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[インデックス 19154] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のツールチェインに含まれる addr2line および objdump コマンドのドキュメントコメントを追加するものです。これらのツールは、主にGoのプロファイリングツールである pprof のサポートのために、GNUの同名ツールを最小限にシミュレートしたものです。

コミット

commit 44f96d4488fb6f11e7b1a3b7197fd47267e00dd9
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Tue Apr 15 20:06:08 2014 -0400

    addr2line, objdump: write doc comments
    
    LGTM=r
    R=r
    CC=golang-codereviews
    https://golang.org/cl/88050046

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/44f96d4488fb6f11e7b1a3b7197fd47267e00dd9

元コミット内容

addr2line, objdump: ドキュメントコメントを記述

変更の背景

このコミットの主な目的は、Goツールチェイン内の addr2line および objdump コマンドに、より包括的なドキュメントコメントを追加することです。これらのツールは、Goのプロファイリングツール pprof がシンボル情報を解決し、実行バイナリを解析するために内部的に使用する、GNUの addr2line および objdump の最小限のシミュレーションとして開発されました。

初期の実装では、これらのツールには簡潔なコメントしかありませんでしたが、Goの標準的なドキュメンテーションシステム (godoc) を通じて利用可能な、より詳細な説明が必要とされていました。これにより、ツールの目的、使用方法、およびその制約(特に pprof 専用であることや、将来のリリースでインターフェースが変更される可能性があること)が明確になります。

特に、objdump ツールには当時まだディスアセンブラが実装されておらず、その旨を明記することで、ユーザーがツールの現状を正しく理解し、将来の機能追加に期待を持てるようにすることも意図されています。

前提知識の解説

このコミットの変更内容を深く理解するためには、以下の概念について基本的な知識があると役立ちます。

  • Goツールチェイン (go tool): Go言語には、コンパイラ、リンカ、フォーマッタなど、様々な開発ツールが統合されています。go tool コマンドは、これらの内部ツールを実行するための汎用的なインターフェースを提供します。addr2lineobjdumpgo tool を介して実行されるツールです。
  • プロファイリング (pprof): pprof はGoプログラムのパフォーマンスを分析するための強力なツールです。CPU使用率、メモリ割り当て、ゴルーチンスタックトレースなどを可視化し、パフォーマンスのボトルネックを特定するのに役立ちます。pprof は、プロファイルデータ内のメモリアドレスを実際のソースコードの行にマッピングするために addr2line を使用し、バイナリの低レベルな解析のために objdump を利用します。
  • addr2line: 一般的に、addr2line は実行バイナリ内のメモリアドレスを、対応するソースファイル名と行番号に変換するユーティリティです。デバッグやプロファイリングにおいて、クラッシュレポートやプロファイルデータに示されるアドレスから、問題の発生源を特定するために不可欠です。
  • objdump: objdump は、実行可能ファイルやオブジェクトファイルの情報を表示するユーティリティです。特に、バイナリの逆アセンブル(機械語をアセンブリ言語に変換)機能がよく知られています。これにより、プログラムが低レベルでどのように動作しているかを理解するのに役立ちます。
  • ドキュメントコメント (Go): Go言語では、パッケージ、関数、型、変数などの宣言の直前に記述されたコメントが、godoc ツールによって自動的にドキュメントとして抽出されます。特に、パッケージ宣言の直前に記述されたコメントは、そのパッケージ全体の概要説明として扱われます。これにより、開発者はコードとドキュメントを密接に連携させ、常に最新の状態に保つことができます。
  • 16進数アドレス: コンピュータのメモリはアドレスによって識別され、これらのアドレスは通常16進数形式で表現されます。addr2lineobjdump のようなツールは、入力として16進数アドレスを受け取ることが一般的です。

技術的詳細

このコミットは、src/cmd/addr2line/main.gosrc/cmd/objdump/main.go の2つのファイルに対して、パッケージレベルのドキュメントコメントを追加しています。これらのコメントは、Goの標準的なドキュメンテーションツール godoc によって解析され、ツールの目的、使用方法、および重要な注意事項を開発者に提供します。

addr2line の変更点

addr2line のドキュメントコメントは、以下の点を明確にしています。

  • 目的: GNU addr2line ツールの最小限のシミュレーションであり、pprof をサポートするためにのみ存在すること。
  • 使用方法: go tool addr2line binary というコマンドライン形式。
  • 入力と出力: 標準入力から16進数アドレス(0x プレフィックスなし)を1行ずつ読み込み、各アドレスに対して2行の出力を生成すること。1行目には関数名、2行目には ファイル:行番号 形式のソースコード情報が出力されます。
  • 制約: このツールは pprof 専用であり、将来のリリースでインターフェースが変更されたり、完全に削除されたりする可能性があるという重要な注意書き。これは、このツールが一般的な用途向けではなく、Goツールチェインの内部的な補助ツールとしての位置づけであることを示唆しています。

objdump の変更点

objdump のドキュメントコメントは、以下の点を明確にしています。

  • 目的: GNU objdump ツールの最小限のシミュレーションであり、pprof をサポートするためにのみ存在すること。
  • 使用方法: go tool objdump binary start end というコマンドライン形式。
  • 入力: startend は、0x プレフィックスなしの16進数形式のプログラムカウンタ(アドレス)であること。
  • 出力形式: file:line とそれに続く address: assembly のシーケンスからなる「スタンザ」形式で出力されること。各スタンザは、同じソースファイルと行番号にマッピングされる連続したアドレス範囲の逆アセンブルを示します。
  • 未実装機能: 当時、ディスアセンブラ機能がまだ実装されていなかったこと(golang.org/issue/7452 で追跡されている)と、Go 1.3リリースまでに実装される予定であることが明記されています。これは、ツールの開発状況に関する透明性を提供します。
  • 制約: addr2line と同様に、このツールも pprof 専用であり、将来のリリースでインターフェースが変更されたり、完全に削除されたりする可能性があるという注意書き。

これらのドキュメントコメントの追加により、Goのツールチェインの自己文書化能力が向上し、開発者がこれらのツールの機能と限界をより迅速に理解できるようになります。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットでは、以下の2つのファイルが変更されています。

  1. src/cmd/addr2line/main.go
  2. src/cmd/objdump/main.go

それぞれのファイルで、既存の簡潔なコメントが、より詳細なパッケージレベルのドキュメントコメントに置き換えられています。

src/cmd/addr2line/main.go の変更

--- a/src/cmd/addr2line/main.go
+++ b/src/cmd/addr2line/main.go
@@ -2,8 +2,19 @@
 // Use of this source code is governed by a BSD-style
 // license that can be found in the LICENSE file.
 
-// addr2line simulation - only enough to make pprof work on Macs
-//
+// Addr2line is a minimal simulation of the GNU addr2line tool,
+// just enough to support pprof.
+//
+// Usage:
+//	go tool addr2line binary
+//
+// Addr2line reads hexadecimal addresses, one per line and without a 0x prefix,
+// from standard input. For each input address, addr2line prints two output lines,
+// first the name of the function containing the address and second the file:line
+// of the source code corresponding to that address.
+//
+// This tool is intended for use only by pprof; its interface may change or
+// it may be deleted entirely in future releases.
 package main
 
 import (

src/cmd/objdump/main.go の変更

--- a/src/cmd/objdump/main.go
+++ b/src/cmd/objdump/main.go
@@ -2,8 +2,31 @@
 // Use of this source code is governed by a BSD-style
 // license that can be found in the LICENSE file.
 
-// objdump simulation - only enough to make pprof work on Macs
-//
+// Objdump is a minimal simulation of the GNU objdump tool,
+// just enough to support pprof.
+//
+// Usage:
+//	go tool objdump binary start end
+//
+// Objdump disassembles the binary starting at the start address and
+// stopping at the end address. The start and end addresses are program
+// counters written in hexadecimal without a leading 0x prefix.
+//
+// It prints a sequence of stanzas of the form:
+//
+//	file:line
+//	 address: assembly
+//	 address: assembly
+//	 ...
+//
+// Each stanza gives the disassembly for a contiguous range of addresses
+// all mapped to the same original source file and line number.
+//
+// The disassembler is missing (golang.org/issue/7452) but will be added
+// before the Go 1.3 release.
+//
+// This tool is intended for use only by pprof; its interface may change or
+// it may be deleted entirely in future releases.
 package main
 
 import (
@@ -22,6 +45,7 @@ import (
 func printUsage(w *os.File) {
 	fmt.Fprintf(w, "usage: objdump binary start end\\n")
 	fmt.Fprintf(w, "disassembles binary from start PC to end PC.\\n")
+	fmt.Fprintf(w, "start and end are hexadecimal numbers with no 0x prefix.\\n")
 }
 
 func usage() {

コアとなるコードの解説

変更されたコードは、Goのパッケージレベルのドキュメントコメントの典型的な例です。Goでは、package 宣言の直前に記述されたコメントが、そのパッケージ全体のドキュメントとして扱われます。このコミットでは、既存の簡潔なコメント(例: // addr2line simulation - only enough to make pprof work on Macs)が削除され、より詳細で構造化されたドキュメントコメントに置き換えられています。

新しいコメントは、以下のGoドキュメンテーションの慣習に従っています。

  • パッケージ名の繰り返し: コメントの最初の行は、通常、パッケージ名で始まり、そのパッケージの目的を簡潔に説明します(例: Addr2line is a minimal simulation...)。これにより、godoc で表示された際に、どのパッケージのドキュメントであるかが一目でわかります。
  • 詳細な説明: ツールの機能、使用方法、入力/出力形式、および重要な注意事項(pprof 専用であること、将来の変更の可能性など)が詳細に記述されています。
  • コード例: Usage: セクションで、ツールのコマンドライン使用例が示されています。これは、ユーザーがツールをどのように実行するかを理解する上で非常に役立ちます。
  • Issueへの参照: objdump のコメントでは、未実装のディスアセンブラ機能に関するGoのIssue (golang.org/issue/7452) が参照されています。これにより、開発者は関連する開発状況を追跡できます。
  • printUsage 関数の変更: objdumpprintUsage 関数にも、start and end are hexadecimal numbers with no 0x prefix. という説明が追加されています。これは、コマンドライン引数の形式に関する重要な補足情報であり、ユーザーが正しい形式でアドレスを指定できるようにします。

これらの変更は、コードの可読性や機能には直接影響しませんが、ツールの「自己文書化」を大幅に改善し、Goの標準的なドキュメンテーションエコシステムに統合されることで、開発者体験を向上させます。

関連リンク

参考にした情報源リンク