[インデックス 19150] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリ net/http
パッケージ内のテストファイル transport_test.go
に対する変更です。具体的には、TestTransportClosesBodyOnError
というテストが、Plan 9 オペレーティングシステム上でスキップされるように修正されました。これは、特定の環境におけるテストの挙動の差異に対応するための変更です。
コミット
- コミットハッシュ:
b9f5dce4fc05ab89fcf695f2236dfdbef697cde2
- 作者: David du Colombier
- コミット日時: 2014年4月16日 水曜日 00:48:21 +0200
- コミットメッセージ:
net/http: skip TestTransportClosesBodyOnError on Plan 9
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/b9f5dce4fc05ab89fcf695f2236dfdbef697cde2
元コミット内容
net/http: skip TestTransportClosesBodyOnError on Plan 9
LGTM=rsc
R=bradfitz, rsc
CC=golang-codereviews
https://golang.org/cl/87800044
変更の背景
この変更の背景には、net/http
パッケージの TestTransportClosesBodyOnError
テストが、Plan 9 オペレーティングシステム上で期待通りに動作しない、または特定の条件下で失敗するという問題がありました。コミットメッセージには http://golang.org/issue/7782
という参照がありますが、現在のGoのIssueトラッカーではこの番号のIssueは直接見つかりませんでした。しかし、一般的にこのようなテストのスキップは、特定のOSのネットワークスタックの挙動、ファイルシステムの特性、またはその他のシステムコールレベルでの差異が原因で、テストが意図しない結果を返す場合に実施されます。
TestTransportClosesBodyOnError
は、HTTPトランスポートがエラー発生時にレスポンスボディを適切にクローズするかどうかを検証するテストです。リソースリークを防ぐ上で重要なテストであり、通常はすべてのサポート対象プラットフォームでパスすることが期待されます。しかし、Plan 9 環境での特定の挙動が、このテストの前提条件を満たさない、あるいはテストが検出するエラーハンドリングのロジックと競合する可能性が考えられます。例えば、Plan 9のネットワークI/Oのセマンティクスが他のOSと異なり、エラー発生時のソケットやファイルディスクリプタのクローズ動作に違いがあるのかもしれません。テストをスキップすることで、Plan 9上でのビルドやテストのCI/CDパイプラインが不必要に失敗するのを防ぎ、他のプラットフォームでのテストの正確性を維持しつつ、Plan 9固有の問題を別途調査・解決するための時間的猶予を確保します。
前提知識の解説
net/http
パッケージ: Go言語の標準ライブラリで、HTTPクライアントとサーバーの実装を提供します。Webアプリケーション開発において中心的な役割を果たすパッケージであり、HTTP/1.1およびHTTP/2のプロトコルをサポートしています。http.Transport
:net/http
パッケージの一部で、HTTPリクエストの送信、レスポンスの受信、接続の再利用、プロキシ設定などを低レベルで制御するための構造体です。http.Client
が内部で利用し、TCP接続の確立、TLSハンドシェイク、HTTPリクエストのバイト列への変換、レスポンスのパースなど、ネットワーク通信の具体的な詳細を扱います。TestTransportClosesBodyOnError
: このテストは、http.Transport
がHTTPリクエストの処理中にエラーが発生した場合に、レスポンスボディが適切に閉じられることを保証するために書かれています。HTTP通信において、レスポンスボディはストリームとして扱われることが多く、エラーが発生した場合でも、そのストリームが適切に閉じられないと、ファイルディスクリプタやネットワーク接続などのリソースがリークする可能性があります。このテストは、そのようなリソースリークを防ぐための重要な検証です。runtime.GOOS
: Go言語の標準ライブラリruntime
パッケージで提供される定数で、Goプログラムが実行されているオペレーティングシステムの名前(例: "linux", "windows", "darwin", "plan9" など)を表す文字列です。Goのビルドシステムは、この値に基づいてOS固有のコードをコンパイルしたり、テストの実行を制御したりすることができます。これを利用することで、OS固有の処理を条件分岐させることが可能です。Plan 9
: ベル研究所で開発された分散オペレーティングシステムです。Unixの後継として設計され、"Everything is a file"(すべてはファイルである)という哲学に基づいています。ネットワークリソースやプロセス間通信などもファイルシステムを通じて抽象化されるのが特徴です。Go言語の開発者の一部(特にRob PikeやKen Thompson)はPlan 9の設計思想に深く影響を受けており、Go言語自体もPlan 9のツールチェインから派生した部分があります。そのため、GoはPlan 9を公式にサポートする数少ない現代的な言語の一つであり、Plan 9環境での動作も考慮されています。t.Skip()
: Go言語のテストフレームワークtesting
パッケージの一部です。t.Skip("理由")
を呼び出すと、そのテスト関数はそれ以降の処理を実行せずにスキップされます。テストが特定の環境でのみ関連する場合(例: Windowsでのみ実行されるべきテスト)や、既知の問題があるために一時的にテストを無効にしたい場合などに使用されます。テストの失敗として扱われるのではなく、スキップされたテストとして報告されるため、CI/CDシステムなどではテストスイート全体の成功を妨げません。
技術的詳細
このコミットは、Goのテストコードに条件付きのスキップロジックを追加することで、特定のオペレーティングシステム(Plan 9)上でのみ TestTransportClosesBodyOnError
テストが実行されないようにします。
Goのテストは、go test
コマンドによって実行されます。テスト関数内で t.Skip()
が呼び出されると、そのテストは実行環境が特定の条件を満たさない場合に自動的にスキップされます。これにより、テストスイート全体の実行が妨げられることなく、特定の環境でのみ発生する問題に対応できます。
この変更の技術的なポイントは以下の通りです。
- OS判定の利用:
runtime.GOOS == "plan9"
という条件式を使用することで、現在の実行環境がPlan 9であるかどうかを正確に判定します。これはGoのクロスプラットフォーム開発において非常に一般的なパターンであり、特定のOSに依存する挙動やAPIの違いを吸収するために用いられます。 - テストの条件付きスキップ: 条件が真(つまりPlan 9上で実行されている)の場合、
t.Skip("skipping test; see http://golang.org/issue/7782")
が呼び出されます。これにより、テストは失敗としてマークされるのではなく、「スキップされた」として報告されます。これは、テストが壊れているわけではなく、単に現在の環境では実行すべきではない、または実行できないということを示します。このメッセージには、スキップの理由と、関連するGo Issueへの参照が含まれており、将来的に問題が解決された際にテストを再有効化するための手がかりとなります。 - 問題の分離とCI/CDの安定化: このアプローチにより、Plan 9固有の問題が他のプラットフォームでのテスト結果に影響を与えることを防ぎます。例えば、Plan 9環境でのみ発生するネットワークスタックのバグや、リソース管理のセマンティクスの違いが原因でテストが失敗する場合、このスキップによって他の主要なOS(Linux, macOS, Windowsなど)でのテストの健全性を維持できます。これにより、CI/CDパイプラインがPlan 9固有の理由で頻繁に失敗するのを防ぎ、開発者はPlan 9での問題解決に集中しつつ、他のプラットフォームでの開発を継続できます。
この修正は、Goのクロスプラットフォーム対応の堅牢性を示す一例でもあります。異なるOS環境での細かな挙動の違いを吸収し、安定したテストスイートを維持するための実用的なアプローチです。
コアとなるコードの変更箇所
変更は src/pkg/net/http/transport_test.go
ファイルに対して行われました。
--- a/src/pkg/net/http/transport_test.go
+++ b/src/pkg/net/http/transport_test.go
@@ -2040,6 +2040,9 @@ func (f closerFunc) Close() error { return f() }\n
// Issue 6981
func TestTransportClosesBodyOnError(t *testing.T) {
+\tif runtime.GOOS == "plan9" {
+\t\tt.Skip("skipping test; see http://golang.org/issue/7782")
+\t}
defer afterTest(t)
readBody := make(chan error, 1)
ts := httptest.NewServer(HandlerFunc(func(w ResponseWriter, r *Request) {
コアとなるコードの解説
追加されたコードは以下の3行です。これらは TestTransportClosesBodyOnError
関数の冒頭に追加されています。
if runtime.GOOS == "plan9" {
t.Skip("skipping test; see http://golang.org/issue/7782")
}
if runtime.GOOS == "plan9" { ... }
: この行は、現在のオペレーティングシステムが "plan9" であるかどうかをチェックする条件分岐を開始します。runtime.GOOS
は、Goプログラムがコンパイルされ、実行されているOSの名前を文字列で返します。この条件が真となるのは、プログラムがPlan 9環境で実行されている場合のみです。t.Skip("skipping test; see http://golang.org/issue/7782")
:runtime.GOOS
が "plan9" と評価された場合、この行が実行されます。t.Skip()
は、現在のテスト関数をスキップし、それ以降のテストコードの実行を停止します。テストは失敗としてカウントされず、テスト結果のサマリーでは「スキップされた」テストとして報告されます。引数として渡された文字列"skipping test; see http://golang.org/issue/7782"
は、テストがスキップされた理由としてテスト結果に表示されます。ここでは、http://golang.org/issue/7782
というURLが参照として提供されており、このテストがスキップされる背景にある具体的な問題がこのGo Issueで議論されていることを示唆しています。
このシンプルな追加により、Plan 9環境でのみ特定のテストが実行されなくなり、CI/CDパイプラインの安定性が向上し、開発者は他のプラットフォームでのテスト結果に集中できるようになります。これは、クロスプラットフォーム開発における現実的な問題解決のアプローチの一つです。
関連リンク
- Go言語の
net/http
パッケージに関するドキュメント: https://pkg.go.dev/net/http - Go言語の
testing
パッケージに関するドキュメント: https://pkg.go.dev/testing - Go言語の
runtime
パッケージに関するドキュメント: https://pkg.go.dev/runtime - Plan 9 from Bell Labs (Wikipedia): https://ja.wikipedia.org/wiki/Plan_9_from_Bell_Labs
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント (pkg.go.dev)
- Go言語のGitHubリポジトリ
- Wikipedia (Plan 9 from Bell Labs)
- (
golang.org/issue/7782
については、直接的な情報源をGoogle検索で見つけることができませんでした。これは、Issueトラッカーの変更、または非常に古いIssueである可能性が考えられます。)