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[インデックス 1945] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のランタイムにおけるスタック管理に関するコメントの追加と明確化を目的としています。具体的には、src/runtime/proc.cファイル内のスタックチェックロジックに関連する変数(guard, frame, argsize)の定義を説明するコメントが追加されました。これは、Goの初期開発段階において、スタック拡張の仕組みをより理解しやすくするための改善です。

コミット

  • コミットハッシュ: d6c59ad7b809bbb3dca80ca82936e0028ec3f572
  • 作者: Russ Cox rsc@golang.org
  • コミット日時: 2009年4月2日 木曜日 16:41:53 -0700
  • コミットメッセージ:
    clarification suggested by rob
    
    R=r
    DELTA=4  (4 added, 0 deleted, 0 changed)
    OCL=26983
    CL=27041
    

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/d6c59ad7b809bbb3dca80ca82936e0028ec3f572

元コミット内容

clarification suggested by rob

R=r
DELTA=4  (4 added, 0 deleted, 0 changed)
OCL=26983
CL=27041

変更の背景

このコミットは、Go言語の初期開発段階において、ランタイムのスタック管理メカニズムに関する既存のコードやコメントが、一部の開発者にとって不明瞭であったために行われました。コミットメッセージにある「clarification suggested by rob」は、Go言語の共同開発者の一人であるRob Pike氏からの提案によって、この明確化が必要とされたことを示唆しています。

Goのランタイムは、ゴルーチン(goroutine)と呼ばれる軽量な並行処理単位のために、動的にスタックを拡張する仕組みを持っています。これは、スタックオーバーフローを防ぎつつ、必要に応じてスタックサイズを柔軟に調整することで、メモリ効率と実行効率を両立させるための重要な機能です。しかし、その内部実装、特にスタックチェックの具体的なロジックは、当時のコメントだけでは完全に理解しにくい部分があったと考えられます。

このコミットは、スタックチェックの際に用いられる主要な変数であるguardframeargsizeがそれぞれ何を意味するのかを明示することで、コードの可読性を向上させ、Goランタイムのスタック拡張メカニズムの理解を深めることを目的としています。

前提知識の解説

このコミットの変更内容を理解するためには、以下のGo言語ランタイムの概念とC言語の基礎知識が必要です。

  • Goランタイム (Go Runtime): Goプログラムの実行を管理する低レベルのシステムです。これには、ゴルーチンのスケジューリング、メモリ管理(ガベージコレクションを含む)、チャネル通信、スタック管理などが含まれます。Goの初期のランタイムは、C言語で書かれた部分が多く存在しました。src/runtime/proc.cはそのようなC言語で書かれたランタイムファイルの一つです。

  • ゴルーチン (Goroutine): Go言語における軽量な並行処理単位です。OSのスレッドよりもはるかに軽量で、数百万のゴルーチンを同時に実行することも可能です。各ゴルーチンは独自のスタックを持っています。

  • スタック (Stack): プログラム実行中に、関数呼び出しの引数、ローカル変数、戻りアドレスなどを一時的に格納するために使用されるメモリ領域です。関数が呼び出されるたびにスタックフレームが積まれ、関数から戻るたびにスタックフレームが解放されます。

  • スタックガード (Stack Guard): Goランタイムにおけるスタックオーバーフローを防ぐための重要なメカニズムです。各ゴルーチンのスタックには、スタックの限界を示す「スタックガード」と呼ばれる値が設定されています。関数が呼び出される際に、現在のスタックポインタがこのスタックガード値を超えていないか(つまり、スタックが枯渇していないか)がチェックされます。

  • morestack 関数: Goランタイムの内部関数で、ゴルーチンのスタックが不足しそうになったときに自動的に呼び出されます。morestackは、より大きなスタック領域を新しく確保し、既存のスタックの内容を新しいスタックにコピーすることで、スタックを動的に拡張します。これにより、スタックオーバーフローによるプログラムのクラッシュを防ぎます。

  • src/runtime/proc.c: Goの初期ランタイムにおいて、プロセッサ(CPU)とゴルーチンの管理、スケジューリング、そしてスタック管理の低レベルな部分を担っていたC言語のソースファイルです。このファイルには、ゴルーチンの作成、切り替え、そしてスタックチェックと拡張のロジックが含まれていました。

  • アセンブリ言語の概念 (CMPQ, JHI):

    • CMPQ guard, SP: 64ビットレジスタの比較命令です。guardの値とスタックポインタ(SP)の値を比較します。この比較の結果は、CPUのフラグレジスタに設定されます。
    • JHI: "Jump if Higher" の略で、比較結果に基づいて条件分岐を行う命令です。この文脈では、スタックポインタがスタックガードよりも高い位置にある場合(つまり、スタックがまだ十分にある場合)にジャンプします。

技術的詳細

このコミットは、src/runtime/proc.cファイル内のスタックチェックに関するコメントを修正・追加しています。Goランタイムでは、関数呼び出しのたびにスタックの残量をチェックし、必要に応じてスタックを拡張する「スタックスプリット(Split Stack)」という仕組みを採用しています。この仕組みは、小さなスタックでゴルーチンを開始し、必要に応じて動的に拡張することで、メモリ使用量を最適化します。

変更が加えられた箇所は、sys·exitsyscall関数の近くにあるコメントブロックです。このコメントブロックは、スタックチェックのシーケンス、特にアセンブリレベルでの比較操作について説明しています。

追加されたコメントは、スタックチェックの際に考慮される3つの主要な値について明確な定義を与えています。

  1. guard = g->stackguard:

    • gは現在のゴルーチンを表す構造体へのポインタです。
    • g->stackguardは、現在のゴルーチンのスタックガード値、つまりスタックがオーバーフローする危険がある境界値を示します。この値は、スタックの最下部(アドレスが最も低い部分)に近いアドレスに設定されます。
  2. frame = function's stack frame size:

    • frameは、現在呼び出されようとしている関数のスタックフレームのサイズを指します。スタックフレームには、関数のローカル変数、引数、戻りアドレスなどが含まれます。
  3. argsize = size of function arguments (call + return):

    • argsizeは、関数呼び出しの引数と戻り値の合計サイズを指します。これは、関数がスタック上で消費するメモリ量の一部です。

これらの変数は、スタックチェックのロジックにおいて、現在のスタックポインタ(SP)が安全な範囲内にあるかどうかを判断するために使用されます。具体的には、CMPQ guard, SPというアセンブリ命令で、スタックポインタがスタックガード値よりも大きいかどうか(つまり、スタックがまだ十分な空きを持っているか)が比較されます。もしスタックポインタがスタックガード値以下になった場合、それはスタックが枯渇しつつあることを意味し、morestack関数が呼び出されてスタックが拡張されます。

このコミットは、これらの変数の役割を明示することで、スタックチェックのロジックがどのように機能するかをより明確にし、Goランタイムの内部動作を理解する上での障壁を低減しています。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/runtime/proc.c
+++ b/src/runtime/proc.c
@@ -546,6 +546,10 @@ sys·exitsyscall(void)\n  * don\'t bother with the check and always call morestack.\n  * the sequences are:\n  *\n+ *\tguard = g->stackguard\n+ *\tframe = function\'s stack frame size\n+ *\targsize = size of function arguments (call + return)\n+ *\n  *\tstack frame size <= StackSmall:\n  *\t\tCMPQ guard, SP\n  *\t\tJHI 3(PC)\n```

## コアとなるコードの解説

変更は`src/runtime/proc.c`ファイルの546行目付近にあります。既存のコメントブロックに4行の新しいコメントが追加されています。

追加されたコメントは以下の通りです。

```c
 *	guard = g->stackguard
 *	frame = function's stack frame size
 *	argsize = size of function arguments (call + return)

これらのコメントは、直後に続くスタックチェックのアセンブリコード(CMPQ guard, SPなど)を理解するための前提となる変数の定義を説明しています。

  • guard = g->stackguard: これは、現在のゴルーチンgのスタックガード値がguardとして参照されることを示しています。g->stackguardは、スタックの安全な下限を示す値です。
  • frame = function's stack frame size: これは、呼び出される関数のスタックフレームのサイズがframeとして参照されることを示しています。
  • argsize = size of function arguments (call + return): これは、関数呼び出しの引数と戻り値の合計サイズがargsizeとして参照されることを示しています。

これらの定義が追加されることで、その後のスタックチェックのロジック、特にstack frame size <= StackSmallのような条件やCMPQ guard, SPといったアセンブリ命令が、どの値を比較し、何のために比較しているのかが、より直感的に理解できるようになります。これは、Goランタイムの低レベルなスタック管理メカニズムの透明性を高めるための、小さなしかし重要な改善です。

関連リンク

  • Go言語の公式ドキュメント: https://go.dev/
  • Go言語のソースコードリポジトリ: https://github.com/golang/go
  • Goのスタック管理に関する初期の設計ドキュメント(もし公開されていれば、より詳細な情報が得られる可能性がありますが、このコミット時点では見つけにくいかもしれません。)

参考にした情報源リンク