[インデックス 195] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のテストスイートの一部である test/golden.out
ファイルを更新するものです。golden.out
は、Goコンパイラやランタイムの特定のテストケースが生成する標準出力やエラー出力の「ゴールデンリファレンス」として機能します。テスト実行時に生成される出力がこの golden.out
の内容と一致するかどうかを検証することで、コンパイラやランタイムの挙動が意図した通りであることを確認します。
コミット
このコミットは、bug054
に関連するコマンドラインの記述が漏れていたことの修正と、それに伴う golden.out
ファイルの更新を目的としています。また、bug028
が修正されたことに伴い、golden.out
からそのエントリを削除し、fixedbugs
セクションに移動させています。
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/727ea928d5586b75a781254d6265b8696c6e8863
元コミット内容
forgot command line for bug054
update golden.out
SVN=123412
変更の背景
Go言語の開発初期段階では、コンパイラやランタイムのバグを追跡し、その修正を検証するために、特定のバグを再現する小さなGoプログラム(例: bugs/bugXXX.go
)が作成されていました。これらのプログラムは、コンパイル時または実行時に特定のエラーや出力(あるいは成功)を生成することが期待されます。
golden.out
ファイルは、これらのテストプログラムの期待される出力を記録する役割を担っています。コンパイラやランタイムの変更が行われた際、既存のテストの出力が変わってしまうことがあります。これが意図的な変更(バグ修正など)によるものであれば、golden.out
を更新して新しい期待される出力を反映させる必要があります。
このコミットの背景には、以下の2つの主要な理由が考えられます。
bug054
関連の修正または変更: コミットメッセージにある「forgot command line for bug054」は、おそらくbug054
に関連するテストケースの実行方法や、そのテストが生成するエラーメッセージの記録がgolden.out
に適切に反映されていなかったことを示唆しています。bug054
が修正されたか、あるいはそのバグが特定の条件下で発生することが意図的に許容され、そのエラーメッセージがgolden.out
に追加された可能性があります。bug028
の修正:golden.out
の差分を見ると、bugs/bug028.go
のエントリが削除され、代わりにfixedbugs/bug028.go
のエントリが追加されています。これは、bug028
が修正され、もはや「バグ」として認識されるべきではないことを示しています。修正されたバグは通常、fixedbugs
ディレクトリに移動され、そのテスト結果はgolden.out
のfixedbugs
セクションに記録されます。
これらの変更は、Goコンパイラとランタイムの安定性と正確性を維持するための、継続的なテストとバグ修正プロセスの一環です。
前提知識の解説
Go言語のテストフレームワークとテストの種類
Go言語には、標準ライブラリに testing
パッケージが用意されており、これを用いてユニットテスト、ベンチマークテスト、サンプルテストなどを記述できます。Goのテストは非常にシンプルで、_test.go
で終わるファイルに TestXxx
という名前の関数を記述することで実行されます。
Goのテストには様々な種類がありますが、このコミットで関連するのは主に「コンパイラテスト」や「ランタイムテスト」と呼ばれるものです。これらは、Goコンパイラが正しくコードを解析し、コンパイルし、ランタイムが正しくプログラムを実行するかを検証します。
ゴールデンファイルテスト (Golden File Testing)
ゴールデンファイルテストは、テストの出力(標準出力、エラー出力、生成されたファイルの内容など)が、事前に用意された「ゴールデンファイル」の内容と完全に一致するかどうかを検証するテスト手法です。
- 目的:
- テスト対象の挙動が意図せず変更されていないことを保証する。
- 複雑な出力や、視覚的に確認が難しい出力の正確性を自動的に検証する。
- リファクタリングや機能追加の際に、既存の挙動が壊れていないことを確認する回帰テストとして機能する。
- 仕組み:
- テスト対象のプログラムを実行し、その出力を取得します。
- 取得した出力を、事前に作成された「ゴールデンファイル」(このケースでは
golden.out
)の内容と比較します。 - 両者が完全に一致すればテストは成功、異なればテストは失敗します。
golden.out
の役割: Go言語のコンパイラやランタイムのテストにおいて、golden.out
は、特定のテストケース(特にバグを再現するテスト)がコンパイル時や実行時に生成するエラーメッセージや警告、あるいは特定の出力パターンを記録するために使用されます。これにより、コンパイラやランタイムの変更が、これらのバグテストの期待される挙動に影響を与えないことを保証します。
Goコンパイラ/ランタイムのバグトラッキング
Go言語のソースコードリポジトリでは、特定のバグを再現するための小さなGoプログラムが test/bugs
ディレクトリに配置されていました(現在は test/fixedbugs
に統合されていることが多い)。これらのファイルは bugXXX.go
のような命名規則を持つことが多く、特定のコンパイラエラー、ランタイムパニック、または不正な挙動を引き起こすように設計されています。
bugs/bugXXX.go
: まだ修正されていない、または特定の条件下で失敗することが期待されるバグを再現するテストケース。fixedbugs/bugXXX.go
: 以前はバグであったが、現在は修正されたテストケース。これらのテストは、修正が正しく適用され、回帰が発生していないことを確認するために引き続き実行されます。
golden.out
は、これらの bugs
および fixedbugs
ディレクトリ内のテストプログラムの期待される出力を記録することで、バグの追跡と修正の検証を支援します。
技術的詳細
このコミットの技術的な詳細は、test/golden.out
ファイルの具体的な変更内容に集約されます。
-
bugs/bug028.go
の削除:golden.out
からbugs/bug028.go
に関連する以下の4行が削除されています。- =========== bugs/bug028.go - bugs/bug028.go:9: unreachable statements in a switch - BUG: known to fail incorrectly -
これは、
bug028
が修正され、もはやbugs
セクションに属さないことを明確に示しています。unreachable statements in a switch
というエラーは、コンパイラが到達不能なコードを検出した際に発生する警告またはエラーです。このバグが修正されたことで、このテストケースはもはやこのエラーを生成しないか、あるいは別の方法で成功するようになったと考えられます。 -
bugs/bug054.go
のエラーメッセージの追加:bugs/bug054.go
のセクションに、以下の2行が追加されています。+bugs/bug054.go:22: fatal error: agen: unknown op CALLMETH u(1) l(165) <Element>I{} +BUG: known to fail incorrectly
これは、
bug054.go
が実行された際に、fatal error: agen: unknown op CALLMETH u(1) l(165) <Element>I{}
という致命的なエラーを生成することが期待されるようになったことを意味します。agen
はGoコンパイラのバックエンド(コード生成フェーズ)に関連する部分であり、CALLMETH
はメソッド呼び出しに関連する操作です。このエラーメッセージは、コンパイラのコード生成段階で、未知の操作(CALLMETH
)が検出されたことを示唆しており、これはコンパイラの内部的なバグである可能性が高いです。「BUG: known to fail incorrectly」という記述は、このバグがまだ修正されておらず、テストが意図的に失敗することが期待されている状態であることを示しています。コミットメッセージの「forgot command line for bug054」は、この特定のエラーを再現するためのコマンドライン引数や設定がgolden.out
の更新時に見落とされていたことを指している可能性があります。 -
fixedbugs/bug028.go
の追加:golden.out
の末尾近くに、fixedbugs/bug028.go
のエントリが追加されています。+=========== fixedbugs/bug028.go +
これは、
bug028
が修正された後、そのテストケースがfixedbugs
ディレクトリに移動され、そのテストが成功することが期待されるようになったことを示しています。fixedbugs
セクションに追加されたことで、このテストは今後も回帰テストとして実行され、以前のバグが再発していないことを確認する役割を担います。 -
SVN=123412
: コミットメッセージに含まれるSVN=123412
は、Goプロジェクトが初期にバージョン管理システムとしてSubversion (SVN) を使用していた名残です。これは、このコミットがGoプロジェクトの非常に初期の段階で行われたことを示しています。
これらの変更は、Goコンパイラとランタイムの進化の過程で、バグの特定、修正、そしてその検証がいかに重要であったかを示しています。golden.out
ファイルは、これらのプロセスにおいて中心的な役割を果たしていました。
コアとなるコードの変更箇所
このコミットで変更されたコアとなるファイルは test/golden.out
のみです。
diff --git a/test/golden.out b/test/golden.out
index b5445af501..1179f0d7e2 100644
--- a/test/golden.out
+++ b/test/golden.out
@@ -161,10 +161,6 @@ bugs/bug027.go:50: illegal types for operand: CONV
(<I>{<val><int32>INT32;})\n BUG: known to fail incorrectly
-=========== bugs/bug028.go
-bugs/bug028.go:9: unreachable statements in a switch
-BUG: known to fail incorrectly
-
=========== bugs/bug029.go
BUG: known to succeed incorrectly
@@ -268,6 +264,8 @@ bugs/bug053.go:6: syntax error
BUG: len should not be a keyword
=========== bugs/bug054.go
+bugs/bug054.go:22: fatal error: agen: unknown op CALLMETH u(1) l(165) <Element>I{}
+BUG: known to fail incorrectly
=========== fixedbugs/bug000.go
@@ -303,4 +301,6 @@ BUG: len should not be a keyword
=========== fixedbugs/bug024.go
+=========== fixedbugs/bug028.go
+
=========== fixedbugs/bug031.go
コアとなるコードの解説
上記の差分は、test/golden.out
ファイルに対する具体的な変更を示しています。
-
で始まる行: 削除された行+
で始まる行: 追加された行
-
bugs/bug028.go
セクションの削除:golden.out
の164行目から167行目にかけて存在していたbugs/bug028.go
に関するエントリが完全に削除されています。これは、このバグが修正されたため、もはやbugs
セクションでその失敗が記録される必要がなくなったことを意味します。 -
bugs/bug054.go
セクションへの追加:golden.out
の271行目と272行目に、bugs/bug054.go
に関する新しいエラーメッセージが追加されています。bugs/bug054.go:22: fatal error: agen: unknown op CALLMETH u(1) l(165) <Element>I{}
: これは、bug054.go
の22行目で、コンパイラのコード生成フェーズ(agen
)において、未知のメソッド呼び出し操作(CALLMETH
)が検出され、致命的なエラーが発生することを示しています。BUG: known to fail incorrectly
: この行は、このエラーが既知のバグによるものであり、テストが意図的に「誤って失敗する」ことが期待されている状態であることを明示しています。
-
fixedbugs/bug028.go
セクションの追加:golden.out
の306行目と307行目に、fixedbugs/bug028.go
に関する新しいセクションが追加されています。これは、bug028
が修正され、そのテストケースがfixedbugs
ディレクトリに移動されたことを反映しています。このセクションには、通常、修正後のテストが成功したことを示す情報が続くはずですが、このコミットではセクションヘッダーのみが追加されています。これは、bug028
が修正され、もはやエラーを生成しないため、特別な出力が不要になったことを示唆している可能性があります。
これらの変更は、Goコンパイラとランタイムのテストスイートが、バグのライフサイクル(発見、修正、検証)をどのように管理しているかを示す典型的な例です。
関連リンク
- Go言語の公式リポジトリ: https://github.com/golang/go
- このコミットのGitHubページ: https://github.com/golang/go/commit/727ea928d5586b75a781254d6265b8696c6e8863
参考にした情報源リンク
- 本コミットのdiffとコミットメッセージ
- Go言語のテストに関する一般的な知識
- Go言語のソースコードリポジトリの構造に関する一般的な知識
- Subversion (SVN) に関する一般的な知識
- Goコンパイラの内部構造に関する一般的な知識 (agen, CALLMETHなど)
- ゴールデンファイルテストに関する一般的なソフトウェアテストの知識