを使用することで、C++を含むより複雑な外部ライブラリをGoから利用するためのラッパーコードを自動生成することが可能です。

このコミットが導入される前は、cmd/go ツールがSWIGによって生成されたC/C++コードをコンパイルし、最終的な実行可能ファイルにリンクする際に、そのリンクステップでエラーが発生しても、そのエラーが適切に捕捉されず、ビルドプロセスが成功したかのように見えてしまう可能性がありました。これは、ユーザーがビルドエラーに気づかず、結果として正しく動作しないバイナリが生成されるという問題を引き起こす可能性があります。

この変更の背景には、ビルドプロセスの堅牢性を高め、ユーザーに対してより明確なエラーフィードバックを提供することにあります。リンクステップでのエラーを明示的にチェックし、ビルドプロセスを中断させることで、問題の早期発見とデバッグを促進します。

前提知識の解説

Go言語のcmd/goツールとビルドプロセス

cmd/goは、Go言語のソースコードをコンパイル、テスト、インストール、およびその他の操作を行うための主要なコマンドラインツールです。Goのビルドプロセスは、ソースファイルの依存関係を解決し、コンパイルし、最終的に実行可能なバイナリを生成する一連のステップを含みます。

SWIG (Simplified Wrapper and Interface Generator)

SWIGは、C/C++で書かれたライブラリを、Go、Python、Java、Rubyなど、様々なスクリプト言語や高水準言語から呼び出せるようにするためのインターフェースコードを自動生成するツールです。SWIGは、C/C++のヘッダーファイルから、ターゲット言語のAPIを定義するラッパーコードを生成します。Goの場合、SWIGはCgoが処理できる形式のGoおよびC/C++ソースファイルを生成します。

Cgo

Cgoは、GoプログラムがC言語のコードを呼び出すことを可能にするGoの機能です。Goのソースファイル内に特別なimport "C"ディレクティブと// #cgoコメントを使用することで、Cの関数をGoから呼び出したり、Cのデータ構造をGoで扱ったりすることができます。SWIGが生成するGoとC/C++のインターフェースは、このCgoのメカニズムを利用してGoプログラムとC/C++ライブラリ間の橋渡しをします。

リンカ (Linker)

リンカは、コンパイラによって生成された複数のオブジェクトファイル(コンパイルされたコードの断片)と、必要なライブラリを結合して、最終的な実行可能ファイルや共有ライブラリを生成するプログラムです。このプロセス中に、未解決のシンボル(例えば、定義が見つからない関数や変数)があると、リンカはエラーを報告します。SWIGとCgoを使用するGoプロジェクトでは、Goのコード、SWIGが生成したC/C++ラッパー、そして元のC/C++ライブラリがすべてリンカによって結合されます。

エラーハンドリングの重要性

ソフトウェア開発において、エラーハンドリングは非常に重要です。エラーを適切に検出して処理することで、プログラムの予期せぬ動作を防ぎ、問題が発生した際にその原因を特定しやすくします。ビルドプロセスにおけるエラーハンドリングも同様に重要であり、ビルドの失敗を早期にユーザーに通知することで、開発者は問題を迅速に修正できます。

技術的詳細

このコミットは、src/cmd/go/build.go ファイル内の swigOne 関数に焦点を当てています。この関数は、SWIGによって生成された単一のGoファイルとC/C++オブジェクトファイルを処理し、それらをリンクして共有ライブラリ(または実行可能ファイルの一部)を生成する役割を担っています。

変更前は、b.run メソッドの呼び出し結果(これは外部コマンド、この場合はGCCリンカを実行します)が、エラーを返す可能性があるにもかかわらず、そのエラーが無視されていました。Go言語では、関数がエラーを返す場合、慣例として戻り値の最後の要素としてerror型を返します。このerrornilでない場合、エラーが発生したことを意味します。

このコミットでは、b.run の呼び出しを if err := ...; err != nil というGoの標準的なエラーチェックパターンでラップしています。これにより、b.run がエラーを返した場合、そのエラーが捕捉され、swigOne 関数もエラーを返すようになります。このエラーは、さらに上位のビルドプロセスに伝播され、最終的にユーザーにビルドの失敗として報告されます。

具体的には、SWIGによって生成されたC/C++コードをリンクする際に、GCCなどのリンカが何らかの理由で失敗した場合(例: 必要なライブラリが見つからない、シンボルが未解決など)、その失敗がGoのビルドシステムによって認識され、ビルドが中断されるようになります。

コアとなるコードの変更箇所

変更は src/cmd/go/build.go ファイルの以下の部分にあります。

--- a/src/cmd/go/build.go
+++ b/src/cmd/go/build.go
@@ -2522,7 +2522,9 @@ func (b *builder) swigOne(p *Package, file, obj string, cxx bool, intgosize stri
 	}\n 	ldflags := stringList(osldflags[goos], cflags, cgoLDFLAGS, cxxlib)\n \ttarget := filepath.Join(obj, soname)\n-\tb.run(p.Dir, p.ImportPath, nil, b.gccCmd(p.Dir), "-o", target, gccObj, extraObj, ldflags)\n+\tif err := b.run(p.Dir, p.ImportPath, nil, b.gccCmd(p.Dir), "-o", target, gccObj, extraObj, ldflags); err != nil {\n+\t\treturn "", "", err\n+\t}\n \n \treturn obj + goFile, cObj, nil\n }\n```

## コアとなるコードの解説

変更の中心は、`b.run(...)` の呼び出し方です。

変更前:
```go
b.run(p.Dir, p.ImportPath, nil, b.gccCmd(p.Dir), "-o", target, gccObj, extraObj, ldflags)

この行は、b.run メソッドを呼び出して外部コマンド(この場合はGCCリンカ)を実行しています。しかし、b.run がエラーを返した場合、その戻り値は変数に代入されず、チェックもされていませんでした。

変更後:

if err := b.run(p.Dir, p.ImportPath, nil, b.gccCmd(p.Dir), "-o", target, gccObj, extraObj, ldflags); err != nil {
	return "", "", err
}

この変更では、以下のGoのイディオムが適用されています。

  1. err := b.run(...): b.run メソッドの戻り値(通常はエラーオブジェクト)を err という新しい変数に代入しています。
  2. if err != nil: errnil でない場合(つまり、エラーが発生した場合)に続くブロックを実行します。
  3. return "", "", err: エラーが発生した場合、swigOne 関数自体も空の文字列と、捕捉したエラーを返します。これにより、エラーが呼び出し元に伝播され、ビルドプロセス全体でエラーが適切に処理されるようになります。

この修正により、SWIGを使用したGoプロジェクトのビルドにおいて、リンカが失敗した場合にそのエラーが確実に報告されるようになり、ビルドの信頼性とデバッグの容易性が向上しました。

関連リンク

参考にした情報源リンク