[インデックス 19125] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のビルドシステムの一部であるcmd/dist
ツールにおいて、cmd/link
(Goリンカ)とdebug/goobj
(Goオブジェクトファイルデバッグパッケージ)という2つのコンポーネントを「未リリース」としてマークする変更です。これは、これらのコンポーネントがGo 1.3リリースに間に合わないため、リリースブランチに含まれないようにするための措置です。
コミット
- コミットハッシュ:
41ff456f69218787606d374b01071168f27ebdf5
- 作者: Russ Cox rsc@golang.org
- 日付: Mon Apr 14 12:33:51 2014 -0400
- 件名:
cmd/dist: mark cmd/link and debug/goobj as unreleased
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/41ff456f69218787606d374b01071168f27ebdf5
元コミット内容
cmd/dist: mark cmd/link and debug/goobj as unreleased
These are not ready and will not be in Go 1.3.
Fixes #6932.
LGTM=bradfitz
R=golang-codereviews, bradfitz, minux.ma
CC=golang-codereviews, iant, r
https://golang.org/cl/87630043
変更の背景
Go言語の開発プロセスでは、特定の機能やツールが次のメジャーリリースに含まれるかどうかが厳密に管理されます。このコミットが行われた2014年4月当時、Go 1.3のリリースが近づいていました。
cmd/link
(Goリンカ) と debug/goobj
(Goオブジェクトファイルデバッグパッケージ) は、Go 1.3のリリースまでに安定性や機能が十分に満たされないと判断されました。これらのコンポーネントは、当時まだ開発途上であり、Go 1.3の安定版リリースに含めるには時期尚早と見なされました。
そのため、これらのコンポーネントがGo 1.3の公式リリースブランチに含まれないようにするために、Goのビルドシステムであるcmd/dist
ツール内の設定が変更されました。これにより、未完成の機能が誤ってユーザーに提供されることを防ぎ、リリースの品質と安定性を保証する目的がありました。
コミットメッセージにある Fixes #6932
は、当時のGoプロジェクトの内部的な課題追跡システムにおける特定の課題に対応するものであると考えられます。これは、これらのコンポーネントの準備状況に関する懸念が公式に記録されており、その解決策として今回の変更が実施されたことを示唆しています。
前提知識の解説
Goのビルドシステムとcmd/dist
cmd/dist
は、Go言語のソースコードからGoツールチェイン全体(コンパイラ、リンカ、標準ライブラリなど)をビルドするために使用される、Goプロジェクト自身のビルドツールです。これはGoのブートストラッププロセスにおいて重要な役割を果たします。Goのソースコードをダウンロードし、all.bash
(Unix系)やall.bat
(Windows)を実行すると、内部的にcmd/dist
が呼び出され、Goの環境が構築されます。cmd/dist
は、Goのリリースブランチを管理し、どのコンポーネントが特定のリリースに含まれるべきかを決定するロジックを含んでいます。
cmd/link
cmd/link
はGo言語のリンカです。Goコンパイラ(cmd/compile
)によって生成されたオブジェクトファイル(.o
ファイル)を結合し、実行可能なバイナリを生成する役割を担います。Goのリンカは、静的リンクを基本とし、Goランタイムや必要なライブラリをすべてバイナリに含めることで、単一の実行ファイルとして配布できる特徴を持っています。これにより、Goのバイナリは依存関係が少なく、デプロイが容易になります。
debug/goobj
debug/goobj
は、Goのオブジェクトファイル(.o
ファイル)の構造を解析するためのパッケージです。Goのオブジェクトファイルフォーマットは、Go独自の形式であり、一般的なELF(Executable and Linkable Format)やMach-O(macOS/iOSの実行ファイルフォーマット)とは異なります。このパッケージは、デバッグツールやプロファイリングツールがGoのバイナリ内部のシンボル情報、型情報、コードセクションなどを読み取る際に利用されることが想定されます。これにより、Goプログラムのデバッグや解析がより詳細に行えるようになります。
Goのリリースサイクル
Go言語は、通常6ヶ月ごとにメジャーリリースを行います。各メジャーリリースでは、新機能の追加、パフォーマンスの改善、バグ修正などが行われます。リリースプロセスでは、安定性を確保するために、新しい機能や大幅な変更は十分にテストされ、準備が整っている必要があります。準備が不十分なコンポーネントは、次のリリースに延期されることがあります。これは、Goが後方互換性を重視し、安定した開発体験を提供するための重要な方針です。
unreleased
配列
src/cmd/dist/build.c
ファイル内に存在するunreleased
という名前の静的文字列配列は、Goのリリースブランチに含めるべきではないディレクトリのパスをリストアップするために使用されます。cmd/dist
は、このリストを参照して、ビルドプロセス中にこれらのディレクトリが誤って含まれないように、あるいは特定のビルドターゲットから除外されるように制御します。これにより、開発中の機能や実験的なコンポーネントが、安定版のリリースビルドに誤って含まれることを防ぎます。
技術的詳細
cmd/dist
のbuild.c
ファイルは、Goのビルドプロセスにおける重要な設定ファイルの一つです。このファイルには、Goのツールチェインを構成する様々なコンポーネントのパスや、ビルドに関するルールがC言語で定義されています。
unreleased
配列は、Goのソースツリー内の特定のディレクトリを「未リリース」としてマークするためのメカニズムを提供します。これは、開発中の機能や実験的なコンポーネントが、安定版のリリースビルドに誤って含まれることを防ぐために非常に重要です。Goプロジェクトは、常に新しい機能や改善に取り組んでいますが、それらすべてがすぐに安定版としてリリースできるわけではありません。このunreleased
メカニズムは、開発の柔軟性を保ちつつ、リリースの品質を維持するための安全弁として機能します。
このコミットでは、src/cmd/link
とsrc/pkg/debug/goobj
がunreleased
配列に追加されました。これにより、cmd/dist
はGo 1.3のビルド時にこれらのディレクトリを無視するか、特別な処理を行うようになります。具体的には、cmd/dist
がリリースブランチのビルドを行う際、このunreleased
リストに含まれるパスのコンポーネントはビルド対象から除外されるか、あるいは特別な警告やエラーを生成する可能性があります。これにより、未完成の機能がユーザーに提供されることを防ぎ、リリースの品質と安定性を保証します。
このアプローチは、Goプロジェクトが大規模な開発を継続しつつ、安定したリリースを定期的に提供するための、堅牢なバージョン管理戦略の一部です。開発者は、unreleased
リストに一時的に追加することで、特定のコンポーネントの作業を継続しながらも、それが次のリリースに影響を与えないようにすることができます。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/cmd/dist/build.c
+++ b/src/cmd/dist/build.c
@@ -373,6 +373,8 @@ static char *oldtool[] = {
// Unreleased directories (relative to $GOROOT) that should
// not be in release branches.
static char *unreleased[] = {
+\t"src/cmd/link",
+\t"src/pkg/debug/goobj",
\t"src/pkg/old",
};
コアとなるコードの解説
変更はsrc/cmd/dist/build.c
ファイル内のunreleased
という静的文字列配列に対して行われています。
この配列は、コードのコメントにもあるように「リリースブランチに含めるべきではない未リリースのディレクトリ($GOROOTからの相対パス)」を定義しています。
元々、この配列には"src/pkg/old"
というエントリが含まれていました。これは、Goの古いパッケージや非推奨のパッケージがリリースビルドに含まれないようにするためのものです。
今回のコミットでは、新たに以下の2つのエントリが追加されました。
"src/cmd/link"
: Goリンカのソースコードが格納されているディレクトリのパスです。"src/pkg/debug/goobj"
: Goオブジェクトファイルデバッグパッケージのソースコードが格納されているディレクトリのパスです。
これらのパスがunreleased
配列に追加されたことで、cmd/dist
はGo 1.3のビルドプロセスにおいて、これらのコンポーネントを公式リリースの一部として扱わないようになります。具体的には、cmd/dist
がGoのリリースビルドを作成する際に、このリストに含まれるディレクトリはビルド対象から除外されるか、特別な処理が施されます。これにより、当時まだ開発中であったリンカの新しいバージョンやデバッグツールが、意図せずGo 1.3の安定版リリースに含まれてしまうことを防ぎます。
この変更は、Goのリリース管理における厳格な品質管理と、未完成の機能がユーザーに提供されることを避けるための具体的な実装例を示しています。
関連リンク
- GitHub上のコミットページ: https://github.com/golang/go/commit/41ff456f69218787606d374b01071168f27ebdf5
- Go Code Review (Gerrit) の変更リスト: https://golang.org/cl/87630043 (これは当時のGoプロジェクトが使用していたGerritのURLであり、現在はGitHubに統合されていますが、当時の参照として記載します。)
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント (Goのビルドプロセス、ツールチェイン、リリースサイクルに関する一般的な情報)
- Go言語のソースコード (
src/cmd/dist/build.c
の周辺コードおよびGoプロジェクトのディレクトリ構造) - Go言語のリリースノート (Go 1.3リリースに関する一般的な情報)